(ABA自閉症療育のエビデンス13)PRTについて

NBIの代表格PRT

このページでは以前のページから紹介をしている「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」の1つ、「PRT:Pivotal Response Treatment(機軸行動発達支援法)」についてもう少し詳しくみて行こう。

William R. Jenson・Elaine Clark・John Davis・Julia Hood (2016) によればPRTはもともと1987年に開発されたもので、現在のところケーゲル自閉症センターの登録商標である。

彼によればPRTもEIBIと同様に週25時間以上の療育が必要であるとはされるもののEIBIで教えていく際に主に使用されるDTTとは対照的にPRTは「ライフスタイル」と呼ばれることが多く、特に専門家によって実施される必要もない

しかし彼らはPRTについて「子どもが学ぶ必要はあるものの、子どもにとってあまり魅力的では無いもの」を教える場合、PRTではなくDTTなど構造化された教え方が良いとも述べている。


PRTは子どもが課題に取り組むためのモチベーションをいかに上げるかを研究しており、例えばLynn Kern Koegel・Anjileen K. Singh・Robert L. Koegel (2010) の研究では課題中「お子さんが教材を選択できる」、「より自然な強化子を使用する」ことでお子さんの課題に対してのモチベーションが上がったと述べた。

「(ABA自閉症療育のエビデンス11)PRTのエビデンス(https://en-tomo.com/2020/06/05/prt-evidence/)」

でPRTはRobert L.Koegel・Lynn kern Koegelが創始したと述べたが、彼らがPRTについて書いている本が日本語でいくつか翻訳がされている。


我が家にあるPRTの日本語訳本

その中の1冊Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2006)PRTとDTTの対比について述べていたので、この文献を参考に以下の表を作成した。

※ 文中をそのまま記載したというより参考にして書いている(写真の一番左の「基軸行動発達支援法」という本である)

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療育で使用するアイテム

DTT:支援者が選択

PRT:子どもが選択して、2-3回やったら変更する


療育で使用するアイテムについてのDTTとPRTの対比

プロンプト(簡単に言えば、お子さんの課題が成功するように、支援者が行うヒントのこと)

DTT:身体誘導を行う

PRT:支援者はなんどもアイテムを繰り返して提示する


プロンプトのDTTとPRTの対比。PRTでは、間違いそうになった時、もう一度再提示を行う

PRTで紹介されていた「課題の再提示」をプロンプトで行うことについて、繰り返し間違いが生じる際にはお子さんもフラストレーションを溜めることがあるように思う。

そのため「課題の再提示」については試してみるのは良いと思うが、間違いが連続する場合にはDTTの様に直接的にプロンプトを出して「無誤学習」を狙い、正解させてしまった方が良い場合が多いだろう。

※ 無誤学習については「(自閉症ABA療育のエビデンス6)EIBIの特徴とDTTの解説(https://en-tomo.com/2020/03/31/dtt/)」を参考


お子さんの行動に対しての評価基準

DTT:正しい行動、もしくはそれに近いものを評価する

PRT:DTTと比べ評価基準は甘く、お子さんが頑張ろうとした試みがあれば評価する

PRTではお子さんが間違っていたとしても「頑張って取り組んでいる」ことを評価することが推奨される

全くお子さんが正解を導き出せない、もしくはプロンプトが抜けない場合はまずは「課題のレベルを見直す」ということが王道である様に思うが、少し頑張れば達成できる「適正レベルの課題」にお子さんが取り組める設定を作れている場合はPRTのように「課題への試みを評価する」ことも大切だろう。


強化(行動に対しての結果)

DTT:お子さんが起こした行動に対して自然でなくても良い。

PRT:お子さんが起こした行動に対して自然である。

この点はDTTとPRTの大きな違いであると感じている。

例えばものの名前を教える場合DTTではカードを使用し見せて「なに?」と聞く。お子さんが「車」と正解した場合、結果としてお子さんにお菓子やYoutubeの動画鑑賞などの結果が与えられる

お菓子やYoutubeの動画が好きなお子さんの場合、適切に答えられた時にそれらの結果を与えていくことで「車」と答えられるスキルが向上していく可能性が高い。

対してPRTでは車のおもちゃを見せて「なに?」と聞き正解した場合は車のおもちゃが与えられる。もしくは、車のおもちゃを用いて支援者と遊ぶ楽しい時間が提供される。

私たちが普段「車」と言葉にする時、結果として生じる出来事はDTTよりもPRTの方が自然である。

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PRTやEIBIの目的

Robert L.Koegel他 (2006)PRTもEIBIでも、お子さんが健常発達に近づくことが目標であると述べた。

その上でEIBIと違いPRTは自閉症児に通常カリキュラムを教える際に子どものモチベーションが保たれた状態で教えることを目指すとも述べている。

PRTもEIBIも「健常発達に近づく」ことを目指していることはあまり知られていないことかもしれない。

PRTの創始者であるRobert L.KoegelはEIBIの創始者であるO. Ivar Lovaasの門下におり共に研究をしていた。共同で論文出版もしている(例えば、O. Ivar Lovaas・Robert Koegel・James Q. Simmons・Judith Stevens Long,1973)。

PRTもEIBIも同じ目標を持って取り組んでいることはそのことも関係しているのかもしれない。



PRTを創始した理由

他に日本語に翻訳されているPRTの本としてRobert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2012)を紹介する。

「これ!」と矢印を引いた写真の本です

この本にPRTが誕生した経緯について書かれていた。

PRTの研究をスタートさせる以前、彼らは課題を1つ1つ教えるのは辛くすごく時間がかかると思ったようである。

なぜ自閉症児に教えるのはこんなに手間がかかるのだろうと疑問を持ちそのことについて話し合いを重ねているとき、Robert L.Koegelが「自閉症児はモチベーションが乏しいことが問題である」と発言しPRTの研究の始まったと述べられている。


モチベーションについてのPRTとDTTの対比

PRTとDTTについてRobert L.Koegel他(2012)の本でも対比が書かれていた。

Robert L.Koegel他(2012)を参考に下記の表を作成した。

表中のポイントは療育中子どものモチベーションを上げる時に使える。

下記の表に記載されている内容は文献記載内容と同じではなく私の解釈も加え作成したものとなる。

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玩具や教材

DTT:指導者が選択する

PRT:子どもが選択する


課題の達成について

DTT:基準に達するまで「教えている課題」を反復する

PRT:基準に達するまで「教えている課題」に加えて「既にできる課題」も織り交ぜる


関係性

DTT:コントロールを指導者が多く持ち、玩具や教材は指導者が保持する

PRT:コントロールは平等なイメージで、玩具については指導者と子どもが一緒に遊ぶ


環境

DTT:構造化されている

PRT:日常生活の出来事を使用する


お子さんの行動

DTT:正しい行動のみ強化(例えば、褒めるなどお子さんにとって価値のある結果を提示)する

PRT:お子さんが正しい行動をしようとした姿勢があれば、その試みも強化する


強化子(お子さんの行動したのちに提示される、お子さんにとって価値のある結果)

DTT:自然さは強調されず、例えば食べ物などが使用される

PRT:自然さが強調され、本来起こりえるであろう結果に近しい結果が与えられる

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「強化子」についてPRTでは「自然さ」が強調されているが、これは時代の流れの中で「機能分析(Function Analysis)」というABA手法が出てきたことが関連していることが背景にあると思われる。

O. Ivar Lovaasが研究を始めた1960年代は「機能分析」はそこまでメジャーではなかったと思うが対して、Robert L.Koegelが本格的にPRTの研究を始め出したであろう1980年代にABA業界で「機能分析」という考え方が台頭してくる。

「機能分析」は発達に遅れのあるお子さんが行う「自傷行為」の研究から始まったようである。研究者は、子どもたちがなぜ壁に頭を打ちつけたり、手を引っ掻くのか理由が知りたかったのだろう。

「機能分析」の一連の研究活動によって療育をしている人は聞いたことがあるかもしれないが、有名な「お子さんの問題行動は”注意獲得”、”要求”、”逃避(回避)”、”自己刺激”の4つのどれかの機能(意味)に分けられる」という、「4つの機能分類」の考え方が出てきた(参考,V. Mark Durand  and Daniel B. Crimmins ,1988)。

特に問題行動を扱う際に機能分析は大きな武器になる。

「(ABA自閉症療育のエビデンス8)では、どうするか?(https://en-tomo.com/2020/06/01/that-way/)」

ではABAを使って家庭療育をする際に必要な知識として【(5)ABAの基礎理論について知っておく】の内容の中で「機能分析」も取り上げた

「機能分析」は重要なキーワード且つ有用な知識・技術となるためまた別で取り上げて行こう。


ここまで、PRTとDTTの対比について書いてきた。

次のページではPRTの手法をさらに強化した方法「PRISM(Pivotal Response Intervention for Social Motivation:社会的モチベーションを重視する基軸反応訓練)」をついて紹介をしていく。



【参考文献】

・ Lynn Kern Koegel・Anjileen K. Singh・Robert L. Koegel (2010) Improving Motivation for Academics in Children with Autism. Journal of Autism and Developmental Disorders 40 p1057–1066

・ O. Ivar Lovaas・Robert Koegel・James Q. Simmons・Judith Stevens Long (1973) SOME GENERALIZATION AND FOLLOW-UP MEASURES ON AUTISTIC CHILDREN IN BEHAVIOR THERAPY. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS 63p 131-166

・ Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2006) Pivotal Response Treatment for Autism:Communication,Social, and Academic Development  【邦訳 氏森 英亞・小笠原 恵 (2009)機軸行動発達支援法 二瓶社】

・ Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2012) Pivotal Response Treatment for Autism Spectrum Disorders 【邦訳 小野 真・佐久間 徹・酒井 亮吉 (2016) 発達障がい児のための新しいABA療育 PRT  Pivotal Response Treatmentの理論と実践 二瓶社】

・ V. Mark Durand  and Daniel B. Crimmins (1988) Identifying the Variables Maintaining Self-Injurious Behavior. Journal of Autism and Developmental Disorders, Vol. 18, No. 1

・ William R. Jenson・Elaine Clark・John Davis・Julia Hood (2016) Comparisons of Pivotal Response Treatment (PRT) and Discrete Trial Training (DTT). University of Utah Department of Educational Psychology School Psychology Program

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