(自閉症6)自閉症児の心の理論、古典的研究サリーアン課題「心の理論」とは何だ?自閉症児・者に心の理論は無いの?

Enせんせい

本ブログページではサリーアン課題をご紹介します


サリーアン課題はABA自閉症療育の文脈で出現したものではありませんがご紹介していきましょう。

ABAの文脈ではありませんが自閉症のトピックではかなり有名なトピックだと思います。

サリーアン課題は自閉症児の「心の理論」を測るテスト課題です。

サリーアン課題の研究に行く前に、みなさま「心の理論」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?


心の理論について子安 増生 (2016) は1978年に最初の研究が開始されたと述べており、

子安 増生 (2016) プレマックとウッドラフが1978年刊行した「チンパンジーは心の理論を持つか」という論文において、群れを形成し集団生活を営むチンパンジーたちはたとえばあざむき行動のように、他の仲間や他の種の個体の心の状態を推測しているかのような行動をとることも可能かもしれないと考え、そのような行動の背景にある能力を「心の理論」と呼んだと述べています。


プレマックとウッドラフの論文原文は以下の写真「Does the Chimpanzee Have a “ Theory of Mind “ THE BEHAVIORAL AND BRAIN SCIENCES」というものです。


David Premack・Guy Woodruff (1978)

David Premack・Guy Woodruff (1978) は心理学の世界では有名なケーラーのチンパンジーの研究も意識して論文を書いている方だと思いました。

David Premack他 (1978) の論文はチンパンジーを主にした論文なのですが、論文中チンパンジーだけでなく子どもの心の理論に対する言及もしており、

David Premack他 (1978) は他人の精神状態を推測することは高度で先進的な行為ではなく原始的な行為であるとも述べていました。


「心の理論について一言で言え」と言われると私自身が「心の理論の専門家ではない」(私はABA:応用行動分析を専門にしている)こともあると思いますが、非常に難しいように思います。

例えば『「心の理論」テストはほんとうは何を測っているのか?』の著書を出した熊谷 高幸 (2018) も、

「心の理論」とは何かとあらためて聞かれると、その意味を、わかりやすく説明するのは難しいと述べました。


熊谷 高幸 (2018) は続けて、


心は行動のようにその存在を外から直接観察することができない。しかし、それはその人の行動を決定し、外部に影響をもたらすこともある

だから、人々はいつも他の人の心のことを気にかけ、その内容を推測しようとする

簡単にいうと、「心の理論」とは、このような心の働きであると考えられるだろう


と述べています。

あまりはっきりとしないですね。


David Premack他 (1978) の論文では心の理論は、

ある個体が心の理論を持っているということはその個体が自分や他人(同種または他の種も含む)に心の状態を帰属させていることを意味する

この種の推論システムは第一にそのような状態が直接観察できないこと、第二にそのシステムが、特に他の生物の行動についての予測を行うために使用できることから、適切に理論とみなされる

と述べられています。


Enせんせい

私なりにここまで紹介した文献の内容から「心の理論とは?」について個人的に解釈し、現在の結論を出すとすれば?


「心の理論」とは相手がどう行動するかについて自分が相手の立場に立って考えることができ、そのことによって相手の行動を予測できる能力

と言えると思います。


かなり範囲が広く曖昧な表現ですが、心の理論はヒトにとって大切な機能を持った能力と言えそうです。

このブログはABA自閉症療育のブログなので自閉症の一台トピックである「心の理論」について無視することはできません。


難しそうだけれども書いていこう!

自閉症に対して心の理論テストを行ったSimon Baron-Cohen・Alan M. Leslie・Uta Frith (1985)の研究を基に「心の理論課題」、「サリーアン課題」とは何か?

という視点も含めSimon Baron-Cohen他 (1985)の研究についてみて行きましょう。



自閉症の心の理論課題「サリーアン課題」

Simon Baron-Cohen他 (1985)の研究はかなり有名なものですので、内容を知っている人もいるかもしれません。

自閉症の人は「心の理論」を持たないのかどうかSimon Baron-Cohen他 (1985)の研究から考えて行きましょう。


Simon Baron-Cohen他 (1985)の研究にはどういったお子様が参加し、どういった手続きで行動を観察したものなのか以下、書いて行きます。


Simon Baron-Cohen・Alan M. Leslie・Uta Frith (1985)


自閉症の心の理論課題「サリーアン課題」・参加者

研究には20人の自閉症児、14人のダウン症児、27人の健常発達児が参加しました。

参加した健常児のIQ(研究ではMA)は100前後、自閉症児のIQは70−108で82と比較的高いIQだったものの、ダウン症児のIQは42−89で平均64と低い数値でした。

自閉症児よりもダウン症児の方が平均のIQが低いと言うことはポイントでしょう。

※ 上で括弧内で「(研究ではMA)」と記載しましたが正確にはIQと「MA:精神年齢」は違うものとして定義されることがありますが、IQと思ってもらっても個人的には差し障りないかなと思いましたのでイメージしやすいようにIQと表記しました


このようなお子様が参加しSimon Baron-Cohen他 (1985)の研究でサリーアン課題を実施します。

さて、サリーアン課題とは一体どう言ったものだったのでしょうか?



自閉症の心の理論課題「サリーアン課題」・手続き

サリーとアンの2人の人形主人公がいました。

研究では最初、子どもたちがどの人形がどれであるかを知っていることを確認しました(どっちがサリーでどっちがアン?ということを質問し、区別できることを確認しました)。


Enせんせい

言葉の能力として、どちらが「サリーかアンか?」の区別について全員が分かっていないことがない、

ということを確認したんですね


お子様がサリーとアンを区別できたことが確認できたのち、サリーがマーブルをバスケットに入れる物語を見せます。

それからサリーはその場所を去り、マーブルをアンがボックスに隠したのです(以下のイラストの<3>のところ)。


そのあとサリーが部屋に戻ってきます(以下のイラストの<4>のところ)。


ここまでの物語を見せ説明し、

実験者は子どもに「サリーはマーブルを探すとき、どこを探しますか?」という質問をしました。


サリーアン課題

この課題の肝は「サリーはマーブルを探すとき、どこを探しますか?」という質問をして実験参加者が「バスケット」か「ボックス」かどちらだと答えたか?

によって評価される質問は非常にシンプルです。


上のイラストで描かれているようにサリー(S)は自分の手前にあるバスケットにマーブルを入れて部屋を出ます(イラストの<1><2>のところ)。

サリー(S)が見ていない(部屋から出て行っているので)とき、アン(A)はバスケットからボックスにマーブルを移動させるのですが(イラストの<3>のところ)、

サリー(S)が帰って来たとき(イラストの<4>のところ)「サリー(S)はマーブル探すためバスケットかボックスどちらを開けると思いますか?」

という問題が出題されました。


お子様がサリーがマーブルを自分が隠したバスケットを探す言えば正解、

アンが隠した先のボックスを探すと言えば不正解となります。



自閉症の心の理論課題「サリーアン課題」・結果

Enせんせい

上でも書いていますが、

研究の手続きで最初「どっちがサリーでどっちがアン?ということを質問して区別ができること」について

参加したお子様全員が区別できることが確認されたところから研究手続きが開始されました


そのため「どっちがサリーでどっちがアン?」か区別できていないための誤りは、この時点で可能性はかなり低いことが分かります。


その上でどのような結果になったかと言えば、


健常発達のお子様の27人中23人(85%)

ダウン症候のお子様14人中12人(86%)

20人の自閉症児のうち4人(20%)


が「サリーはマーブルを探すとき、どこを探しますか?」という質問に正解しました。

明らかに自閉症の人だけ正答率が低かった(これが心の理論研究と自閉症の始まりです)。


この結果は明らかに健常発達とダウン症のお子様と比較して自閉症のお子様は正答率が低いという結果になります。

以上の結果を統計分析をかけても、有意に自閉症児の正答率は低いという結果でした。


以上の結果を受けSimon Baron-Cohen他 (1985)は自閉症の子どもたちは自分と人形の知っていることの違いを理解していなかったと結論付けました。

つまり「自閉症児のお子様は他者の視点(研究では人形の立場)に立って、状況を理解することができなかった」という結論です。


Simon Baron-Cohen他 (1985)以上の結果から自閉症児が心の理論を持ち合わせていないという仮説を強く支持したと述べました。

そして自閉症者は信念を他者の立場に立って考えることができずそのため他の人々の行動を予測しなければならない場面において重大な不利益が生じると述べたのです。


「何でこの子は私が嫌だって思うのに電車の中で変な声を出すの!?」
それは私の立場に立って気持ちが理解できないからなの!?

以上がSimon Baron-Cohen他 (1985)の行った研究の内容と結果、そして書かれた考察なのですが、以下は私の意見を交えて書いて行きます。

Simon Baron-Cohen他 (1985)が過去述べたように自閉症児は相手の立場に立って考える「心の理論」の獲得が不可能なのでしょうか?



果たして本当に自閉症児は「心の理論」が無いのか?

もしかするとSimon Baron-Cohen他 (1985)の研究から示されるように、自閉症児は心の理論、相手の立場に立って考えるということが苦手なのかもしれません。

ただ「自閉症児は相手の立場に立って考えることができない」と結論付けることも実はSimon Baron-Cohen他 (1985)の研究からはできないのです。


その理由ですがSimon Baron-Cohen他 (1985)の研究では20人の自閉症児のうち4人(20%)のお子様が心の理論課題、サリーアン課題に正当しています

「自閉症児は心の理論を持たない」という公式があるのであれば、結果は「20人の自閉症児のうち0人(0%)のお子様、自閉症児は誰も理論課題、サリーアン課題を正当できなかった」という結果にならなければおかしいのです。


Simon Baron-Cohen他 (1985)の研究が「サリーアン課題を正当すること = 心の理論を持ち合わせている」という仮説を導くのであれば、
 
つまり自閉症児の中に心の理論を持ち合わせていたお子様がいます。


これはどういったお子様だったのか?

残念ながらSimon Baron-Cohen他 (1985)の研究ではそこまでは示されていません。


もやもやする・・・だから最新の論文を検索してみた

最近の研究でBelen Rosello・Carmen Berenguer・Inmaculada Baixauli・Rosa García・Ana Miranda (2020) の研究がありました。

Belen Rosello他 (2020) 研究は7歳から11歳の知的障がいを伴わない自閉症の子ども52名と定型発達の子ども37名が参加した研究です。


Enせんせい

Belen Rosello他 (2020) 研究の序論部分にも充分参考になる情報が載っていました


Belen Rosello他 (2020) 研究序論で参考になると思ったことは、


・ 一般的に知的障がい(IQが正常域にある)自閉症の人は心の理論を測る課題で高いパフォーマンスを発揮すること

・ 実験室で測定された心の理論課題でのパフォーマンスが、実際に日常生活で心の理論を使用する必要がある場面でのパフォーマンスを反映しているか疑問が残ること

このことは相手の心を推測する知識があったとしても実際に日常生活では、相手の心を推測した上で自発的に行動をする必要があり、そのような「行動をした」という結果まで含めれば失敗することが観察されることが多いこと


です。


またBelen Rosello他 (2020) 研究序論で心の理論は複雑な構成要素であり研究でも一貫して使用がされていないため、評価課題にかなりのばらつきがあり文献結果もまちまちであるとも述べています。

自閉症と心の理論の関係性について、まだ分かっていないことも多そうですね。


本ブログページ冒頭『「心の理論について一言で言え」と言われると私自身が心の理論の専門家ではない(私はABA:応用行動分析を専門にしている)こともあると思いますが、非常に難しく思います』と書きましたが、

「相手の心を推測する」という行動は頭では理解できますが「具体的にどう言う行動か?」と言われると人によって意見も分かれる少し漠然としたテーマなのかもしれません。


Belen Rosello他 (2020) 研究結果もご紹介すると、彼らの研究でも自閉症のお子様の中で最も心の理論の優れた結果を残したグループのお子様も、定型発達のお子様と比較すると心の理論についての発達は弱いことが分かりました。

また心の理論の発達に問題のあったグループのお子様は自閉症の症状度が重く、また社会適応行動、言葉の使用能力が低いこともわかりました。

このようなお子様はコミュニケーションの始まりや文脈を読み解いて使用する言葉の一貫性や解釈が苦手なようです。


但しBelen Rosello他 (2020) も研究内で述べていますが、

研究参加者が少なかったことや参加者に男児が多かったことからこの研究結果が自閉症全体の結果を反映しているかどうかは注意が必要です。


Belen Rosello・Carmen Berenguer・Inmaculada Baixauli・Rosa García・Ana Miranda (2020)
の研究です。タイトル検索すれば全文読めます!


さいごに

Enせんせい

本ブログページでは初めて「心の理論」についての記事を書いてきましたが、いかがだったでしょうか?


色々な文献で本ブログページでも扱ったチンパンジーに心の理論はあるか?を研究したDavid Premack他 (1978) の論文が「心の理論」元祖のような扱いを受けているように感じました。


例えばBelen Rosello他 (2020)David Premack他 (1978) の論文を参考に心の理論について、

心の理論(Theory of Mind: ToM)とは広く複雑で多面的な概念であり、心の状態(信念、願望、意図)を自分や他者に帰属させ、行動を説明・予測する能力と定義されていると述べています。


私はABA(応用行動分析)を専門にしており、目で見て定量的に測定できる行動を扱う学問に身を置いているため、心の理論についてはまだ少し疎い立場です。

しかし「自閉症」というトピックでは「心の理論」は大きな注目を浴びるテーマでしょう。

私はABAを専門としていますが、心の理論も面白いと思います。

また心の理論についても情報発信をしていければと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。


次回もどうぞよろしくお願いいたします。



【参考文献】

・ Belen Rosello・Carmen Berenguer・Inmaculada Baixauli・Rosa García・Ana Miranda (2020) Theory of Mind Profiles in Children With Autism Spectrum Disorder: Adaptive/Social Skills and Pragmatic Competence. Frontiers in Psychology Cognitive Science September17 https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.567401

・ David Premack・Guy Woodruff (1978) Does the Chimpanzee Have a “ Theory of Mind “ THE BEHAVIORAL AND BRAIN SCIENCES , 49 p 515-526

・ 熊谷 高幸 (2018) 「心の理論」テストはほうんとうは何を測っているのか? 新曜社

・ 子安 増生 (2016) 「心の理論」から学ぶ発達の基礎 ミネルヴァ図書

・ Simon Baron-Cohen・Alan M. Leslie・Uta Frith (1985) Does the autistic child have a “theory of mind”? Cognition ,21 p 37–46

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