EIBIに必要な要素と診断の課題点(ABA自閉症療育のエビデンス7)

DTT以外のEIBIに必要なこと

先のページ「EIBIの特徴とDTTの解説(ABA自閉症療育のエビデンス6)(https://en-tomo.com/2020/03/31/dtt/)」では

「EIBI:Early Intensive Behavioral Intervention (早期集中行動介入)」でお子さんに物事を教えていく際に使用する、「DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)」についての記事を書いた。

このページではDTT以外のEIBI大切なエッセンスについて書いて行こうと思う。


「EIBI(早期集中行動介入)のメタ分析(ABA自閉症療育のエビデンス5)(https://en-tomo.com/2020/03/30/eibi-metaanalysis/)」のページで記載した

メタ分析のエビデンスが示す結果を鑑みても、もし「療育をしたいけれども、何を選択して良いのか分からない」場合は、Sigmund Eldevik (2009) が述べたように、「EIBIを選択することが無難」と言えるだろう。

2020年現在の個人的な総括としては、EIBIは概ね若い自閉症のお子さんに対してIQをはじめ、適応行動などについて良好な結果を示す


これは「O. Ivar Lovaas、1987年(ABA自閉症療育のエビデンス2)(https://en-tomo.com/2020/03/22/o-ivar-lovaas1987/)」

で紹介した、過去の自閉症児に対しての認識からすると大きな進歩である。

とは、言ってもこのページを読み終わる頃にあなたは以下のような顔になっているかもしれない。



EIBIって大変なのよ


このページを読めばEIBIが良いとわかったところで容易に選択・実装ができるものではないことがわかるだろう。

そのことをあえてこのページでは書いて行く。


あえて書く理由は「今わかっていることを知っている」ということが私は大切なことだと思っているからである。

「ここまでやれば良いのだ」ということが分かることにもなる。



EIBIに必要な要素

Katarzyna Chawarska・Ami Klin・Fred R .Volkmar (2008) National Research Council (2001)というものの内容から、自閉症児への効果的な介入要素は以下に集約できると述べている。

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・ 自閉症が疑われればただちに介入プログラムを開始すること

・ 最低週5日、1日5時間の集中的な訓練への能動的な参加

・ 短期間用に構成された計画的指導の機会の反復利用

・ 毎日、大人からの個別的配慮を受ける

・ 親の訓練を含む家族の力の統合

・ 進行中の評価と対応する計画作成の再調整の機構

・ 以下についての指導を優先させる(a)機能的、自発的コミュニケーション(b)各設定を通じて人と関わる教示(c)仲間との交流に焦点をあてた遊びのスキル(d)新しいスキルの保全と自然的状況への般化(e)問題行動に対する機能的評価と肯定的行動の支持

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※ ↑以上の意見はEIBIに対してと言うよりは、自閉症療育全体に対しての意見であることは注意


過去のページからEIBIを通してお子さんに物事を教えていく際に使用するDTTを使用することなどは述べたが、一旦ここで私の持っているEIBIのイメージを既出のKatarzyna Chawarska他 (2008) も参考に以下に記載する。

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(1)2ー3年の期間、介入を続ける

(2)1週間あたり25時間ー40時間程度の専門家による介入を行う

(3)最初は1対1の個別療育を行い、徐々に小集団、そしてクラス集団へと段階的に人数の多いグループへ入れていき、スキルが一般化するよう調節する

(4)プログラムはお子さんに対してそれぞれオーダーメイドで作成される

(5)幼児期の中でも比較的若いお子さんに対して研究を行っている

(6)親もABAの知識(主に学習理論について)を学び、専門家が関わらない時間は療育的関わりを行うことが推奨される

(7)IQ、言葉、適応行動、教育的配置(進学時のクラス配置)を結果として扱っていることが多い

※ 加えて研究でIQなどについてカットオフ(IQがX点以下のお子さんは研究参加させないなど)基準を設けていることも多い。

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過去の文献から、EIBIで効果を出すための要素について私は上記のようなイメージを持っている。

上記の内容を見て療育時間数が莫大でかなり大変なように感じたかもしれない。



大変なEIBIの効果は絶対か?

内容をみて「ちょっと待って!」と思った人も多いだろう。

まず「2年から3年間。それも1週間に25時間から40時間も専門家からの介入を受ける」と言われると腰が引ける

例えば上記の内容に沿う1週間の介入時間を提供してくれる公的機関は日本にはないと思う。


では、民間の療育機関なら?

民間の場合可能かもしれないが私の感覚ではABA療育を1週間に25時間受けたとすると費用は少なくとも週に10万円以上かかってくると思う。月に少なく見積もって50万円前後はかかるだろう。

その費用を払えるご家庭がどれほどあるのかに加えこの章を読むまでの中で伝わっていたかもしれないが、そこまでしても100%のお子さんが「最良の結果」を得られるわけではなく、50%の結果で大成功と言われる。


例えばSigmund Eldevik・Richard P. Hastings・Erik Jahr・J. Carl Hughes (2012)は、お子さんをEIBIと地域の療育を受けるグループに分けて準実験を行った。研究では2年間EIBI受けた31人の子どものうち6人(19.4%)がIQにおいて有意な変化をもたらしたと報告した。

Sigmund Eldevik他 (2012) の研究では2年間行って20パーセントの割合のお子さんにも満ていない。こういった研究結果もある。

このようにEIBIを行った全ての研究で約半数のお子さんが最大の利益を得たわけでもない。


「数年間、EIBIを行うことで50パーセント」を全ての研究が保証してくれるわけではないので、そもそもMAXで50パーセントなのでお金をかければ絶対に解決するものでもない。

現状EIBIはたくさんのエビデンスがあり、現代において最良の療育である可能性は高いが、それを保証してくれるものはあなたに安心を与えてくれるというレベルまでには至っていないかもしれない。



診断における課題点

未来、以上の課題が解決されることを願うが、もう1点タイトルにある日本における診断の課題点も述べておこう。

上のオレンジ色で書いたところでも記載したがEIBIは「比較的若い年齢のお子さんに対して研究を行っている」ことは知っておこう。


この点について、「若いお子さん」と言ってもそもそも日本で「早期の診断が可能なのか?」と疑問を持っている。

年齢について例えばHelen E .Flanagan・Adrienne Perry・Nancy L .Freeman (2012) は重回帰分析という統計手法を用い、療育開始年齢の早さが良い結果の重要な予測因子である可能性があることを述べた。

この他の様々な論文でも書かれているがABA療育ではできるだけ早い時期に療育を開始できることが「最大の利益」を得る1つの要因であると考えられる傾向がある。


誤解を招かないように書いておくが小学生や大人に対してのABAを使った支援が効果がないと言うわけではない。

むしろ問題行動の改善などに力を発揮する。

しかし小学生や大人に対して「IQを上げる」などを目的に行われている研究は私は見たことがない。


このような背景があり介入の効果研究だけでなく早期診断の研究も行われている

Brian A. Boyd・Samuel L. Odom・Betsy P. Humphreys・Ann M. Sam (2010)によれば、生後2年の間に自閉症の子供を特定する見込みは過去数年よりも有望になってきている。

Katarzyna Chawarska他 (2008) 2歳までに自閉症児を特定する証拠が数多く集まりつつあると述べている

約10年前の文献(現在2020年)でもかなり早い段階での診断可能性について書かれている。


早期診断・早期療育で例えば近年Lynn Kern Koegel・Anjileen K. Singh・Robert L. Koegel・Jessica R. Hollingsworth・Jessica Bradshaw (2014)生後4、7、および9ヶ月の3人の自閉症の可能性がある子どもに対しABA介入を行った

※ この研究はABAベースの介入を行ったがEIBIとは違うABAベース介入を行っている

Lynn Kern Koegel他 (2014) の研究ではお子さんに感情や社会的な関心、目を合わせることや名前への反応に対し介入を行ったところ効果が示された。

海外では上記文献のように1歳未満のお子さんに対して介入を行ったものもあるのだ。


私は多くのお子さんと触れるが2歳未満で療育を受けに来るお子さんはかなり少ない。

また2歳未満のお子さんが療育を受けにきたとしても「どのような介入」を行えば良いか戸惑う専門家も多いように思う。

私は2歳未満のお子さんからニーズがあった場合はLynn Kern Koegel他 (2014) が行ったように「目を合わせる行動」「お子さんから他社へ自発的に接近する行動」などをターゲットに支援し、他には「簡単なものの名前」や「月齢によっては簡単な初語の促進」などを教えるようにしている。



診断の違い

そもそも日本と海外では「診断の仕方」が違う可能性がある。

例えば自閉症診断についてBrian A. Boyd他 (2010) は自閉症の診断におけるゴールドスタンダードとして「ADOS:Autism Diagnostic Observation Schedule Second Edition(自閉症診断観察スケジュール)」という検査を紹介している。

「ADOS」は海外の様々な研究に出てくるもので「自閉症症状の度合い」を測るため使用されている。

しかし私は一度もADOSを受けた子どもの所見をみたことがない。

※ 「ADOS」については日本語版が販売されていることは確認できた

※ 私は日本で10年以上ABA療育を行ってきているが受けたことがあるお子さんを知らない


私は病院で働いているわけではないので、実は日常的にADOSは行われていて、実際に私の元にやってくるお子さんもADOSを受けているものの、親御様は受けた検査名を知らないので私も受けたことを知らない、という可能性は否定できないが、

専門機関から渡される所見は地域によって多少差はあるが「田中ビネー知能検査」というIQを測った検査結果がほとんどである。

上記のように海外では早期の診断を可能にするための研究があるが研究で使用されているツールと日本で診断をする際に用いているツールに違いがある可能性があり「日本でも早期診断は可能なのか?」という疑問は残る



EIBIは2020年現在、かなり硬いエビデンスを確立している。

そのため決して無視ができない療育方法である。


本内容は「うわ、大変だ」と思われた内容かもしれないが、次のページで、「では個人的にはどのように何を実践していけば良いと考えているか」について書いて行こう。



【参考文献】

・ Brian A. Boyd・Samuel L. Odom・Betsy P. Humphreys・Ann M. Sam (2010) Infants and Toddlers With Autism Spectrum Disorder: Early Identification and Early Intervention. Journal of Early Intervention Vol 32 Number2 March p75-98

・ Helen E .Flanagan・Adrienne Perry・Nancy L .Freeman (2012) Effectiveness of large-scale community-based Intensive Behavioral Intervention: A waitlist comparison study exploring outcomes and predictors. Research in Autism Spectrum Disorders 6 p673–682

・ Katarzyna Chawarska・Ami Klin・Fred R .Volkmar (2008) AUTISM SPECTRUM DISORDER IN INFANT AND TODDLERS:Diagnosis, Assessment, and Treatment 【邦訳: 竹内 謙彰・荒木 穂積 (2010) 乳幼児期の自閉症スペクトラム障害 診断・アセスメント・療育 ,クリエイツかもがわ】

・ Lynn Kern Koegel・Anjileen K. Singh・Robert L. Koegel・Jessica R. Hollingsworth・Jessica Bradshaw (2014) Assessing and Improving Early Social Engagement in Infants. Journal of Positive Behavior Interventions Apr; 16(2) p69–80.

・ Sigmund Eldevik・Richard P. Hastings and J. Carl Hughes・Erik Jahr・Svein Eikeseth・Scott Cross (2009)Meta-Analysis of Early Intensive Behavioral Intervention for Children With Autism. Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology, 38(3) p439–450

・ Sigmund Eldevik・Richard P. Hastings・Erik Jahr・J. Carl Hughes (2012) Outcomes of Behavioral Intervention for Children with Autism in Mainstream Pre-School Settings. Journal of Autism and Developmental Disorders 42 p210–220