このページは「ABA自閉症療育の基礎49」とABA自閉症療育の基礎としての49番目のページです。
「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
から実にオペラント条件付けについては33ブログページに渡ってここまで紹介してきたのですが、
それ以前にはこのページタイトルにもある「レスポンデント条件付け」についての紹介も行ってきました。
※「(ABA自閉症療育の基礎15)ABA療育、レスポンデント条件付け・エクスポージャー(曝露療法)まとめ(https://en-tomo.com/2020/08/05/aba-basic-conclusion1/)」
このページでは今まで見てきたレスポンデント条件付けとオペラント条件付けを包括して問題分析をすることで可能なことを書いていきます。
レスポンデント条件付けとオペラント条件付けについて、
ブログページボリューム数こそオペラント条件付けの圧勝ではありますが、
※ 実際ABA自閉症療育のほとんどはオペラント条件付けの原理を使用して療育を行います
「不安」「恐怖」、「引っ込み思案」や「怒り」などを療育対象に扱う場合に無視できない理論が「レスポンデント条件付け」であり、そしてそれらを解決する支援手続きが「エクスポージャー 」です。
「エクスポージャー 」は2020年の現在、何か心に問題を抱えている場合、エビデンスを考慮して解決したい場合かなり多くの割合で必要となるキーワードでしょう。
※ 「(ABA自閉症療育のエビデンス21)マインドフルネスとメタ分析(https://en-tomo.com/2020/06/17/mindfulness-evidence/)」で紹介したマインドフルネスも期待できます
日常の中で学習されるレスポンデント行動とオペラント行動
小野 浩一 (2005) は、
レスポンデント行動は「行動の先立つ環境変化によって誘発される行動」
オペラント行動は「行動ののちの環境変化によってその生起頻度が変化する行動」
と述べています。
ブログ内では
レスポンデント行動は「誘発される行動」
オペラント行動は「自発される行動」
と紹介してきました。
レスポンデント行動、オペラント行動ともに条件付けによってそれぞれ上の「レスポンデント行動」、「オペラント行動」を学習させることが可能です。
例えば倫理的に現在は認められませんが過去、
「白ネズミ」と「恐怖」を条件付け、子どもが「白ネズミ」を見ると恐怖を喚起(レスポンデント行動)し、泣き出すという行動(オペラント行動)を実験的に作り出すことが可能でした。
※この実験は「(ABA自閉症療育の基礎7)恐怖条件付けーアルバート坊や・レスポンデント条件付け(https://en-tomo.com/2020/07/20/fear-conditioning-classical-study/)」で紹介しています
実験からわかることとして、意図的にこれらを学習させることが可能なのですが、
意図してなくとも日常的にあなたの態度や振る舞いがその学習をさせてしまう可能性があることを知っておきましょう。
意図的に恐怖を条件付ける場合では
上のイラストのような実験を行うと恐怖を条件付けることが可能でした。
意図してなくとも日常的にあなたの態度や振る舞いがその学習をさせてしまう場合とは?
「(ABA自閉症療育の基礎8)レスポンデント条件付けと「情動」(https://en-tomo.com/2020/07/21/response-conditioned-emotional/)」に詳しく書きましたが、
例えば日常的には上のイラストのように「眉間のシワ」と「怒られる」が同時に提示され続けると、
お子さんのことでイライラしているわけではないのに、お子さんはお母さんの「眉間のシワ」が寄っているときには例えば「恐怖」が喚起される可能性があります。
例えば
園や学校でお子さんが困ったことがあって相談したいとき、
相談を聞いているときにお母さんの眉間のシワが寄ってしまい
お子さんはそれに反応して相談をやめてしまうかもしれません
これはリスクです
基本ユニット紹介ページ(レスポンデント・オペラント)
「レスポンデント条件付け」では
※ 参考「(ABA自閉症療育の基礎4)レスポンデント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/07/17/respondent-basic-unit/)」
のように分けて分析します。
イラストにあるユニットによって、レスポンデント条件付けがどのように条件付けられるかについての基本原理は、
「(ABA自閉症療育の基礎5)レスポンデント条件付けの原理1(https://en-tomo.com/2020/07/18/responsive-conditioning-base1/)」
と
「(ABA自閉症療育の基礎6)レスポンデント条件付けの原理2(https://en-tomo.com/2020/07/19/responsive-conditioning-base2/)」
をご覧になってください。
「オペラント条件付け」では
のユニットで示されるように、
※ 参考「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
行動を
「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」
「B(Behavior):行動」
「C:(Consequence):結果」の3つのフレームに分け
に分けて分析します。
過去のページからそれぞれの条件付けの成立条件を書いたページを紹介しましたが、
このブログページのトピックを理解する上で大切なことは以下のことで
レスポンデント条件付けで学習が可能な行動 = レスポンデント行動
レスポンデント行動は誘発性のため、自身でコントロールすることができません
オペラント条件付けで学習が可能行動 = オペラント行動
オペラント行動は自発性のため、自身でコントロールすることができます
と覚えておいてください。
オペラント行動の確立操作にレスポンデント行動を包括する
レスポンデント行動とオペラント行動は分析の際、それぞれ独立したユニットから分析することも多いのですが、
レスポンデント行動とオペラント行動は日常の中で相互作用(互いに影響を与え合う)ことで、ヒトの行動に影響を与えています。
レスポンデント行動とオペラント行動を同時に分析に組み込むとき、私はオペラント行動の確立操作の枠組みにレスポンデント行動を組み込むことが多いです。
オペラント条件付けでここまでみてきた「確立操作」
例えば以下のページ、
「(ABA自閉症療育の基礎45)オペラント条件付けー確立操作(https://en-2020/10/10/establish-operation/)」
「(ABA自閉症療育の基礎46)オペラント条件付けー確立操作と弁別刺激の違い(https://en-tomo.com/2020/10/13/establish-operation-discrimination-stimulus-difference/)」
「(ABA自閉症療育の基礎47)オペラント条件付けー「無条件性確立操作」と「条件性確立操作」(https://en-tomo.com/2020/10/16/establishing-operation-type1/)」
確立操作についてブログページでは
確立操作とは弁別刺激と同じく先行事象(行動の前にある状況)に位置し、強化子や罰子の価値を上げたり下げたりする影響を持つ反応(もしくは、反応を引き起こす刺激や操作)
というように強化子(結果)の価値を変容させる操作であり、
加えて、
「確立操作」は身体の内部で生じる行動を引き起こす反応(もしくは、反応を引き起こす刺激や操作)
と説明してきました。
「(ABA自閉症療育の基礎48)オペラント条件付けー確立操作「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」(https://en-tomo.com/2020/10/19/establishing-operation-type2/)」
で紹介したように確立操作には「嫌悪化」や「遮断化」というものがありますが、
レスポンデント条件付けによって学習したレスポンデント行動も、オペラント条件付けの枠組みでは「確立操作」として働くということを知っておきましょう。
上のイラストは、
「(ABA自閉症療育の基礎48)オペラント条件付けー確立操作「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」(https://en-tomo.com/2020/10/19/establishing-operation-type2/)」
で紹介したイラストに「レスポンデント行動」を含め改変したものです。
このことは
ABA自閉症療育の垣根を超えて、
心理臨床全般でとても大切なことだと思っています
レスポンデント行動とオペラント行動の相互作用
Jon・Baily & Mary・Burch (2006) はレスポンデント行動とオペラント行動について前者と後者の割合はおそらく1対20くらいの割合であると述べました。
日常で使われる行動のほとんどはオペラント行動です。
ではこれらレスポンデント行動とオペラント行動が相互作用(互いに絡み合う)とき、それはどういったときなのでしょうか?
実は以前「(ABA自閉症療育の基礎3)レスポンデントとオペラントの関係(https://en-tomo.com/2020/07/13/respondent-operant-affect-each-other/)」
でも紹介した内容なのですがここまでレスポンデント条件付けとオペラント条件付けを学習した「今」、この内容を振り返りたいと思います。
Niklas Törneke (2009)の本から以下の内容を引用しました。
「たとえば、私の息子が別の都市に住んでいて、私が彼と電話をするのが好きだったとしよう。そのような場合、私はときどき彼に電話をかけるだろう(オペラント行動:自分でコントロールできる行動)。
もし、彼に電話で捕まえるのが火曜の夜なら比較的簡単だとわかったら、火曜の夜だと気づいたときには、私は彼に電話をかけるだろう(オペラント行動:自分でコントロールできる行動)。
ーーー中略ーーー
私が電話で息子を呼び出したとき、彼が出るのを待っている間、いつも同じメロディーが流れているとしよう。
待つ間、このメロディーを聞く状況に私が何回か遭遇した後で、ある日、同じメロディーがラジオから流れてきたとしよう。
そのとき、私は何かの情動反応(息子と会話するときにわき上がってくる)が、意識に上がってくるかもしれない(これは、コントロール不可なのでレスポンデント行動)。
これは、どのようにして起こってくるのだろうか。
答えはレスポンデント学習によって生じたのである(レスポンデント行動)」
この後、
親御さんはレスポンデント行動(誘発された自分ではコントロールできない行動)によって自動的にわき上がってきた情動反応によって、
ラジオを聞いたことによって息子に電話をするというオペラント行動(自発する自分でコントロールできる行動)を行う可能性が高くなる
と思いませんか?
上記の例は日常の中でレスポンデント行動とオペラント行動が相互作用をする一例となります。
このようにレスポンデント条件付けによって学習された誘発型のレスポンデント行動が、自発型のオペラント行動の出現に影響するのです。
ABA自閉症療育にどう生かすか?
例えば「特定の音が怖い」お子さんに対して「怖がってはいけない」と親御さんが教えたとします。
他に、
「集団場面に不安を抱える」お子さんに対して「不安に思ってはいけない」
「負けると癇癪を起こすお子さん」に「負けても苛立ってはいけない」
ここまでブログページで見てきた内容が正しければ、
レスポンデント行動はコントロール不可です。
そのため
「特定の音へに対して賦活される恐怖」
「集団場面で賦活される不安」
「負けると湧き上がってくる苛立ち」
などはレスポンデント行動のため、お子さん自身でもコントロール不可能
ですので「怖がってはいけない」「不安に思ってはいけない」「負けても苛立ってはいけない」
と「~~はいけない」と教えようとすることは、お子さん自身もやり方がわからないため無理であると思います。
不可能なことを「やれ」
と教えることは
ナンセンスです
このようなコントロール不可能な身体の内から湧き上がってくるレスポンデント行動が、オペラント行動では確立操作として機能し、自発的に行うオペラント行動に影響を与えるのです。
このようなコントロール不可能なレスポンデント行動を対象として実施されるABA技法が「エクスポージャー(曝露療法)」です。
エクスポージャーについては過去に書いてきましたが中でも、
「(ABA自閉症療育の基礎10)エクスポージャー(曝露療法):言葉の理解が少しある幼児療育編(https://en-tomo.com/2020/07/24/exposure-therapy2/)」
「(ABA自閉症療育の基礎13)エクスポージャー:言葉の理解が遅い子、偏食指導編(https://en-tomo.com/2020/08/01/exposure-therapy-point3/)」
上2つのページでは簡単に事例も紹介しています。
このページまでで学んできた
レスポンデント条件付け、オペラント条件付け、レスポンデント行動、オペラント行動を統合し分析することで不安や恐怖や嫌悪感などによって生じている問題に立ち向かうことができます。
さいごに
このページで見てきたようにオペラント条件付けの「確立操作」に関わるユニットにレスポンデント条件付けを意識して分析することができるとABA自閉症療育だけではなく、
その垣根を越え、
診断として例えば「不安障がい」「恐怖症」「うつ病」「強迫性障がい」「パニック障がい」、症状として例えば「不登校」「ひきこもり」「場面緘黙」「偏食」「拒食症」「こだわり」
などいわゆる一般的に「心の病」と言われるものに対応できるようになるでしょう。
ブログページでみてきたように
コントロール不可能な身体の内から湧き上がってくるレスポンデント行動が、
オペラント行動の確立操作として機能し、
自発的に行うオペラント行動に影響を与える
ようになります。
コントロール不可能な身体の内から湧き上がってくるレスポンデント行動は、
ABA技法では「エクスポージャー(曝露療法)」で対応可能です。
このブログは親御様向けに書いていますので専門家じゃないからそこまでの知識はいらないと思われるかもしれません。
しかし幼児に対してのABA自閉症療育で言えば「引っ込み思案」「怒りのコントロール」「癇癪」「負けの耐性」「偏食」「こだわり」「特定の恐怖」などに応用できます。
もしそこまでの知識がいらないと思ったとしても、
このブログページから
「特定の音へに対して賦活される恐怖」
「集団場面で賦活される不安」
「負けると湧き上がってくる苛立ち」
などはレスポンデント行動のため、お子さん自身でもコントロール不可能
であるため、
「~~はいけない」と教えようとすることは、お子さん自身もやり方がわからないため無理
ということは覚えてあげておいて欲しいです。
ABA自閉症療育では、
何か知らないことやできないことを「教える」場合は、オペラント条件付けのみの理論で達成できることも多いです。
しかし「できることが(不安や恐怖や嫌悪感などによって)できない」場合、このページで紹介したようにオペラント条件付けの確立操作の部分にレスポンデント条件付けの原理を組み込んで分析することで解決できることが多くなります。
このことを知っておきましょう。
最近はオペラント条件付け「確立操作」
についてのブログページが続いていました。
強化子としての影響を決定する確立操作ですが、ここを議論する際に外せないキーワードが「プレマックの原理」と「反応遮断化理論」です。
次のページでは「プレマックの原理」と「反応遮断化理論」を理解するために一旦
「強化子」の「循環論(Circular Theory)」問題についてみていきます。
【参考文献】
・ John B. Watson and Rosalie Rayner (1920) Journal of Experimental Psychology, 3(1), 1-14. Classics in the History of Psychology — Watson & Rayner (1920), http://pages.ucsd.edu/~sanagnos/watson1920.pdf
・ Jon・Baily & Mary・Burch (2006) How to Think Like a behavior Analyst : Understanding the Science That Can Change Your Life 【邦訳: 澤 幸祐・松見純子 (2016) 行動分析的 ”思考法” 入門ー生活に変化をもたらす科学のススメー】 岩崎学術出版社
・ Niklas Törneke (2009) Learning RFT An Introduction to Relational Frame Theory and Its Clinical Application 【邦訳 監修:山本 淳一 監訳:武藤 崇・熊野 宏昭 (2013) 関係フレーム理論(RFT)をまなぶ 言語行動理論・ACT入門 星和書店】
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館