(ABA自閉症療育の基礎44)オペラント条件付けープロンプトのポイント

このページはイラストで言えば、


「ココ」と書かれている弁別刺激に関連しています

「ココ」と書かれているところの内容です。


「(ABA自閉症療育の基礎42)オペラント条件付けー強化法とプロンプト(https://en-tomo.com/2020/09/27/reinforcement-prompt/)」

のページでは「強化法」と「プロンプト」について解説をしましたが、

そのページの中で「プロンプト」について「弁別刺激」と比較し、

このような本来、自然に行動を引き起こすであろう刺激を「弁別刺激」

そのような自然な「弁別刺激」に反応できないとき、反応できるよう付加する刺激が「プロンプト」

と記載しました。


James E. Mazur (2006) プロンプトとは好ましい行動をより起こしやすくさせる刺激であると述べています。

一般的な言葉に言い換えると「プロンプト」とは目的行動を引き起こすためのヒントと思ってもらえればわかりやすいでしょう。

プロンプトについてRaymond .G .Miltenberger (2001)はポイントをいくつか述べています。

このページではRaymond .G .Miltenberger (2001)を軸として参考にし、プロンプトについてのポイントを見ていきましょう。

Raymond .G .Miltenberger (2001)以外の文献も使用しプロンプト使用についての理解を深めていきます。

このページではプロンプトについて9つのポイントを見ていきましょう。


このページではABA自閉症療育でも使用するプロンプトのポイントを見ていきましょう


プロンプトのポイント

1:最適な侵襲度のプロンプト

プロンプトには「侵襲度(しんしゅうど)」という強さを表す単位があり「侵襲度が強いプロンプト」より、「侵襲度が弱いプロンプト」の方がプロンプトがなくてもお子さんが自発的に教えた行動を起こす確率が上がります

Raymond .G .Miltenberger (2001)は発達障がいのある人や幼い子どもたちの場合は身体プロンプトのような強力で侵襲度の大きいプロンプトが適していると述べました。

侵襲度の小さいプロンプトは例えば言語プロンプト(例「今何するんだった?」など、言葉によって適切な行動を促す方法)は対象者がそのプロンプトから利益を得る力を持っている場合に使用するべきです。

Raymond .G .Miltenberger (2001)によれば必要なプロンプトレベルがはっきりしないときは最初に侵襲度のあまり大きくないプロンプトを試み、必要があればさらに侵襲度の大きいプロンプトを用います。


お子さんを支援する際、最適な侵襲度のプロンプトを用いることはプロンプト使用のポイントでしょう。

侵襲度の他にプロンプトには様々な種類が存在し、

例えばShira Richman (2001) は「言葉によるプロンプト」、「視覚的プロンプト」、「位置プロンプト」、「モデリング/ジェスチャー」、「身体的プロンプト」の種類を紹介しています。

お子さんにとって機能するプロンプトの種類を選択し、また最適な侵襲度のプロンプトを採択することを意識しましょう


Enせんせい

とは、言っても「どれが最適か?」ということは結局やってみないとわかりません

あまり深く考えずにトライアンドエラーでお子さんに合ったプロンプトの適度を探しましょう



2:対象者の注意を引く

お子さんにプロンプトを使用する場合、お子さんがプロンプトを意識できなければ意味がありません。

Raymond .G .Miltenberger (2001)弁別刺激やプロンプトを提示する前に対象者(このブログではお子さん)の注意を引き付けておくことが大切であると述べています。

例えば山上 敏子 (2007) は子どもが自分で下着を着るようにと下着を指差し「着ましょうね」という声かけもプロンプトであると述べていますが、このときに子どもが指差した先の下着を見ていなかったり、声かけを聞いていなかった場合、プロンプトとして機能しません。

プロンプトを機能させるためには自分が提示するプロンプトに意識を向けさせる必要がります。



3:弁別刺激を提示する

ページ冒頭で、

このような本来、自然に行動を引き起こすであろう刺激を「弁別刺激」

と記載しました。

本来は「プロンプト」がなくとも、この自然に行動を引き起こす「弁別刺激のみで」行動できることが理想的です

そのためプロンプトを使用する場合には「弁別刺激」も一緒に提示することを忘れないようにしよう。

弁別刺激は残し、プロンプトはフェイディングしていくことをプロンプトフェイディングでは目指していきます



4:正反応をプロンプトする

Raymond .G .Miltenberger (2001)弁別刺激によって正反応(※正しい行動のこと)が誘発されない場合にプロンプトを与えると述べています。

本来、弁別刺激があれば生じる適切な正反応が生じないときにプロンプトの使用を検討しましょう。

「正反応が生じないとき」と書きましたが、正反応が生じる確率が低いときにもプロンプト使用を検討します。

例えばPaul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) はプロンプトについて、弁別刺激が望ましい反応を生じさせる反応確率を増大するようにつけ加える刺激と述べました。

例えば1週間のうち1日しか自発的に「おはよう」とあいさつをしない場合、1日は正しい反応ができているのですが、この場合生じる確率が低いため「おはよう」と促すプロンプトの使用は検討されるでしょう。



5:適切な行動を強化する

Raymond .G .Miltenberger (2001)弁別刺激のもとでの適切な行動が生じた場合には、プロンプトの有無に関係なく即座に強化子を与える。

ただし、プロンプトがなくても適切に行動することが目的なので、プロンプトされていないときに生起した適切行動の強化量は大きくする

と述べています。


プロンプトはあくまで弁別刺激のもとで適切に行動ができるようになるためのヒントです。

そのため「弁別刺激のみ」と「弁別刺激+プロンプト」のもとで適切な行動が出現したとき、「弁別刺激のみ」で出現した方が優秀な成果になります。


Enせんせい

「弁別刺激のみ」で行動できることを目指してのプロンプトですので、

「弁別刺激のみ」で行動できたときには大いに褒めてあげるようにしましょう



6:刺激性制御の転移

Raymond .G .Miltenberger (2001)できるだけ速やかにプロンプトを取り除き、プロンプトから自然な弁別刺激に刺激性制御を移転させる必要性を述べています。

これはプロンプトフェイディングというテクニックなのですが、

「(ABA自閉症療育の基礎43)オペラント条件付けー強化子のリダクションとプロンプトフェイディング(https://en-tomo.com/2020/10/04/reduction-fading/)」

で記載したようにプロンプトフェイディングを行い、刺激性制御の移転を行わないと

プロンプト依存という状況に陥ってしまう可能性があります。

「プロンプト依存」とは、出現して欲しい適切な行動も、プロンプトを使用した状況で練習することをあまりにも続けてしまうと、本来出現して欲しい場面でもプロンプトがなければ出現しなくなってしまう現象

です。

このようなプロンプト依存に陥らないために速やかにプロンプトを取り除き、プロンプトから自然な弁別刺激に刺激性制御を移転させる(プロンプトフェイディング)ようにしましょう。



7:プロンプトなしで生起した反応を継続的に強化する

Raymond .G .Miltenberger (2001)プロンプトが撤去され、弁別刺激のもとで適切な行動が生起しているときは強化を続ける。適切に行動を維持しながら、連続強化スケジュールから間欠強化スケジュールに切り替える。

それによって、適切な行動が長期にわたって維持されやすくなる。

最終的には、自然な強化随伴性のもとで行動が生起することが目標となる。

と述べました。


プロンプトがフェイディング(撤去)され、自然な弁別刺激のもとで適切な行動が生起するようになったときが支援の成功ではありません

Raymond .G .Miltenberger (2001)が述べているように、自然な弁別刺激のもとで適切な行動がこれからも生起し続けるよう、連続強化スケジュールから間欠強化スケジュールに切り替えるなど「維持(メンテナンス)」が必要です。

連続強化スケジュールから間欠強化スケジュールへの切り替えは、

「(ABA自閉症療育の基礎23)オペラント条件付けー強化スケジュール(https://en-tomo.com/2020/08/18/aba-operant-reinforcement-schedule/)」

が参考になると思います。


「維持(メンテナンス)」が必要といわれると面倒に感じるかもしれません。

個人的にはあまり難しく、面倒に考えず、お子さんが適切に行動できたときには褒めるということを意識し生活を送っていくだけで「維持(メンテナンス)」はフォローできると思います。



8:プロンプトを出すタイミング

O.Ivar Lovaas (2003) 「プロンプト」は、「弁別刺激」を出すのと同時に、または出してから1秒以内に行うべきであると述べています。

O.Ivar Lovaas (2003) が述べているように、弁別刺激を出してからあまりにもプロンプトを出すのが遅いと、それはもうプロンプトとして機能しないことが多いでしょう。

私は後輩に「ABAで療育を行うときに必要なセラピストの力は何か?」と聞かれたとき、「セルフモニタリングできる力」と伝えています


最初からできないかもしれませんが、今自分が出している刺激が「弁別刺激」なのか「プロンプト」なのかを意識し、「弁別刺激」とほぼ同じタイミングで「プロンプト」を出す

そしてその後「弁別刺激」のみ残し「プロンプト」をフェイディングしていく、ということを意識的にできるよう支援者側もトレーニングが必要です。

ご家庭でABA自閉症療育を行う場合にはまず「弁別刺激」をしっかりと意識し、それに付加する刺激を「プロンプト」と捉え支援をしましょう。


Enせんせい

トライアンドエラーで上達していけるよう普段から意識する必要はありますが、

難しい場合はTwitterでダイレクトメッセージを飛ばしてくれれば相談に乗りますのでよろしくお願いします



9:プロンプトよりも強化が大切

「プロンプト」はあくまで「適切な行動」を出現させる可能性を上げる手続きであることは忘れてはいけません。

そのため「プロンプト」は決して、強化とは違って今後も行動を出現させることを強める刺激ではないのです。

このことを意識し、

プロンプトをフェイディングしていくためにも「プロンプト」のもとで出現した適切な行動をしっかり強化し、行動を強めていくと言う姿勢を忘れないようにしましょう



さいごに

このページでは、

<1:最適な侵襲度のプロンプト>

<2:対象者の注意を引く>

<3:弁別刺激を提示する>

<4:正反応をプロンプトする>

<5:適切な行動を強化する>

<6:刺激性制御の転移>

<7:プロンプトなしで生起した反応を継続的に強化する>

<8:プロンプトを出すタイミング>

<9:プロンプトよりも強化が大切>

というプロンプトを出す際のポイントについて書いてきました。


ABA自閉症療育ではプロンプトを弁別刺激とほぼ一緒に出し、適切な行動が出現することを促し、適切な行動が出現したときにしっかりと強化することで、適切な行動を増加させていくことを狙うことが多いです。

プロンプトはしっかりとフェイディングし、強すぎる強化子もリダクションしていきましょう。


Lisa McNiven (2016) はプロンプトは学習者が特定のスキルを使うのを手助けする手順であり、プロンプトは目標とされる行動に従事したり、スキルを獲得することを支援するための学習者への言葉、身振り、または身体的な支援であると述べました。

既にブログページ内でも紹介しましたがShira Richman (2001) も「言葉によるプロンプト」、「視覚的プロンプト」、「位置プロンプト」、「モデリング/ジェスチャー」、「身体的プロンプト」の種類を紹介しました。

Lisa McNiven (2016) Shira Richman (2001)が述べているようにプロンプトには様々な種類がありますが、

あなたに合った、またお子さんに合った適切なプロンプトを見つけ、良質な療育ライフが送れることを願っています。


次のページからは、


「ココ」と記載がある確立操作

「ココ」と記載されている「確立操作」について書いていきます。



【参考文献】

・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】

・ Lisa McNiven (2016) Effects of Applied Behavior Analysis on individuals with Autism.  http://gcd.state.nm.us/wp-content/uploads/2018/05/Effects_of_Applied_Behavior_Analysis_on_individuals_with_Autism.pdf

・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】

・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】

・ 山上 敏子 (2007) 方法としての行動療法 金剛出版