このページはイラストで言えば、
「ココ」と書かれているところの内容です。
「(ABA自閉症療育の基礎42)オペラント条件付けー強化法とプロンプト(https://en-tomo.com/2020/09/27/reinforcement-prompt/)」
では「強化法」と「プロンプト」について紹介し、
「強化法」について、
提示した結果がその後の行動増加をもたらしたとき、その結果を提示する手続きが「強化法」と呼ばれると紹介しました。
上の文章の「提示した結果」が「強化子」と呼ばれます。
「プロンプト」については、
本来、自然に行動を引き起こすであろう「弁別刺激」があり、
そのような自然な「弁別刺激」に反応できないときに、反応できるよう付加する刺激が「プロンプト」
と紹介しました。
このページではABA療育で手続き的に使用する「強化子」や「プロンプト」は抜いていかなければいけない、ということを書いていきます。
「強化子」を抜いていく手続きは「リダクション」、「プロンプト」を抜いていく手続きは「プロンプトフェイディング」と呼ばれる手続きです。
これらを意識しないと、お子さんに教えた行動が「強化子依存」や「プロンプト依存」というもので般化しないという事態に陥ってしまうかもしれません。
ABA自閉症療育における強化子のリダクション
強化子のリダクションは、
イラストの「ココ」と呼ばれるところを扱う手続きになります。
例えば行動のパフォーマンスを向上させようとしたときの重要な要素の1つは「強化子」の量です。
James E. Mazur (2006) はビジネスの世界でセールスにたずさわる人は大きくて高価な物品の販売にはかなりの時間と労力を使うだろうが、小さくて安価な物品にはそれほどの労力は使わないだろうと述べました。
例えばあなたが仕事をしていて仕事のあとにもらえる対価が5千円であるときと、5万円であるときではパフォーマンスに差が出てくることがあります。
もちろん人によって5千円、5万円の価値は違うということはありますが、例えばあなたが普段月収で30万円を稼いでいたとします。
ある時期からその月収が15万円になったとすれば、仕事のパフォーマンスは低下することが想像できるでしょう。
対して、倍の60万円になれば時間と労力を使い、パフォーマンスが向上するように思わないでしょうか?
もしあなたがこの内容をみて「そら、そうやろ」と納得できた場合、
お子さんに対しても同じことが言えることを意識する必要があるでしょう
お母さんがABA療育を通してお子さんに何か適切な行動を教えるとき、
例えば、「おはよう」とあいさつをしたとき
上のような関わりの結果(強化子)を常に提示していたとします。
このお母さんは悩んでいました。
お子さんはたまに幼稚園のお友達に対しても「おはよう」とあいさつをすることはあるのですが、ほとんどあいさつをすることはありません。
お母さんには毎朝のように「おはよう」とあいさつをしてくるのに・・・。
だから毎日、お母さんはイラストのようにたくさんの強化子と共に今日もあいさつの練習を続けています。
さて、この例をみてどう思うでしょうか?
まだあまり人と関わることに対して興味が薄い幼児期の自閉症のお子さんであった場合、お子さんからすれば「朝のあいさつ」をする動機は、お母さんからの激しい抱っこかもしれません。
しかし当然、幼稚園のお友達に「おはよう」と言ってもお母さんがくれるような抱っこは返してくれません。
このような行動のあとに提示される結果にギャップがある場合、行動が般化し辛い(弁別されてしまう)可能性があるのです。
このような特定の結果が返ってくることに依存して行動が出現しないとき、「強化子依存」が生じていると言われることがあります。
「強化子依存」とは、出現して欲しい適切な行動も、大量の強化子を使用した状況で練習することをあまりにも続けてしまうと、本来出現して欲しい場面でも大量の強化子がなければ出現しなくなってしまう現象
と思ってください。
島宗 理 (2019) は、
新しい行動を形成した後、その行動を維持するのに、「好子(こうし ※ 強化子のこと)」の量を減らしたり、頻度や確立を減らしていく手続きをリダクションと呼び、臨床・実践ではよく行われている技法
とリダクションについて述べています。
「(ABA自閉症療育の基礎23)オペラント条件付けー強化スケジュール(https://en-tomo.com/2020/08/18/aba-operant-reinforcement-schedule/)」
ではRaymond .G .Miltenberger (2001)が
連続強化スケジュールは学習の初期段階や最初の行動従事の場合に適用される。
これは獲得(Acquisition)と呼ばれる
一旦その行動が獲得され学習が成立すると、その行動に継続して従事するよう間欠強化スケジュールに切り替える。
これは維持(Maintenance)と呼ばれる
と述べていることを書きました。
このページで紹介した「強化子の量」の調整以外に、以前に紹介した「強化スケジュール」の調整も「リダクション」の例であると言えます。
しかし加えて島宗 理 (2019) はリダクションについてはまだ基礎研究の数は少なく、このためにまだこの手続きは洗礼されているとは言えないとも述べています
リダクションについて個人的な体感としては「言葉」を使って「ルール」というものが扱えるように成長できた場合は、「般化」は別の方法で狙えるので正直そこまで意識しなくても良いのかな?
とも思いますが、
言葉の遅れの大きいお子さんの場合には意識した方が良いと考えています
ABA自閉症療育におけるプロンプトフェイディング
プロンプトフェイディングは、
イラストの「ココ」と呼ばれるところを扱う手続きになります。
冒頭でも紹介しましたが「プロンプト」とは、
本来、自然に行動を引き起こすであろう「弁別刺激」があり、
そのような自然な「弁別刺激」に反応できないときに、反応できるよう付加する刺激が「プロンプト」
です。
「プロンプト」を日常的な言葉に言い換えるとすれば、適切な行動を引き起こすための「ヒント」と言い換えることができるでしょう。
ABAを使用しての自閉症療育においてO.Ivar Lovaas (2003) は、プロンプト依存を避けるために、指導者は全てのプロンプトを段階的に撤去しなければならない。
この過程をプロンプトフェーディングと言う。
プロンプトをフェーディングするには、その強さを弱くしていくと述べました。
「プロンプト依存」とは、出現して欲しい適切な行動も、プロンプトを使用した状況で練習することをあまりにも続けてしまうと、本来出現して欲しい場面でもプロンプトがなければ出現しなくなってしまう現象
と思ってください。
Raymond .G .Miltenberger (2001)はプロンプトの強さを「侵襲度(しんしゅうど)」という単位で表現しているのですが、私も後輩に対しては「プロンプトは、侵襲度を落としていってフェイディングしていく必要があるぞ」と教えています。
では、どうやってフェイディングをしていけば良いのでしょうか?
例えばShira Richman (2001) は本の中で「身体的プロンプト」という種類のプロンプトの、フェイディング手続きを紹介しています。
Shira Richman (2001) によれば身体的プロンプトとは、課題ができるように身体に触れて導くことです。
例えばバケツにブロックを入れることやお子さんがパズルができることを教えるケースを想像してください。
Shira Richman (2001) は子どもの手を取って導くのも、軽く肩を叩いてあげるのも身体的プロンプトであると述べています。
適切な行動を出現させるために、お子さんの身体に触れた場合は「身体的」プロンプト
と考えてもらって大丈夫です
Shira Richman (2001) が紹介した手続きを参考に、以下の内容をみていきましょう。
以下は着替えを1人でする場面です。
着替えをプロンプトフェイディングで教える
1.最初は身体的な誘導を多くし、プロンプトを多く入れ着替えることを練習する。お子さんがやり方を覚えてきたと感じてきたことに合わせて徐々に、お子さんをつかむ力を次第に緩めていきます
2.しばらくするとお子さんは必要なときにだけプロンプトを求めてくるようになるでしょう
3.やがて、お着替えをし続けるのを思い出させるときにだけ、肩をトントンと叩いてあげれば、十分1人でできるようになるでしょう
4.最終的にプロンプトはすべてなくされ、子どもはプロンプトがなくてもできるようになります
以上の例では、プロンプトの強さを徐々に減らしていき、最後は方をトントンと叩くという「今、やるんだよ」という合図だけが残っています。
最終的にはその合図さえなくなり、プロンプトフェイディングが完了しました。
Shira Richman (2001) が紹介している手続きに加えて、それぞれのフェイズで「強化子」をしっかりと提示することも大切です。
難しい言い方をすれば、プロンプトをフェイディングする手続きは、「弁別刺激」を少し似た状況に移行している手続きと言い換えることができるでしょう。
「(ABA自閉症療育の基礎41)オペラント条件付けー般化勾配(https://en-tomo.com/2020/09/20/generalization-gradient/)」
のページでは、
特に「プロンプトフェイディング」はこのページで見てきた、般化勾配を頭において行うべき支援方法だと私は考えています
と書きました。
もともと強化されていた状況に似た状況(プロンプトフェイディングを行う状況)では、般化勾配の原理から強化されていた行動が出現しやすくなります。
その般化勾配の原理で出現しやすくなった先行状況下において出現した行動を強化することによって、ターゲットとしている行動の般化が促進され、行動が拡大していくと私は考えている
のですが、かなり難しい言い方ですね。。。
シンプルに、
プロンプトフェイディング中はしっかりと強化する必要がある、
しっかりと強化しなければ、プロンプトフェイディングは上手くいかない可能性がある
と覚えておいてください。
私は基本的にはしっかりとプロンプトがフェイディングできてから、その後に強化子のリダクションを行っていけば良いと考えています。
強化子のリダクション
プロンプトフェイディングは
ABA自閉症療育において意識し、使用していく必要がありますが
常に行うのではなくお子さんへ行動を教えている段階段階で導入を考えます
さいごに
このページでは「強化子のリダクション」と「プロンプトフェイディング」について書いてきました。
「強化子のリダクション」とは島宗 理 (2019) から、
新しい行動を形成した後、その行動を維持するのに強化子の量を減らしたり、頻度や確立を減らしていく手続きをリダクションと呼び、臨床・実践ではよく行われている技法
のことでした。
「プロンプトフェイディング」とはこのページで解説をしてきた内容のように、
徐々に必要であったプロンプトの侵襲度(強さ)を弱くしていき、お子さんがプロンプトがなくても自分1人で適切な行動が達成できるように調整していく支援技法
と言えるでしょう。
次のページでは「プロンプト」の上手な出し方について紹介していきます。
【参考文献】
・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】
・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社