NBI(自然主義的行動療法)とDTTの対比(ABA自閉症療育のエビデンス10)

NBIの要素

このページでは「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」の紹介を行っていく。

Katarzyna Chawarska・Ami Klin・Fred R .Volkmar (2008)によればNBIは以下の3点を含んでいる。


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(1)子どもによって開始され、子どもの興味に焦点化されている

(2)機能的活動のなかに挿入され、埋め込まれている

(3)子どもがコミュニケートしようとする事柄にしたがって自然な強化報酬を用いる

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山本 淳一・松崎 敦子 (2016) を参考にすればABAにおける早期発達支援の代表的な指導法は「DTT」と「NBI」に大別できる。

彼らを参考にすればDTTは一元的なカリキュラムの下で明確な指示の提示があり、お子さんが行動をした後に強力な強化子(お子さんにとって価値を持つ結果)を伴わせる

※ DTTについては

「EIBIの特徴とDTTの解説(ABA自閉症療育のエビデンス6)(https://en-tomo.com/2020/03/31/dtt/)」参照


一方NBIは、子どもの興味に合わせた遊び場面や日常生活の中で、DTTより比較的自然なセッティングの中で多様な行動を促し、比較的自然な強化子を伴わせる

DTTとNBIについてKatarzyna Chawarska他 (2008) が述べた(1)~(3)から以下の対比を作成した。

概ね、イメージとして掴んでいただければ幸いである。


NBIとDTTの対比

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(1)子どもによって開始され、子どもの興味に焦点化されている

課題:要求行動としてジュース欲しいと言ってもらう

DTT:

SD指導者が欲しがるものを机に置くところから始める →  C「ジュース、欲しい」 →  O「ジュースがもらえる」


要求行動:ジュースを「飲みたい」と言ってもらうDTTの例

NBI:

SD子どもがジュースを飲みたそうにしている →  SD「どうしたの?」 → C「ジュース欲しい」 → O「ジュースがもらえる」


要求行動:ジュースを「飲みたい」と言ってもらうNBIの例

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と言った具合で、「学習の開始」が「指導者主導」なのか、「お子さん主導」なのか?の、違いがある。


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(2)機能的活動のなかに挿入され、埋め込まれている

課題:手を上げる動作を真似する

DTT:

SD手を上げる「真似して」 →  C手を上げる →  O褒めてもらえる


機能的(意味のある、もしくは日常的な場面かどうか):「動作を模倣(まね)する」ことを教えるDTTの例

NBI:

SDダンスの中で手を上げる動作を入れる → C手を上げる → O褒めてもらえる


機能的(意味のある、もしくは日常的な場面かどうか):「動作を模倣(まね)する」ことを教えるNBIの例

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と言った具合で、「教えたい行動の学習機会」が「構造化されている」のか、「行動を使用しそうなより自然な(機能的な活動)場面」なのか?の、違いがある。


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(3)子どもがコミュニケートしようとする事柄にしたがって自然な強化報酬を用いる

課題:数を教える

DTT:SD積木4つ「半分」→C数える→お菓子もらえる


子どもがコミュニケート(自ら機会を作ったかどうか?):「はんぶん」を教えるDTTの例

NBI:SDグミ4つ「半分こ」→C数える→グミが食べられる(半分ずつにしようね)


子どもがコミュニケート(自ら機会を作ったかどうか?):「はんぶん」を教えるNBIの例

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と言った具合で、「行動をした際に伴う結果」がより自然なものかどうか?の、違いがある。

イラストの「半分こにしよう」は、子ども同士で行われる自然な出来事である。

NBIでは母親は「たべたいの?」という、子ども同士でもあり得るやり取りの中からトレーニングを始めていることがポイントである。

「強化報酬」とは他のページで解説しているが、このページでは「お子さんにとって魅力的な結果」のことと思ってもらって良い。

ただ、厳密な定義では、結果によって行動が実際に増えた場合「強化報酬」と定義される。


ここまで対比を示したがお子さんに教えていく際、より自然らしさを強調して教えることを意識したのが「NBI」。シンプルさを強調し、お子さんの理解のしやすさを意識したのが「DTT」である。

また、「NBIはDTTの要素を一切取り入れない」ことや、「DTTはNBIの要素を一切取り入れない」ということはなく、あくまでどこを強調し意識しているかの違いであることも知っておこう。

「DTTで教える」、「NBIで教える」と方向性を決めた時、どちらかを捨てて一方を選択する。と、いうわけではなく、「どちらの色を濃くして教えていくか?」という判断であるということを知っておこう。少なくとも、私はそう思っている。


EIBIとは違い、NBIのABA療育はいくつか方法が存在する。

その中で、「PRT:Pivotal Response Treatment(機軸行動発達支援法)」というNBIを紹介しよう。

理由は、個人的にNBIの文献として「PRT」は量が多いと感じたからである。

次のページではPRTのエビデンスを紹介する。



【参考文献】

・ Katarzyna Chawarska・Ami Klin・Fred R .Volkmar (2008) AUTISM SPECTRUM DISORDER IN INFANT AND TODDLERS:Diagnosis, Assessment, and Treatment 【邦訳: 竹内 謙彰・荒木 穂積 (2010) 乳幼児期の自閉症スペクトラム障害 診断・アセスメント・療育 ,クリエイツかもがわ】

・ 山本 淳一・松崎 敦子 (2016) 第2章 発達障害の支援の基本 早期発達支援プログラム 【編集 下山 晴彦・村瀬 嘉代子・森岡 正芳 (2016) 必携 発達障害支援ハンドブック 金剛出版】