このページはイラストで言えば、
「ココ」と書かれているところの内容です。
「(ABA自閉症療育の基礎36)オペラント条件付けー弁別刺激の確立、エピソード(https://en-tomo.com/2020/09/06/aba-operant-stimulus-control-episode/)」
のページでは「弁別刺激(Discrimination Stimulus)」が日常の中で確立するエピソードについて紹介してきました。
「(ABA自閉症療育の基礎37)オペラント条件付けー弁別刺激「弁別学習」(https://en-tomo.com/2020/09/10/discrimination-learning/)」
のページでは、
特定の状況下では強化し、特定の状況下では強化しないということを繰り返すと、強化された特定の状況下は「弁別刺激」の意味を持つように確立され行動が制御されます。このことは「刺激性制御」の確立とも呼ばれる
と書きました。
このような「特定の状況下では強化し、特定の状況下では強化しないということを繰り返す手続き」は「弁別学習」と呼ばれます。
ページ内では「弁別学習」とは、
「りんご」をみて「りんご」と応える
「いちご」をみて「いちご」と応える
「ばなな」をみて「ばなな」と応える
という基本的な語彙の確立から、
「先生には敬語を使う」が、「友達には使わない」
「どこに行ってきたの?」と聞かれると「人名ではなく場所を答えられる」
「悲しそうなお友達がいたとき」に「悪口で追い討ちをかけるのではなく大丈夫?と聞く」
と言ったもう少し高度な意味合いを持つ、
特定の状況下での、適切(周りから受け入れられる、強化される)行動をも学ぶ学習といえると記載しました。
このページで紹介する「DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)」の手続きを用いれば、様々な「弁別学習」が可能です。
DTTについての詳しい解説はかなりボリューミーとなるためそれはまた別章で章立てるとして、このページでは簡単にDTTの解説を行っていきましょう。
ちなみに、過去にもいくつかDTTを紹介したページがあるのですが、主なものとしては
「(ABA自閉症療育のエビデンス6)EIBIの特徴とDTTの解説(https://en-tomo.com/2020/03/31/dtt/)」
「(ABA自閉症療育のエビデンス12)DTT VS PRT(https://en-tomo.com/2020/06/05/dtt-vs-prt/)」
があり、
上のURLページ内にはイラストが入りでDTTの例が記載されています。
「DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)」は
O.Ivar Lovaasの療育方法で使用されますが、
「(ABA自閉症療育のエビデンス5)EIBI(早期集中行動介入)のメタ分析(https://en-tomo.com/2020/03/30/eibi-metaanalysis/)」
で記載しましたが、エビデンスによって効果が示されています
※ ただし「(ABA自閉症療育のエビデンス7)EIBIに必要な要素と診断の課題点(https://en-tomo.com/2020/04/05/eibi-essence/)」
でも書いたようにエビデンスを発揮するためにはDTT以外の要素も絡んできます
このページ内ではDTTでの「弁別学習」支援として、
「りんご」をみて「りんご」と応える
「いちご」をみて「いちご」と応える
「ばなな」をみて「ばなな」と応える
方法について簡単に解説をしていきましょう。
ABA自閉症療育、DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)ー名称弁別トレーニング
まず最初に書くべきこととして自閉症のお子さん、発達に遅れのあるお子さんにABA療育を行う際、
お子さんの実年齢は関係なく、お子さんの「できること」に合わせて課題の方法を変えていく必要があります。
そのため今回のトレーニングの手続きが可能であるお子さんがどのようなお子さんとは、いったいどんなお子さんであるかについて最初に触れておく必要があるでしょう。
そのためこのページで書くお子さんは前提条件として、
無発語のお子さんに対してのDTTは「マッチング課題」や「受容課題」、「動作模倣」や「口型模倣」という方法がありますが、今回は「表出課題」を取り扱います。
「表出課題」とは基本的には「言葉で応え(表出し)てもらう課題」であり、課題の中で見えている選択肢の中から選ぶと言ったタイプでは無い課題です。
※「りんご」のカードを見せて文字で「りんご」と書いてもらう場合も、課題の中で見えている選択肢の中から選ぶと言ったタイプでは無い課題であるため私は「表出課題」だと捉えています
言葉で応える必要があるため、基本的には「発声」ができることが重要です。
そして扱う
「りんご」、「いちご」、「ばなな」は「3つの音」で構成されている単語ですので、3文字の「発声」ができることも大切でしょう。
また音の不明瞭さは大して重要ではありません。
例えば「りんご」を「いんお」、「いちご」を「いっこ」、「ばなな」を「あああ」と答えていても構いません。
本人が、特定の状況下(特定の弁別刺激の下)で言い分けられているかどうかが、支援者側が分かることが重要です。
発音の不明瞭さについては別のプログラムを用意し、例えば「音声模倣」の中で矯正していけば良いでしょう。
Shira Richman (2001) によれば「音声模倣」の練習は発音の矯正にもなります。
不明瞭さは重要ではありませんが、今回は支援者が「りんご」と言ったときにお子さんは「りんご」とおうむ返しできることを前提としましょう。
実際は「りんご」と言ったときにお子さんが「りんご」、とまでも言えなかったとしても「シェイピング」や「達成目標の変更」などの方法を使用すれば「表出課題」は実行できる課題です。
では上記のような条件で、以下「りんご」、「いちご」、「ばなな」の「弁別学習」を促す、「表出課題」を解説していきます。
ABA療育、DTT−表出課題の解説
今回はりんごの絵カードを使用してお子さんに見せ、そのカードをみて「りんご」と応えられることを最初に目指していきます。
現在、お子さんはりんごのカードを見せて「これなんだ?」と聞いても「りんご」とは答えないということにしましょう。
「りんごとは答えない」は「非行動」の表現であり「死人テスト」をパスしないため、ABA療育で扱う用語としてはあまり適切な表現とは言えません。
※ 死人テストについては「(ABA療育での行動の見方2)死人テスト・行動の過剰と不足(https://en-tomo.com/2020/06/29/behavior-view-base/)」を参照
実際はお子さんにりんごのカードを見せて「これなんだ?」と聞いて「りんご」と答えないシチュエーションでは、
(1)お子さんは別の答えを応える
(2)黙っている
(3)その場から立ち去る
などの、何かしらの行動をしています。
今回はお子さんにりんごのカードを見せて「これなんだ?」と聞いたシチュエーションではお子さんは「これなんだ?」とそのまま質問文をおうむ返しして来る、と言う設定で進めます。
上のイラストのような状況となっていますので、
のようにモデルを見せて「りんご」というように促します。
モデルを見て「りんご」と言えたその後、しっかりと褒めて強化してあげることが最大のポイントです。
強化することで「りんご」のカードを見て「りんご」と言える行動が増えていくことを狙います。
上のイラストのように「りんご」のカードを見て「りんご」と言えることが安定し、習得してきたとしましょう。
習得というのは私がABA療育を行うときは2日以上連続で出現する「正答率80パーセント以上」を基準としていますが、
O.Ivar Lovaas (2003) は比較的簡単な弁別課題においては、5回中5回の正答、10回中9回のプロンプト(※ ヒントのことと読み替えてください)無しでの正当を習得の基準と考えているようです。
このような習得基準については人によって違いがあるところだと思います。
話を戻して男の子が「りんご」のカードをみて「りんご」と言えるようになったら、次は「ばなな」のカードを見て「ばなな」と言えることを練習していきましょう。
「いちご」よりも「ばなな」を優先する理由がいくつかあります。
(1)色が異なっている。また、形も「りんごーいちご」よりも「りんごーばなな」の方が違いが大きい
(2)「りんご」の母音のみ発音すれば「いんお」、「いちご」も母音のみ発音すれば「いんお」と音が似ている。対して「ばなな」の母音のみの発音は「あああ」と異なる
などが大きなポイントでしょう。
DTTのセッティングに慣れていない場合は2番目に教えるものはできるだけ、最初に教えたものと異なっている方がお子さんも理解がしやすいです。
他にも「りんご」の次に別のターゲットを導入する際、「子どもが普段から接触している頻度が高い」や「子どもが好んでいる」などの条件も考慮して次に導入するターゲットは考えていきます。
いろいろな考慮点はあるのですが、今回は「りんご」の次に導入するものは「ばなな」にしましょう。
すると、
上のイラストのようなエラーが見られる可能性があるでしょう。
これは、目の前に(1)イラストが出てくる、もしくは(2)「これなんだ」と聞かれたときは「りんご」と答えることが強化されていることから生じている可能性があります。
カードを見せて名前を言う、そして強化される、というこのような学習セッティングから、お子さんが「とりあえずカードが出てきたらりんごと言う」という学習が成されている可能性があるからです。
そのため、
「りんご」のときと同じようにプロンプトを入れていき、「ばなな」のカードに対して「ばなな」と応えるように練習をしていきましょう。
連続して、安定して「ばなな」のカードを見て「ばなな」と答えられるようになったとき、
今までには無い山場が訪れます。。。
今まで学んだことは、
『りんごのカードを見たときは「りんご」という』
『ばななのカードを見たときは「ばなな」という』
というように見えるかもしれませんが、
ここまでやってきたことだけでは、
『りんごのカードを見たときは「りんご」という』練習を連続して行い、「りんご」と言えるようになった。
次に『ばななのカードを見たときは「ばなな」という』練習を連続して行い、「ばなな」と言えるようになった。
という事実だけであり、
例えば、
1施行目「りんご」
2施行目「ばなな」
3施行目「ばなな」
4施行目「りんご」
という施行で「りんご」と「ばなな」を交えて提示した場合に「言い分けられるようになった」とまでは言えません。
そのためこの次は「りんご」と「ばなな」を交えて提示し「言い分けられる」かどうかの確認です。
もしここで言い分けられない場合は、丁寧にここまでと同じようにプロンプトを用いて言い分けられるように練習をしていく必要があります。
この「りんご」と「ばなな」を交えて提示し「言い分けられた」とき、始めて「りんご」と「ばなな」の「弁別」が確立した可能性があると言えるのです。
例えばこのページで紹介したモデルプロンプトを入れて丁寧に練習をしていき、最終的に「りんご」と「ばなな」を交えて提示しても
『りんごのカードを見たときは「りんご」という』
『ばななのカードを見たときは「ばなな」という』
という結果を目指します。
同じように次の「いちご」についても、必要であれば丁寧にプロンプトを出していき「弁別」の確立を目指します。
プロンプトをABA療育で使用する場合は、
「プロンプトフェイディング(Prompt Fading)」というテクニックを使用していく必要があります
プロンプトフェイディングを含めた「プロンプト」についてはまた別のページで見ていきましょう!
最終的に「りんご」、「ばなな」、「いちご」の3枚のカードを交えてお子さんに提示したとしても、
『りんごのカードを見たときは「りんご」という』
『ばななのカードを見たときは「ばなな」という』
『いちごのカードを見たときは「いちご」という』
という結果が見られれば、
「DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)ー名称弁別トレーニング」
の名称弁別課題、初歩レベルの達成と言えるでしょう。
今回は「りんご」「いちご」「ばなな」を題材としましたが、
お子さんの興味のある「くるま」「ひこうき」「ふね」などの乗り物や、「ぼうし」「かばん」「こっぷ」などの身の回りのものでも構いません。
最初に課題は「くだもの」から導入しなければいけないとか、「のりもの」から導入しなければいけないなどの決まりはありません。
またこのページは冒頭に書いたように「弁別学習」として「弁別刺激」の解説ページではありますが、
上記の事例は「強化子」をしっかり提示したことが名前を言い分ける行動を達成できた1番のポイントであることは覚えておいてください。
このページで解説している「弁別刺激」の確立は行動を起こすことにとってとても大切ですが、
このブログで今まで書いてきたように
その「弁別刺激」の下での行動が増減するためには「強化子」が影響してくるのです
ABA療育、DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)の簡易解説
このページでは「DTT」の「名称弁別トレーニング」というものの、「くだもの」の範囲の初期課題を例として基本的な流れのみ解説をしてきました。
ブログ内では過去に「DTT」とは「はじまりとおわりが決まっているトレーニング」である。
と紹介しました。
これは、
DTTはお子さんに教えたいことに対し
(1)「キュー(指示など)」の下で
(2)お子さんが適切な行動をした、ことに対して
(3)強化子を提示することによって
(2)の「お子さんの適切な行動」の増加を狙う
という手続きからそう考えています。
DTTの他にもフリーオペラントというものがあるのですが、実はDTTとフリーオペラントは実験セッティングの違いです。
DTTとは例えば『(ABA自閉症療育の基礎18)オペラント条件付けの起源「効果の法則」(https://en-tomo.com/2020/08/11/law-of-effect/)』
で紹介したEdward L. Thorndikeの猫の実験箱の実験セットのような、
ヨーイドン、開始の合図があり、その合図の下での行動を測るセッティングがDTTです。
Edward L. Thorndikeが行った猫の実験箱は、猫が扉を開いたところ(開始の合図)から始まり、実験箱から出た(終了が決まっている)実験セッティングです。
このような実験セッティングの下で強化子を使用すれば、行動が強められることがわかっていたので療育場面に持ってきたという経緯があるのでしょう。
対してフリーオペラントの実験セットではB.F. Skinnerが行ったオペラントボックスという実験装置などが例としてあげられます。
それは例えば、箱の中にネズミを入れるのですが特に開始の合図などはなく、箱の中でネズミは自由に動けることがポイントです。
箱の中にはバーがあり、バーを押すと餌が出てきます。
このようなある程度の自由空間の中でも、ネズミの自発的行動は環境セット(バーと、バーによって出てくる餌(強化子))が整えられることで、行動を強化することが可能です。
ネズミはたまたま足が当たってバーを触ったことを契機に、お腹がすくとバーを押すために何の始まりの合図もないうちに、自分から餌を求めてバーを押すことでしょう。
このようなフリーオペラントのセッティングー基本的にはお子さんから自発された適切な行動を拾って強化する色を強めた療育方法があるのですが、これらは主に
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」
※ NBIについていくつか記事にしていますが、例えば「(自閉症ABA療育のエビデンス10)NBI(自然主義的行動療法)とDTTの対比(https://en-tomo.com/2020/06/04/dtt-nbi/)」を参照
や
「フリーオペラント法」(参考 佐久間 徹, 2013)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と呼ばれ、ABAの療育手法として活用されています。
「(自閉症ABA療育のエビデンス8)では、どうするか?(https://en-tomo.com/2020/06/01/that-way/)」
では、
お子さんが2歳以下であれば「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」を採用する
という持論を紹介しました
さいごに
DTTに関してもっと詳しく、具体的な例えば「プロンプトはX秒以内に入れるのが望ましい」、「子どもが正解したときにはX秒以内に強化子を提示しなければいけない」
などの考察はかなり長くなってしまうため今後、別でDTTの章を作って解説をしていくこととしましょう。
この章は「ABA自閉症療育で使う基礎理論」です。
一旦、題材を「弁別学習」に戻します。
次のページでは「弁別」と対の概念、「般化」についてのページです。
【参考文献】
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ 佐久間 徹 (2013) 広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法) 二瓶社
・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】