(ABA自閉症療育の基礎46)オペラント条件付けー確立操作と弁別刺激の違い

このページはイラストで言えば、


「ココ」と書かれている「弁別刺激」

「ココ」と書かれている内容と、


「ココ」と書かれている「確立操作」

「ココ」と書かれているところの内容です。

両方とも、

「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」

というフレームの中に入っています。


「(ABA自閉症療育の基礎45)オペラント条件付けー確立操作(https://en-tomo.com/2020/10/10/establish-operation/)」

のブログページでも「確立操作」と「弁別刺激」の違いについて述べましたが、

このページでは「弁別刺激」と「確立操作」の違いについてもう少し詳しく考察していきます。



確立操作ー1:生態の外部と内部

「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」

では、

「SD(Discrimination stimulus):弁別刺激」

「EO(Establish operation):確立操作」

 について、

 「SD:弁別刺激」とはその後の行動に影響を与える行動に先立つ環境であり、目で見えたり、鼻や皮膚で感じることができたり、聞こえる音といったように五感で感じる刺激

「EO」とは五感で感じる刺激というよりは身体の中で内的に生じる、その後の行動に影響を与える反応です

と記載しました。



生態の外部(弁別刺激)と内部(確立操作)の例

・ 目の前に出現したラーメン屋さんや信号の色が青に変わる(視覚刺激)

・ 授業開始のチャイムや地震が来ることを知らせるアラーム(聴覚刺激)

・ 甘いケーキの匂いや感じたガスの匂い(嗅覚刺激)

・ 最適な湯船のお湯の温度やストーブに触れてしまったときに感じる温度(触覚刺激)

・ 汁物を飲んだとき舌先で感じる旨味や薬を飲んだとき舌先で感じる苦味(味覚刺激)

このような身体の外側にある刺激で五感を通して感じることができる刺激そのものは「弁別刺激」です。

以上のような五感で感じられる刺激は弁別刺激ですが、

このような刺激に触れたときに誘発される身体の内部で生じる反応

や、

このような刺激に触れたときの身体の内部の状態

確立操作です。


例えば

・ 目の前に出現したラーメン屋さん(弁別刺激:視覚刺激)、

そのときのお腹の空き具合(確立操作:身体の内部の状態)によって例えば「食べる/食べない」行動に影響


・ 地震が来ることを知らせるアラーム(弁別刺激:聴覚刺激)、

そのときに自分が「地震」について知っている情報や経験からくる恐怖の度合い(確立操作:誘発される身体の内部で生じる反応)によって例えば「逃げる/逃げない」行動に影響


・ 甘いケーキの匂い(弁別刺激:嗅覚刺激)、

そのときのお腹の空き具合(確立操作:身体の内部の状態)によって例えば「食べる/食べない」行動に影響


ガスの匂い(弁別刺激:嗅覚刺激)、

そのときに自分が「ガス」について知っている情報や経験からくる恐怖の度合い(確立操作:誘発される身体の内部で生じる反応)によって例えば「逃げる/逃げない」行動に影響


・ 最適な湯船のお湯の温度(弁別刺激:触覚刺激)、

そのときの自分の身体的な疲れ具合や身体が冷えている状態(確立操作:身体の内部の状態)によって例えば「湯船に浸かる」行動(例えば入浴時間)に影響


・ 汁物を飲んだとき舌先で感じる旨味(弁別刺激:味覚刺激)、

そのときのお腹の空き具合(確立操作:身体の内部の状態)によって例えば「飲む」行動(飲む量)に影響


「満腹感」「気持ちの高揚」「満足感」「十分な睡眠コンディション」「体調」、

「空腹感」「気持ちの落ち込みや不安感」「寂しさ」「睡眠不足」「体調不良」

などは確立操作の例です。


Enせんせい

また恐怖などの「誘発される身体の内部で生じる反応」はこのブログページで以前書いた

「レスポンデント条件付け」によって学習された可能性もあります

「レスポンデント条件付け」は「確立操作」に根強く関わります

※ レスポンデント条件付けのブログページをまとめたURLは以下

「(ABA自閉症療育の基礎15)ABA療育、レスポンデント条件付け・エクスポージャー(曝露療法)まとめ(https://en-tomo.com/2020/08/05/aba-basic-conclusion1/)」


身体の外側にある弁別刺激に触れた際、身体の内部で誘発され生じる反応、もしくは弁別刺激に触れたときの身体の内部の状態を確立操作と言います。

そのため、

身体の外側にあり、行動に影響するものを「弁別刺激」

身体の内側にあり、行動に影響するものを「確立操作」

と「弁別刺激」と「確立操作」の違いについて「身体の内外の違い」という相違点から考察することが可能でしょう。

基本的には「弁別刺激」と「確立操作」についてはざっくりとこのような違いを意識してもらって大丈夫だと思います。

※ もし、「それは違うよ」というご意見がありましたらTwitterでダイレクトメッセージを送っていただければ幸いです



確立操作ー2:弁別刺激が行動のきっかけ、確立操作は強化子・罰子の影響力を決定

例えばあなたが車に乗っていてスピード違反をしたとします。


スポード違反で罰金刑になってしまいました

これは、

(スピード違反で罰金を取られた女性)法定速度60キロの道で(A)

超過したスピードで走ると(B)

スピード違反で罰金を取られた(C)

※持っていた現金の減少

その後、法定速度60キロの道で(A)

超過したスピードで走る行動(B)は消失した

という「負の罰」によって、今後の行動減少を示したエピソードです。

※ 負の罰については

「(ABA自閉症療育の基礎26)オペラント条件付け-「正の罰」と「負の罰」(https://en-tomo.com/2020/08/21/aba-operant-conditioning-positivepunishment-negativepunishment/)」を参照


このイラストの女性60キロが基底の道を100キロで走っています。

警視庁のHP(観覧日2020年10月4日)を参考にすればこの場合「3万5千円」の罰金(プラス6点の減点)が結果として伴うようです。

このとき、この女性の超過したスピードで走る行動を減少させた結果は「罰金」や「ポイント減少による保険に係る金額の上昇」だったとします。

この場合、

「法定速度60キロの道で(A)」、「超過したスピードで走る行動(B)」は罰の随伴性に従い減少、もしくは消失したと言えるでしょう。

お金を失うという結果は多くの人にとって直前の行動を弱めます。


しかし例えば「1億円持っている人にとっては3万5千円の罰金なんて意味ないよ」という、このような議論を聞いたことがあるかもしれませんが、

この女性も「3万5千円」程度では全くダメージを受けない資産があった場合、それは特定の心の状態を作り上げるかもしれません。

このようなこころの状態や女性を取り巻く状況(環境)は「罰金(罰)」の効果に影響を与える「確立操作」です。

このような確立操作が効いている場合、確かに

法定速度60キロの道で(A)

超過したスピードで走る行動(B)

は、

スピード違反で罰金を取られる結果(C)

をもたらす可能性があるのですが、

「スピード違反で罰金を取られる結果(C)」は女性にとって罰刺激としての効力は弱く

法定速度60キロの道で(A)

超過したスピードで走る行動(B)

は維持し続けるかもしれません。


注意したいこととして、

この例で紹介した女性は法定速度がある道でスピード超過すれば、警察に注意を受ける(罰金を受ける)という結果が生じる可能性があることが理解できていないわけではありません


女性

女性は法定速度がある道でスピード超過すれば、

警察に注意を受ける(罰金を受ける)可能性があることは分かっているわ


また決して「今後またスピード超過をして捕まること」を望んでいるわけではなく、むしろ捕まりたくないと思っているはずです。

例えば同乗者がいたり、時間に余裕があるときは以前よりもスピードを落として法定速度を守り運転することがあったとしましょう。

もしそのような行動変化があった場合、確実に警察に注意を受けた結果がのちの女性の運転する行動に影響を与えており、

「法定速度がある道」が女性にとって弁別刺激として機能していると言えます。(難しい言葉を使えば、「法定速度がある道」は「罰」の刺激性制御を受けている)


しかし資産があり心の余裕(確立操作の効いている)があるこの女性は、基本的には少し急いでいるときなどは今まで通り平気でスピード超過していたとしましょう。

そのように女性が「スピード超過」という行動を続ける理由は、

単にその結果の影響力(罰金)が女性にとって弱いために罰として機能しにくく(機能する場面が少ない)、結果が行動に影響しなくなっている状態だからです。

女性にとって嫌な結果ではあるものの、「罰」としての効力は弱いのです。



以上の内容を解説

スピード超過で罰金刑を受けたことから、女性にとって「法定速度60キロの道」は「罰金刑」という結果が伴う可能性がある「弁別刺激」の機能を有するようになります。

弁別刺激の機能を有することを「刺激性制御の確立」というのですが、

「法定速度60キロの道」が女性にとって、スピード超過という「行動」ののちに「罰」の結果を生じさせる「弁別刺激」としての機能を有しているかどうかは

同乗者がいたり、時間に余裕があるときは以前よりもスピードを落として法定速度を守り運転することがあるなど、

以前と比較して行動が変化したポイントがあれば『「弁別刺激」としての機能を有する』学習は成立している可能性が高いです。

しかし、いかに「法定速度60キロの道」が女性にとって、スピード超過という「行動」ののちに「罰」の結果を生じさせる「弁別刺激」としての機能を有していても、

資産があり心の余裕があることなど(確立操作)は「罰」の影響力を弱め、法定速度を守る運転という行動に影響を与えます。

罰金という結果は「罰」としての意味をもってはいますが、少し急いでいるときなどは今まで通り平気でスピード超過してしまうでしょう。

資産やこころの余裕という「確立操作」はこのように法定速度を守る運転という行動に影響を与えます。

ただし、法定速度を守る運転という行動の直接のきっかけは「法定速度が定められた道」という「弁別刺激」です。

「法定速度が定められた道」がない状況では、そもそも「法定速度を守る運転という行動」というものは出現させようがありません

「確立操作」はあくまでそのような弁別刺激に触れたときに生じる

弁別刺激に触れたときに誘発される身体の内部で生じる反応

や、

弁別刺激に触れたときの身体の内部の状態

であり、行動を引き起こす直接のきっかけとは言えません。

※ もし、「それは違うよ」というご意見がありましたらTwitterでダイレクトメッセージを送っていただければ幸いです



確立操作ー3:弁別刺激が長期的な行動傾向を決め、確立操作は瞬間を決める

「(ABA自閉症療育の基礎45)オペラント条件付けー確立操作(https://en-tomo.com/2020/10/10/establish-operation/)」

では、

大好きなラーメン屋さんに「入る/入らない」という例を見ましたが、大好きなラーメン屋さんが目の前に出現するという、入店という行動を引き起こすきっかけ(弁別刺激)がありました。


(A)お昼13時に大好きなラーメン屋が目の前見えて(弁別刺激)
(B)入店(行動)

弁別刺激があるということは、今までそのラーメンを食べてきて強化されてきたという強化歴を持っていると言い換えられます。

つまり、この弁別刺激のもとではラーメン屋に入るという「行動」を自発的に行う確率が高いと言えます。

しかし入店という行動を行うかどうかは「満腹感/空腹感」というその瞬間に生じている確立操作が決定因です。


このように「行動が出現するとき」、

「弁別刺激」は行動を引き起こすきっかけであり、「弁別刺激」が確立されるためには今までその「弁別刺激」のもとで強化子が提示されてきたという歴史を持っています。

対して「確立操作」はそのような強化歴のある弁別刺激のもとで、その瞬間に行動を引き起こすかどうかの決定因です。


「その瞬間」というキーワードにオレンジ色の下線を引きました。

このブログでここまで書いてきたように行動を引き起こす可能性を引き上げることに一番貢献する要因は「強化子」です

ABAでは強化子は行動を増やす要因であり、強化子が提示されてきた歴史が「弁別刺激」を確立させます。

このように行動がしっかりと強化されると「弁別刺激」という行動を引き起こすきっかけのもとで、行動の頻度が増加していくことが基本です。

長期的なスパン見ればそうなのですがその瞬間を切り取って行動を分析するとき、

「今、この弁別刺激のもとで行動が生起するかどうか?」を見た場合、その瞬間強化子の価値を変える確立操作が要因として大きな一因を買います。



さいごに

後輩から「弁別刺激と確立操作ってどう違うんですか?」という質問を多く受けますが、このページで示したように

「弁別刺激」・・・身体の外にある刺激で、行動を引き起こすきっかけになる

「確立操作」・・・身体の内にある刺激(反応)で、その瞬間に行動を行うかどうかの大きな要因となる

と考えていただければわかりやすいのではないでしょうか?


確立「操作」と、名前に「操作」という記載のある「確立操作」ですが「操作可能」です。

例えばGEORGE S. REYNOLDS (1961) はハトを使った実験で、実験前にハトの体重を80パーセントまで落として実験を開始しています。

これは意図的にちょっとした空腹状態を作ることでエサがハトにとって強化子として強く機能するようにした実験操作です。

これは「遮断化(Deprivation)」という確立操作の方法ですが坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) によれば動物実験で一定期間食物を与えない操作で「食物遮断化」と呼ばれます。


上の例は動物実験の例ですが、「確立操作」はABA自閉症療育でも手続きとして組み込むことが可能です。

小野 浩一 (2005) 確立操作を一般的な言葉で述べると「欠乏状態」、「飽和状態」、「嫌悪状態」になると予想される状態を作り出す環境操作であると述べました。

これらはABAの用語で順に「遮断化(しゃだんか)」「飽和化(ほうわか)」「嫌悪化(けんおか)」と呼ばれるものです。

「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」について学び、ABA自閉症療育に生かしていきましょう。

「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」を学ぶ前に、次のページではこの操作可能な確立操作における「無条件性確立操作」と「条件性確立操作」についてみていきます。

その後のページで代表的な「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」について見ていきましょう。



【参考文献】

・ GEORGE S. REYNOLDS (1961)CONTRAST, GENERALIZATION, AND THE PROCESS OF DISCRIMINATION1. Journal of the Experimental Analysis of Behavior. October 1961 https://doi.org/10.1901/jeab.1961.4-289

・ 警視庁ホームページ 反則行為の種別及び反則金一覧表 https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/torishimari/tetsuzuki/hansoku.html

・ 警視庁ホームページ 交通違反の点数一覧表 https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/torishimari/gyosei/seido/tensu.html

・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館

・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ