(ABA自閉症療育の基礎8)レスポンデント条件付けと「情動」

このページはレスポンデント条件付けが「恐怖」以外の「情動」の条件付けにも関わってくることについて書いていきます。

その後、日常生活の中でどのように条件付けされる可能性がありその際に生じるリスクについて紹介しましょう。


レスポンデント条件付けが条件付けられる現象

Raymond G. Miltenberger (2001)レスポンデント条件付けでは「怒り、反感、嫌悪感などの否定的な条件性情動反応を条件づけることが可能であり、同じように肯定的な幸福感や愛情と言ったものも条件づけることが可能である」と述べています。

また小野 浩一 (2005) 「数字自体に意味はなくともそれが好きな人の電話番号であれば、電話にその数字が出たことを見ることで心臓の鼓動が高まるし、歯科医師の顔や白衣を見ただけで泣き出す子いるもいる」と述べました。


ネガティブな情動だけでなく、ポジティブな情動も
レスポンデント条件付けによって条件付けできる

「(ABA自閉症療育の基礎7)恐怖条件付けーアルバート坊や(https://en-tomo.com/2020/07/20/fear-conditioning-classical-study/)」では

「恐怖」というネガティブな情動が条件付けられました研究を紹介しました。しかし、ネガティブな情動だけでなくレスポンデント条件付けではポジティブな情動の条件付けも可能です。

このようなレスポンデント条件付けによって得られる学習性の情動反応は「条件性情動反応(conditioned emotional response)」と呼ばれます。



情動とは何か?

山本 良子 (2014) は情動について6つの基本情動を紹介しました。

6つの基本情動は生物個体が存在していく上で必要な進化の過程を経て残ってきたものと考えられるものであり「怒り」「喜び」「驚き」「嫌悪」「悲しみ」「恐れ」がそれにあたります。

磯 博行 (2005) によれば「情動(emotion)とは一過性の急激に起こる強い感情状態や体験を指し、感情の動的側面を重視する。情動の生起は、自律神経の興奮や脳内の伝達物質の変化のような生理的な変化を引き起こすと同時に、それが自己の生存にとってよいか悪いかの評価と対処行動のタイプを判断させる」ものです。

私は情動について磯 博行 (2005)が書いた「一過性」ということがキーワードになると思っていて、強くなる時と弱くなる時があるが基本的には変動性があり、あまり長い時間は続かない、身体的な反応(筋緊張や脈拍の増加)を伴うものと捉えています。

情動が喚起される原因はレスポンデント条件付けのみではありませんが、レスポンデント条件付けによっても情動を誘発させる学習(条件付け)が可能だということは覚えておきましょう。



情動の条件付けの臨床的意義

例えば「お母さんの眉間にしわがよる(中性刺激)」と「お母さんの感情的な大きな声(US)」が何度も対提示されたとすると、「お母さんの眉間にしわがよる(中性刺激)」は「CS」の機能を有するようになるかもしれません。

そうなった場合「お母さんの感情的な大きな声(US)」が「お子さんの恐怖(UR)」を誘発する場合、「お母さんの眉間にしわがよる(中性刺激)」が「CS」の機能を有するようになり、「お母さんの眉間にしわがよる(CS)」ことによって「お子さんの恐怖(CR)」が誘発されるようになります。

この時「中性刺激」が「US」と繰り返し対提示され、「US」が引き起こす反応に近い反応を引き起こした場合「CS」と呼ばれます。


「(ABA自閉症療育の基礎5)レスポンデント条件付けの原理1(https://en-tomo.com/2020/07/18/responsive-conditioning-base1/)」

「(ABA自閉症療育の基礎6)レスポンデント条件付けの原理2(https://en-tomo.com/2020/07/19/responsive-conditioning-base2/)」で見てきたレスポンデント強化によるレスポンデント条件付けの成立です。

今後、例えばお子さんのことで機嫌が悪くないにもかかわらず「お母さんの眉間にしわがよる(CS)」ことが起こった時にも、お子さんは「恐怖」が誘発されてしまう可能性があります。


例えば旦那さんと喧嘩していてお子さんと関わる時に機嫌が悪い時もありますよね・・・

例えば夫と喧嘩していてお子さんと関わる時に機嫌が悪い時もあります。こうなるとお子さんは「え、こっわ」となってしまうかもしれません。

例えば、あなたがお子さんから「小学校であったネガティブな出来事の報告」を受けた時にいやな気持ちになって眉間にしわが寄ったとします。この時、あなたは別にお子さんに対して嫌な感情を持っていなかったとしましょう。もちろん、叱咤するつもりはありませんでした。

しかしお子さんはその時、眉間のしわの寄りは怒られる合図であると思い、一時的にではありますがネガティブな情動が誘発されてしまうかもしれません。

そのネガティブな情動を避ける形で「報告をしない」という選択をした時、お子さんは一時的な「安心」を手に入れる可能性があります。

このことは「安心」を得られるので今後、「小学校でネガティブな出来事」があった際にお母さんに報告することを「あえて、やらない」というお子さんの行動を強めるかもしれません。

今後「小学校であったネガティブな出来事の報告」を避けるようになる可能性があります。

お子さんが避けた報告が「いじめ」や「非行」等の問題を孕んでいた場合、お子さんにとってすごくリスキーです。

他にもお子さんが失敗をした時、お母さんが繰り返し叱咤したとします。

お子さんがその時に嫌悪的な情動を抱いていたとすると、今後そのような情動を避けるようになり「失敗を恐れてチャレンジはしないでおこう」というようになる可能性も考えられます。


また「お母さんの眉間にしわがよる(CS)」ことは「お母さん(中性刺激)」と対提示されるため、「お母さん」が「CS2」の機能を有するようになる可能性があります(二次条件付け)

※ 「二次条件付け」については

「(ABA自閉症療育の基礎6)レスポンデント条件付けの原理2(https://en-tomo.com/2020/07/19/responsive-conditioning-base2/)」を参照


こうなってしまうとお子さんはお母さんに対して「恐怖反応」が生じてしまう可能性があり、お母さんと関わること自体を避ける(もしくは緊張する)ようになる可能性があるのです。


このページの文中「情動が喚起される原因はレスポンデント条件付けのみではありません」と記載した通り、ネガティブな情動が喚起されるための条件は必ずしも「レスポンデント条件付け」の過程を経る必要はありません。

しかしこのページで見てきたように普段ありそうなシチュエーションから「レスポンデント条件付け」が発生しネガティブな情動が誘発される学習が成立してしまう可能性は知っておきましょう



レスポンデント条件付けの臨床活用

ここまでネガティブな情動の学習を生じさせる例を見てきましたが、レスポンデント条件付けによってネガティブな情動を喚起させることが学習できることを利用し、臨床活用することがあることも知っておきましょう。

レスポンデント条件付けの臨床適用をする例としては、例えば大人の例では喫煙や飲酒、性的偏向をコントロールする際に嫌悪的な刺激とそれらを条件づけることで嫌悪条件付けを行い望ましくない行動を減少させる(参考 James E. Mazur, 2006)ことが行えます。

私は上のような手法でレスポンデント条件付けを利用したことはないのですが、レスポンデント条件付けは上記のように条件づけによって新しい嫌悪的な学習を形成することで「減らしたい行動を減らす」という方法で活用できます。

例えば「禁煙外来」や「飲酒外来」などでは「タバコを吸うと気持ちが悪くなる」、「お酒を飲むと気持ちが悪くなる」と言ったお薬が処方されることがあるそうです。

このような例は「嫌悪条件付け」の例と言えるでしょう。



恐怖などにどう対処すれば良いか?

例えばネガティブな情動などによって不適切な行動が増え「行動問題」が現れた時、ではどうすれば良いでしょうか?

ネガティブな情動や不安、抑うつなどが問題になる時、どう対処するための方法として「エクスポージャー」という支援方法があります。

エクスポージャーは「PTSD」や「強迫性障がい」、「パニック障がい」、「動物恐怖」や「高所恐怖」、「社交不安(人と関わることに対しての不安)」などにも適応できる幅広い技法です。

※例えば下は特定の精神疾患に対して「エクスポージャー」の支援方法が書かれた専門書の写真


「エクスポージャー」の支援方法が書かれた日本語の専門書

坂上 貴之・井上 雅彦 (2018)

「恐怖という情動反応が条件づけ可能であれば、その逆で消去も可能である。

今日の恐怖症の治療には、恐怖をもたらす刺激に患者をさらすことで治療するエクスポージャー(曝露法:ともいう)が適応され効果を上げてきている。

一般的なエクスポージャーは、最初は患者にとって比較的弱い恐怖反応を引き起こす刺激を用い、それに繰り返しさらすことで馴化(※注釈: 慣らすこと)を生じさせ、その後、徐々に強い刺激にさらしていくことで治療を進めていく」

と述べています。

「エクスポージャー」はすごく臨床活用できる範囲が広い支援技法です。

次のページからはエクスポージャーについて見ていきましょう。


Enせんせい

このページではレスポンデント条件付けによって「ネガティブな情動」や「ポジティブな情動」を条件付けることが可能であることを書きました

親に対して「ネガティブな情動」が条件付けられると、お子さんが問題を抱えてしまった時に報告できない(親のヘルプを求められない)可能性があります

これは、お子さんにとってのリスクを高めます

問題となる「ネガティブな情動」などについてどう対処していくのか?


次のページからエクスポージャーについて見ていきましょう



【参考文献】

・ 磯 博行 (2005)【中島 義明・繁桝 算男・箱田 裕司 (2005) 新・心理学の基礎知識 Psychology:Basic Facts and Concepts 有斐閣ブックス】

・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】

・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館

・ Raymond G. Miltenberger (2001) Behavior Modification:Principle and Procedures/ 2nd edition 【邦訳 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解を目指して 有斐閣アルマ

・ 山本 良子 (2014)基本情動理論から見る情動発達 【遠藤 利彦・石井 佑可子・佐久間 路子 (2014) よくわかる情動発達 ミネルヴァ図書】