(ABA自閉症療育の基礎9)エクスポージャー(曝露療法)

このページではエクスポージャーについて書いていきます。


エクスポージャー(曝露療法)

Timothy A. Sisemore  (2012)によればエクスポージャー療法の起源は単一の恐怖症(Simple Phobias)の治療であり、長い間恐怖症に対して有効であると考えられてきました。

しかしエクスポージャーが適応できる範囲は単一の恐怖症だけではありません。

エクスポージャーとは「既に学習された(持ってしまっている)不安や恐怖や嫌悪感などに対してそれらを受けて入れていく為の方法」と言えるでしょう。

※ そのため「忘れる」わけではなく「大丈夫である」と再学習する方法になります

エクスポージャーは「不安」や「恐怖」や「嫌悪感」などが強くて問題が起こり困っている人に対して行います。

飯倉 康郎 (2005) 「エクスポージャー」は不適応的な不安反応を引き起こす刺激に持続的に直面することにより、その不安反応を軽減させる支援方法と述べていました。

私も飯倉と同じように考えていて、

エクスポージャーとは「不安」や「恐怖」や「嫌悪感」などが本人の受け入れられるレベルに下がるよう、それらを引き起こす刺激に曝露(さらされる)ことを計画的に行っていく支援方法だと思っています。

「不安」や「恐怖」や「嫌悪感」などなどそれを引き起こす刺激に持続的に直面させると次第に減少していく現象は「馴化(じゅんか):Habituation」と呼ばれる現象です。

John S March & Karen Mulle (2006) は「馴化」について「習慣化や慣れ。同一刺激の反復提示によって、初めは刺激によって誘発されていた反応が次第に起こらなくなること。単なる適応や疲労の結果ではない」と述べていました。

エクスポージャーではこの「馴化」という現象を臨床利用し、支援を行っていきます。

難しそうに聞くえるかもしれませんが人は刺激にさらされ続けると順化が生じ、例えばシンプルに下記のイラストのような現象が生じるのでそれを支援に活用しましょうという方法です。


最初に犬に直面して湧き上がった恐怖も、
犬に直面することを続けることで「馴化(慣れ)」が生じ、だんだんと恐怖が下がっていく

イラストでは「場面A」で誘発された恐怖が、時間が経過した「場面B」では少なくなっています。

実際には犬が動かずにそこにじっとしているということはないため、上のイラストは少し非現実的ですが、イメージとしてはこんなもんだと掴んもらえれば嬉しいです。

喫煙・飲酒・性的趣向などに対しても、例えば「タバコを吸わないでいる時間の嫌悪感」に慣れていく場合などはエクスポージャーを使用した支援方法であると言えるでしょう。

人間は嫌悪感がある刺激に対して直面し続けることで「慣れ」が生じ、嫌悪感が減少していきます。

例えば禁煙をしたことがある人は最初はイライラしていた気持ちが強いですが、日が経っていくうちに慣れていく中で最初と比べるとイライラする気持ちがだんだんと慣れていくことで小さくなっていくことを感じたことがあるでしょう?

禁煙でなくとも「ダイエット」での「食べたい気持ち」、「お酒を控える」時の「飲みたい気持ち」など、みなさまの経験に置き換えて思い返してみてください。最初と比べると徐々に日が経つにつれて嫌な気持ちは「馴化(慣れ)」によって薄れて行きます。



系統的脱感作法からエクスポージャーへ

エクスポージャーは「不安」に対しても有効ですが、エクスポージャーでの支援が確立する前「系統的脱感作法」という支援方法が注目されていたことも知っておきましょう。

「系統的脱感作法(けいとうてきだつかんさほう):Systematic desensitization」とは内山 喜久雄 (1988) を参考にすれば1958年にウォルピによって開発された支援手法です。

系統的脱感作法の手続きは、

①患者の不安反応に拮抗的(antagonistic)な反応として、患者にリラクゼーションを習得させます

②患者に不安反応を引き起こす刺激・場面を列挙してもらい、弱から強の「不安階層表」を作成してもらいます

③「不安階層表」の各場面を弱から強の順に患者にイメージしてもらい、脱感作を図り、イメージによって引き起こされる不安反応をリラクゼーションによって制止していく

(参考 内山 喜久雄,1988)

エクスポージャーという技法が確立される以前は不安に対しての治療はこのような「系統的脱感作法」が用いられることが多かったようです。山上 敏子 (2007) を参考にすれば1970年の半ば頃から徐々に系統的脱感作法からエクスポージャーに主流が移っていくこととなります。



子どもにエクスポージャーは適応できるか?

最初に結論を書きますがお子さんに対してエクスポージャーは適応できます。


お子さんの「強迫性障がい」の支援に特化した専門書

上記のような専門書もありますし、この先のページで「自閉症のお子さんに対して、エクスポージャーを用いた偏食指導」の論文について記載しているページもありますので適応範囲内と言って良いでしょう。

上記の写真にある専門書(John S March & Karen Mulle, 2006)は「お子さんの強迫性障がい」に特化した専門書です。

エクスポージャーはお子さんに負担を強いる支援方法ですが、「お子さんが理解できるよう」、「お子さんが楽しんで取り組めるよう」工夫が記載されており自閉症療育でエクスポージャーを行っていく時(強迫性障がい以外の事例においても)にもとても参考になりました。


このブログは「療育ブログ」ですので「発達に遅れのあるお子さん」、「自閉症のお子さん」向けに書いています。

このページ中『エクスポージャーとは「不安」や「恐怖」や「嫌悪感」などが本人の受け入れられるレベルに下がるよう、それらを引き起こす刺激に曝露(さらされる)ことを計画的に行っていく支援方法』と記載しました。

しかし実際にはエクスポージャーを療育支援で使用する際、親御様に対して「お子さんが嫌がっている刺激に直面させ続けて、刺激に慣れさせれば解決するから、とりあえず嫌なものに直面させ続けてください」と言ってもほとんど上手くいきません

これは倫理的にどうこうという話ではなくそのような方法は失敗する可能性が高いです。

理由として、大人の不安障がいや恐怖症と違いお子さんは自ら「俺は良くなりたいんだ!」という動機付けを持って専門家の前に現れるわけではないことが1つの要因だと思います。

大人の臨床は本人が困った結果なんとかしたくて来談するケースが多いので理論的なところを説明して且つ方法とエビデンスを説明することで納得していただけることがあります。

しかし子どもの場合は「本人はあんまり困っていない。どちらかと言えば周りが困っており、親が困ったり不安に思って連れてきた」場合が大人と比べると多いです。

そのような中で無理やりに「嫌な刺激」に直面させると当たり前ですが泣いたり、さらに嫌悪感が上がることによって次から支援に行きたがらなかったりすることで支援は成功しません。

前提としてエクスポージャーは本人が納得できる形で行わせないと基本的には失敗すると思ってください。納得せずに行うことで生じる「安全希求行動(安全確保行動):Safety Behavior」というものについて、この後のページで記載して行きます。

お子さん本人が問題に取り組めるよう納得し、できれば楽しんで取り組んでいけるよう支援プランを組んでいくことが重要です。


エクスポージャーを幼児期を含めた子どもに適応する場合、私は「言葉の理解がある程度あるお子さん」と「まだ幼かったりして、言葉の理解が少ないお子さん」ではエクスポージャーの適応方法を変えて行います。

特に、言葉の理解度はエクスポージャーを行う上では大切です。

例えば「嫌なことは慣れれば克服できる」ということを理論的に教え、納得してもらってエクスポージャーを実施させる方法は大人相手、もしくは小学校高学年以上くらいの子どもで言葉の遅れがないお子さんの場合に適応を検討します。

この場合は「本人にとって価値ある人生の送り方」や「どういった学校生活を送りたいか?」など、魅力的な生活様式について話し合い、それを達成するためには嫌悪的な刺激を克服していく必要性についてお互いで認め合うところから始めることが大切です。

克服していく必要があると認めることは、エクスポージャーに対しての動機付けを上げる手続きです。

その後、耐えることができそうな簡単なところからエクスポージャーを実行して行き、実際に嫌悪感などが下がったことを確認し合いながら徐々に難しい課題に進んでいきます。

最初に簡単なところからエクスポージャーを実行して行き成功経験を得ることも動機付けを上げる大切なステップです。

随所に動機付けを上げるポイントを入れていくことが必要になります。

エクスポージャーで嫌悪的な刺激に当たって行って慣れていくためにはしっかりと高い動機付けを持った状態で行っていかないと失敗します。

エクスポージャーを行う場合は高い動機付けを持たせた上で嫌悪的な刺激の階層表を作成し、達成できそうなところからエクスポージャーし、嫌悪的な刺激に慣れていくように設定することが必要です。

簡単な課題をクリアできた時や、次からの課題がクリアできた時には「これであなたの価値ある人生や学校生活などに一歩近づいた」という、長期目標に近づくことができているということを確認し合うことも大切でしょう。

このように大人相手もしくは言葉の遅れのない小学校高学年以上くらいの子どもにエクスポージャーを実施する際でも慎重な姿勢で望むことが大切です。


Enせんせい

「やりなさい」「なんでできないの?」と言うのではなくその人が体験されている恐怖や不安に共感し、安心できる状況を作った上で支援を行なっていく姿勢が大切になります


ここまでの内容で大人相手もしくは言葉の遅れのない小学校高学年以上くらいの子ども相手でもこれくらい慎重に行くのですから、これがもっと幼く、且つ言葉の理解が遅れているお子さんに実行するとなった場合もっと慎重に行く必要があることがわかると思います。

エクスポージャーは一歩間違えば支援からドロップアウトしてしまうようなデリケートな支援方法ですので、慎重に行くことが賢明です。

ドロップアウトしてしまえば、その人の人生が良くなる可能性のあったチャンスを潰してしまうことになりかねません。

そのため今はあまり無くなってきましたが、私はこれを失敗してしまった時めっちゃ凹んだものです。当たり前ですが「1日でなんとかする」ことは難しく数週間から数ヶ月かけ、徐々に克服するようにプランニングして行きましょう。

上手い人がやったら2ヶ月で解決できた問題も、丁寧にやって4ヶ月かかってもいいので慎重に行きたいところです。


話を戻してまだ幼かったり、言葉があまり発達していないお子さんのケースでは理論的に教え納得してもらってエクスポージャーを実施させる方法はは基本的には適応しません

それは、例えば「不安はだんだんと少なくなっていくよ」と言葉で説明してもお子さん自身が自分の内部に湧き上がってくる「不安」などの情動反応をモニタリングできないなどの理由があり、失敗してしまう可能性が高いからです。

このブログは自閉症児などの発達に遅れのあるお子さんで、幼児期などの幼いお子さんを持つ親御さんが主にご覧になっていると思います。

ではどのように、幼児のお子さんの場合などはにエクスポージャーを適応していけば良いでしょうか?

そのことについて、次のページで書いて行きます。



【参考文献】

・ 飯倉 康郎 (2005) 強迫性障害の行動療法 金剛出版

・ John S March & Karen Mulle (2006) OCD IN CHILDREN AND ADOLESCENTS:A Cognitive-Behavioral Treatment Manual,2nd Edition 【邦訳 原井 宏明・岡嶋 美代 (2008) 認知行動療法による子どもの強迫性障害治療プログラム OCDをやっつけろ 岩崎学術出版社】

・ Timothy A. Sisemore  (2012) The Clinician’s Guide to Exposure Therapies for Anxiety Spectrum Disorders:Integrating Techniques and Applications CBT, DBT, and ACT 【邦訳 坂井 誠・首藤 祐介・山本 竜也 (2015) セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック その実践とCBT、DBT、ACTへの統合 創元社】

・ 内山 喜久雄 (1988) 行動療法 日本文化科学社

・ 山上 敏子 (2007) 方法としての行動療法 金剛出版