(ABA自閉症療育の基礎21)オペラント条件付けー正の強化と負の強化で覚えておきたいポイント

「(ABA自閉症療育の基礎19)オペラント条件付け-強化とは?(https://en-tomo.com/2020/08/13/operant-conditioning-basic-reinforcement/)」

ではオペラント条件付けにおける強化の定義を見てきました。

その後、

「(ABA自閉症療育の基礎20)正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」から

オペラント条件付けにおける強化は「提示型の正の強化」と「除去型の負の強化」に分けられることを見てきました。


ページ内で、

ABAでは行動が増加した場合「強化」と呼び、

行動の前になかったものが行動ののちに出現し、行動が増えた場合を「正の強化」

行動の前にあったものが行動ののちに消失(もしくは低減)し、行動が増えた場合を「負の強化」

と呼ぶと書きました。


引き続き、このページでは「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」

で紹介した、オペラント条件付けの基本ユニットのイラストで言えば


このページは「ココ」と記載された部分の解説ページです

「ココ」と記載されているユニットについての説明です。

このページではABA療育において、正の強化と負の強化で覚えておきたいポイントについて解説していきます。


オペラント条件付け、
正の強化(提示型)と負の強化(除去型)のポイントを学んで行きましょう



ポイント1:「正」が良いとか「負」が悪いではない

「正の強化」と言われると「良い」というイメージを持つかもしれません。

対して「負の強化」と言われると「悪い」イメージを持ってしまうかもしれません。

しかしABAにおいての「正」や「負」とはこのページで書いてきた行動の前後の環境変化を示すただの呼び名です。


Jonas Ramnerö・Niklas Törneke (2008)正の強化や負の強化における「正」と「負」は、「正(positive)」が「良い(good)」を表し、「負(negative)」が「悪い(bad)」を表すといった評価的な意味で用いられる形容詞とはまったく違うと述べています。

Jonas Ramnerö他 (2008)はこれが正の強化や負の強化に対しての最も一般的な誤解であると述べ、

「正」という語は、特定の結果が「提示・負荷」されることを意味し、「負」という語は、特定の結果が「除去・減弱」されることを意味すると述べました。


O.Ivar Lovaas (2003) は子どもの特定の行動を条件として、愛情を示したり注目したりすることを専門家は正の強化と呼んでいる。かんしゃくや自傷行為を条件として強化が得られる場合は、それらの行動が獲得され、繰り返されるようになると述べました。

これは「注意引き」の例ですが「注意引き」は「正の強化」になります。

不適切な行動に対して「大人からの注目」という結果を与える正の強化によって、お子さんの行動が悪化し、かんしゃくや自傷行為が増える可能性があるのです。

そのため決して「正の強化」は「良い」という意味ではありません。

対して「負の強化」が「悪い」という意味ではない例として、お母さんがお子さんに勉強するよう促してる状況でお子さんから「疲れたから、休憩しよう」と言葉で伝える場面をイメージしてみてください。

この場合、行動の前にあった勉強という環境が、お子さんの行動ののち、消失するため「負の強化」の例と言えます。

ただし、この「負の強化」の行動は決して不適切な行動とは言えません。

※ 多すぎると不適切ですが・・・



ポイント2:教えたい行動をアセスメントできる

「(ABA自閉症療育の基礎20)正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」で紹介した例をもう一度見てみましょう。

例えば「泣いている子ども」を想像してください。

お母さんが台所で料理に集中しているとき、突然泣き出すお子さんがいてお母さんが困っていたとします。

お母さんはすぐにお子さんのもとに行き「何か怖いことがあった?大丈夫よ!」と慰めます。

しかし、お母さんが料理をしているときにこのお子さんはよく泣くのでした。

この場合は「お母さんの関わり」が「強化」となっている可能性があります(注意引き)。

このような「注意引き」の場合、お子さんに教えたい行動は、例えば「ねーねー母さん」と、自ら泣かずにお母さんにアクセスする行動です。


別のお母さんは、お子さんに課題を行うように伝えたとき、泣き出すことで困っていました。

お母さんはお子さんに「わかったわ。そんなに嫌ならもういいわ」と言い課題を取り下げます。

この場合は「課題の消失」が「強化」となっている可能性があります(逃避行動)。

このような「逃避行動」の場合、お子さんに教えたい行動は、例えば「いやだ」と、自ら泣かずにお母さんにお願いする行動です。


上記の例から分かるように同じ「泣き」であっても、行動の前後の状況によって「教えるべき行動」が違います。

まったく見当違いの行動を教えていても、なかなか問題行動は減ってくれません


行動の形が同じでも意味が違うということは研究でも示されており例えばBRIAN A. IWATA・GARY M. PACE・MICHAEL F. DORSEY・JENNIFER R. ZARCONE,・TIMoTHY R. VoufmER・RICHARD G. SMITH・TERESA A. RODGERS・DOROTHEA C. LERMAN・BRIDGET A. SHORE,JODI L. MAZALEsKJ・HAN-LEONG GOH・GLYNNIS EDWARDS COWDERY・MICHAEL J. KALSHER・KAY C. MCCOSH・KIMBERLY D. WnILs (1994) の11年間の期間を費やした研究があります。


BRIAN A. IWATA他 (1994) の研究はお子さんが示す「自傷行為(Self-Injurious Behavior)」の機能(意味)を調べた研究です。

研究の最後、行動の機能に関する知識によって支援方法を決定するべきであると述べています。

この研究についてはまた別のページで詳しく紹介していければと考えていますが、この研究では152人の自傷行為を行う子どものデータが集積されました。

BRIAN A. IWATA他 (1994) の研究で示された内容は、自傷行為を示した子どもたちの

58人は課題などの嫌悪的な環境からの逃避(負の強化)によって自傷行為が起こっており、

注目や物へのアクセス(正の強化)によって自傷行為が起こったのは40人

自己強化(感覚刺激行動)が39人複数考えられた子どもが8人でした。

残りの7人は解釈不能であったと分析されました。

研究で定義された自傷行為は「頭を叩く」、「噛む」、「つねる」、「ひっかく」などの行動でしたが、お子さんによって「自傷行為」を行った理由が全く違うのです。


ABA療育を行う上で問題行動を取り扱う際、「行動」に注目することはもちろんですが、それ以上に「前後の状況」に注目し「行動の機能」に注意することを忘れてはいけません

「行動の機能」を考えるとき、「正の強化」と「負の強化」はキーワードになります。



ポイント3:勝手に成長して欲しいから

ポイント1で「正の強化」が「良い」というわけではないことを書きましたが、療育でお子さんに何かを教えていくとき「正の強化」によって行動を増加させていったほうが良いです。

例えば、お子さんに何か課題を教える際、

できた後に「すごいね」と褒め、且つだっこやくすぐりなどの身体刺激を与える、これは「正の強化」の例です。

対して「できなかった時に叱咤する」ことを繰り返し、できることを目指す。お子さんが叱咤されることを嫌悪的に感じ、課題に取り組んでいた場合、この時の「課題に取り組む行動」は「負の強化」の例になります。


Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2012)はPRTを開発した人物ですが、彼は著書の中で

なぜ自閉症児に教えるのはこんなに手間がかかるのだろうと疑問を持ちそのことについて話し合いを重ねているとき、Robert L.Koegelが「自閉症児はモチベーションが乏しいことが問題である」と発言しPRTの研究の始まった

と述べました。

※ 「PRT」については例えば「(自閉症ABA療育のエビデンス13)PRTについて(https://en-tomo.com/2020/06/06/that-prt/)」

Robert L.Koegel他 (2012)が述べているように自閉症児に1つ1つ行動を教えていくとなれば莫大な時間がかかります。


教えた行動、ABAでは教える行動を「ターゲットスキル(Target Skills)」「ターゲット(Target)」とも呼ぶのですが、教えたターゲットがいろいろな人や場所に般化することはもちろんそれが勝手に進化し、上達していくことは私たちが望むことでしょう。


杉山 雅彦 (1989) は指導する際、嫌悪事態が導入されるとそれをescapeする形で学習が成立する。そこで形成された行勲は嫌悪事態が提示されなければ生起しないことになる。また嫌悪統制を受けた行動は一般に変動することが少なく、確実ではあるが拡大発展することが少なく、画一化しやすくなると述べました。

「嫌悪統制を受けた行動」とは「負の強化」に当てはまる場合があります。

そのため「負の強化」によって行動を教えていったとしても、その行動は拡大発展することは少ない可能性があるのです。

つまり、負の強化でお子さんにターゲットスキルを教えていったとしても、教えたターゲットスキルが勝手に進化して上達していくことが望まれにくく、それは私たちの本意ではありません



さいごに

このページではABA療育において正の強化と負の強化で覚えておきたいポイントについて解説してきました。

このページで紹介したポイントは3つです。

ポイント1:「正」が良いとか「負」が悪いではない

ポイント2:教えたい行動をアセスメントできる

ポイント3:勝手に成長して欲しいから

ということでした。


Enせんせい

「正」と「負」というキーワードは次のページ「罰」でも出てきます


行動が増えることを「強化」と呼びました。

対して行動が減ることをABAでは「罰(punishment)」と呼びます。

※ 「罰」以外にも行動を減らす方法はあります


「行動を増やす」、「強化」を覚えました。

次のページでは「強化」の効力に影響を及ぼす要因について考えていきたいと思います。



【参考文献】

・ BRIAN A. IWATA・GARY M. PACE・MICHAEL F. DORSEY・JENNIFER R. ZARCONE,・TIMoTHY R. VoufmER・RICHARD G. SMITH・TERESA A. RODGERS・DOROTHEA C. LERMAN・BRIDGET A. SHORE,JODI L. MAZALEsKJ・HAN-LEONG GOH・GLYNNIS EDWARDS COWDERY・MICHAEL J. KALSHER・KAY C. MCCOSH・KIMBERLY D. WnILs (1994) THE FUNCTIONS OF SELF-INJURIOUS BEHAVIOR: AN EXPERIMENTAL-EPIDEMIOLOGICAL ANALYSIS. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. 27,215-240 NUMBER2

・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC ,日本評論社】

・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】

・ Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2012) Pivotal Response Treatment for Autism Spectrum Disorders 【邦訳 小野 真・佐久間 徹・酒井 亮吉 (2016) 発達障がい児のための新しいABA療育 PRT  Pivotal Response Treatmentの理論と実践 二瓶社】

・ 杉山 雅彦 (1989) 自閉児の治療教育に関するHIROCo法の適用 心身障害学研究 13(2):131-139