「(ABAの基礎54)オペラント条件付けー「選択行動」自閉症児の衝動性と我慢(セルフコントロール)(https://en-tomo.com/2020/11/05/aba-choice-behavior/)」
のページでは「選択行動」の理論から衝動性と我慢をどう捉えるかを見てきました。
ページ内で私はABA自閉症療育における「衝動性」を教える際、
衝動性 = 遅れてくる大きな遅延大強化を選択せず、すぐに手に入る即時小強化を選択すること
、
「我慢(セルフコントロール)」については、
我慢 = すぐに手に入る即時小強化を選択せず、遅れてくる遅延大強化を選択すること
と教えることを書きました。
また「(ABAの基礎57)「選択行動理論」は何の選択か?ー「選択」×「強化子の量(や質)」×「遅延時間」(https://en-tomo.com/2020/11/11/choice-behavior-what-to-choose/)」
のページではこのような選択行動の枠組みは、基本的には
「選択」×「強化子の量(や質)」×「遅延時間」を「掛け合わせた何か」を並べて選択させている研究
と覚えておけば理解がしやすいことを書きました。
このページではこれまでの研究から動物、人間はどのような選択を好む傾向があるのかについて主に、James E. Mazur (2006)と小野 浩一 (2005)を参考に書いていきたいと思います。
どういったものが選択されやすいのかについて知ることで、ABA自閉症療育に生かしていただければ幸いです。
このページで一旦「選択行動」のトピックは終えますので、最後にここまでの「選択行動」の理論をABA自閉症療育でどう取り入れていけば良いのか?
も簡単に書いていきます。
「選択行動」の理論でこれまでわかっていることの内容を紹介し、
その知見がどのようにABA自閉症療育に生かせるかについて
最後に私の意見も書いていきましょう
選択行動ーどういったものを選ぶ?選択に対しての選好
変動性に対しての選好
James E. Mazur (2006)は変動性に対しての選好について述べています。
James E. Mazur (2006)は”変化に富むこと(多様性)は人生におけるスパイスである”としばしば言われるが、この格言はヒトと同様、動物についても言えると述べました。
強化子の量が一定の場合、強化子が提示されるタイミングが一定であるより、変動している方が行動が強化されます。
感覚的にわかりますが、人は同じことが続くよりも、変化が生じる日常の方を好むのですね。
しかしJames E. Mazur (2006)の内容だけではわかりにくいかもしれませんので例を記載しましょう。
例えば毎月30万円のお給料が毎月15日に支給される(強化子が提示されるタイミングが一緒)であるより、
1年間の中で支給されるタイミングが変動(例えばランダム)する場合の方が人間は意欲的に仕事に取り組める可能性があります。
強化子の量が同じという点はポイントですので、
月に30万が12ヶ月で年収360万円という年収の量は同じという点には注意しましょう。
以上のように強化子が提示されるタイミングが一定であるより、変動している方が行動が強化されるようです。
どう思いますか?1年間の中で生活のために大切な「給与」が、
支給されるタイミングが同じなのか、変動するのか、どちらをあなたは好みますか?
James E. Mazur (2006)は例えばこの変動する強化子の最も強い証拠はギャンブルの場面であると述べています。
もしあなたが「1年間の中で支給されるタイミングが同じ」だとしても、
世界にギャンブルが好きな人がいる以上そのような傾向を好むという傾向の人がいるということを否定できない可能性を考えて欲しいです。
あなたが「どちらも自由に選べた場合」はどうでしょうか?
損はなかったと自身は信じていたとして、ね。
自由選択に対しての選好
小野 浩一 (2005)は1個の選択肢しかない場面を強制選択、複数の選択肢が現れるのを自由選択というと述べ、一般に人間も動物も自由選択を好む傾向があると述べています。
これは感覚的にはわかりやすいですね。
選択肢が1つしかないシチュエーションよりも、複数の選択肢がある方がモチベーションが上がるということについて、
実はABA自閉症療育でも例えば「PRT:Pivotal Response Treatment(機軸行動発達支援法)」というABA自閉症療育の1つの手法の中では大切にされています。
※ PRTについては例えば「(ABA自閉症療育のエビデンス13)PRTについて(https://en-tomo.com/2020/06/06/that-prt/)」を参照
Lynn Kern Koegel・Anjileen K. Singh・Robert L. Koegel (2010) は研究で4歳から7歳までの自閉症児4名に対し、国語と算数を教える研究を行いました。
その中でLynn Kern Koegel他(2010) は「自然な強化子を使用する」ということに加え、課題中「お子さんが教材を選択できる」ことは、お子さんの課題へのモチベーションが上がる要因であったと考察しています。
ただし、例えば私はラーメン屋さんが好きなのですが「みそ」「しお」「しょうゆ」「とんこつ」と1店舗で様々な商品ラインナップがあるお店よりも、1つの味で勝負しているラーメン屋さんが好きです。
1つしか選択がないよりは2、3選択がある方が良いなと思いますが、
状況によっては、あまりに多すぎる選択肢もモチベーションを下げる要因になるかも、とは思っています。
ちなみにLynn Kern Koegel他(2010) は「選択行動」の文脈で研究を破票したわけでは無いと思いますが、
「自分で自由に選択できる」ということはお子さん(個人)にとって「魅力的」なエッセンスである可能性があるのですが、あなたはどうでしょうか?
好リスク行動に対しての選好
James E. Mazur (2006)は選択についての興味深い事実の1つは、人々はときにはリスクのある選択肢を選好することがあり、
またときには代わりに安全な選択肢を選好することである。同じ事実は動物でも見いだされてきたと述べています。
少しわかりにくいですね?
以下のような場面を想像してみてください。
例えば月に30万円の月給の支給日、あなたは2つのドアの前に立っています。
一方のAのドアを開けるとそこには確実に30万円が置いてあるのですが、もう一方のBのドアを開けるとそこには「0円」か倍の「60万円」が置いてあるとしましょう。
以上のような場面で人は好リスク行動(Bのドアを開ける)を選択することもあるようです。
理解できない人は理解できないかもしれません。
どういった場面ではAのドアを開け、どういった場面ではBのドアを開けるのか?
こういった範囲の研究も選択行動の研究分野ではされているようです。
ここについてはあまり詳しくはないので、
もし今後調べることがあればご紹介します
強化子の到来を知らせるシグナルに対しての選好
小野 浩一 (2005)を参考にすれば強化子が提示されるまでの遅延時間で、強化子がやってくるであろうシグナルがある場合とない場合で言えば、「ある場合」が好まれるようです。
例えば動物実験で言えば強化が遅延されている時間に、その遅延時間を知らせる「色が変わる」などの変化がある方が動物は好みます。
このことに関連するABA自閉症療育のトピックで言えば
【(ABAの基礎56)選択行動の療育応用研究、攻撃行動を減らす(https://en-tomo.com/2020/11/10/timothyr-vollmer-johnc-borrero-1999/)】
で紹介したTimothy R. Vollmer・John C. Borrero (1999) の研究で、
重度の行動障害(Behavior Disorders)のある自閉症児や精神遅滞児の衝動的な攻撃行動を減らす研究を紹介したときの研究結果でもそうでしたね。
強化子がやってくるまでのシグナルがある方がセルフコントロール(我慢)が成立しやすいという研究結果です。
以上、
・ 変動性に対しての選好
・ 自由選択に対しての選好
・ 好リスク行動に対しての選好
・ 強化子の到来を知らせるシグナルに対しての選好
「選択行動」の理論、4つの選好をご紹介しました。
ABA自閉症療育が選択行動から受けた恩恵
このブログページでは「どういった選択を生態は好むのか?」ということをテーマに書いてきましたが、
このブログページからABA自閉症療育を行う上で知っておいたら良いかなと思う情報は大きいものは3つです。
個人的に思うABA自閉症療育がこのページの内容から受けられる恩恵を紹介します。
変動性に対しての選好
1つ目はもし生態が「変動性に対しての選好」を好むのであれば、
教えた行動を間欠強化で維持の段階に持っていくとき、変動性を持たせた方が良いということが考えられるでしょう。
「(ABA自閉症療育の基礎23)オペラント条件付けー強化スケジュール(https://en-tomo.com/2020/08/18/aba-operant-reinforcement-schedule/)」
で紹介した間欠強化スケジュールですがページ内では、
「連続強化スケジュール」とは「標的行動のたびに強化子を提示する手続き」で、
「間欠強化スケジュール」とは「標的行動が数回生じたときに1回強化子を提示する手続き」
と紹介し、
「連続強化スケジュール」は主に獲得のタイミングで使用し、
「間欠強化スケジュール」は主に維持のタイミングで使用する
と記載しました。
この「選択行動」のブログページの知見を取り入れるとすれば、
動機付けの観点から、維持のタイミングで「間欠強化スケジュール」に移行する際は、
強化子を3回の行動に1回提示するスケジュールへ変更する場合、固定で3回ごとに1回強化するよりも、ランダムに平均3回に1回強化子を提示した方が良い
という結論が導き出せます。
ものすごく細かくそして丁寧にABA自閉症療育に取り組むのだとすれば、
今書いているように、お子さんに何かスキルや標的(ターゲット)行動を教えたときは、
それがなんどか連続で強化されなくとも消滅しにくくなるように「維持(Followup)」のフェイズを作る方が丁寧です。
自由選択に対しての選好
2つ目は「自由選択に対しての選好」です。
例えば何かお子さんが「できた」とき、Youtubeが好きなお子さんにタブレットを渡していたとしますね?
Youtubeを観ることができるタブレットはお子さんにとって強化子となり、お子さんの「できた」を今後も積み上げていくことが期待できるでしょう。
しかしここでもう一つこだわって、
「これ(課題)ができたら、こっち(タブレット見せる)やる?こっち(タブレット以外の、例えばお子さんの好きなニンテンドースイッチ)やる?」
と言って課題を始める方がお子さんのモチベーションが上がる可能性が高いです。
これは強化子の価値を下げる、
「(ABA自閉症療育の基礎48)オペラント条件付けー確立操作「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」(https://en-tomo.com/2020/10/19/establishing-operation-type2/)」
で紹介した「飽和化(Satiation)」を避けることにも貢献するでしょう。
このブログページで紹介したLynn Kern Koegel他(2010) は研究の中で例えば、
国語を教えるとき「鉛筆とマーカー、どちらでやりますか?」など細かく選択場面を設定しました。
この研究ではお子さんの課題に対しての抵抗も下がったことも報告されました。
Lynn Kern Koegel他(2010) は「課題へのモチベーション」を上げるために選択場面を設定しています。
強化子の到来を知らせるシグナルに対しての選好
3つ目はもし生態が「強化子の到来を知らせるシグナルに対しての選好」を好むのであれば、
我慢(遅延大強化子を得る行為)を教えたいとき、強化子到来までの合図を設定するという介入方略が考えられるでしょう。
「(ABAの基礎56)選択行動のABA療育応用研究、子どもの攻撃行動を減らす「衝動性と我慢」(https://en-tomo.com/2020/11/10/timothyr-vollmer-johnc-borrero-1999/)」
ではTimothy R. Vollmer・John C. Borrero (1999)の行った研究を紹介しました。
この研究は攻撃行動を行う2名(自閉症児含む)のお子さんたちに、攻撃行動ではなく適切な行動を教えるという趣旨の研究でした。
研究内ではお子さんがセルフコントロール(我慢)を行うためには、
強化子到来の合図があることがポイントであるとされています。
もしお子さんに「我慢」を教えたいと思ったとき、この研究が参考になる可能性があるでしょう。
私の思うABA自閉症療育が受けた選択行動の一番の恩恵
最後に私が思うABA自閉症療育における選択行動がもたらした一番の恩恵は
「選択行動」の理論の枠組み自体がお子さんに「我慢(セルフコントロール)」を教えるために有用であるということでしょう。
ABA自閉症療育では「衝動性」と「我慢(セルフコントロール)」を具体的に定義することで、以下のような
循環論に陥ったとき、
循環論を避けて考えることができます。
例えばあなたが子どもに「我慢しなさい」と言ったとき、
子どもから「ねぇ母さん、我慢ってなに?どういう定義なの?具体的になにをすれば我慢なの?」と返ってきたら?
「定義」とか使う子どもはなかなかいないとして、怖く無いですか?
ごまかしませんか?
この質問に答えられる人、
なかなか少ないんじゃないでしょうか?
「我慢」に定義を持たせることで具体的に「どう、なにをすればトレーニングできるものなのか?」の見通しが着きます。
これが私は本当に大事だと思っています。
例えばお子さんからの質問に対しての解答は、
「すぐ手に入る楽しさじゃなくて、あとで手に入る大きな楽しみを追いなさい」
とか?
間違っていない「我慢」の解答です。
【(ABAの基礎55)オペラント条件付け、選択行動ーHoward Rachlin・Leonard Green,1972(https://en-tomo.com/2020/11/10/timothyr-vollmer-johnc-borrero-1999/)】
のページで選択行動の代表的な研究を解説しています。
「我慢」の定義がわかります。
この研究ではどういった条件があれば「遅延大強化」を選択できるのか、ハトを使った研究を紹介したのですがその結果から
・ 即時性強化を選択していた場合でも、状況が変わると遅延大強化を選択するように変化する可能性がある
という点を私はポイントとしてあげました。
この研究からわかった「我慢」を教えることができるというポイントです。
このポイントはまだ「衝動的で我慢が上手く無いお子さん」であったとしても、
環境(状況)を変えて設定することで「我慢」するシチュエーションを見つけることができる可能性であり、
我慢を教えることは諦めなくても良いことである。
ということを教えてくれるポイントで、非常に重要なポイントだと思います。
ここまで「選択行動」の理論を紹介してきましたが、選択行動はヒトでも動物でも研究されてきました。
しかしヒトと動物で研究を行ったとき、違う結果になることもあるようで、
例えば大河内 浩人 (1996) を参考にすれば、
その理由として言葉があることから人間は動物と違い、選択行動において動物よりも複雑な影響を受けるからと考えられています。
このことはまた解説していきますが人間が「言葉(言語)」を持っているというのは深いです。
この人間が扱う「言葉」は、ABA自閉症療育でも必要なところですので、今後書いていければという気持ちでいます。
さいごに
ここまでの直近のページは「選択行動」についてのページでした。
選択行動の研究がABA自閉症療育にもたらした一番の貢献は、このブログページでも書きましたが「衝動性」、「セルフコントロール」、「我慢」について操作可能なレベルの定義まで落とし込んでくれたことでしょう。
「我慢」、そして「衝動性」という「あいまい」なものを定義することができたことが、非常に大きい。
オペラント条件付けのユニットで紹介された「弁別刺激」「確立操作」「強化」「罰」「消去」を用いて行動を分析することは基本ですが、
これまで学んできた「選択行動」の知見も含めて分析することでより深くお子さんの行動を理解、支援することが可能です。
子どもを対象とした選択行動の研究は現在も進行中で、
例えば今後の研究動向として、
(1)いつ頃から報酬量や遅延時間の違いが区別できるようになるのか
(2)報酬量と遅延時間ではどちらが先に区別できるようになるのか
(3)いつ頃から報酬密度という形で、報酬量と遅延時間の両方を考慮できるようになるのか
(4)報酬量と遅延時間はどのように関連づけられるのか
(5)2 つの報酬密度のいずれが子どもの選択を適切に説明できるのか
など、今後検討するべき課題であると伊藤 正人 (2016) は述べています。
このへんのところの研究が進んでいけばもっとABA自閉症療育に選択行動の知見が生きてくるでしょう。
次のページからは「行動は連鎖する」ということについて書いていきたいと思います。
このことも知っておくことでさらに細かく行動を分析し、ABA療育に還元できるる知識です。
どうぞよろしくお願いいたします。
【参考文献】
・ 伊藤 正人 (2016)子どもを対象とした同時選択手続きの開発. 行動分析学研究,31,98-103.
・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】
・ Lynn Kern Koegel・Anjileen K. Singh・Robert L. Koegel (2010) Improving Motivation for Academics in Children with Autism. Journal of Autism and Developmental Disorders 40 p1057–1066
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ 大河内 浩人 (1996) スケジュール履歴効果の刺激性制御ー教示と弁別性スケジュール制御の影響ー 行動分析学研究,10.118-129
・ Timothy R. Vollmer・John C. Borrero (1999) EVALUATING SELF-CONTROL AND IMPULSIVITY IN CHILDREN WITH SEVERE BEHAVIOR DISORDERS. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. 32, p451–466 No. 4 (WINTER)