自閉症児が親に与える影響(ABA自閉症療育のエビデンス19)

これまでのページでは自閉症のお子さんに対してどのようなABA療育の方法があるのかについて紹介をしてきた。

このページでは自閉症児の家族についてエビデンスを紹介する。



家族間の不一致が悪影響を与える

NORAH JOHNSON・MARILYN FRENN・SUZANNE FEETHAM・PIPPA SIMPSON (2011) 自閉症児を持つ両親は健康関連のQOL(HRQL:Health-Related Quality of Life)に影響を与えるストレスを受けていると述べている。

研究には自閉症児のお子さんを持つ64組(128人)の男女のパートナーが参加した。

参加した人たちの自閉症児のお子さんの年齢は2歳から18歳までの間であった。父親の年齢は25歳から64歳までの間で、母親は29歳から69歳の間であった。

研究では「男女両方の親がある程度の子育てストレスを報告した」ことが述べられている。

彼らは研究で母親と父親の家族の役割に関する認識や期待に違いがある可能性を示した。

彼らによれば、過去の研究では自閉症児の行動問題がストレスとして強調される一方で、個人や家族の生活ストレス(お金や仕事の責任、兄弟姉妹のニーズバランス)、および家族の役割に関連する期待の不一致が親の精神的健康に悪い影響を与えるということであった。

彼らは家族が協力する際は子どもの状態ももちろんだが、これらの家族が持っている期待の不一致をアセスメントして介入方法に適応する必要性を述べた。

家族側は「そういうこともあるんだな」と思ってもらって、専門家側は「家族間の役割に対しての不一致」もアセスメントの対象となることを知っておくべきである。



母親と父親でストレスを受ける側面が違う

自閉症児を持つ家族の研究はたくさんあるがKelly A. Allen・Terence V. Bowles・Linda L. Weber (2013)が124人(101人の母親と23人の父親)を対象に対象に行った研究も紹介しよう。

この親たちのお子さんの年齢は2歳から10歳のお子さんがほとんど(84.2%)で最大年齢16歳までのお子さんが含まれた。

彼らは研究で母親と父親が自閉症児に対して感じるストレスの種類が違うと述べている。

彼らの研究では母親は子どもの社交性や健康面、身体面、行動面にストレスを受けるとされたが、父親はこれらに対してはあまりストレスを強く受けないようで、子どもが感覚および認知意識の弱さを示すほどストレスを感じることがわかった。

※ ただしこの研究は筆者も文末で述べたが、父親と母親の参加者の比率がかなり偏っている。そのためどこまで一般化できる結果か?という疑問は残っている

この研究からわかることは同じ子どもを育てていても母親と父親で感じる子育てに対してのストレスが違う可能性があると言うことだ。



上記の研究から言えること

上記のNORAH JOHNSON他 (2011) Kelly A. Allen (2013) の2つの文献が教えてくれることは療育を行う前に一度、両親で期待する方向性やそれぞれが心配に思っていることをしっかりと話し合う時間を持ち、共通理解することだと私は思う。

それぞれが別の方向を向き療育に取り組むことはお子さんのためにならないだけでなく、上記の理由から親側の心身の健康面を考慮しても良くない


Enせんせい

しっかり話し合う時間を最初だけではなく、できれば定期的に持つことでできるだけ2人が納得する方向で話し合いながら子育てができれば良い。


どういった方針でお子さんを育てていくのかについて、お母さん、お父さんと話し合って決めていくことが大切である。


親御様の意見を擦り合わせて行く

家族と専門家のパートナーシップ

Yun-Ju Hsiao・Kyle Higgins・Tom Pierce・Peggy J. Schaefer Whitby・Richard D. Tandy (2017)は過去研究から健常発達や他の障がいのある子どもの親と比較し、自閉症児の親はストレスのレベルが高くまた幸福度(FQOL:Full Quality of life)が低いと述べた。

彼らは親のストレスを軽減し幸福度を改善をする要因として「家族の教師:family-teache(療育をアドバイスする人)」と家族のパートナーシップがどのように影響を与えるか研究した。

研究には合計236人(うち母親が86.02%、66.95%が結婚しており4.66%はパートナーと一緒に暮らしている)の自閉症児を持つ親が参加した。

彼らの研究では家族と家族の教師とのパートナーシップは幸福度に関する親の満足度に直接影響した。家族と教師の強いパートナーシップでは、親が持つ子どものニーズを尊重し行動問題への対処スキルなど、介入方法を提供する。その結果、家族のFQOLは改善すると述べている。



私もお子さんの行動問題が解決することは親の幸福感を上げる可能性があると信じている。

例えば「偏食が強く家で特定のお皿で且つ特定のものしか食べない」という状況を想像して欲しい。

このことを解決しなければ親は子どもを連れて旅行に行くことが難しくなるだろう。

例えば「特定の音や物に過剰に反応する」とした場合、外に連れていくことに対して家族は億劫にはならないだろうか?

例えばこれらを解決することは親の行動範囲を拡大し幸福感を増加させると思っている。



私の思う自閉症児を持つ家族のQOLを上げる提案

私が家族の幸福度を上げる時に提案できることは、自分の生活を豊にするためにも積極的にお子さんの行動問題を解決することを考えた方が良いということをお伝えしたい。


Enせんせい

私は何か行動問題があるのならば、積極的に介入(関わって)改善を目指していくべき派です


ABA介入では例えば上にあげた偏食や過剰に反応してしまう問題が解決ができる可能性があるだろう。

例えば偏食については偏食を改善する方法が書かれた論文がある

※例えば、

AbbyHodges・Tonya Davis・Madison Crandall・Laura Phipps・Regan Weston (2017)

Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012)


偏食指導は私もニーズがあれば行うのだが、やっていくと実際に改善が見られるケースが多い。

偏食指導の目的はそれぞれの家族によるが、例えば「唐揚げ」が食べられるようになるだけで旅行先で食事に困る可能性がグッと下がる

過剰に音や物に反応することの論文は見たことはないが、ABA療育を通して改善させたこともある。

私が行う時は介入手続きとして「エクスポージャー」や「拮抗反応」という技法を用い改善を促す。

積極的にお子さんに対して介入をしてくことで「どこでも、自由に」とまではいかないかもしれないが、実際に親の生活範囲は多少改善するだろう。


このページでは自閉症児が親に与える影響について述べた。

次のページでは逆に親が自閉症児に与える影響について紹介をする。



【参考文献】

・ AbbyHodges・Tonya Davis・Madison Crandall・Laura Phipps・Regan Weston (2017) Using Shaping to Increase Foods Consumed by Children with Autism. Journal of Autism and Developmental Disorders 47:2471-2479

・ Kelly A. Allen・Terence V. Bowles・Linda L. Weber (2013) Mothers’ and Fathers’ stress Associated with parenting a child with Autism spectrum Disorder. Autism Insights 10.4137/AUI.S11094

・ NORAH JOHNSON・MARILYN FRENN・SUZANNE FEETHAM・PIPPA SIMPSON (2011)Autism Spectrum Disorder: Parenting Stress, Family Functioning and Health-Related Quality of Life. Families, Systems, & Health Vol. 29, No. 3, 232–252

・ Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) Using Individualized Reinforcers and Hierarchical Exposure to Increase Food Flexibility in Children with Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders 42(8): 1574–1581

・ Yun-Ju Hsiao・Kyle Higgins・Tom Pierce・Peggy J. Schaefer Whitby・Richard D. Tandy (2017) Parental stress, family quality of life, and family-teacher partnerships: Families of children with autism spectrum disorder. Research in Developmental Disabilities 70 p152-162