(ABA自閉症療育の基礎54)オペラント条件付けー「選択行動」自閉症児の衝動性と我慢(セルフコントロール)

このページからはオペラント条件付けの基本ユニットの内容ではなく、少しマニアックな内容を扱っていきます。

これまでレスポンデント条件付け・オペラント条件付けについてABA自閉症療育で使えるであろう知識を書いてきましたが、これから書いていく内容もABA自閉症療育で使用することで効果を発揮する理論です。


まずは「選択行動」からみていきましょう。

選択行動について学べばABA自閉症療育ではお子さんの「衝動性」と「我慢」についてどのように理解し、そしてどのように支援していけば良いのかが分かります

「我慢」とは専門用語では「セルフコントロール(Self Control):自己制御や自己管理と訳される」と呼ばれるもののことです。


このページで伝えたいことは
「あきらめなさい」は「我慢」ではないという事


オペラント条件付け「選択行動」ー毎日は選択の連続

私たちの日常の生活は実にいろいろな選択肢に恵まれています。

例えば、


・ お昼ご飯はなにを食べる?
・ どこのブランドの服を買う?
・ 今日はジョギングをしようか、やめておこうか?
・ お風呂にしようか、ご飯にしようか
・ 夜はどのパジャマを着てから寝ようか
・ あの人と遊びに誘おうか、今日は一人で過ごそうか


あげればキリがありませんね。

なにを仕事にするか?誰と結婚するか?だけでなく朝起きた時、水を飲むか先に着替えるのか?

あまり意識することはないかもしれませんが、私たちは毎日の生活の中で幾度も幾度も選択機会を持ち、選んでいるのです。

上のような選択場面はABA自閉症療育ではあまり問題になりません。

ではどのようなとき問題となるのでしょうか?


これから扱う「選択行動」の理論は「衝動性」という問題を扱うことができます

ABA自閉症療育で問題となる「選択場面」からみていきましょう。



オペラント条件付けーABA自閉症療育における衝動性とは?

ABA自閉症療育で問題となる「選択場面」を日常の生活の中から見てみましょう。

例えばあなたが上司に「お前はなんて覚えが悪いんだ?何度言っても失敗ばかりして。お前のような部下を持って、俺は不幸だよ」と傷つく言葉を言われたとき、

悲しい気持ちになってイライラするかもしれません。

あなたはこのとき、実はどのようなリアクションをするのか選択することができるのです。


(A)黙って下を向く
(B)申し訳なかったと謝り、やり直す
(C)大きな声を上げて反論する「その言い方はどうですかね?」
(D)胸ぐらを掴みかかる


あなたの社内での状況や転職可能性にもよりますが(C)(D)はそのあとのことを考慮すれば、あまり良い長期的な結果を招かないかないことがあるかもしれません。

だから(C)(D)は全くメリットがない、

というわけでもなくて実は(C)(D)の選択が実は短期的には良い結果を招く可能性があるのです。

もしかすると、

(C)(D)の選択は長期的には社内での立場を悪くするという良くない結果を招くものの、短期的には悲しみやイライラを低下させるかもしれませんし、これ以上傷つく言葉を言われることを防ぐという良い結果をあなたに提供するかもしれません。


ABA(応用行動分析学)ではこのような「選択」の場面を「選択行動」の枠組みで研究してきました。

実森 正子・中島 定彦 (2000) は、

反応した直後に小さな強化が得られる場合を「直後の小強化」

反応してもすぐには強化されないが後で大きな強化を得られる場合を「遅延後の大強化」

と述べ、

前者の「直後の小強化」を選ぶ場合を「衝動性」

後者の「遅延後の大強化」を選ぶ場合を「自己制御(セルフコントロール)」

というと述べました。


先ほどの上司に傷つくことを言われた際のことを思い返して見ください。

今後その会社で働いていくとして、


(C)大きな声を上げて反論する「その言い方はどうですかね?」
(D)胸ぐらを掴みかかる


という選択を行うことが仮に、

「直後のスッキリ感やこれ以上の中傷を避ける」という「直後の小強化」

を選択し「これからの良好な関係を保つ」という「遅延後の大強化」を逃す判断であった場合、

ABAではこのことを「衝動性(Impulsivity)」と呼ぶのです。


私は後輩にABA自閉症療育における「衝動性」を教える際は、

衝動性 = 遅れてくる大きな遅延大強化を選択せず、すぐに手に入る即時小強化を選択すること

「我慢(セルフコントロール)」については、

我慢 = すぐに手に入る即時小強化を選択せず、遅れてくる遅延大強化を選択すること

と教えています。


例えば、


・ お母さんの注目が欲しくて泣き続ける子ども
・ お菓子を買って欲しいとき、断られると癇癪を起こす子ども
・ 受験が控えているのに、勉強がいやでゲームばかりする子ども
・ 掻いたら治りが遅くなるのに、傷口を掻き続ける子ども


この定義に従えば、以上の行動は「衝動的な行動」と呼ぶことができるでしょう。

なぜなら、

長期的に見れば周りとの良好な関係を気づくことが難しかったり、目的を叶えることができず大きな強化子には届きません。

しかし、

短期的にはすぐにお母さんが注目してくれたり、お菓子が買ってもらえたり、楽しい時間が手に入ったり、痒みがなくなったりと即時的な小さな強化子を得ることができています。

長期的な利益を捨てて、短期的な利益を得ているわけです。


ここまで書いてきたように、

「衝動性」と「我慢」は反対の概念です。

衝動性が高いということは我慢ができないという状態を表し、

逆に

我慢ができるということは衝動性が低いという状態を表します。



ペラント条件付けー衝動性と我慢、別パターンの定義

上記で書いてきたことはABA自閉症療育における「衝動性」と「我慢」の定義なのですが、

私は後輩に以下のような「衝動性」と「我慢」の関係も伝えるようにしています。


それは「強化」ではなくて「罰」についてなのですが、

衝動性 = すぐに手に入る即時小罰を選択せずに、遅れてくる大きな遅延大罰を選択する

我慢 = 遅れてくる大きな遅延大罰を選択せずに、すぐに手に入る即時小罰を選択する

という内容です。


こちらの「罰」パターンでは例えば

歯医者を回避(即時小罰)し、時間が経ってから虫歯が悪くなる痛み(遅延大罰)を受ける = 衝動性

歯が痛くなったときに嫌いな歯医者に行き(即時小罰)、虫歯が悪くなる痛み(遅延大罰)を回避する = 我慢

が具体例になります。

この「罰」のような事例も日常で共感できるのではないでしょうか?



オペラント条件付けーABA自閉症療育、衝動性と循環論

もしあなたがお子さんの衝動性の問題に取り組んでいたとします。

しかし以下のように衝動性の問題についてパートナーと話し合っても解決に至らないことが多いでしょう。


ーーーーーーーーーーーーー
妻:スーパーでお菓子を買って欲しくて泣くの。どうしようかしら
夫:我慢強く、辛抱強く成長する必要があるね
妻:我慢強く、辛抱強くするにはどうするの?
夫:お菓子を買ってくれないくらいでは泣かないことかな?
妻:どうすれば、泣かなくなるの?
夫:我慢強く、辛抱強く成長する必要があるのさ

妻:我慢強く、辛抱強くするにはどうするの?
夫:お菓子を買ってくれないくらいでは泣かないことかな?
妻:どうすれば、泣かなくなるの?
夫:我慢強く、辛抱強く成長する必要があるのさ

妻:我慢強く、辛抱強くするにはどうするの?
夫:お菓子を買ってくれないくらいでは泣かないことかな?
妻:どうすれば、泣かなくなるの?
夫:我慢強く、辛抱強く成長する必要があるのさ
ーーーーーーーーーーーーー


Enせんせい

そう、循環論です


「循環論」では結論が出ません

このままでは答えが出ず、解決策が見つかりません。


ABA自閉症療育でこの問題を「衝動性」と「我慢」の観点から扱うのであれば例えば


ーーーーーーーーーーーーー
妻:スーパーでお菓子を買って欲しくて泣くの。どうしようかしら
夫:我慢強く、辛抱強く成長する必要があるね
妻:我慢強く、辛抱強くするにはどうするの?
夫:お菓子を買ってくれないから泣くのは、そのお菓子が欲しいからだよね?
妻:そうよ
夫:じゃあ「泣かずにいられたら、今日お父さんがその欲しいお菓子、2個買ってきてくれるよ」と言ってみるのはどうだい?まずはどう対応すれば泣かないかを、一緒に考えようよ
妻:わかった。やってみるわ。泣かなかったら、連絡するからお菓子を買って帰ってちょうだい
ーーーーーーーーーーーーー


このようなやりとりが考えられるでしょう。


Enせんせい

このようなやりとりは循環論を避けることができ、

解決策を導くことができるため生産的です


このような作戦はお子さんの「衝動性」を抑制し、「我慢」を教えることができる可能性があるでしょう。


お子さんが、

・ 泣くことでお菓子をすぐに1個買ってもらえる = 「即時小強化」
・ 泣かずにスーパーを退店すれば、お菓子が遅れて2個買ってもらえる = 「遅延大強化」

の関係性が提示されたときに「遅延大強化」を選択するようにシチュエーション(環境)を設定し、

「泣かずにいられる」シチュエーションを作ることが大切になります。


このように「泣かずにいられる」シチュエーションを作る設定の中に、

遅れてもっと大きな強化子(この場合はお菓子)がやってくる「我慢」が設定されるように介入方略を組むことが大切です。

そしてお父さんだけでなく、

泣かずにスーパーを退店できたときもお母さんはそのことを充分に褒めてあげましょう

その後、お父さんが帰ってきたとき、

「今日は泣かずに我慢できて偉いぞ!泣かないで笑って、スーパーを出られたんだってな」と言ってハグや抱っこをしていっぱい褒めてあげましょう


この章でここまで見てきたブログページを考慮すれば、

お子さんに成長してほしい適正行動を具体的にしっかりと、そしてお子さんが喜ぶ形で褒めてあげることが重要です。

なにせよ、その後の行動を変化させるのは結果(強化子)だからという理由でそうなります。

そのようにお子さんの行動に対して結果を伴わせることで、徐々にお父さんがお菓子を2個買って帰ってくれなくても、

泣かずにスーパーをでることができたらお父さんが「お菓子1個+褒め」をくれるという結果だけで「我慢」が達成されるよう行動が強化されていく可能性があります。

徐々に徐々に、お菓子も必要なくなってくる日がやってくるでしょう。


Enせんせい

ABAの理論から「衝動性」を捉えると、

自閉症児のお子さんに対して

「我慢」という普段使用する言葉では少し曖昧な行動について

教えることができるということが個人的には魅力的です



オペラント条件付けーABA自閉症療育、衝動性と我慢のポイント

上のスーパーの循環論のエピソードでもABA自閉症療育の考え方に沿って解決を図る際は、

お子さんが欲しいお菓子(強化子)が適切に行動することで即時に手に入らないものの、遅延してたくさんのお菓子(強化子)を得た、ということはポイントになります。

すごく大切なこととして個人的に思うことは、

「我慢」=「あきらめる」ではありません

これはポイントだと思うので、覚えておきましょう。

「ただ我慢するだけ」は苦痛ですよね?


私はずっとABAで自閉症療育を行なってきたのでそのようにさせようとしたことはありませんが、

「あきらめる」ように教えようとすると、失敗しちゃうように思います。


子育てではこのことを意識する必要があると思います!


さいごに

ABA自閉症療育で扱う「衝動性」はこのブログページで見てきたように、

衝動性 = 遅れてくる大きな遅延大強化を選択せず、すぐに手に入る即時小強化を選択すること

と定義されます。

また、
「我慢(セルフコントロール)」は、

我慢 = すぐに手に入る即時小強化を選択せず、遅れてくる遅延大強化を選択すること

と定義されることを覚えておきましょう。


加えて別パターンとしては

衝動性 = すぐに手に入る即時小罰を選択せずに、遅れてくる大きな遅延大罰を選択する

我慢 = 遅れてくる大きな遅延大罰を選択せずに、すぐに手に入る即時小罰を選択する

という内容も紹介しました。


こちらの「罰」パターンの具体例は例えば

歯医者を回避(即時小罰)し、時間が経ってから虫歯が悪くなる痛み(遅延大罰)を受ける = 衝動性

歯が痛くなったときに嫌いな歯医者に行き(即時小罰)、虫歯が悪くなる痛み(遅延大罰)を回避する = 我慢

でした。

こちらのパターンはあまり使わないかもしれませんが知ってくと良いでしょう。


この「選択行動」の理論で問題行動を捉えるとお子さんの問題行動は嶋崎 まゆみ (1997) が述べている以下のように表記することが可能です。


手や口を出したい衝動を我慢することによって周囲から適応的であると遇されること(遅延大強化)よりも、衝動に駆られて行動することによってその場の欲求は満たされるが(即時小強化)、結果的に罰を受けるような行動を選択してしまうことを意味している。

同時に、この様な行動傾向は現実の生活場面では周囲の大人や仲間からも問題行動あるいは不適切行動とみなされがちである


嶋崎 まゆみ (1997) は述べています。

このようにお子さんの問題行動や不適切行動を見ていくという視点は是非ご参考ください。


私たちの日常は実にたくさんの選択にありふれています。

James E. Mazur (2006)はオペラント条件付けの研究者たちの選択行動へ強い関心から、様々な「選択」に関する理論が提案されているとして、著書の中で様々な理論を紹介しました。

私たちの日常にある普通の「選択」について、ABAでいろいろな理論が展開されているようです。

例えばこのような「選択行動」を扱った研究分野はこのページで紹介した自閉症療育のトピックだけでなく例えば「行動経済学」という分野の研究の基礎になっています(参考 島宗 理, 2019)


次のページではHoward Rachlin・Leonard Green (1972) 「COMMITMENT, CHOICE AND SELF-CONTROL1」という研究を紹介します。


様々な分野で用いられている「選択行動」の研究ですが、

このHoward Rachlin他(1972) の研究は参考書の「選択行動」の章ではかなりの確率で紹介される実験研究です。

古典的かもしれませんが重要な論文だと思いますので、

研究の内容を見ていくことでさらに「選択行動」への理解を深めていきましょう。



【参考文献】

・ Howard Rachlin・Leonard Green (1972) COMMITMENT, CHOICE AND SELF CONTROL1 . JOURNAL OF THE EXPERIMENTAL ANALYSIS OF BEHAVIOR 17,15-22 No. 1(JANUARY)

・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】

・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社

・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社

・ 嶋崎 まゆみ (1997) 発達障害児の衝動性とセルフコントロール. 行動分析学研究. 11, 29-40