(ABA自閉症療育の基礎12)エクスポージャー(曝露療法)のポイント2:安全希求行動と反応妨害

「(ABA自閉症療育の基礎11)エクスポージャーのポイント1:エクスポージャーでの馴化プロセス(https://en-tomo.com/2020/07/25/exposure-therapy-point1/)」では、

エクスポージャーについて「馴化のプロセス」を知っておくポイントについて解説を行いました。

このページでは「安全希求行動(安全確保行動):Safety Behavior」「反応妨害:Response Prevention」について紹介して行きます。

※「安全希求行動」という言葉は「認知療法」、「認知行動療法」の文脈でよく使用される言葉です。ABAの言葉に置き換えると後のページで解説をしていくオペラント条件付けの「逃避行動」や「回避行動」がほぼ同義語となります

※私は「認知療法」、「認知行動療法」よりも「ABA」を生業とするカウンセラーですが「安全希求行動」を説明するで伝わりやすいニュアンスもあると思いましたので、今回は「逃避行動」や「回避行動」ではなくこの言葉を用いました


ページで「安全希求行動(安全確保行動):Safety Behavior」と「反応妨害:Response Prevention」について見て行きましょう


安全希求行動(安全確保行動):Safety Behavior

「安全希求行動」は「安全確保行動」と訳されることもあります。

「安全希求行動(安全確保行動):Safety Behavior」とはTimothy A. Sisemore  (2012)によれば驚異からの逃避行動・回避行動です。

何かしらの脅威が生態を襲ったとき、その場所から逃げたり(逃避行動)、今後その場所に近づかなる(回避行動)ことは動物も、私たち人間にとっても生命活動を維持していくための大切なことでしょう。

「安全希求行動」とは脅威が襲ってきたとき自らを守るため私たち人間が取って来た行動パターンと言えます。

「安全希求行動」は脅威が襲ってきたとき自らを守るというポジティブな一面も持っていますがネガティブな一面を見せるとき、私たちは徐々に嫌悪刺激(脅威)を避ける形で生活をしていく可能性があり問題が生じます


小野 浩一 (2005) は通常、生態は特定の嫌悪刺激にさらされたときに、最初にそれから逃避することを学び、やがてその嫌悪刺激の出現を阻止する(避ける)方法を獲得すると述べました。

例えば嫌悪刺激を避ける生活を送るため「不登校」、「出社できない」、「外出できない」、「人前で話せない」、「異性と話せない」など生活で困ったことが生じてくる可能性があります。

もっと単純なものは「苦手な人に合わないように下校時間を遅らせる」ことや「問題を避けるために、嫌だけれども賛同する」など「安全希求行動」が働くことであなたやお子さんの生活が限定されるかもしれません。



安全希求行動の種類

Timothy A. Sisemore  (2012)によれば「安全希求行動」には不安な思考や気分の後に生じてくる脅威と思われるものから個人の「安全」を守るように働くため、知覚された危険を避けるように機能する内的活動(internal action)外的活動(external action)があります。

「内的活動」とは恐怖とは関係のないどこか他の場所にいることを想像したり、何か他のことを考えるなどのことです。

「外的活動」とは例えば車の運転を拒否することやその場から逃げ出すなどになります。

支援を行うときは特に「内的活動」が働いていないかどうか注意を払わなければいけません。


「安全希求行動」は私たちの行動パターンとして元来持って生まれてくるものでしょう。

脅威や嫌悪刺激にさらされたとき身体は「逃げろ!」と訴えて来ます。

Michael Neenan & Windy Dryden (2006) はエクスポージャーはお子さんが本来避けている状況に身を置くことや普段避けている活動を「あえて行う」ことを求めると述べました。

脅威や嫌悪刺激にさらされることを求める支援方法ですので「安全希求行動」は支援としてエクスポージャーを行っている場合にも生じます

支援者はこのことを知っておく必要があるでしょう。

エクスポージャーは、一時的に高いストレスを与える支援方法です。

そのため本人に高い動機付けがないとその場から逃げ出してしまったり(外的活動)、心の中で歌を歌ったりして時間をやり過ごそうなどという精神活動が起こります(内的活動)


Berni Curwen・Stephen Palmer・Peter Ruddell (2000) はクライエントは安心感を得るため問題を回避したり、あるいは過剰に行なったりすることがありますが、言うまでもなくクライエントの心理的健康や心理療法の進展にとっては悪影響を与えると述べました。

エクスポージャー中にも「安全希求行動」は働くのですが、あまりに「安全希求行動」が強いと十分に不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激に当たることができず、不安や恐怖や嫌悪感などの低減に繋がりません

不安や恐怖や嫌悪感などの脅威は生態が生きていくための有利な一面があるのですが、これらが行動問題として現れた場合は厄介です。



反応妨害:Response Prevention

発動した「安全希求行動」に対して支援者は「反応妨害:Response Prevention」という手法で対応します。

「反応妨害」とは「エクスポージャー」を行う際にクライアントに対して、不安な思考や恐怖、嫌悪的な気分の後に生じる脅威に対して、そこから逃げたり回避しないことを求める方法です。

Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)は自分に都合の良い理由づけ(comforting reasoning)を行わないことが求められる。つまりそうすることで、心配思考そのものに対して、そしてそれによって喚起されるさまざまな感情に対してエクスポージャーすることになると述べました。

「自分に都合の良い理由づけ(comforting reasoning)を行わないこと」とは「安全希求行動」の「内的活動」を行わないことと読み替えられるでしょう。

エクスポージャーを成功させるには恐怖や不安や嫌悪感などを誘発する刺激や場面から、目を逸らさずに避けたくなる刺激や場面に当たらなければいけません。


Enせんせい

ただし、目をそらしてしまったとしても「心が弱い」などといってその人を咎めてはいけません

支援する側が「動機付けをうまくあげられなかった」など相手に対して理由付けをしないことが大切だと思います


うまくいかない時があっても次回どうすればうまくいくか?を一緒に考えていけば良いです

「(ABA自閉症療育の基礎9)エクスポージャー(曝露療法)(https://en-tomo.com/2020/07/23/exposure-therapy1/)」


でも記載しましたが、

「やりなさい」「なんでできないの?」ではなくその人が体験されている恐怖や不安に共感し、安心できる状況を作った上で支援を行なっていく姿勢が大切です


例えば大人相手もしくは言葉の遅れのない小学校高学年以上くらいの子どもにエクスポージャーを適応する際は、

・「安全確保行動」について言葉で説明し、そのような現象がエクスポージャー中に起こる

・「安全確保行動」を行ってしまうとエクスポージャーの効果が弱まる

ことを説明するだけでも本人が解決したい動機付けが高かった場合「安全確保行動に対しての反応妨害」として働き機能することがあります。

Timothy A. Sisemore  (2012)「安全確保行動」とは不安な考えや状況に直面せずに回避することで恐怖を避けたり不安を弱める精神的あるいは身体的活動であるということをクライアントに明確に伝える必要があると述べました。


Enせんせい

私は

・「安全確保行動」を行うと一時的に不安や恐怖や嫌悪感などは減少するがまたそれらを誘発する刺激や場面に当たると元のレベルかそれ以上のレベルまで再燃する

・エクスポージャーは一時的に不安や恐怖や嫌悪感などを増大させるが、長期的に見れば馴化によってそれらを誘発する刺激や場面は当たっても元のよりも低いレベルまで下げることができる

と説明します

そのとき、クライアント様に説明する際、以下のような図を書いて見せることが多いです


「安全希求行動」を取った場合と取らなかった場合の恐怖や不安や嫌悪感などの程度の予測値

赤色で示した線が描く軌道のように安全希求行動を行えば刺激や場面に直面したとき(点線が直面)、感じる恐怖や不安や嫌悪感などの程度は一時的に下がります

ただし緑色の点線で表現したのですが、次回また恐怖や不安や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に遭遇すると前回と同じところ(もしくはそれ以上)の程度まで再燃するでしょう。

赤色で示した線が描く軌道からわかることは感じる恐怖や不安や嫌悪感などの程度は一時的に下がるのだけれども、今の状況が今のままでは変わらないということです。

「困ってなんとかしたい」と思って私の元にやって来ている人ですので、「今までと同じ困った状況が以降も続く」というのは本意ではないはずです。

赤色で示した線が描く軌道のように安全希求行動を行うことをやめ、刺激や場面に直面したときに感じる恐怖や不安や嫌悪感などを受け入れることで、青色で示した線が描く軌道のように程度は一時的に上がってしまいますが、その後徐々に下がっていき長期的には利益が大きいことを伝えて行きます。

※ 加えて「(ABA自閉症療育の基礎11)エクスポージャーのポイント1:エクスポージャーでの馴化プロセス(https://en-tomo.com/2020/07/25/exposure-therapy-point1/)」で示したイラストも一緒に示すことが多いです


「(ABA自閉症療育の基礎11)エクスポージャーのポイント1:エクスポージャーでの馴化プロセス」の解説で使用したイラスト


エクスポージャーに反応妨害を検討する基準

Timothy A. Sisemore  (2012)は「反応妨害」を適応するためのガイドラインについて述べています。

1.もし併存症を伴うのならば、不安障がいは主症状か?

2.診断は強迫性障がいか?

3.クライアントが積極的に回避あるいは逃避し、エクスポージャーの標的となる不安のトリガー(Trigger)は存在するか?

4.回避行動や逃避行動の力が強いために、クライアントが標的となる恐怖に自分自身を曝露することが難しいように見えるか?

もし「1」の質問の答えが「いいえ」で他の3つのいずれかが「はい」であった場合は「反応妨害」をエクスポージャーの一部として考える必要があると述べました。

「1.もし併存症を伴うのならば、不安障がいは主症状か?」というのは他の主症状があり併存症の影響によって不安が増大している場合などが当てはまるのですが、お子さんの場合はだいたい「3」か「4」が当てはまることが多いです。

基本的にはエクスポージャーを行う際には「反応妨害」もセットで頭に入れて支援方法を検討することが賢明だと思います。



おわりに

大人の場合は刺激や場面に直面したときに感じる恐怖や不安や嫌悪感などを受け入れることが必要であることを話し合い、納得することで反応妨害として機能する可能性がありますが、子どもの場合はどうでしょうか?

「(ABA自閉症療育の基礎9)エクスポージャー(曝露療法)(https://en-tomo.com/2020/07/23/exposure-therapy1/)」で、

『子どもの場合は「本人はあんまり困っていない。どちらかと言えば周りが困っており、親が困ったり不安に思って連れてきた」場合が大人と比べると多い』と記載しましたが、ではどのように進めて行くのでしょうか?

「(ABA自閉症療育の基礎10)エクスポージャー(曝露療法):言葉の理解が少しある幼児療育編(https://en-tomo.com/2020/07/24/exposure-therapy2/)」では、

例えば5W1Hや因果関係(~だから)といった簡単な言葉の理解があるお子さんに対してエクスポージャーを使用する方法の一例を記載しました。


次のページではRobert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) が行った研究を参考にエクスポージャーの事例研究を見て行きます。

この研究はさらに言葉の理解が難しいお子さんに対してエクスポージャーを用い「偏食指導」を行い、食べられるもののレパートリーを拡大して行った研究です。

この研究をみたのち、お子さんにエクスポージャーを試みるときにどう「反応妨害」を意識すれば良いのか私の意見を書いて行きます。



【参考文献】

・ Berni Curwen・Stephen Palmer・Peter Ruddell (2000) Brief Cognitive Behavior Therapy 【監訳:下山 晴彦 (2004) 認知行動療法入門 金剛出版】

・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC 日本評論社】

・ Michael Neenan & Windy Dryden (2006) Cognitive Therapy in nutshell 【邦訳 監訳:大谷 彰 訳:玉井 仁 (2007)わかりやすい認知療法 二瓶社】

・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館

・ Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) Using Individualized Reinforcers and Hierarchical Exposure to Increase Food Flexibility in Children with Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders. 42(8): 1574–1581

・ Timothy A. Sisemore  (2012) The Clinician’s Guide to Exposure Therapies for Anxiety Spectrum Disorders:Integrating Techniques and Applications CBT, DBT, and ACT 【邦訳 坂井 誠・首藤 祐介・山本 竜也 (2015) セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック その実践とCBT、DBT、ACTへの統合 創元社】