(ABA自閉症療育の基礎45)オペラント条件付けー確立操作

このページはイラストで言えば、


「ココ」と書かれた「確立操作」のページです

「ココ」と書かれているところの内容です。



ABA自閉症療育ー確立操作

「確立操作」はイラストにもあるように

「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」

というフレームの中に「弁別刺激」と分かれて入っています


「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」

のページでは

「SD:弁別刺激」とはその後の行動に影響を与える行動に先立つ環境であり、目で見えたり、鼻や皮膚で感じることができたり、聞こえる音といったように五感で感じる刺激と思ってもらって良いでしょう。

「EO:確立操作」とは五感で感じる刺激というよりは身体の中で内的に生じる、その後の行動に影響を与える反応です。

と書きました。

確立操作の前に付いている「EO」という表記は、確立操作を英語表記した際の「Establish operation」を単語の頭文字を取った略語です。


個人的にはこの区分けで考えるのがわかりやすいと思っており、

「弁別刺激」は身体の外部で生じる行動を引き起こす刺激、

「確立操作」は身体の内部で生じる行動を引き起こす反応(もしくは、反応を引き起こす刺激や操作)

と捉えて私はABA自閉症療育を行い指導をしています。


小野 浩一 (2005) 確立操作について、特定の行動が起きるときの生態の状態を決定するような環境変化である。

この環境は直接行動を誘発したり、行動のきっかけになるものではないが、行動の頻度を変え、後続する環境変化(※ 強化や罰のこと)の行動に及ぼす効力を変える重要なものである。

と述べました。


難しく聞こえると思いますが小野 浩一 (2005) が述べたことからの重要な点としては、

「確立操作」は

・ 直接行動を誘発したり行動のきっかけとはならない

・ 行動の頻度を変える

という点かと思います。

以下、この2点について考えていきましょう。



確立操作は直接行動を誘発したり行動のきっかけとはならない

小野 浩一 (2005) を参考にすれば「確立操作」は直接行動を誘発したり行動のきっかけとなりません。

対してここまでのページで見てきた「弁別刺激」は直接行動を誘発したり行動のきっかけとなります。


例えばお昼の13時に道を歩いていて目の前に大好きなラーメン屋さんが見えてきたとしましょう。

この場合、ラーメン屋さんは弁別刺激です。

大好きなラーメン屋さんという弁別刺激は私の「店に入る」という行動を引き起こす弁別刺激としての機能を持っています。


(A)お昼13時に大好きなラーメン屋が目の前見えて(弁別刺激)、
(B)入店(行動)

この大好きなラーメン屋さんが出現したという刺激は、私の「店に入る」という行動を引き起こすきっかけ(弁別刺激)になりますが、

※ そもそもラーメン屋さんが出現しないと、ラーメン屋さんに入るという行動は起こせません

弁別刺激に加えて「確立操作」の要因を考えてみたとすれば、

例えばお昼の13時に道を歩いていて目の前に大好きなラーメン屋さんが見えてきたとしても、既に別のお店で昼食を食べ終わっており、お腹が満腹状態であった場合私はラーメン屋さんには入りません

この「満腹状態」は

(A)お昼の13時に道を歩いていて目の前に大好きなラーメン屋さんが見えてきた

(B)お店に入る

という、

「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」

のもとで引き起こされる

「B(Behavior):行動」

に影響を与えます。


大好きなラーメン屋さんという弁別刺激は私の「店に入る」という行動を引き起こす弁別刺激としての機能を持っていますが、

弁別刺激以外の「満腹感」という要因が「店に入る/入らない」という行動へ影響を与えるのです。

この時の「満腹感」という「弁別刺激」以外の要因がABAでは「確立操作」と呼ばれます。


上の例ではこの「確立操作」から影響を受けていますが、

上に書いたように「大好きなラーメン屋さんに入る」という判断をもたらす直接のきっかけは「目の前に出現したラーメン屋」という「弁別刺激」です。

理由は「目の前に出現したラーメン屋」という刺激の出現がなければ、そもそも「ラーメン屋に入る」という行動が引き起こされることは決してありません

あくまで確立操作は付加的なそのときの生態の状態です。


Enせんせい

目に見える行動を主な研究対象とするABA(応用行動分析学)

なので、生態の内部で生じる反応をも分析する確立操作は

ニュアンスが掴みにくいトピックです

※ 実はABAは生態の内部(皮膚の内側)に生じる

「感じる」「思う」「考える」なども行動とみなして扱うのですが、

そのことについては

「(ABA自閉症療育での行動の見方3)顕在的行動と潜在的行動(https://en-tomo.com/2020/07/01/overt-behavior-covert-behavior/)」

を参照ください


ラーメン屋に入るという行動を引き起こす直接的な弁別刺激(目の前のラーメン屋)があり、その時の満腹感などの内的な状態(確立操作)が「ラーメン屋に入る」という行動に影響を与えます。

ラーメン屋さんは身体の外部で生じる弁別刺激でラーメン屋さんに「入る/入らない」という行動を行うきっかけです。

満腹状態は身体の内部で生じている反応(確立操作)ですが、

「ラーメン屋さんに入る/入らない」という行動はそもそもラーメン屋さん(弁別刺激)がなければ生じることもないため、確立操作は直接行動を誘発したり行動のきっかけにはなりません。

これら「弁別刺激」と「確立操作」はどちらも行動の前に先立つ現象で、行動を決定する要因となりますので

「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」

というフレームの中に「弁別刺激」と分かれて「確立操作」が入っています。



行動の頻度を変える

上の例では「大好きなラーメン屋さん」と記載し確立操作の説明をしています。

例文でわざわざ「大好きな」と付けたことには理由があるのです。

「大好き」ということは私は何度か既にそのラーメン屋さんに入ったことがあって、好みの味のラーメンが出てくることは分かっています。

これは既にそのラーメン屋さんに入ることが強化されてきた歴史がある(強化歴がある)ことを意味しているので、

昼の13時(昼食を食べるであろう時間帯)に「満腹状態」でなければ、その「大好きなラーメン屋さん」に入店する確率は高いでしょう。

ただし入店する確率は高いものの「満腹状態」という「確立操作」は入店するかどうかの判断い影響を与えます。

目の前に「大好きなラーメン屋さん」という「弁別刺激」があったとしても、「確立操作」によって「入店する/しない」が変化するのです。

以下に高確率(高頻度)で生じる行動(好きなラーメン屋に入る)であっても、そのときの生態の状態(確立操作)で行動が変化するため、

「確立操作」は行動の頻度(この場合は「入店」という行動)を変えることができるのです。


Raymond .G .Miltenberger (2001)「確立操作」について特定の時点や状況で強化子の効力を確立する操作と述べています。


「確立操作」はイラストのように行動のあとの結果、
「強化子」や「罰子」の効力に影響を与えます

大好きなラーメン屋に入店する行動は、行動の結果として「好きなラーメンを食べる」という結果(強化子)をもたらすでしょう。

「好きなラーメンを食べる」という結果(強化子)は私にとって魅力的で、触れたい結果です。

ただし「満腹状態」という確立操作が効いていると、「好きなラーメンを食べる」という結果(強化子)の価値は暴落し、

「今は、その結果(強化子)はいらないや」

という判断をもたらし、行動に影響を与えます。

Raymond .G .Miltenberger (2001)を参考にすれば特定の時点や状況では「確立操作」が効いており、強化子の効力は高まったり、このページで書いたように弱まったりするのです。



さいごに

Raymond .G .Miltenberger (2001)と同じように、

Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) 確立操作について、強化子の効力を高めたり、弱めたりするような先行状況の操作と述べています。

このページでは「大好きなラーメン屋さん」を例に強化子の効力が弱められるシーンから、確立操作についてみてきました。

「弁別刺激」は五感で感じれる刺激のため、当人以外の人も感じることができる場合が多い(味覚や触覚の場合は微妙)でしょう。


坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 確立操作は心的な概念である動因と誘因に深く関連しており、動機付けという研究領域のなかで盛んに取り扱われた歴史を持っていると述べました。

坂上 貴之他 (2018) が述べているように確立操作を学ぶことでお子さんの動機付けについてのヒントを得ることができます


このページからは確立操作について

確立操作とは弁別刺激と同じく先行事象(行動の前にある状況)に位置し、強化子や罰子の価値を上げたり下げたりする影響を持つ反応(もしくは、反応を引き起こす刺激や操作)

と覚えていただければ幸いです。


後輩指導をしていて「弁別刺激と確立操作って何が違うんですか?」という質問は割と多くきます。

私自身としては冒頭書いた、

「弁別刺激」は身体の外部で生じる行動を引き起こす刺激、

「確立操作」は身体の内部で生じる行動を引き起こす反応(もしくは、反応を引き起こす刺激や操作)

を後輩には伝えます。

なんだか、ややこしいですね・・・。

「確立操作」はABAの基礎を指導していく際に、難しいところ、と言われることが多い部分だと思います。

でも、頑張ってわかりやすく解説できるよう頑張っていきます!


このページでは「弁別刺激は行動を引き起こす直接のきっかけになるが、確立操作は直接のきっかけにならない」と記載をしました。

次のページでも、もう少し詳しく「弁別刺激」と「確立操作」の違いについて述べていきます。



【参考文献】

・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館

・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ