(ABA自閉症療育の基礎13)エクスポージャー:言葉の理解が遅い子、偏食指導編

「(ABA自閉症療育の基礎11)エクスポージャーのポイント1:エクスポージャーでの馴化プロセス(https://en-tomo.com/2020/07/25/exposure-therapy-point1/)」

「(ABA自閉症療育の基礎12)エクスポージャーのポイント2:安全希求行動と反応妨害(https://en-tomo.com/2020/07/26/exposure-therapy-point2/)」

エクスポージャーを適応する際のポイントについて触れてきました。

そして「(ABA自閉症療育の基礎10)エクスポージャー(曝露療法):言葉の理解が少しある幼児療育編(https://en-tomo.com/2020/07/24/exposure-therapy2/)」では、

エクスポージャーを例えば5W1Hや因果関係(~だから)といった簡単な言葉の理解があるお子さんに適応する際の一例について書きました。


このページではRobert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) の研究を参考に、さらに言葉の理解が難しいお子さんに対して行ったエクスポージャーの事例研究を見て行きましょう。

この研究はお子さんに対してエクスポージャー手続きで「偏食指導」を行い、食べられるもののレパートリーを拡大して行ったという研究となります。

「偏食指導」とは字の如く、食べるものが偏っているお子さんに対して食べるものの偏りを減らしていく指導方法です。

「え?そんなことできるの?」と驚かれることも多いので、あまり偏食指導を支援として行う人は少ないのかもしれません。

ABA療育って、いろいろできるんですよ!


食べるものについてお困り感を持っている親御様は実は多いです。
このページでは偏食指導の研究を見ていきましょう!


偏食指導を用いたエクスポージャーの研究

参加者

Robert L. Koegel他 (2012) は6歳4歳ヶ月から7歳8ヶ月の3人の自閉症のお子さんを対象にエクスポージャー手続きを用いた研究を行いました。

3人の自閉症児のお子さんは食事に柔軟性がなく偏りがあります。

そのため、お子さんの親御様達は食事に対して現状を改善したいという要望がありました。

3人のお子さんの特徴は以下のようなものです。

※ 以下ダニエル、ケン、ロビーと名前が記載されていますが、原文にもそのように名前が記載されています


1人目はダニエルくんは6歳11ヶ月の自閉症の男の子です。

ダニエルくんは認知テストを受けたところ、低い平均的な能力という結果でした。

ダニエルくんが自分から話す言葉は主にステレオタイプ、エコラリア、そして教えられたフレーズのみで構成されていました。

ダニエルくんは新しい食べ物が提示されると、泣く、叫ぶ、泣く、そして食べる場所から逃げるといった不適切な行動を示します。

ダニエルくんの食べられるものは6の食品(ラスティのピザ、フライドポテト、チキンナゲット、牛ひき肉、ケチャップ、そしてバニラアイスクリーム)に限られていました。


2人目はケンくんは6歳4ヶ月の自閉症の男の子です。

ケンくんは認知テストを受けたところ、測定不能という結果でした。研究ではケンくんの認知能力は平均を下回ると推定されています。

ケンくんが自分から話す言葉はたいてい1~2語の発話か、もしくは時折3~4語の発話を含む教えられたフレーズのみ構成されていました。

ケンくんは新しい食べ物が提示されると、その場から逃げる、叫ぶ、叩く、投げるといった不適切な行動を示します。

ケンくんの食べられるものは13の食品(アップルソース、ヨーグルトスムージー、オレオクッキー、マクドナルドフライドポテト、シュニッツェルチキン、金魚のクラッカー、バター付きスパゲッティ麺、プレッツェル、ポップコーン、フルーツスナック、ゼリービーン/グミ、チーズパフ、そしてトレーダージョーズのバナナで構成されました。ピーナッツバターとワッフル)に限られていました。


3人目はロビーくんは7歳8ヶ月の自閉症の男の子です。

ロビーくんは認知テストを受けたところ、低い平均的な能力という結果でした。

ロビーくんが自分から話す言葉は内容は限られますが複雑な会話を行うこともできました。その時、ロビーくんの言葉は4~5語の発話で構成されていました。

ロビーくんは新しい食べ物が提示されると、吐き出し、食べ物を払う、叫ぶ、泣く、泣くなどの不適切な行動を示しました。

ロビーの食事は13の食べ物(シロップ、ポテトチップス、シリアル、マカロニとチーズのワッフル、トルティーヤと卵、バナナ、パン、クッキー、フライドポテト、チーズとマヨネーズのサンドイッチ、ピーナッツバターとゼリーのサンドイッチ、チキンナゲット、そしてピザ)に限られていました。



偏食指導、エクスポージャー研究の内容

エクスポージャー介入方法ベースライン期

最初に新しく食べて欲しいもののリストを親御様にまとめてもらいました。

そして3人に対して介入前、新しい食べ物(リストから選択された、お子さんの食べることができない食べ物)を食べるように促してみましたが誰も食べませんでした。

この時、お子さんが食べないことに対して追加で食べるよう指示は行いませんでした。

このような介入前の期間を「ベースライン期(Baseline Phase)」と呼びます。

「ベースライン期」で介入前の状態を測りその後、介入内容との比較を行うことで介入が適切なものであったかを確かめるために必要な期間です。



エクスポージャー介入方法ー主な介入方略

(ポイント1)介入は新しい食べ物に対して最初から「食べる」ということを目的にしません

介入では「食べ物を食べる」という行動をスモールステップに分解し、以下のようにレベル分けをします。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【偏食指導で「食べ物を食べる」行動のスモールステップレベル】

階層的な受け入れレベル : 説明

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

レベル0 : 食べ物を試すことを拒否する(破壊的な行動の有無にかかわらず)

レベル1 : 食べ物に触れ、それを口に向かって動かす(食べ物を投げるなどの破壊的な行動として食べ物に触れることは含まれません)

レベル2 : 食べ物を唇につける

レベル3 : 食べ物を噛む

レベル4 : 噛んで口に入れ、飲み込むことを拒む

レベル5 : 食べ物を噛むが飲み込むことを拒む

レベル6 : しぶしぶ食べ物を飲み込む

レベル7 : 不快感や破壊的な行動の兆候なしに食べ物を受け入れる

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

このようにレベル分けし、お子さんに求める目標をスモールステップで細分化します。



(ポイント2)介入期は関わり方をベースライン期から変更する

「食べ物を食べる」行動をスモールステップに分けるだけでなく、介入期ではベースライン期とは違った関わり方をお子さんに行いました。

ベースライン期では新しい食べ物をお子さんに食べるように促した時、お子さんが拒否した場合それ以上の関わりは行なっていません。

しかし介入期では事前にお子さんの「やりたいこと」や「欲しいもの」を交渉材料として使いました

介入期はお子さんの「やりたいこと」や「欲しいもの」を調べることから始まります。

調べ終わったのちに、介入期では例えばお子さんに「これができたら○○をあげよう」と、新しい食べ物に関わるように促します。

「食べ物に関わるよう」というのは、(ポイント1)でオレンジ色で書いている『「食べ物を食べる」行動のスモールステップレベル』をレベルの下からクリアしていくよう、関わりのレベルを段階的に上げていくことがポイントです。

理想的なエクスポージャーの手続きでは無理にお子さんに強要しないことが大切でしょう。

例えば『「食べ物を食べる」行動のスモールステップレベル1』の場合だと「このおもちゃで遊びたいの?じゃあ、食べ物に触って、それを口に向かって動かして!それができたら貸してあげる」というように関わります。

『「食べ物を食べる」行動のスモールステップレベル1』ではこのように声かけをすることでお子さんが新しい食べ物に触れることを促します。

お子さんから見ればいきなり「食べろ」ではなく、「食べ物に触って、それを口に向かって動かす」という行為は受け入れられやすい行為でしょう。

このような地道な行為を達成していくプロセスが大切です。急いではいけません。

例えば『「食べ物を食べる」行動のスモールステップレベル1』がクリアできれば、『「食べ物を食べる」行動のスモールステップレベル2「2:食べ物を唇につける」』を行うように、段階的にレベルを上げて新しい食べ物に関わるように促します。



エクスポージャー介入方法ー他の介入方略ポイント

エクスポージャー介入方法では基本的には強要しない

(他の介入ポイント1)介入期においても、お子さんが新しい食べ物を勧めたときに食べなかったことに対し、追加で食べることを指示することは行わない

無理に強要しないことはエクスポージャー手続きのポイントと言えるでしょう。

文頭でもURLを記載しましたが「(ABA自閉症療育の基礎12)エクスポージャーのポイント2:安全希求行動と反応妨害(https://en-tomo.com/2020/07/26/exposure-therapy-point2/)」

で紹介した「安全希求行動」という逃避・回避行動が生じる可能性は排除していきたいところです。

エクスポージャーを行う際には人間が当たり前に行う「安全希求行動」を理解し、対処することも重要なポイントになると思っています。



エクスポージャーで求める基準をいつあげるか?

(他の介入ポイント2)課題のレベルをあげる基準

最初『「食べ物を食べる」行動のスモールステップレベル1「1食べ物に触れ、それを口に向かって動かすことができれば、○○をあげよう」』と、新しい食べ物を提供しました。

この時このことができれば、お子さんはやりたい/欲しい「活動や物」を手に入れることができました。

子どもが成功した時に次のレベルへ上げて行くのですが、論文には「例えば不適切な行動が生じず、3回の連続で同レベルに成功した場合」ということが記載されています。

もし、この研究を参考に偏食指導を行う場合は、3回連続で同じレベルに合格することがレベルを上げる1つの基準になるでしょう。



エクスポージャーをかける際、意思を明確に伝える

(他の介入ポイント3)大人が期待していることは明確に伝える

大人はそれぞれのレベルで子供に何が期待されていたかを明確に述べました(例えば、「あなたの唇にその食べ物が触れると、ビデオを見ることができます!」)。

大人は各子供のための個別化されたレベルに応じて強化を提供しました。

※ここで書かれている強化は「レスポンデント強化」ではありません。「オペラント強化」というもので、のちのページのオペラント条件付けで出てくる言葉です

※強化については、ここでは「直前のお子さんの行動頻度を増やす(つまり、新しい食べ物に触れる行動を増やす)、お子さんにとって嬉しい結果」と思って読んでもらって大丈夫です


Enせんせい

※「レスポンデント強化」については

「(ABA自閉症療育の基礎5)レスポンデント条件付けの原理1(https://en-tomo.com/2020/07/18/responsive-conditioning-base1/)」



「(ABA自閉症療育の基礎6)レスポンデント条件付けの原理2(https://en-tomo.com/2020/07/19/responsive-conditioning-base2/)」

を参照してください



エクスポージャーの結果によって対応を変える

(他の介入ポイント4)できた時とできなかった時の対応

Robert L. Koegel他 (2012) の研究では「できた時の対応」として、お子さんがその食料品を試そうとすると賞賛や影響力の大きい活動や物など、強化が直ちに与えらました

お子さんが食べ物を拒否した場合、お子さんは強化を受け取る前に新しい食べ物に関わることを試みる必要があることを思い出させるように関わりましたが、強制はしませんでした。

Robert L. Koegel他 (2012) では「できなかった時の対応」として、お子さんが新しい食べ物に関わることがなかった場合、賞賛や影響力の大きい強化(活動や物)などの強化は与えられません



Robert L. Koegel他 (2012) エクスポージャー偏食指導結果

Robert L. Koegel他 (2012)の研究では介入が始まるとお子さんが受け入れることができる食べ物の数が増えて行きました。

介入前の10週間(ベースライン期間)は3人の子供全員が受け入れた新しい食品の総数はゼロのままでしたが、介入が始まると数は増加していき最終的には、

ダニエルくんは16の新しい食べ物が抵抗なく食べられるようになりました。

ケンくんは6の新しい食べ物が抵抗なく食べられるようになりました。

ロビーくんは16の新しい食べ物が抵抗なく食べられるようになりました。

介入は約22週間続けられました

この研究結果は22週間、約半年ほどの成果ということは覚えいて欲しいと思います。

変化は「直ぐに」起こらないです。

22週は約半年ですので、数ヶ月単位でこのような結果を期待をしてください。



最後に

Robert L. Koegel他 (2012) 研究の結果から、食品への段階的なエクスポージャーと強化の組み合わせによって参加者の食品に対しての柔軟性が増した(食べられるものが増えた)と考察しました。

Robert L. Koegel他 (2012) の研究は嫌悪感のある食べ物に対して段階的にエクスポージャーできるよう難易度を分け実施されています。

「(ABA自閉症療育の基礎9)エクスポージャー(曝露療法)(https://en-tomo.com/2020/07/23/exposure-therapy1/)」

で「耐えることができそうな簡単なところからエクスポージャーを実行して行き、実際に嫌悪感などが下がったことを確認し合いながら徐々に難しい課題に進んでいきます」と記載しましたがRobert L. Koegel他 (2012) からも分かるようにエクスポージャーは慎重にいくことが重要でしょう。


私の過去の経験からも「(自閉症ABA療育のエビデンス19)自閉症児が親に与える影響(https://en-tomo.com/2020/06/15/autism-parent/)」で記載しましたが、

指導を行うことで「家族で旅行に行けることになった」など偏食指導の成功は家族全体のQOLを上げてくれる可能性があり私にとって思い入れの深い指導です。

旅行先にある近くのチェーン店のうどんが食べられるようになるだけで本当に家族全体の行動範囲が広がります。

偏食指導を始めエクスポージャーを療育に適応する際は「できそうなところから実施していく」ことはポイントです。

このページでは「強化」というキーワードが出現しています。

このページで書かれている「強化」というキーワードはのちに解説をしていく「オペラント条件付け」の重要キーワードです。

これはのちのページ「オペラント条件付け」のところで紹介しています。


このページで紹介した偏食指導の研究、取り扱ったエクスポージャーは

「(ABA自閉症療育の基礎11)エクスポージャーのポイント1:エクスポージャーでの馴化プロセス(https://en-tomo.com/2020/07/25/exposure-therapy-point1/)」

の「(ポイント1)恐怖や不安や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に当たり続けると程度は下がっていく」で示したように「不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に当たり続けると、時間経過に伴って不安や恐怖や嫌悪感の程度が下がっていく」

自然現象、「馴化(じゅんか)」を利用したものです。


Robert L. Koegel他 (2012) の研究にも書かれている通りお子さんが強化を欲しがって、自発的に嫌悪感のある新しい食べ物に接近していった場合は馴化が生じる可能性があります。

馴化が生じるプロセスを手続き化し支援に利用することがエクスポージャーです。

ニーズに合わせて私も指導を行いますが、偏食指導は私は思い入れが多い指導内容で達成できた時嬉しさを感じます。

挫折してしまうポイントもいくつかある難しい指導法かもしれませんが、家族のQOLを上げてくれるでしょう。

このページでは「(ABA自閉症療育の基礎10)エクスポージャー(曝露療法):言葉の理解が少しある幼児療育編(https://en-tomo.com/2020/07/24/exposure-therapy2/)」

で紹介した言葉の理解がURLで紹介したお子さんよりも低いお子さんを想定しRobert L. Koegel他 (2012) の研究を参考に言葉の遅れがあるお子さんを対象としたエクスポージャー研究を紹介しました。


このブログの主題であるABA(Applied Behavior Analysis)は「行動分析学」のことです。

日本行動分析学会 :The Japanese Association for Behavior Analysis(2015)

治療的なエクスポージャーは「さらす」と同時に、その刺激を抑制・逃避する反応を生起させないような環境設定が付加される。つまり、治療的なエクスポージャーの目的は、不安が高まっているときに、逃避・回避ではない、代替行動のレパートリーを拡大させ、さらに不安を引き起こす刺激を探し出し、それに積極的に接近するよう促していくことである

と述べました。

エクスポージャーは原理は簡単で「不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面にさらすことで順化を狙う支援手続き」です。


しかし本人が嫌なものにいかに当たらせるか?

という難しさを抱える技法で不安や恐怖や嫌悪感などを抱える人に対して効果を持っているものの、実行する際は実に繊細な支援方法です。

私自身も「嫌いなゴキブリに当たれ!」と言われれば絶対に嫌です。

あなたも想像すれば難しくないと思いますが、避けているものに「あえて当たれ」と言われるのは辛いものがあります。

そのためお子さんのその気持ちを理解することがエクスポージャーの第一歩でしょう。

あなたもわたしも、もちろんお子さんも嫌なものは、嫌だと思います。

とは言ってもお子さんの行動問題で困っているとき、そのようなことも言っていられないことも多いです。


次のページでは最後にエクスポージャーを療育適用する際に気をつけたいことについてまとめていきます。

そういった困ってる親御様にとって次のページが参考になれば幸いです。



【参考文献】

・ 日本行動分析学会 責任編集:山本 淳一・武藤 崇・鎌倉 やよい (2015) ケースで学ぶ行動分析学による問題解決 金剛出版

・ Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) Using Individualized Reinforcers and Hierarchical Exposure to Increase Food Flexibility in Children with Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders. 42(8): 1574–1581