PRTの改良版PRISM
Ty W. Vernon・Anahita N. Holden・Amy C. Barrett・Jessica Bradshaw・Jordan A. Ko・Elizabeth S. McGarry・Erin J. Horowitz・Daina M. Tagavi・Tamsin C. German (2019) は「PRT」を強化した
「PRISM(Pivotal Response Intervention for Social Motivation:社会的モチベーションを重視する基軸反応訓練)」
という手法のRCTを行った。
この研究はRCTの研究なので研究ヒエラルキーは低いとはいえないものの「パイロットテスト」と呼ばれるものとなる。「パイロットテスト」とは将来予定している大規模研究のため、試験的に行われた研究である。
「PRISM」という用語はこの文献で初めて目にした。
この研究は2019年に発表されたかなり新しいものであり「PRISM」はこれから研究が積み重ねられることが期待される。
PRISMの研究
Ty W. Vernon他 (2019) の研究は18ヶ月から56ヶ月までの23人の子どもを12人の介入グループ(実際には14人いたが、2人は研究の途中で離脱)と、11人の対照グループにランダムに振り分けたRCTの研究である。
対照グループの11人はウエィティングリストのグループで、先に介入グループの12人が介入を終えたのち介入を受ける、いわゆる「介入待ち」のグループであった。
PRISMグループは6カ月(26週間)、1週間10時間の介入が行われた。10時間の内訳は専門家が1対1で8時間介入し、加えて子どもがいる状況で行う2時間のペアレントトレーニングであった。
研究の結果「PRISM」は「IQ」、「自閉症症状の重症度」、「コミュニケーション」などにおいて、対照グループよりも有意に良い結果を得たことがわかった。
ただしこの研究は「PRISM」と「PRT」を直接比較した研究ではないため「PRISM」が「PRT」よりも優れているという内容と違うことは注意しよう。
「PRISM」は従来のPRTを基盤として作成されている。
Ty W. Vernon他 (2019) によれば従来PRTでは以下の表のように支援を行ってきた。
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(1)大人がキューを出して子どもの行動を促す、もしくは強化子を使って子どもを誘う
(2)大人は子どもが言葉で何か要求する試みるのを待った
(3)大人は子どもが言葉の使用を試みたことに対し、モチベーションを引き出すため、子どもが非常に好むおもちゃなどの強化子を使用した
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彼らによればPRTでは子どもの学習機会が訪れたとき、大人は子どもの目的へのアクセス、例えば「欲しいおもちゃ」や「やりたい遊び」について提供する役割を担う必要があるが従来のPRTではその中で特に遊び心、魅力、子どもを感情的に刺激する必要性は述べられていない。
彼らは指導が上手い人たちは、それらを刺激することをPRTの中で意識していると述べた。
PRTが上手な人の特徴
私の解釈も加え研究内で記載されている「上手い人がPRTの中で行っている内容」について表を作成した。
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非随伴性曝露(Noncontingent Exposure)
従来のPRTでは、子どもが行動をしたのちに子どもの興味を引く活動を強化子としてしようした。しかし、上手い人は、子どもの行動と関係なく突然、子どもの興味を惹く活動を行うことがある。こういった場面は新しい活動を生むことがあり、必要である。
良質の影響を与える(High Affect Bids)
子どもが活動へ関心を示したり関わってきた時、上手い人は強化子と共に肯定的な表情(笑顔)や笑い声も一緒に与える。例えば、子どもが行動した時、大人は子どもの反応の真似することもあるが、その際に遊び心のある、母親のような声で真似をする。
このことは、子どもの社会的な関与を促進し、社会的なことに反応する可能性を高めるために必要である。
強化子となる社会的活動(Social Reinforcement Activity)
上手い人は、子どもが行動をしたのちに与えられる子どもの興味を引く活動(強化子)は、大人を必要とし、大人とのやりとりが不可欠な要素になるように課題設定をする。
このような継続的な関わりは、子どものコミュニケーションスキルを高めるだけでなく、子どもと支援者との社会的な絆を築く上でも必要である。
強化子となる社会的活動の展開(Development of Social Reinforcement Activities)
療育を開始する前、支援者は両親へのインタビューや子どもの観察から子どもの好みを探る。
自閉症児が好むことは社会的な関わりがなくても達成されることが多い。例えば、おもちゃから出る音を1人で楽しんだり、水遊びを1人で楽しんだりする。
関わり上手い人は、子どもが音の出るおもちゃが好きとわかればその音を模倣する。また、水遊びが好きならば、水の掛け合いを楽しむ。このように子どもが興味を持っている活動に対して、自分が関わることで成立する内容を盛り込む。
このような関わりは、社会的な関心・関与をし立てるためにこのような戦略は必要である。
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※「非随伴性曝露」、「良質の影響を与える」、「強化子となる社会的活動」、「強化子となる社会的活動の展開」について私は日本語の書籍では目にしたことがなかったため、これらのタイトルは私の私訳である。もしかすると、別の名称があるかもしれないと思い、括弧書きで原文の英語も記載している
PRTを通しての療育が上手い人は意図的に上記の表にある内容のことに気をつけ療育を行っているようである
この研究で示されているお子さんとの関わり方については私自身も確かに大切なエッセンスであると思った
この研究で示されている内容は、個人的にはPRTだけでなく、DTT(EIBI)でも使えるテクニックだし、多分ABA療育以外でも有用なものであろう
彼らは研究の最後に自閉症児の社会的な関与に対するモチベーションを伸ばすことが、発達促進の主な要因であると思われる。早期介入は自閉症児が社会的な関与に対してのモチベーションをターゲットにすることが、おそらく主な目的となると述べ研究を締め括っている。
私の印象としてはPRISMは、従来PRTを行なってきた中で「上手い療育者」が行なっていたエッセンスを文章化し、PRTの手続きに取り入れた内容である。
PRTのエビデンスに対しての総評
PRTは確固たるエビデンスの確立は保証されているとは言えないと思う。
それは「準実験/RCT /メタ分析/系統的レビューの解説(ABA自閉症療育のエビデンス4)(https://en-tomo.com/2020/03/28/hierarchy-2/)」
で紹介したが現代エビデンスの最高峰の「メタ分析」がない。
私の知る限り「メタ分析」を使用して療育効果を示してきた方法はEIBIがかなり多い。
示されてきた研究実績からみればPRTよりもEIBIの方がエビデンスの確証が強い。
ただ個人的な見解になるが「ABAの基礎から理論的に考えればDTTよりもPRTの方がお子さんにものを教えていく際に理にかなっている」と思う。
ただしもちろんPRTよりもDTTの方が適しているお子さんもいる。
私はABAの理論的にはEIBIよりもPRTの方が理にかなっていると思うのだがPRTではなぜかEIBIのようなメタ分析が少ない。
※というより、EIBIが行っているような王道のメタ分析が1つも確認できなかった(2020年6月7日)。
PRTのメタ分析が少ない(ほぼ無い)理由の1つとしてはPRTはEIBIと違ってSCD(シングルケーススタディ)でエビデンスを蓄積してきた歴史があるからだろう。
SCDはグループを比較して分析する研究方法とは違ってもっと個人に焦点を絞った研究手法である。
EIBIはSCDではなく「O. Ivar Lovaas、1987年(ABA自閉症療育のエビデンス2)(https://en-tomo.com/2020/03/22/o-ivar-lovaas1987/)」
で紹介したLovaasの系譜を受け継いだからなのかグループ比較研究が多かった印象がある。
PRTではEIBIのような1週間25時間、それを2-3年続けたという研究がなかなか見当たらない。
本音を言えばもっと直接的にEIBIとPRTで2-3年療育を続けて直接効果を比較した研究があってくれた方が「どちらが効果がるのか?」がハッキリするのにそのような研究は見当たらない(2020年6月7日現在)。
※効果的なEIBIの条件は
「EIBIに必要な要素と診断の課題点(ABA自閉症療育のエビデンス7)(https://en-tomo.com/2020/04/05/eibi-essence/)」を参照
またこれら双方の研究を見比べる中で混乱する1つの内容として、EIBIとPRTの比較で言えば例えばEIBIは「IQ」の伸びを見て「効果あり」と結論づけPRTは「話す時に使用した文の量」を見て「効果あり」と結論づけたりと、効果を示す尺度が違うことが度々ある。
これらは研究背景を考慮すれば一概に悪いこととは言わないが研究結果を参考にして療育方法選択する私たちからすれば、もう少しわかり易ければ良いのにと思う。
「療育で効果があるのは?」と親御様が求めた時「IQを伸ばしたければEIBI」、「発語を伸ばしたければPRT」などそういった選択は頭を抱えるだろう?
「PRTのエビデンス(ABA自閉症療育のエビデンス11)(https://en-tomo.com/2020/06/05/prt-evidence/)」
「DTT VS PRT(ABA自閉症療育のエビデンス12)(https://en-tomo.com/2020/06/05/dtt-vs-prt/)」
「PRTについて(ABA自閉症療育のエビデンス13)(https://en-tomo.com/2020/06/06/that-prt/)」
からPRTについて紹介しここまで読んでもらいざっくりとかもしれないがPRTとはどういったものが伝わっていれば嬉しい。
PRTは
「NBI(自然主義的行動療法)とDTTの対比(ABA自閉症療育のエビデンス10)(https://en-tomo.com/2020/06/04/dtt-nbi/)」
で紹介したように、「NBI(自然主義的行動療法)」と呼ばれる療育方法の王道となるABA自閉症療育手法である。
次のページではPRTについて最後、研究を1本紹介する。
「PRTのRCT」の研究であり「PRTとPECS(ペクス)」を比較した研究である。
PECS(ペクス)は「絵カード交換式コミュニケーションシステム」と呼ばれ日本でも割りかしメジャーな療育方法であると思われる。
【参考文献】
・ Ty W. Vernon・Anahita N. Holden・Amy C. Barrett・Jessica Bradshaw・Jordan A. Ko・Elizabeth S. McGarry・Erin J. Horowitz・Daina M. Tagavi・Tamsin C. German
(2019)A Pilot Randomized Clinical Trial of an Enhanced Pivotal Response Treatment Approach for Young Children with Autism- The PRISM Model. Journal of autism and developmental disorders, 49(6)