(ABA自閉症療育の基礎80)自閉症児の複数の問題行動があるとき何から扱う?ー介入する問題行動の選択基準

「(ABA自閉症療育の基礎77)問題行動が発展し悪化するプロセスー消去バーストとシェイピング(https://en-tomo.com/2021/02/11/aba-problem-behavior/)」


(ABA自閉症療育の基礎77)問題行動が発展し悪化するプロセスー消去バーストとシェイピングのサムネイル

では問題行動が親御様とお子さんの相互作用の中で発展、悪化していくプロセスを解説してきました。

問題行動の発展、悪化は上のURLに記載したように、環境側(例えば親側)とお子さん本人の相互作用の中で発展していくと今わかったとしても、

しかし既に複数の問題行動が出現し、どれから手をつけて良いのか分からないという親御様も多くいらっしゃるのではないかと思います。


Enせんせい

このブログページではどの問題行動から手をつけていくのか考察していきましょう


その中で親御様が自分自身で問題行動を整理していっていただければ幸いです。

また最後にABA自閉症療育で問題行動を扱う際の注意点にも触れます。


「どうやって選べば良いんだろう?」を一緒に考えていきましょう


ABA自閉症療育で複数ある問題行動へ手を付けるとき考えること

以下は私がABA自閉症療育でどの問題行動を扱うかを決めるときに指標としているものです。


・ 親御様、お子さんが解決することの動機付けの高い問題行動から扱う

・ 変化しやすそうな問題行動から扱う

・ 介入コストの低そうなところから狙う

・ 変化させると他にも波及しそうな問題行動を狙う

・ 緊急度が著しく高い場合は最優先でその問題を扱う


以下、上のものについてそれぞれより詳しく解説を行っていきましょう。



親御様、お子さんが解決することの動機付けの高い問題行動から扱う

親御様、お子さんが解決することの動機付けが高い問題行動を扱うことは、自分たちも解決したい動機付けが高いので積極的に介入に取り組める可能性が高いです。

ABA自閉症療育ですので「罰」を使用することを優先せずに少し長期的に見てもらってどのようにすれば解決するのか取り組んでいきましょう。


ABA自閉症療育では1つのスキルを獲得するときに時間がかかることも少なくありません。

「(ABA自閉症療育の基礎69)ABA自閉症療育、問題行動の解決方法導入推奨手順、問題行動を解決しよう(https://en-tomo.com/2020/12/30/problem-behavior-intervention-procedure/)」

では私がイメージとして持っている先行子操作と結果操作で行動を変えるときの期間の目安を下のイラストにしました。


(ABA自閉症療育の基礎69)ABA自閉症療育、問題行動の解決方法導入推奨手順、問題行動を解決しようのサムネイル

もちろん2週間〜2、3ヶ月以上に早く獲得することもあるかとは思いますが、少し介入期間をみてどっしりと構えて行う姿勢が大切でしょう。

ある程度の介入期間を見てスキルを教えて行く必要があるため、介入は継続して取り組む必要があります。

そのため動機付け高く介入に取り組めることは大きな選択理由となるでしょう。

何から始めれば良いか?と思ったとき、まず自分が取り組みたいと思った問題行動から取り組むことは良いと思います。



変化しやすそうな問題行動から扱う

「(ABA自閉症療育の基礎76)子どもと親の相互作用ー支援者側もお子さんからの影響を受け、強化され、消去され・・・療育モチベーション(https://en-tomo.com/2021/02/07/child-parent-interaction/)」


(ABA自閉症療育の基礎76)子どもと親の相互作用ー支援者側もお子さんからの影響を受け、強化され、消去され・・・療育モチベーションのサムネイル

でご紹介した内容となりますがABA自閉症療育を行っているとき、

行動が強化され、影響を受けるのは決して療育を受ける側(基本的にはお子さん)だけではありません。

お子さんの変化という結果から、療育をする側、あなたの療育行動が強化されて行くのです。

お子さんの適切な変化があれば、あなたの療育行動が強化され、療育を行うことのモチベーションも上がって行くでしょう。

お子さんの適切な変化を感じるためには「変化しやすそうな問題行動から扱う」ことは大切です。


山上 敏子 (1998) は親訓練の著書の中で指導の進め方について2つのポイントを紹介していました。

1つ目は「子どものできる行動から出発する」こと、2つ目のポイントは「子どものペースに合わせて一歩ずつ」行うことです。

山上 敏子 (1998) が述べているように「子どものできる行動から出発する」ことに重点をおいて、複数ある問題行動の解決を考えてみても良いでしょう。


何が変化しやすそうな問題行動かわかんないよと思ったときは、

生活の中で問題行動が生じる機会が多いものや、あなたの前で起こっているもの、既にちょっとできるようになってきているもの

などは比較的変化を生む介入として取り組みやすいと思います。

問題行動が生じる機会が多いということはそれだけ介入をする機会が多いということですし、既に少しできるようになってきているものならば教えやすいでしょう。



介入コストの低そうなところから狙う

ABA自閉症療育を始めたての親御さんは、まずお手軽であまり面倒と感じないところから始めてもらうことで、意外に簡単に「問題行動は解決する」という意識を持つことができるかもしれません。


お手軽ではない介入は例えば以下、

「(ABA自閉症療育の基礎70)言葉の遅れの少ないお子さんへの適正行動増・問題行動減の療育支援ホームワーク(面接・SST・行動契約)(https://en-tomo.com/2021/01/03/hf-homework-setting/)」


(ABA自閉症療育の基礎70)言葉の遅れの少ないお子さんへの適正行動増・問題行動減の療育支援ホームワーク(面接・SST・行動契約)のサムネイル

で紹介した介入手法、これは確かに強力な介入方法ですが、いろいろと介入要素が入っていてギミックが多いです。


Enせんせい

介入ギミックも多いため、URLでご紹介した介入の内容は面倒臭いと感じるかもしれません


そのためもっとシンプルな例えば


・ 名前を呼んで目が合って欲しい → 目があったとき褒める

・ 「まねして」と言って手をあげたら、まねして手をあげて欲しい → まねできたとき褒める

・ 食べ終わったらお皿をシンクに持って行って欲しい → シンクに持っていけたとき褒める

・ 帰ってきたら「ただいま」と言って欲しい → ただいまと言えたとき褒める


など「褒める」ということで「行動の変化が期待できる」介入から始めても良いでしょう。

「褒める」ということを継続するだけの介入はかなりシンプルでコストの低い介入法です。

褒めることで行動を増やし、問題行動が減少しないか考えてみてください。


お子さんの「できる!」を褒めて伸ばして行く

たくさんのギミックを詰め込んだ介入でなくとも「褒める」だけで解決できないか?

もしくは「褒める+何か」など比較的シンプルな方法で解決ができそうなものを選択する。

こういったシンプルな設定で介入を行うという視点から、介入を選択することも良いでしょう。


Raymond .G .Miltenberger (2001) は望ましい行動を起きすくする方法として、その行動に必要な努力が少なくなるように先行条件を設定する方法があると述べています。

いきなりたくさんのギミックでガチガチにやりたいと思い、本格的な介入条件を組んでからでないとスタートできないと思わずに、まずはコストが少なそうなところから始めて学んでいく姿勢が大切でしょう。

このように介入のコストが低いものを選択することも、自閉症のお子さんが既に複数の問題行動を抱えていた場合にどれから取り組むかの選択基準となるでしょう。



変化させると他にも波及しそうな問題行動を狙う

他の基準と比較するとこの「変化させると他にも波及しそうな問題行動を狙う」という選択基準は専門性が高いです。


私はABA自閉症療育を行うときには結構重視する点ですが、例えば母親に対して「泣くことで注意を引く」という問題行動がある。

その場合「ねぇねぇと話しかける」というスキルを教えたとすれば、園で他の友達や先生に話しかけるきっかけにもなるかもしれません。

そのようなきっかけがあることで相手から「たろうくんは、何のどうぶつが好きなの?」など質問が生まれるかもしれません。

このように1つのスキルを教えることで新しい学習機会が生まれ、どんどんと他のスキルにも波及して行く可能性があるスキルを教えて問題解決を狙います。


こういった波及するスキルを提案できるのは専門家の腕の見せ所だと思っています

他にも他の場面でも使用することができそうな汎用性の高いスキルを教えることも効果的です。

例えば「わからない」「いやだ」「やって」など、短いキーワードですが、ほとんどの場面で使用したときに自身の欲求が叶うことが期待できるであろうスキルで問題が解決できるのであればこのようなスキルを教えることは有効でしょう。


同じような理由で「疑問詞」を教えることも有効です。

Gladys Williams・Corrine R. Donley・Jennie W. Keller (2000) 「それは何?」という疑問詞を、Mark L. Sundberg・Melisa Loeb・Lisa Hale・Peter Eigenheer (2002)「どこ?」や「だれ?」という疑問詞を自閉症のお子さんに教える研究を行っています。

それぞれの研究ではお子さんが疑問詞を使用した質問を獲得することができました。

このような疑問詞を使用した質問を獲得することで問題が解決できるのであればこのようなスキルを教えることは有効でしょう。

疑問詞の教え方についてはまた今後、別のページで解説していきたいと思います。



緊急度が著しく高い場合は最優先でその問題を扱う

ここまでABA自閉症療育でどの問題行動を扱うか選択の際の基準を書いてきましたが、この基準については別の次元で捉えてください。

例えば「赤信号で走り出す」や「お友達に椅子を投げる」など、

自身や他者が死ぬ危険がある、怪我をする危険があると判断した場合には他の優先項目度外視で取り組むことが大切です。

この場合は問題行動ができるだけ速攻で消失することが大切ですので、基本的には「先行子操作」で取り組むようにしましょう。


「(ABA自閉症療育の基礎63)オペラント条件付けー速攻で問題行動を減らす「NCR:非随伴性強化法」(https://en-tomo.com/2020/12/02/non-contingent-reinforcement/)」


(ABA自閉症療育の基礎63)オペラント条件付けー速攻で問題行動を減らす「NCR:非随伴性強化法」のサムネイル

先行子操作の全体的な説明のURLはこのブログページ内で先ほど貼りましたが、私が使用することの多い先行子操作として「NCR:Non Contingent Reinforcement(非随伴性強化法)」という方法があります。

ハマれば速攻で問題行動を消失させることができる強力な介入方法です。


このような重篤な事態の場合は必要によっては「罰」の使用を行う場合もあるかもしれません。

「罰」も速攻で問題行動を消失させてくれる可能性を持っています。

「(ABA自閉症療育の基礎66)オペラント条件付けー問題行動を減らす罰を使用した支援、タイムアウト、レスポンスコスト、過剰修正(https://en-tomo.com/2020/12/18/aba-punishment-intervention/)」


(ABA自閉症療育の基礎66)オペラント条件付けー問題行動を減らす罰を使用した支援、タイムアウト、レスポンスコスト、過剰修正のサムネイル

↑↑↑では「罰」を使用した介入をご紹介しています。

ページ内でも書いていますが「罰」には「副次的な効果」が伴うため、あまり療育には適していません。

しかし緊急性がかなり高いときには特に「叱咤」などの激しい罰も必要が迫られるタイミングがあるかもしれません。


Enせんせい

お子さんの行動が一瞬で変化することに罰を使用した側が強化され、日常的に罰を乱発するようになってしまうことだけには特に注意しましょう


以上、


ここまで紹介してきた内容

の解説でした。



ABA自閉症療育で問題行動を扱う際の注意点

以上の内容から複数の問題行動が生じたときにどれから扱って行くかの参考になれば幸いです。

このブログページでは複数の問題行動が生じたときにどの問題行動から扱っていくかのヒントを書いてきたのですが、以下、問題行動を扱う際の注意点について少しお伝えいたします。


Enせんせい

問題行動を扱う際の注意点についても知っておきましょうね



ABA自閉症療育は「できた/できない」では測れないことが多い

問題行動を解決するために、新しいスキルを獲得して行く過程は「できた/できない」では測れないことが多いです。


例えば引っ込み思案でお友達に話しかけられない、あいさつができないことをお母様が問題行動と捉えていた場合を想像してみてください。

介入前までお友達を見つけるとお母様の後ろに隠れてしまっていたお子さんが、家であいさつの練習をすることで徐々に「できるかも」という気持ちを持ってきたとしましょう。

でもまだお子さんは家ではうまくできたとしても、やはりお友達を前にしたとき、まだあいさつができないかもしれません。

このようなとき、お子さんのちょっとした変化に気がつけるように注意しましょう。


Enせんせい

例えばお子さんはあいさつをすることはできなかったとしても、お母さんの後ろにかくれなくなっているかもしれません

また例えば、お母さんの後ろに隠れるかどうか迷う様子がいつもあり、隠れるまでに時間的な遅れが生じるかもしれません


このような変化は確かにあいさつは達成できなかったけれどもお子さんが頑張っている(スキルを使用しようとしている)証拠です。

このような些細な変化に気がついて、お子さんを褒めることが大切です。


他の例として、怒りやすくておもちゃを貸してと言って断られると怒鳴りながら相手を叩きおもちゃをとってしまう男の子がいたとしましょう。

介入前まではこのような様子だった男の子も介入後、大きな声で怒鳴るものの叩くことはしないかもしれません。

まだ怒鳴っているので周りの目を気にすればなかなか大手を振って褒めることは難しいかもしれませんが、お子さんのそういった些細な変化に感受性高く気がつき、できている点に注目し褒めてあげることが大切でしょう。


「上手くできたね」としっかり褒めてあげてくださいね

このようにABA自閉症療育で新しいスキルを獲得して行く過程は決して「できた/できない」では測れないことが多いです。

以上のような行動上の些細な変化を逃さずしっかりと褒めるようにしてあげてください。

「母さんの後ろに隠れなくて偉かったね」や「今日叩かなかったこと、私はすごいと思うよ」とできたことを具体的に褒めてあげてください。

もしかするとお子さん自身は「できなかった」と思っているかもしれません



ABA自閉症療育では周囲のサポートも活用しよう・般化トレーニング

ABA自閉症療育では問題行動の減少や学んだスキルが適切な場所でもしっかりパフォーマンスとして発揮されることは大切です。

例えばABA自閉症療育では教えたスキルが般化することが大切だと言われています。

Shira Richman (2001) は般化について直接教えていない様々な場面や状況、人に応じて適切な行動を示すこと。また、教えられた型どおりではない応答を示すことと述べました。


般化を促すときのシンプルな方法は教えたスキルを色々な人の前でトレーニングすることです。


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まずお母様の前でできるようになったスキルを次はお父様の前でできるように練習します

基本的にはお母様の前で練習をした時よりも早くお父様の前ではスキルを獲得するでしょう

お父様の前でできたら次はお兄ちゃん、お兄ちゃんの前でできたら次は・・・


と練習をして行くと直接教えていない様々な場面や状況、人に対して適切な行動を示す可能性が上がります。


上の内容がもっともシンプルな般化トレーニングです。

このような般化トレーニングの観点からもそうですが、ABA自閉症療育ではあなた1人で行うというよりは、周囲からのサポートを受けながら行うということが重要です。

自分一人で教えないといけない!と考えるのではなく、周囲の人の協力が受けられないか注意して介入計画を立てるようにします。


可能であれば一緒にお子さんのことを考えてくれる人と協力して行っていきましょう

必要であれば専門家に間に入ってもらうのも良いでしょう。



さいごに

このブログページでは問題行動が既に複数出現してしまっている場合、どの問題行動から手をつけていくのか考察してきました。

それは以下のイラストの内容でした。


このブログページでご紹介した内容

そしてABA自閉症療育で問題行動を扱う際の注意点として「できた/できない」で測るのではなく、過程に注目しお子さんの成長に寄り添って欲しいこと、

親御様がABA自閉症療育を行う際に使えるサポートについて考え、般化を促進するよう計画することが大切なことをご紹介しました。


既に問題行動が散見される場合であっても、このブログページで紹介した基準を参考にお子さんの問題行動の解決を目指して欲しいです。

お子さんが小さい頃から問題行動に対し適切な対応をとることが大切で、お子さんに力負けするその前に「私が問題行動をなんとかできた」という自信を持つことが重要です。


お子さんは大きく成長していきます

次のページでは自然な強化子について書いていきます。

ABA自閉症療育を行う上で「自然な強化子」というキーワードは知っておいた方が良いでしょう。



【参考文献】

・ Gladys Williams・Corrine R. Donley・Jennie W. Keller (2000) TEACHING CHILDREN WITH AUTISM TO ASK QUESTIONS ABOUT HIDDEN OBJECTS. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. No4 33, 627–630

・ Mark L. Sundberg・Melisa Loeb・Lisa Hale・Peter Eigenheer (2002) Contriving Establishing Operations to Teach Mands for Information. The Analysis of Verbal Behavior. 18, 15-29

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】

・ 山上 敏子 (1998) 発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム お母さんの学習室 二瓶社