(ABA自閉症療育の基礎23)オペラント条件付けー強化スケジュール

「(ABA自閉症療育の基礎22)オペラント条件付けー強化の効力に影響を及ぼす要因(https://en-tomo.com/2020/08/17/aba-positive-reinforcement-effect-point/)」

で最後に記載をしましたが、このページで紹介する強化スケジュール(Reinforcement Schedule)は後輩からよく難しいと言われることがある分野です。

確かに専門書を読んでいてもマニアックな内容が多くて、難しく感じてしまう分野かもしれません。

このブログは自閉症や発達に遅れのあるお子さんに対してABA療育を家庭で行ってもらう、ということを趣旨に作っていますので、ABA療育で使用する範囲の強化スケジュールについて書いていきます。


強化スケジュールとは簡単に言えばこのイラストのように
お子さんからの自発的な行動があったとき、
どういった確率で強化子(結果)を与えるか(このイラストでは買うか、買わないか)
ということです


強化スケジュールとは?

Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) 「強化スケジュール」について、強化子を提示するタイミングのパターンのことと述べています。

行動が強化されるためには、一貫して強化子が随伴(提示)される必要があるのですが、一貫してと言ってもいろいろなパターンがあるのです。

例えば、

・ 「行動に対して強化子が毎回随伴するのか?」

・ 「行動に対して強化子が2回に1回随伴するのか?」

・ 「行動に対して強化子が10秒ごとに随伴するのか?」

・ 「行動に対して強化子が平均で4回に1回随伴するのか?」

これらは特定の条件で一貫して行動に対して強化子が随伴されている例です。


小野 浩一 (2005) によれば強化スケジュールには連続強化、間欠強化、消去の基本的なスケジュールとその変形に加えて、分化強化スケジュール、複合強化スケジュールなどの種類があります。

小野 浩一 (2005) では「間欠強化」は「部分強化」と記載


様々な強化スケジュールがあるのですが、このページでは主にABA療育で必要となる「連続強化スケジュール」と「間欠強化スケジュール」について見ていきましょう。



連続強化スケジュールと間欠強化スケジュールとは?

梅津 耕作 (1975) 連続強化は反応のたびに強化子を与える方法であり、間欠強化は強化子を与えたり、与えなかったりする方法であると述べました。

梅津 耕作 (1975) では「間欠強化」は「部分強化」と記載


連続強化スケジュールとは「標的行動のたびに強化子を提示する手続き」です。

お子さんの増えて欲しい行動が生じるたびに強化子を提示した場合、連続強化スケジュールで療育支援を行っているといえます。

対して「間欠強化スケジュール」は「標的行動が特定の回数や特定の割合、特定の時間間隔で生じたときに強化子を提示する手続き」です。


「間欠強化スケジュール」には複数の種類があります。

例えば、

・ 「固定比率スケジュール(FR:Fixed Ratio schedules)」

・ 「変動間隔スケジュール(VI:Variable Interval schedules)」

・ 「固定反応維持時間スケジュール(FRD:Fixed Response Duration schedules)」

など複数の種類があります。


これらを詳しく解説していくことは、難しいと思う内容かと思いますので、

このブログでは簡単に

「間欠強化スケジュール」とは「標的行動が数回生じたときに1回強化子を提示する手続き」

と覚えてください。


こう覚えるだけでも、ABA療育を行う上で価値のある内容です。

お子さんの増えて欲しい行動が生じても毎回強化するのではなく数回に1回強化した場合、間欠強化スケジュールで療育支援を行っているといえます。



連続強化スケジュールと間欠強化スケジュールを療育に適用する

Raymond .G .Miltenberger (2001)

連続強化スケジュールは学習の初期段階や最初の行動従事の場合に適用される。これは獲得(Acquisition)と呼ばれる

一旦その行動が獲得され学習が成立すると、その行動に継続して従事するよう間欠強化スケジュールに切り替える。これは維持(Maintenance)と呼ばれる

と述べました。


Raymond .G .Miltenberger (2001)を参考にすれば、

お子さんにABA療育を行う初期、または新しい適切な行動(ターゲットスキル)を教えようとする場合、連続強化スケジュールが適しているため適用する、

その後、

お子さんがだんだんとABA療育に慣れてきていたり、

他にも、

新しく導入するターゲットスキルの難度が低い場合や、

ターゲットスキルが連続強化で十分に強化されてくることが確認できた場合は、

間欠強化スケジュールが適している

このように覚え、

ケースバイケースで療育時期によって切り替えていくようにしましょう。


O.Ivar Lovaas (2003) はこのような

連続強化スケジュールから間欠強化スケジュールへの切り替えは親が通常に発達する子どものやり方に似ている

と述べており、

強化スケジュールをターゲットスキルの獲得時期によって変動させることを推奨しています。

強化スケジュールの変更と言われると特殊な方法に聞こえるかもしれませんがそんなに難しくありません。


例えばO.Ivar Lovaas (2003) を参考によれば通常、親御さんは子どもが成長すればそれほど頻繁に強化しなくても、お子さんは適切に行動するだろうと期待するようになっていき、毎回強化を与えることを辞めていくと述べました。

これはある意味、既にできるようになった行動は「できて当たり前」ということから、できるようになった全ての行動を褒めるということは行わなくなることを表しているのですが、ABA療育でこのような過程を辿ることを狙う

※ 「連続強化スケジュール」から「間欠強化スケジュール」への切り替えを行う

ことは親が通常に発達する子どもに関わる過程と似ているため、感覚的にできてしまうことかもしれません。


話は少し変わって、

Enせんせい

親御様からお子さんを「どのタイミングで褒めればいいの?」とよく聞かれることがあります


「(ABA自閉症療育の基礎22)オペラント条件付けー強化の効力に影響を及ぼす要因(https://en-tomo.com/2020/08/17/aba-positive-reinforcement-effect-point/)」

のページから「強化の即時性」を考慮すれば「すぐに褒める」

と言えます。

そしてこのページからは「毎回」なのか「毎回ではないのか」なのかは、今のお子さんの療育状況によって切り替える必要があると言えるのです。

ケースバイケースと考えられます。


また、

ABA、オペラント条件付けには「消去(Extinction)」というキーワードがあります。

※ レスポンデント条件付けでも「消去」が出てきましたね。オペラント条件付けにも消去が存在します

レスポンデント消去については「(ABA自閉症療育の基礎6)レスポンデント条件付けの原理2(https://en-tomo.com/2020/07/19/responsive-conditioning-base2/)」を参考


教えた行動と「消去」の関係も大切です。

オペラント条件付けにおける「消去」についてはまたのちのページで記載をしていきますが、

一般的に連続強化スケジュールの方が消去されやすく、間欠強化スケジュールの方が消去されにくいという特徴を持っています(参考 坂上 貴之・井上 雅彦, 2018)。


「間欠強化スケジュールの方が消去されにくい」という意味は、教えた行動が消えにくいという意味です。

せっかくターゲットスキルを教えたとしてもそれが時間が経つことで生じなくなることは、決してあなたの本意ではないでしょう。


ABA療育では教えた行動が時間が経っても生じるよう「ターゲットスキルの維持」も視野に入れて支援をしていきます。

連続強化スケジュールを途中から間欠強化スケジュールに切り替える手続きはこの「ターゲットスキルの維持」を視野に入れた手続きです。

「ターゲットスキルの維持」は間欠強化スケジュールという手段以外にも、日常の中の自然な強化子を使用して療育することで維持を狙うという手法も存在します

※ 自然な強化子については過去にこのブログでも書いてきましたが

例えば「(自閉症ABA療育のエビデンス10)NBI(自然主義的行動療法)とDTTの対比(https://en-tomo.com/2020/06/04/dtt-nbi/)」を参照



強化スケジュールで知っておきたいこと

強化スケジュールの研究は主に動物を対象とし、いろいろなことを明らかにしてきました

強化スケジュールは同一のスケジュールの下に生態を置くことで行動のパターンを予測できる強力な実験セットです。

例えばSkinner. B. F (1956)は「ハト」、「ラット」、「サル」の3種の動物を同一強化スケジュールの条件下に置いた場合、反応の見分けがつかないほど似た特性を示すと述べました。

Skinner. B. F (1956)では「スキャロップ」という行動パターンが示されています。


「スキャロップ(Scallop)」というのは「固定時間間隔スケジュール(Fixed Interbal )」という間欠強化スケジュールの下で見られる行動パターンです。

「固定時間間隔スケジュール」とは行動のあとに強化子が提示されたのち一定時間、行動しても強化子が提示されない時間が続き、一定時間経過したのちに行動したときに強化子が提示されるという強化スケジュールになります。

「スキャロップ」とは帆立貝(ホタテガイ)を示す英単語ですが、帆立貝の貝殻の縁の形状に似ていることからそう名付けられたようです(参考 杉山 尚子, 2005)。


ABAでは行動の頻度をデータ化します。
行動の累積データを取ることもあるのですが、
スキャロップでは累積データにおいて
このイラストのような行動パターンのデータを示します

主に動物の研究から強化スケジュールは研究されてきました。

ABA療育、もっと幅広くABAでの大人も含めた対人支援を用いる場合、考えなければいけない注目すべき点は、

全てのヒトが動物と同じような行動パターンを「強化スケジュールの下で示す」かといえば、そうではない

という点です。


杉山 尚子 (2005) 多くの場合は強化スケジュールによって生み出される行動パターンは人間も動物も変わらないものの、ヒトは言語があるため言語を持たない他の動物と違って動物とは違うパターンを示すことがあると述べています。

例えば、上で紹介した「スキャロップ」。

杉山 尚子 (2005) によれば「固定時間間隔スケジュール」の下でも大人はスキャロップの行動パターンをめったに示さないようです。


「ヒト」に適用できないのであれば、強化スケジュールはABA療育支援では意味がないのでは?

と思うかもしれません。

「ヒト」は動物とは違って「言葉」を持っています。

そのため、同じような強化スケジュールの実験セットにおいても動物と同じ結果にならないことがあるのです。

このように言われると、心許ないですね。


しかし例えば、杉山 尚子 (2005) ベンタールという研究者の実験を参考に、

実験で7歳以上の子どもは大人と同じパターンを示し、

赤ん坊はスキャロップ型の行動パターンを示し、

その中間の年齢の子どもたちはスキャロップ型の行動パターンと大人の行動パターンの両方が見られた

と述べています。

まだ言葉の獲得が十分でない幼いお子さんや、言葉の獲得がゆっくりなお子さんに対しては強化スケジュールの知見は役に立ちそうです。


上記の知見もあり私は特にお子さんに言葉の遅れがあり、言葉を教えたい場合には強化スケジュールの影響を考慮して療育に取り組む方が良いと考えています。

Enせんせい

1点懸念点なのですが「私の子どもは動物ではない!」という気持ちになったかもしれません

決して嫌な気持ちにさせようとして書いているわけではないのでその点について誤解しないでください



さいごに

このページは強化スケジュールについて書いたページでした。

このブログでは「連続強化スケジュール」「間欠強化スケジュール」について覚えてくださいと述べています。


「連続強化スケジュール」は主に獲得のタイミングで使用し、

「間欠強化スケジュール」は主に維持のタイミングで使用する

そして、

「連続強化スケジュール」とは「標的行動のたびに強化子を提示する手続き」で、

「間欠強化スケジュール」とは「標的行動が数回生じたときに1回強化子を提示する手続き」

とこのページから覚えてください。


その後、強化スケジュールは動物を研究対象としていろいろなことを明らかにしてきたと述べました。

そのため私は強化スケジュールが「ヒト」に対しても通ずるかどうか、考える必要があると思いました。

※ 強化スケジュールでヒトが動物と同じ反応を示さないことは、いろいろな本でも書いてあったのためそのように思いました


このことへの回答として、

このページでは杉山 尚子 (2005) の本から7歳が1つのラインでそれ以前のお子さんの場合は通ずる可能性があることを書いています。


次のページでは強化子の種類について書いていきましょう。

これまでに「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」

「(ABA自閉症療育の基礎21)オペラント条件付けー正の強化と負の強化で覚えておきたいポイント(https://en-tomo.com/2020/08/16/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement2/)」

で「正の強化」と「負の強化」について述べてきましたが、

これらとは別の見方、次のページからは「無条件強化子」や「般性条件強化子」などの強化子の種類について書いてきます。



【参考文献】

・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】

・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】

・ 小野 浩一(2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館

・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition 【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社, p203-206

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ

・ Skinner. B. F (1956)A case history in scientific method. American Psychologist, 11. 221-233【邦訳 スキナー著書刊行会 (2019)  B.F. スキナー重要論文週Ⅰ 勁草書房

・ 杉山 尚子 (2005) 行動分析学入門ーヒトの行動の思いがけない理由 集英社新書・ Skinner. B. F (1956)A case history in scientific method. American Psychologist, 11. 221-233【邦訳 スキナー著書刊行会 (2019)  B.F. スキナー重要論文週Ⅰ 勁草書房

・ 梅津 耕作 (1975) 自閉児の行動療法 有斐閣双書