(ABA自閉症療育の基礎103)自閉症児に対する偏食指導ー偏食指導のコツやポイント、お子様の気持ちに共感する

3つ前のABA自閉症療育の基礎100、そして2つ前のABA自閉症療育の基礎101、1つ前のABA自閉症療育の基礎102では偏食指導について書いてきました。

今回ABA自閉症療育の基礎103でも引き続き偏食指導について書いて行きます。


食べることは日常の中の大切な活動です

本ブログページは偏食指導についての一連のページの最終ページです。

これまで書いてきた偏食指導を行うときのいずれであったとしても考えておきたいコツやポイントについて書いて行きます。


千葉県栄養士会(2023.1.6サイト観覧)によれば「偏食(へんしょく)」とは、

一般的にある特定の食品に対する好き嫌いがはっきりしていて、しかもその程度がひどい場合


を言うのですが、そのような偏食に対して介入する際の考えておきたいコツやポイントとはどういったものでしょうか?


ここまでで偏食指導についてほとんど書いてきましたのであまり紹介できる内容も残っていないのですが、大切なことかなと思うので本ブログページで書いて行きます。

前半は偏食指導を行うときのコツ、後半は気持ちの持ちようのお話です。



ABA自閉症療育で偏食に対して介入する際、考えておきたいコツ

前半の本項目では偏食指導を行うときのコツを3つご紹介しましょう。


それは、


(1)お腹が減っている状態で始める

(2)特別な強化子を用意する

(3)偏食指導自体に嫌悪的なイメージがつかないように配慮する


3つです。


Enせんせい

他にもコツはあるかもしれません

また思いついたらブログの記事にしていこうと思いますが現段階で書きながら使えそうだなと思うコツについてご紹介します


以下、見て行きましょう。



(1)お腹が減っている状態で始める

偏食指導では食べられる食べ物の拡大を狙って行くのですが、私たちが食事の際に食べることができる量というのは決まっています。

限界があり、例えばお寿司が好きだと言ってもほとんどの人は100貫も食べることができないでしょう。


それだけではありません。

例えばあなたがお寿司が好きだったとします(私はお寿司は好きです!)。


例えばマグロのお寿司を食べるときを想像してください。

8時間働いたあと、かなり空腹で訪れたお寿司屋さんで1貫目に食べるマグロと、ある程度量を食べたのち、腹八分目を迎えたあとで食べるマグロ、どちらが「美味しい」と感じる可能性が高そうでしょうか?


淡白な白身魚ばかり腹八分目まで食べていて最後に楽しみにしながら食べる脂の乗ったマグロ、などそういった場合を除いては、

空腹感を感じている1貫目に食べるマグロの方が「美味しい」と感じる可能性が高そうだと考えることが普通だと思います。


Enせんせい

食事行動は生命維持に関わっており、空腹感を抱くと食事行動への動機づけが上がるでしょう


これはABAの「反応遮断化理論(Response Deprivation theory)」という理論で説明可能です。

「反応遮断化理論(Response Deprivation theory)」はWilliam Timberlake・James Allison (1974)によって提唱されました。 


反応遮断化理論について興味があれば、

詳しくは『(ABA自閉症療育の基礎52)オペラント条件付けー強化子「反応遮断化理論」と「不均衡理論」(https://en-tomo.com/2020/10/31/response-deprivation-theory-and-disequilibrium-theory/)』

をご覧ください。


(ABA自閉症療育の基礎52)オペラント条件付けー強化子「反応遮断化理論」と「不均衡理論」のサムネイル

反応遮断化理論を本ブログページのテーマである食事行動の例を用いて簡単に言えば、

「腹が減った、何か食べたい」という食べ物を一定時間食べていないシチュエーションは、何か食べ物を食べるモチベーション(強化価値)を上げる

という結果を導きます。

たとえ少し抵抗感がある食べ物であったとしても食べる動機づけに影響を与えるでしょう。


そのため偏食指導を行うときは少しの空腹感がある状態で始める、ということは偏食指導のコツとも言えます。



(2)特別な強化子を用意する

他のコツもご紹介しましょう。

偏食指導では「特別な強化子」が必要である場合が多いです。


Enせんせい

このような「特別な強化子」は特に「抵抗感のある何かに挑戦する」場合に必要とすることがあります


例えば偏食指導以外の日常スキルで言えば、トイレに抵抗を持っているお子様へのトイレットトレーニングなどもそうでしょう。

「特別な強化子」を普段からストックしておくことは偏食指導以外でも大切なタイミングで使えるため重要です。


ここぞのときの強化子!を用意しておく、

例えばそれは普段棚に入れてある特別なおもちゃやシールなどのアイテムでも良いし、日常的にはYoutube動画やゲームを自由に行わせない教育方針であった場合は自由にそれらに触れられる時間などでも構わないでしょう。

このような「特別な強化子」を準備しておくことも偏食指導を行うときのコツと言えます。

※ 実はこの「特別な強化子」も先で紹介した「反応遮断化理論」によって遮断かされているため、特別感を持ち得ているのですが、上では「空腹感」を扱いましたので、ここで扱った「特別な強化子(アイテム)」と分けてご紹介しました



(3)偏食指導自体に嫌悪的なイメージがつかないように配慮する

最後のコツです。

抵抗感のあることを求める偏食指導ですので、その日のコンディションによってはかなり後退することがある

このことも偏食指導をするときがあることを覚えておきましょう。


例えば「睡眠不足」や「その日嫌なことがあった」、「体調不良」などがあるとその日全く上手くいかないばかりではなく、以前できていたレベルすらも拒否され達成できないということもあります。

このようなときは早めに切り上げることも必要です。


頑張って無理やり食べさせるなどであまり偏食指導自体に嫌悪的なイメージがつかないようにしましょう。

偏食指導自体に嫌悪的なイメージがつかない配慮を行いながら偏食指導を行うことは偏食指導のコツと言えます。

※ 基本的には何かを教えるときお子様が嫌いにならないように教えるのは基本といえますが、特に偏食指導やトイレットトレーニングなどのときは気をつけましょう


以上の内容が今私が思いついている偏食指導のコツでした

偏食指導について、ABA自閉症療育の基礎100、ABA自閉症療育の基礎101、ABA自閉症療育の基礎102で書いてきました。

これら100から102の内容を実践するとき、本ブログページABA自閉症療育の基礎103書いているコツも併せて実践していただけると幸いです。


さて、本ブログページでは偏食指導の際に考えておきたいコツ以外にポイントも書いていこうと思います。

ポイントというか、共感してあげたい考え方というか、私は偏食指導をするときに「お子様はこういった気持ちなのだろうか」と考えながら、「ごめんな」という気持ちも持ち合わせることがあるのです。

そのことについて本ブログページでご紹介させてください。


気持ちの持ちようについて以下見て行きましょう


偏食指導を受けている子どもはどういった気持ちでいるのか想像する

ここから後半、気持ちの持ちようのような話です。


Enせんせい

偏食指導を行うとき私は「果たしてこの子はこれを食べさせようとすると、すごく抵抗を示すが、この子はこれを食べられるものと認識しているのだろうか?」と考えます


もし、食べられないものだと認識していた場合、お子様にとってそれは非常に酷なことを求めているように思うのです。


例えばあなたが私に対してプラスチックのサイコロを差し出して「これを食べろ」と言ったとしましょう。

馬鹿げた話かもしれませんが想像してみてください。


そのとき私があなたに見せる抵抗はもの凄いものとなることが想像できます。


仮に両手足を拘束された状態で口に入れられたとしても、最後まで唇を閉じて抵抗することでしょう

両手足を拘束されていても身体全体をくねらせて抵抗を示します

そして強制的に私が自分の指を使ってあなたの口をこじ開けたとすると、あなたは私の指を本気で噛んで阻止するかもしれません

噛まれるのは嫌なので、上と下の歯の間に何か物を噛ませ強制的に口を開けさせたのちに、プラスチックのサイコロを無理矢理に私の口へ押し込んだとしても、まだ諦めず舌を口内の上の部分にくっつけ喉元を塞ぎ、抵抗すると思います

それくらいプラスチックのサイコロを飲み込んだあとに起こる「自分がこのあと、どうなるかわからない感覚」は恐怖を発生させるでしょう


だから私は食べられないものだと自分が認識しているものを食べさせられるとき、人がこのように抵抗することは普通だと思います。

というより、抵抗しないと危ないのです。


このような想いを偏食指導、特に初期のお子様の抵抗感がかなり強い時期、考え、「ごめんな」と思いながら行っています。

実際の、本当のところはわからないかもしれませんが、今、自分はそれくらい抵抗感を持ってもおかしくないな、ということをお子様へ求めているのだ、という気持ちを持って偏食指導を行うとき意識したいです。


本当は周りの大人は食べているのを見ているし、なんとなく食べられる物であることは認識しているものの、こだわりや感覚過敏によって抵抗感を示しているだけかもしれません。

ただまだ特に発達が遅れていて、初期のお子様の抵抗感がかなり強い時期、それは周囲の環境を観察することがまだ難しいお子様の場合、上のオレンジ色背景のような気持ちかもしれないなと共感する気持ちで接しています。


Enせんせい

実際のところはわからないものの、私は支援するときにこの心構えを持っていることは大切なことだと思うのです


例えばこのような共感から、もし親御様が許すのであれば、お子様の前で私自身も子どもに食べさせようとしている食べ物を目の前で食べます。

親御様に食べてもらうところをお子様に見てもらうことも良いでしょう。

できるだけ安全であると伝え、嫌悪感を下げてあげたいです。


相手の立場に立って、相手の気持ちに共感して、頑張ってもらう。

「ごめんな」とも思ってしまいますが、大切なところなので頑張ってもらいます。

申し訳ないですが。


ABA自閉症療育だけではないかもしれませんが療育に携わっていると偏食以外でも、親御様から「この子はこんなことができない」とか「普通にみんなができていることができない」と聞くことがあります。

私は今、子どもを授かっていませんので本当の意味で共感できるとは言えないかもしれませんが、

親になると自分の子に対してあまり良くないところが目につくことは普通なのかもしれません。

でも、できるだけ「そのとき抵抗を示す子ども」に対して共感的な立場で、「ごめんな」と思いながら関わり、できたときには一緒に喜ぶことができるスタンスで療育を行っていきたいと思っています。

「嫌だよなー、ごめんなー」という気持ちで。


私たちは相手のあたまをかち割って本当のところどう思っているか観察したり、USBで脳内のデータを読み取って本当のところどう思っているか観察することができない生き物です。

だから相手ではなく自分だったらどうだろうかと、自分からしか見えない狭い視野を使いながら、共感的に相手の立場に立って考える。

そういった姿勢が必要だと、私は思っています。


私たちは相手のあたまをかち割って中身を見ることはできない


さいごに

本ブログページでABA自閉症療育の偏食指導パートは終了ですが、偏食指導は家族全体のQOLを上げてくれる可能性のある素晴らしい療育介入分野だと感じています。

Tonya Davis・Madison Crandall・Laura Phipps・Regan Weston (2017) は偏食指導を扱った論文の考察部分で、食物の柔軟性に欠けるお子様を持つご家庭は、子どもの食事を管理するために家族の毎日の日課を調整する必要があるかもしれないと述べたのですが、

その理由として、偏食指導で食べられる物が拡大することで食べ物への柔軟性が高まるとレストラン、友人の家、誕生日パーティー、休暇、見学などお子様が家の外で食べる能力の高まりは社会的な機会が増加すると述べました。

これは逆に見れば、偏食が強すぎると家族が社会参加する機会が損なわれると言うことです。


Enせんせい

例えばもしお子様が特定のものしか食べられないとすれば、また特定の場所でしか食べられないとすれば?

ご家族様は半日以上の旅行には行けない可能性もあるでしょう


私は特に今のところ旅好きと言うわけではありませんが、もしお子様が生まれるまで夫婦の趣味が旅行だった場合どうでしょうか?

子どもが生まれる前、子どもが産まれ成長したとき、子どもと一緒にいろいろな場所に行っていろいろな体験・経験・想い出を作りたいと、期待を持っていたかもしれません。

これは我慢するべきことなのでしょうか?


ABA自閉症療育でお子様が言葉を話せるようになるとか、お友達とうまく関われるようになるなども大切ですが、同じように一緒に生活を共にする家族全体のQOLが向上するスキルを教えることも重要です。

私はそう思っています。


お子様に何を教えるかというスキル選定をする際、あなた自身の幸せをそこに織り込んでも良いのです。

というより私は、そこにあなたの幸せは織り込んで欲しいと思っています。

家族の幸せも。

あなた自身が幸せになること、家族の誰かが幸せになること、あなた自身の生活が楽になること、家族全体にとって有用だと思うこと、このことも立派なスキル選定の基準です。


本章は最初「レスポンデント条件付け」や「オペラント条件付け」の理論を解説し、それをABA自閉症療育に適用するときにどうすれば良いか、また何を注意すれば良いかなどをメインに書いてきましたが、おかげさまで既に100のページ番号を超えた長編となりました。


長く付き合ってくださっている方、ありがとうございます

ABAでは近年「関係フレーム理論」という言語行動の理論も出てきており「レスポンデント条件付け」や「オペラント条件付け」の理論以外のベースの理論も出現しています。

これは正直言えばあまり特に幼い幼児期の自閉症児を伴うお子様への臨床適用として範囲は正直「レスポンデント条件付け」や「オペラント条件付け」と比較すれば多くないと思うのですが、

言葉が達者な年中さん以上の自閉症児のお子様に面接をするときとか、親御様の抑うつ感や不安感などを取り扱うときには大切な理論です。


読みやすさを考えると、これを本章で書いて行くか、別章で例えば「ABAの言語行動」などとタイトルを付け別章で扱うかは現在迷いどころではあります。

今後、本章ではABA自閉症療育として臨床適用の範囲が広いことをテーマに扱って行き、別章で言語行動について扱って行くか、今迷いどころです。


本ブログページまでで偏食指導についてABA自閉症療育の基礎100、ABA自閉症療育の基礎101、ABA自閉症療育の基礎102、そして今回のブログページ、ABA自閉症療育の基礎103と全部で4ブログページに渡って書いてきました。

ABA自閉症療育の基礎で偏食の前に扱ったテーマ、自閉症の音声を明瞭にするという音声模倣のページも複数に渡る内容でした。


1ブログページで完結しない内容をここまで書いてきましたが、次の本章のブログページは一旦、箸休めということで1ページ完結モノで書いて行きたいと思います。



【参考文献】

・ 千葉県栄養士会 https://www.eiyou-chiba.or.jp/commons/shokuji-kou/generational/hensyoku/

・ Tonya Davis・Madison Crandall・Laura Phipps・Regan Weston (2017)Using Shaping to Increase Foods Consumed by Children with Autism. Journal of Autism and Developmental Disorders. 47 : 2471–2479

・ William Timberlake・James Allison (1974) RESPONSE DEPRIVATION: AN EMPIRICAL APPROACH TO INSTRUMENTAL PERFORMANCE. Psychological Review Vol. 81 No. 2 p146-164