顕在的行動と潜在的行動(ABA自閉症療育での行動の見方3)

ABAで扱う行動とは?

このページでは、ABAでは行動をどのように捉えて考えるのかについて書いていきます。

ABAの基盤を作った人物であろうアメリカの心理学者B.F.Skinnerは『行動を顕在的行動(overt behavior:2人以上の人によって観察できる行動)と潜在的行動(covert behavior:皮膚の内側で生じている行動)の2つに分けられると述べ、両方とも研究すべきだと考えた』(参考 William・O’ Donohue  & Kyle E. Forguson ,2001)ようです。。

坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) を参考に、顕在的行動は「公的事象」、潜在的行動は「私的事象」という呼び方もできると考えられます。



顕在的行動(overt behavior)と潜在的行動(covert behavior)

2人以上の人によって観察できる「顕在的行動(皮膚の外側で生じている行動)」とは、



例えば食事後に「食べ終わったお皿をキッチンに持っていった」といった、この例のように目に見える行動です。

例えば上の状況をお父さんとおじいちゃんが見ており、後でお父さんがおじいちゃんに「息子、ご飯食べた後なんかしたっけ?」と聞くとおじいちゃんは「お皿を自分で持っていった」と答えられます。

「目に見える行動」はお父さんもおじいちゃんも「カウントできる」ことが重要です。

「目視できる」、「音を聞くことができる」などのカウントできるこのような行動は2人以上の観察者が同じ行動として分類ができます。

このような行動に対してはお父さんもおじいちゃんも「確かに食べ終わった後に太郎くんはお皿を持っていった」と言え、複数人が「同じように回数を数えられる行動」です。



目に見えた顕在的行動に対して上のイラストの例は「潜在的行動(皮膚の内側で生じている行動)」に分類されるものです。

2人以上の観察者によっても観察できない行動になります。

お子さん本人は舌からの情報をもとに「美味い」という事実を観察(実感)できますが、周りの人は「多分、この子はこう思っているのだろう」ということを状況から予測するしかありません

このような「どう思った?」「どう感じた?」「どう捉えた?」など本人しか分からない(本人の皮膚の内側で処理された情報)のことについてもABAでは行動と捉えます。

「顕在的行動」でも分析は必要ですが、お子さんが「どう感じたのか?」などの「潜在的行動」を知るためには特に「分析」が必要です。

「分析」には「その後どう変化したか?」という時間の流れが必要で、「この子がまずいと思っていた可能性はない?」と言われた時、根拠を示すためには「その後XXXXって言う行動が続いたから、きっとーーー」と説明する必要があるでしょう。

例えば「自分からすぐに2つ目を手にとって食べた」など、そういった行動が続く必要があるのです。

この場合は「美味しいと感じたのかな?」など考えることができ、今度スーパーで見かけた時にまた買ってきて食べさせてあげると喜ぶだろう、などの予測ができます。

「どういった行動が続いたか?」が潜在的行動の意味を予測するためには役立つでしょう。


ブログを通して分析の方法も紹介していきますが、私が思うにABA療育において「根拠を示す」というのは「自分の意見の正しさの根拠を集める」ということではなく「適切な方法を探る手段」と言えるでしょう。

「適切な方法が見つかる」からこそ、その後の適当な介入方略を立てることができます。

複数人で観察することができない潜在的行動の意味を分析することも、支援を行う中では無視できません。

本人にとっての「価値観」や「好きなこと」、「嫌なこと」や「不安感」などの潜在的行動を理解できることは目に見えにくいですが、しっかりと捉えて解決の道筋を立てていくためには必要な情報です。



ABAの行動の見方は日常とは違う

ABAでは行動を以上のように少し普段私たちが使っている意味とは違う捉え方をします。

違う捉え方をというのは目に見えない皮膚の内側で生じていることについても行動と捉えるということです。

Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008) 『徹底的行動主義では、行動とは「有機体(生活体)が行うすべてのこと」を意味します。つまり、簡単に観察できる誰かの行為(たとえば、腕を上げる、誰かに話しかけるなど)だけではなく、自分の内部で起こっていることも(たとえば、考えたり、感じたり、思い出したりするなども)、行動として取れるのです』と述べています。

※ 徹底的行動主義とはB.F.スキナーが創始したABAの基盤であり、このサイト内ではABAと同義語と思って読んでもらって大丈夫です。

以上の文献から読み解けるように普段の日常では私たちがあまり「行動」とは捉えないような「感想を持つこと」、「考えること」、「思うこと」等もABAでは「行動」と捉えて考えます。


Enせんせい

普段私たちが日常を過ごす上で「行動」とは捉えないであろうものも、ABAでは「行動である」と考えるということを覚えておいてくださいね 。そう捉えることで解決できる問題はかなり広くなるでしょう!


この先、この章のブログページではもう少し「ABA的な行動の見方」について書いて行きますのでどうぞよろしくお願いいたします。



【参考文献】

・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解を目指して 有斐閣アルマ

・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC,日本評論社】

・ William・O’ Donohue  & Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生,二瓶社】