DTTを他の人にもお子様の課題をやってもらい「般化訓練」するー「般化勾配」から考察、「クレバーハンス」にも気をつける(ABA自閉症療育テクニック20)

本日ご紹介したい内容はお子様へ課題を行うとき、般化に関わる内容です。

Shira Richman (2001) は般化について、

般化とは直接教えていない様々な場面や状況、人に応じて適切な行動を示すこと。また、教えられた型どおりではない応答を示すこと

と述べています。


ABA自閉症療育では般化は重要なテーマの1つです。

あなたがお子様へ何か課題を通して教えるとき、それはきっとあなたの前だけでできてくれることを望んでいる、ということは無いでしょう。

あなたの前で学んだ知識・スキルを、あなた以外の大人や同年齢の人に対して使用し、社会の中で教えたことが機能して行くことを望んでいると思います。


今日はABA自閉症療育でお子様に課題を行っている方は、是非、

他の人にもお子様の課題をやってもらい、自分以外の人でもできるかどうか確かめる

というフェイズを入れてみることをお勧めしたい、という意図で書いているブログページです。


他の人にもお子様の課題をやってもらい、自分以外の人でもできるかどうか確かめることについて見ていきましょう

Enせんせい

この「般化」のテーマはABA自閉症療育で教えたスキル全般に言えることではある(ABAで何を支援するにしてもテーマとなる)のですが、

かなり広範囲となってしまうため本日は範囲を絞ります


今回はABA自閉症療育でもメジャーな療育手法である、

「DTT:discrete trial teaching(離散型試行訓練)」(以下、DTT)

をテーマとして般化について書いて行きましょう。


これまで本ブログの他のページでDTTを扱ってきましたが、本ブログページでDTTという言葉について初見の方もいらっしゃると思いますので最初、簡易的にDTTについて説明をさせてください。



DTTについて簡易的な説明

山本 淳一他(2016) を参考にすれば、

DTTは一元的なカリキュラムの下で明確な指示の提示があり、お子さんが行動をした後に強力な強化子(お子さんにとって価値を持つ結果)を伴わます。


またDTTについて日本行動分析学会 (2019) は、


(1)弁別刺激を与え

(2)正反応をプロンプトし条件的に強化するまでを1試行とし

(3)1拍おいてすぐに次の弁別刺激を出し2試行目を教える


を次々に繰り返す循環的方法と述べました。


以上の内容はDTTを説明した内容ではあるのですが、簡単な例を出せば、


・ 3枚のカードを目の前に示し、選択して欲しいカードの名前を言い、そのカードを取ることができたとき褒められる(強化される)

・ カードをお子様に提示し「これ何?」などと聞き、正しく正答できた場合、褒められる(強化される)


カードをお子様に提示し「これ何?」などと聞き、正しく正答できた場合、褒められる課題

上のイラストは「3枚のカードを目の前に示し、選択して欲しいカードの名前を言い、そのカードを取ることができたとき褒められる(強化される)」の例です。


少し自閉症児の療育を行なったことがある人は、このような形式の課題を見たりやったことある人もいるのではないでしょうか?

ABA自閉症療育以外にもST(言語聴覚士)の先生もこのような課題をされたりしているようです。


また「カードをお子様に提示し「これ何?」などと聞き、正しく正答できた場合、褒められる(強化される)」の例は以下のイラストのような課題となります。

支援者側が「これ何?」と聞いてお子様が「りんご」と答えていますね。


カードをお子様に提示し「これ何?」などと聞き、正しく正答できた場合、褒められる課題

但し上記の山本 淳一他(2016) や日本行動分析学会 (2019) の言っているようにあくまでDTTとは彼らの言っている教え方を指しているため、上記で出した2例のような、

「カードを使った学習 = DTTである」、という覚え方はしないようにしましょう。

あくまでカードを使った学習はDTTのメジャーな方法の1つであるもののDTTの一部である、という認識でいてください。


さて本ブログページではもしあなたがお子様に課題を行っている場合、是非、

他の人にもお子様の課題をやってもらい、自分以外の人でもできるかどうか確かめる

というフェイズを入れてみることをお勧めしたい、という内容を上記でご紹介したDTTを参考に考えてみましょう。



DTTで他の人にもお子様の課題をやってもらい、自分以外の人でもできるかどうか確かめる

Enせんせい

DTTを実践するとき、可能であればあなたの前でできたことをあなた以外の人の前でもできるかどうか確認する、

というフェイズを入れることをお勧めします


もしあなたがお子様に「りんご(名詞)」や「座っている(動詞)」、「飲むもの(ものの用途:コップ)」を教え、

その後、園の先生の前で「これ、りんご」やコップを見て「飲むもの」という場面が既に観察されるようであれば今回ご紹介するテーマは必要はないようにも思いますが、

もしそうでない場合は他の人にやってもらうということの実践も視野に入れましょう。

特に発語の発達がゆっくりで言葉があまり出ていないお子様の場合は他の人にもお子様の課題をやってもらい、自分以外の人でもできるかどうか確かめるフェイズを入れる必要性は高いと感じています。


例えばあなたが数字のカードを3枚並べ「1」「2」「3」を並べたとしましょう。

あなたの前で「1」「2」「3」が取り分けられるようになったとします。

「1」「2」「3」をランダムに取り分ける課題を2日間に10回やって、間違えることが1回、多くとも2回までであれば(正答率80パーセントが2日連続で続く)「わかって取り分けている確率は高い」と考えても良いでしょう。


その後、もし他の人にやってもらってできないことが確認できた場合、これは「般化していない」と言えるのですが、専門的にこのことを言い換えると、

般化していない = あなたとのお勉強以外の別の弁別刺激のもとでは行動が生起しない

と言い換えられます。


今、ここで「他の人にやってもらう」ことの話をしていますが、他の人でなくとも「他の場所でやってみる」なども有効です。

ポイントは普段できているときと別の環境で行ってみる

がポイントとなるでしょう。


Enせんせい

もしあなたの前でできても、他の人の前でできないとなればそれはいろいろな原因が考えられます


例えば、


・ 数字を言う速さが違う

・ 声色やイントネーションが違う

・ お子様にカードを見せてから、取って欲しいカードの名前を言うタイミングが違う

・ あなたの前では緊張しないが、他の人の前では緊張してしまい、相手の話が耳に入りにくい


などです。


一旦、ここで考えて欲しいのですが、もし他の人の前でできないとなった場合、そのとき課題を行なってくれた「他の人」はわざとお子様ができないように意地悪な言い方をしたでしょうか?

普通に考えれば、お子様ができるように課題を実施してくれようとする人がほとんどだと思います。

もし他の人がお子様ができるように課題を実施してくれた上で、お子様がその課題に正答できなかったとすれば?

社会の中で今、あなたが教えている知識やスキルが上手く発揮される確率は低いと言えるかもしれません。


「他の人」以外に「場所」が違っても同じことが言えると思います。

例えば行う人は同じあなたであるものの、普段とは違う部屋でDTTを実施したとしましょう。

すると、普段できている課題が上手にできませんでした。


これも同じようにいろいろな原因が考えられると思いますが、例えば、


・ いつも遊んでいるおもちゃが目に入ってそちらに注意が移ってしまう

・ その部屋はいつもお勉強している部屋とくらべると壁が薄く、雑音が入って注意散漫になってしまった

・ その部屋はいつもお勉強している部屋とくらべると照明が暗く集中ができなかった

・ その部屋はいつもお勉強している部屋とくらべると寒く、集中ができなかった

・ 普段とは違う部屋でのお勉強で緊張し、話が耳に入りにくい


などが考えられると思います。


Enせんせい

人が違ったときと同じようにやはり、社会の中で今、あなたが教えている知識やスキルを上手く発揮できる確率は低いかもしれません


ここまでを踏まえて、では、どのように考え対応をしていけば良いのでしょうか?

まずどのように考えれば良いのかについて書いて行きます。



般化していない、別の弁別刺激のもとでは行動が生起しないとは?

ここまで書いてきた内容について上で、このことを専門的な言い方をしたとすれば、

般化していない = あなたとのお勉強以外の別の弁別刺激のもとでは行動が生起しない

と言える、と書きました。


私は般化と弁別は対義語だと個人的には思っているのですが、

そもそも「般化や弁別とは何なのか?」そしてどのようにして「弁別されていたものが般化」し、「般化していたものが弁別されて行く」のでしょう?

このテーマについては「(ABA自閉症療育の基礎36)オペラント条件付けー弁別刺激の確立、エピソード(https://en-tomo.com/2020/09/06/aba-operant-stimulus-control-episode/)」には分かりやすい日常の中で確立されるエピソードを書いていますのでそちらもご参照いただきたいです。


「(ABA自閉症療育の基礎36)オペラント条件付けー弁別刺激の確立、エピソード」のサムネイル

また「般化勾配(はんかこうばい)」という考え方を知っていることも有用だと思います。

般化勾配についてのブログページは「(ABA自閉症療育の基礎41)オペラント条件付けー般化勾配(https://en-tomo.com/2020/09/20/generalization-gradient/)」をご参照いただきたいです。

特に本ブログページの内容で言えば「般化勾配」のことを知っていることが有用でしょう。


「般化勾配」について上の「(ABA自閉症療育の基礎41)オペラント条件付けー般化勾配」のページではGeorge S. Reynolds(1961) の行った実験から解説を行っています。

George S. Reynolds(1961) は4匹のハトデカントという装置を使って般化勾配の実験を行いました。

本ブログページでもGeorge S. Reynolds(1961) の行った実験を簡単にご紹介しましょう。


George S. Reynolds(1961) の実験で使われたでカントのイラスト

上のイラストがデカントという装置のイラストです。

イラストの中に説明書きがありますが、360度の角度を10等分に分け、それぞれに1から10までの値を振り分け、特定の値のとき、ハトがキーを突くと餌が出るような実験装置を作りました。


「強化勾配」を調べる手続きは、

「1」と「10」の2つの値にデカントが位置しているときにハトがキーを突くと強化(エサが出る)され、

残りの8つの値ではキーをつついても消去(餌が出てこない)されるという手続きでした。


このような実験を行った結果、デカントで強化された値から遠ざかれば遠ざかるほど、ハトのキー突き行動は減少して行きました。


George S. Reynolds(1961) の実験結果

坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) はある刺激の物理的特性のもとで反応を強化した場合、その特性から遠ざかるに従って反応率が規則的に減少するが、その反応率の変化に従って現れる勾配を、般化勾配と呼んでいると述べています。


George S. Reynolds(1961) の行った実験でも、

強化された状況(「1」と「10」の値)から離れれば離れるほど、強化子を取りに来る行動(この場合は、ハトのキー突き行動)が減少していることがわかりました。


つまり「般化勾配」の実験から分かることは、

強化されている状況に似ている状況の下では、行動が出現しやすい

※ これが弁別刺激の確立とも言える

ということです。


ではここまでを踏まえ、どのように対応すれば良いのかについて考えて行きましょう。



必要に応じてどう般化訓練をするか?ー「同じ方法でやる」「般化勾配から考察する」

ここまでの内容を見てもらってどのように般化訓練をするかの方法をご紹介します。


Enせんせい

例えばあなたの前でお子様ができていて、他の人の前でできない場合を考えてみましょう


もしあなたの前でも練習を通して得ることができた知識やスキルが他の人の前でできない場合、可能であれば他の人にも練習をしてもらい、その人の前でも知識やスキルが発揮できることを狙って行きましょう。

このとき、方法はあなたが行なった方法をやって欲しい人に伝え、同じようにやってもらう

ということで大丈夫です。

この場合、ほとんどはあなたと練習をして知識やスキルを獲得するまでに必要だった期間よりも、より短い期間でお子様はやって欲しい人の前で知識やスキルを使用することが可能になるでしょう。

理由はあなたが行なった課題とやって欲しい人が行なってくれた課題は同じものだからです。

あなたが行なった方法でやって欲しい人は行ってくれているので弁別刺激がにています(般化勾配からスキルが般化しやすい)。


般化勾配からスキルが般化しやすいとは言ってもその環境間には些細な違いも存在するのですが(そのためエラーも生じる)、

正しくパフォーマンスを出したことが強化される中で些細な違いも修正がされ、些細な違いがある環境でも知識やスキルをお子様が発揮できるようになるでしょう。

そしてそのことにより、お子様がまた別の環境でも知識やスキルを発揮してくれる可能性が高まって行くのです。

このように別の環境(社会)でも知識やスキルを発揮してくれる可能性が高まることは般化訓練の持つ大きな意味だと言えます。


さて、上のように「方法はあなたが行なった方法をやって欲しい人に伝え、同じようにやってもらう」ことで目的の課題に対しての般化訓練が達成できれば良いのですが、何日か行ってもなかなか上手くいかないこともあるでしょう。

そういったとき、何か現状を解決するようなアイディアやコツはあるでしょうか?

このようなときも上でご紹介したGeorge S. Reynolds(1961) の般化勾配が参考となります。


「般化勾配」を参考とするとき、実は肝となる内容の一つは、

お子様はあなたの前(もしくはあなたと特定の部屋)ではできている

という事実です。


なかなか上手く行かないときの何か現状を解決するようなアイディアやコツは?

George S. Reynolds(1961) の行った実験を参考にするのであれば、

他の人がやったときできなかったとすれば、あなたがやっているときとできるだけ刺激を寄せるようにしてみてください。

できるだけ刺激を寄せるというのは例えば上で書いた例では、例えば以下のような方法を最初実施するようにしてみましょう。


・ 数字を言う速さが違う

・ 声色やイントネーションが違う

・ お子様にカードを見せてから、取って欲しいカードの名前を言うタイミングが違う

→→ 上の3つはあなたの言い方に寄せた言い方で言ってもらい課題を実行してもらう


・ あなたの前では緊張しないが、他の人の前では緊張してしまい、相手の話が耳に入らない

→→ あなたの前で行った課題よりも簡単な課題から始め、徐々に数日かけてでも良いので慣れてきたタイミングであなたの前で行なってできて、他の人の前でもできるようになって欲しかった課題に挑戦する。他にもあなたも一緒にその場にいて一緒に課題に取り組む


などは対応策と言えるでしょう。


なぜならGeorge S. Reynolds(1961) の行った「般化勾配」実験から教わったことは、

強化されている状況に似ている状況の下では、行動が出現しやすい

ということでした。

上の3つでは「言い方」が似ていて、一番下のものは「緊張の度合い」が似ている状況と言えるでしょう。


いくつかパターンがあります

しかし、

もしここまでをみていて「何か教えるたび、いつもいつも他の人にやってもらって課題に慣れないと社会の中で知識やスキルが発揮できないとすれば、それはしんどいよ!」と思われた方もいるかもしれません。


ご意見

結局、でもいつもいつも他の人にやってもらわないと課題に慣れないで社会の中で知識やスキルが発揮できないならそれはしんどい・・・


それは事実かもしれません。

もし1つこの状況に対してポジティブに回答をするとすれば、ここまでのブログページ内でも出てきましたが上で書いた、


この場合、ほとんどはあなたと練習をして知識やスキルを獲得するまでに必要だった期間よりも、

より短い期間でお子様はやって欲しい人の前で知識やスキルを使用することが可能になると思います


という内容を書きました。


般化訓練を重ねていけば理論上、これも上で書いた内容ですが、

あなたが行なった課題とやって欲しい人が行なってくれた課題は同じものですので、その環境間にある些細な違いが修正されるということが生じます。


1回、1つの課題の般化訓練だけで次回から他の課題でも般化が効くようになる、というほどすぐに促進されるものではないとは思いますが、

これから教える課題においてもその些細な違いを織り込んで学習してくれる確率は般化訓練を通すことで高まって行くことを期待して良いでしょう。

これはだんだんと他の人にやってもらわないでも課題に慣れる中で社会の中で知識やスキルを発揮できるようになるということです。

そのため般化訓練も可能であれば繰り返し、いろいろな課題でトライして欲しいと思います。


またもしここまでをみていて「自分以外の人にやってもらう、と言っても、私以外一緒に療育をやってくれる他の人なんていないよ」と思われた方もいるかもしれません。


Enせんせい

実は私自身、ここまで般化訓練について書いてきましたがここは個人的にも問題点だと感じています


現在でも全くないかと言えばそうでないことも知っているのですが、例えばABA家庭療育がもっと浸透していった先に、地域でABA自閉症療育を行なっている親御様のグループがあり、

例えば月に何度かお互いのお子様に親をチェンジしてDTTを行い般化訓練をする、という活動があったら良いなぁと感じているところです。

これは親御様のグループでなくとも療育仲間、お友達同士で繋がれる何かの活動でも良いと思います。


Enせんせい

そういった活動がこれから広く浸透していけば良いな、と思っているのであれば私自身がもっと活動的に動くべきなのかもしれない、とも感じているところです

今、そのように考えています


ただまだ現在、そのような段階ではありますので、まずはお父様や祖父母でも良いので身近な方にお願いしてみてやってもらうというところからはじめてみられるのはいかがでしょう?


大切なことなので伝えておきます。

もし他の人にもあなたのお子様へ課題をやってもらい、自分以外の人でもできるかどうか確かめたとき、仮にお子様ができなかった場合は不安や焦りなど、ネガティブな気持ちになることが普通です。

そのとき、やってくれた他の人に対して怒りや攻撃的な感情、不信感を持たないようにする、

この点は注意していただければと思います。


最後に本ブログタイトルにもある「クレバーハンス」に気をつける、ということも書き本ブログを終了しましょう。



クレバーハンスに気をつけろ!

最後に「クレバーハンス」についても簡単にご紹介をします。

この「クレバーハンス」も「般化」の問題について重要な意味を持っているでしょう。


「クレバーハンス」について詳しくは「お子様への不適切な関わりを「クレバーハンス」から学ぶ(ABA自閉症療育での行動の見方13)(https://en-tomo.com/2021/12/03/view-of-behavior-clever-hans/)」でご紹介していますのでご覧ください。


「お子様への不適切な関わりを「クレバーハンス」から学ぶ(ABA自閉症療育での行動の見方13)」のサムネイル

クレバーハンスは「クレバーな(賢い)ハンス」の意味で、ハンスという賢い馬の名前です。

Roger R.Hock (2002) はハンスは読み、書き、計算ができ、前足の蹄(ひずめ)を踏み鳴らして回答することができる有名で賢い(クレバーな)馬だったと述べています。


「すごい賢い馬だ」と評判だったのですが、しかし結果的にはのちにハンスは問題を解いていたのではなくのちに、

問題の提出者が無意識にする行動から正解についての手掛かりを得ていたことがわかりました。


例えば、


問題の提出者は問題を出してからハンスが答えを出してくれるのを待っている間ハンスの前足に目を落とします

蹄を踏み鳴らす回数が回答に対し対応した回数に近づくと、ハンスが回答することを期待して、質問者はほんのかすかに目や頭を上げるのです

ハンスは質問者のこうしたわずかな動きを蹄を踏み鳴らすのをやめる合図だと受け取るよう条件付けされているので、正しく回答することができました


以上のような内容です。


またABA自閉症療育ではこのような事象を「意図しないプロンプト」と呼んだりもします。

例えばO.Ivar Lovaas (2003) は意図せず視覚プロンプトを加えて、子どもが正しく反応することを補助している可能性もあると述べました。


O.Ivar Lovaas (2003) の言っていることの例を出すとすれば、

3枚のカードから正解を選ばせる課題において、取って欲しいカードの名前を言ったとき、意識しないうちに正解のカードを目で見ている、

などは「意図しないプロンプト」の例です。


Enせんせい

このような場合は本来覚えてほしかった「りんごの名前」ではなく、賢い馬ハンスのように「課題をどうすればクリアできるか」という、

支援者の期待に沿うことだけが上手くなってしまう可能性が高く、

ABA自閉症療育を通して本来学んで欲しいことが達成できなくなってしまうでしょう


「クレバーハンス」「意図しないプロンプト」のやっかいなところは、それを出してしまっている側の人も意識せず出しているため、自分自身でも気がつけないということです。

出してしまっている側は相手に正解して欲しい、わかっていて欲しいという心情からそのように、意図せずにしてしまっていることが多いでしょう。


O.Ivar Lovaas (2003) は別の人が全く同じ意図しないプロンプトを使うことはないだろうから、子どもが習得したものを他の指導者や大人に般化させるようにすると良いと述べています。

他の人にもお子様の課題をやってもらい、自分以外の人でもできるかどうか確かめることは「クレバーハンス」「意図しないプロンプト」を予防する上でも大切なことと言えるでしょう。



さいごに

本ブログページ冒頭、


あなたがお子様へ何か課題を通して教えるとき、それはきっとあなたの前だけでできてくれることを望んでいる、ということは無いでしょう

あなたの前で学んだ知識・スキルを、あなた以外の大人や同年齢の人に対して使用し、社会の中で教えたことが機能して行くことを望んでいると思います


と書きました。


Enせんせい

このような言葉はブログ内で何回か書いている言葉です


最初、ABA自閉症療育を初めた初期は「これはどういった意味でやっているのか分からない」ということもあるでしょう。

やっている意味については書籍や論文、勉強会、ブログ(私のブログもその中の1つに是非、加えてください!)、Youtubeなどでやりながら培っていけば良いと思います。


しかし上で書いた、

このスキルを教えたとき、長期的にどのような場面でそのスキルを発揮して欲しいのかについてはできれば最初から意識してABA自閉症療育に取り組んで欲しいです。


私は大切なことだと思います

本ブログページでは、

他の人にもお子様の課題をやってもらい、自分以外の人でもできるかどうか確かめる

ということをお勧めしました。


そしてこれは、

特に発語の発達がゆっくりで言葉があまり出ていないお子様の場合、特に必要性が高いと感じています。


Enせんせい

もしあなた以外の人でうまくできなかったときは?


最初は、

方法はあなたが行なった方法をやって欲しい人に伝え、同じようにやってもらう

ことを行ってみてください。


それでも難しかったときはGeorge S. Reynolds(1961) の行った「般化勾配」の実験を参考に、

他の人がやったときできなかったとすれば、あなたがやっているときとできるだけ刺激を寄せるようにしてみてください。


最後に、

「クレバーハンス」「意図しないプロンプト」にも気がつけること。


以上、『DTTを他の人にもお子様の課題をやってもらい「般化訓練」するー「般化勾配」から考察、「クレバーハンス」に気をつける』というタイトルで書いてきました。

本ブログ内容が誰かの参考になれば幸いです。



【参考文献】

・ GEORGE S. REYNOLDS (1961)CONTRAST, GENERALIZATION, AND THE PROCESS OF DISCRIMINATION1. Journal of the Experimental Analysis of Behavior. October 1961 https://doi.org/10.1901/jeab.1961.4-289

・ 日本行動分析学会 (2019) 行動分析学辞典 丸善出版

・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】

・ Roger R.Hock (2002) Forty Studies That Changed Psychology: Explorations into the History of Psychological Research, 4th Edition 【(監訳) 梶川 達也・花村 珠美 (2007) 心理学を変えた40の研究 ピアソン・エデュケーション】

・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ

・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】

・ 山本 淳一・松崎 敦子 (2016) 第2章 発達障害の支援の基本 早期発達支援プログラム 【編集 下山 晴彦・村瀬 嘉代子・森岡 正芳 (2016) 必携 発達障害支援ハンドブック 金剛出版】