本ブログページではJ.L. Matson・M. Matheis・C.O. Burns・G. Esposito・P. Venuti・E. Pisula・A. Misiak・E. Kalyva・V. Tsakiris・Y. Kamio・M. Ishitobi・R.L. Goldin (2017)の行った、
「Examining cross-cultural differences in autism spectrum disorder: A multinational comparison from Greece, Italy, Japan, Poland, and the United States (私訳:自閉症スペクトラム障害における異文化間差異の調査:ギリシャ、イタリア、日本、ポーランド、およびアメリカからの多国籍比較)」という研究を参考に書いていきます。
これは心理学界隈全般に言えることかもしれませんが、
例えば自閉症についての書籍、特に専門書(ABAは特にそうだと思いますが)については海外の著者が書かれたものが邦訳されたものが多いと思います
著者の方は基本的には自国のことについて書いていることが多いでしょう。
少なくともピンポイントに日本の事情を主に考慮して書いていることはありません。
著者の方が自国の事情を主に考慮して書いているとすれば、その内容を私たち日本人が読んだとき「もしかしたらその著者の国と日本は少し事情が違うかもしれない」と思えること(そのような視点を持っていること)は私は大切だと思います。
本ブログページでご紹介する研究を行ったJ.L. Matson他 (2017) は世界中で自閉症についての報告があるものの、文化の違いが自閉症の症状認識にどのような影響があるかについての研究が不足しているとして研究を行いました。
J.L. Matson他 (2017) の述べているように自閉症はある国で発現する症状ではなく、世界中どこでも報告がある疾患です。
J.L. Matson他 (2017) の研究には日本・ギリシャ・イタリア・ポーランド・アメリカの人たちが参加し、自閉症症状について評価しています。
あとで詳しく紹介していきますが例えばJ.L. Matson他 (2017) の研究からは参加した国の中で日本人が一番IQについて気にしていることがわかりました。
え?本当に?と思いませんか?
また参加国の中でアメリカが一番IQについて気にしていないという結果でした
このことも意外な結果だと思いませんか?
さまざまな側面からデータが採取されているJ.L. Matson他 (2017) の研究、以下紹介していきます。
自閉症症状のどこに各国の人は反応するかー異文化間の差
J.L. Matson他 (2017) の研究では異文化間の自閉症に対しての認識の違いに焦点を当て研究がされました。
最初にどのような人たちが参加し、どのような方法で研究がされたのかについて見ていきます。
異文化間の自閉症に対しての認識の違い研究ー参加者と使用された尺度
J.L. Matson他 (2017) の研究に参加したのは自閉症のお子様を持つ656人の方でした。
・ 日本からは49人
・ ギリシャからは122人
・ イタリアからは74人
・ ポーランドからは210人
・ アメリカからは203人
が参加したのですが、お子様に自閉症の診断がつかなかったり、サンプル数の偏りを無くすために調整がなされ、最終的には250人の参加者からデータが集められました。
最終的な参加者の人数は以下です。
・ 日本からは49人
・ ギリシャからは39人
・ イタリアからは50人
・ ポーランドからは58人
・ アメリカからは54人
でトータルで250人となります。
診断はそれぞれDSM5やICD 10などでなされ、日本ではDSM-IV-TRという1つ前のDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(精神疾患診断・統計マニュアル))のバージョンで診断がされました。
※ 診断について詳しくは『「自閉症とは」について自閉症の診断基準から特徴を考察、自閉症の診断基準とは?(自閉症1)(https://en-tomo.com/2021/08/13/what-is-autism-diagnostic-criteria-consideration/)』を参照
使用された尺度はBISCUITというもので17ヶ月〜37ヶ月のお子様に使用できる、周囲の評価によって自閉症スペクトラム障がいのスクリーニングに使用される尺度でした。
BISCUITは自閉症の症状特徴について包括的にいろいろな角度から質問があり、その質問に対して回答を求めるというものです。
点数が合計17未満のスコアは「自閉症なし」を示し、
合計18〜34のスコアは「自閉症疑い / PDD-NOS(特定不明の自閉症:比較的症状が軽いと言われる)」を示し、
合計35以上のスコアは「自閉症/広汎性発達障がいの可能性」を示す尺度になります。
尺度は0から2までをリッカート方式(複数回答がある尺度)が採択され、各点数は、
・ 0は同じ年齢の周りのお子様と違いがない
・ 1は同じ年齢の周りのお子様と少し異なる
・ 2は同じ年齢の周りのお子様と非常に異なる
という意味を持ちました。
異文化間の自閉症に対しての認識の違い研究ー結果
BISCUITによってさまざまな結果が示されたのですが、たくさんの結果がある中からまずは日本人が特に周りのお子様と比較して異なると気にしていた点について書いていきましょう。
以下のものはJ.L. Matson他 (2017) の研究内で日本人が他の国と比較して一番気にしていた結果をまとめた内容です。
・ 年齢に合ったじょうだんや言葉の綾を理解すること
・ 社交的なジェスチャーの使用
・ IQ
・ 周囲に対しての好奇心
・ 自分の考えを伝えていなくとも自分の経験や意見などを知っていること
・ 単語やフレーズを繰り返して言う
以上の項目で日本は一番でした。
論文を見たところ、BISCUITは59項目の質問項目があるようなので、そのように考えれば特段多い項目数について日本人は一番気にしていた、という気もしません。
以上の項目は日本が一番高かったものの全てですが、全てで6項目しかありませんでした。
研究を見ればわかりますが一番気にしている項目が多かった国はアメリカです。
アメリカの方が気にしていた項目で特に高かったものは例えば、
・ コミュニケーションのための言葉の使用
・ 言葉の発達
・ 発達年齢に応じた社会的な関係形成
・ 他の人の話に興味を持つこと
・ 理由のない繰り返しの運動
などでアメリカは59項目のうち24項目について他の国と比較して気にしていました。
これは特にアメリカが精神疾患(自閉症も精神疾患の一つ)に対して敏感であることも要因の一つかもしれません。
他の国についても少しご紹介しましょう
ギリシャで最も他の句碑と比較して気にされていたポイント例えば、
・ 目的や違いのない奇妙な日課や儀式にこだわる
・ 日常生活の変化に動揺する
・ 予定通りにいかないとき、安心感を求めてくる
というところが気になっていたようです。
イタリアは珍しく他の国と比較して「最も高い」点数をつけた項目が1つもありませんでした。
どのようなことを気にしていたかと言えば点数の高いもので言えば、
・ ソーシャルゲーム、スポーツ、アクティビティへ参加することへの興味
・ IQ
について一番気にしていた国に次いで気になっていました。
ポーランドで最も他の国と比較して気にされていたポイント例えば、
・ 他者との適切なコミュニケーション
・ 非言語の合図を読み取ること
・ 制限された興味や活動
・ 表情の使い方
・ アイコンタクトを維持すること
などがあり、結果を見ればポーランドは日本よりも気にしていた項目数が多かったです。
気にしている項目数は、
アメリカ > ポーランド > 日本 > ギリシャ > イタリア
の順に多いという結果でした。
異文化間の自閉症に対しての認識の違い研究ー考察でJ.L. Matson他 (2017) が語ったこと
J.L. Matson他 (2017) は研究の考察部分で、
両親が自分の子どもの行動をどのように認識して概念化し報告をするかは重要な役割を果たすかもしれない
このように考えると、文化は考慮に値する
国によってどのような行動が問題であり、発達的に異常であると見なされるかが診断にも影響を与える可能性がある
と述べています。
そして未来の研究課題として症状の親の報告に影響を与える文化的な側面を特定し、今後も研究するべきだと述べ、
自閉症スペクトラム障がいを診断するためのより統一された方法、文化に敏感な手法を作成するためには世界中の研究者が協力し、より正確に比較しすることで自閉症の発見をより簡単にすることを可能にするでしょうと述べました。
また個人的にはJ.L. Matson他 (2017) も研究の中でも述べていますが使用されたBISCUITという尺度は今回研究用に翻訳され、使用された国もありました。
そのため尺度の持つ意味が均一で合ったかどうかという研究課題はあるでしょう。
他にも個人的には参加人数が充分と言える人数ではなかったと思うため、その点も含めて今後の課題となると思いました。
ただ本ブログページの内容にあるよう、
実は養育者側が自閉症の症状として特に注目する点は各国によって違いがあるのかもしれないという示唆を持つことは私は大切だと思っています。
さいごに
J.L. Matson他 (2017) の研究、私は非常に面白く読ませていただきました。
冒頭書いたように自閉症児の専門書の多くが海外の著者の邦訳だとすれば、
「もしかしたらその著者の国と日本は少し事情が違うかもしれない」と思えること(そのような視点を持っていること)が私は大切だと思っています。
例えばJ.L. Matson他 (2017) の研究で出てきた国の中で日本人が「一番周囲のお子様と比較してIQを気にしていた」とか、「社交的なジェスチャーの使用の少なさを気にしていた」とか、
意外だったと思いませんか?(「自分の考えを伝えていなくとも自分の経験や意見などを知っていること」を期待することはとても日本人ぽいと思いましたが・・・)
J.L. Matson他 (2017) の研究は異文化間の差も考慮して正確な自閉症の診断を目指す1歩だったように思います。
実は自閉症療育は療育開始年齢が早ければ早いほど効果が高いと言われています。
例えばHelen E .Flanagan・Adrienne Perry・Nancy L .Freeman (2012) は重回帰分析という統計手法を用い療育開始年齢の早さが良い結果の重要な予測因子である可能性があると述べました。
本研究で使用されていたBISCUITは17ヶ月〜37ヶ月のお子様に使用できる、周囲の評価によって自閉症スペクトラム障がいのスクリーニングに使用される尺度でしたが、
17ヶ月、2歳以下という非常に早期の年齢にも対応可能な自閉症児へのスクリーニング検査です。
私がABA自閉症療育を開始した15年ほど前は体感として3歳6ヶ月で私のところに来るお子様は「若い年齢だな」という感覚がありました。
でも15年ほど経った今は2歳6ヶ月で私のところに来る(たまに1歳代もある)こともあり、3歳6ヶ月は特に珍しい年齢帯ではありません。
早期自閉症療育が良いということが浸透してきたためなのか、または福祉の制度が充実してきて社会的な流れを受けてなのかは不明ですが、
日本でも徐々に早期の診断や疑いから早い年齢で療育を受けることができるお子様が増えてきているように思います。
本章次のページでは「心の理論(Theory of Mind)」についての古典的な研究をご紹介します。
自閉症児は心の理論が欠けていると聞いたことはありませんか?
そのような心の理論の先駆けとなったSimon Baron-Cohen・Alan M. Leslie・Uta Frith (1985) の古典的な研究をご紹介します。
実際に現在の心の理論最先端研究を今私は追えているわけではないため最先端の情報を持っているわけではないですが、
どのような研究であったか知っていることも大切かと思いますのでご紹介しましょう。
【参考文献】
・ Helen E .Flanagan・Adrienne Perry・Nancy L .Freeman (2012) Effectiveness of large-scale community-based Intensive Behavioral Intervention: A waitlist comparison study exploring outcomes and predictors. Research in Autism Spectrum Disorders 6 p673–682
・ J.L. Matson・M. Matheis・C.O. Burns・G. Esposito・P. Venuti・E. Pisula・A. Misiak・E. Kalyva・V. Tsakiris・Y. Kamio・M. Ishitobi・R.L. Goldin (2017) Examining cross-cultural differences in autism spectrum disorder: A multinational comparison from Greece, Italy, Japan, Poland, and the United States. European Psychiatry 42 p70–76
・ Simon Baron-Cohen・Alan M. Leslie・Uta Frith (1985) Does the autistic child have a “theory of mind”? Cognition ,21 p 37–46