自閉症児の偏食の調査研究ー食べ物の趣向性と対策(自閉症8)

本ブログページでは立山 清美・宮嶋 愛弓・清水 寿代 (2013) の研究から自閉症児の食べ物への趣向性と対策について見ていきましょう。


前半では自閉症のお子様が持つ食べ物への趣向性をご紹介します。

そして後半では研究に参加した親御様たちが行ってきた偏食への効果的だったと感じていらっしゃる対策をご紹介しましょう。


立山 清美・宮嶋 愛弓・清水 寿代 (2013)


自閉症児の食嗜好や偏食を調査した研究

立山 清美他 (2013) の研究に参加した人たちは近畿、中国、東海、関東、東北地方と幅広い地域からデータが収集されました。

研究で使用されたデータは、第45回日本作業療法学会にてデータ収集協力者を募り、そのデータ収集協力者を通じて得られた3歳から18歳までの自閉症のお子様を持つ親御様218人のうち、

回収できた154人(回収率70.4パーセント)のうち、自閉症の診断に該当した130人です。

回答者は母親127人、父親が3人でした(合計130人)。


立山 清美他 (2013) は研究対象となったお子様は男の子が109人(84パーセント)女の子が21人(16パーセント)でした。


参加したお子様の年齢は、


・ 幼児群(3-5歳):参加者の42パーセント

・ 低学年群(6-9歳):参加者の28パーセント

・ 高学年以上群(10-18歳):参加者の30パーセント


です。


診断名は、


・ 自閉症(79人:55パーセント)

・ 広汎性発達障がい(50人:35パーセント)

・ 高機能自閉症(8人:5パーセント)

・ アスペルガー症候群(7人:5パーセント)


でした。

※ 2022年11月11日現在、自閉症以外の診断は診断基準から無くなっています


年齢以外のお子様のプロフィールは、


・ 給食経験者(125人:96パーセント)

・ 限られた場所で外食が可能(49人:38パーセント)、外食できない(8人:6パーセント)

・ 自立(39人:30パーセント)、見守りが必要(63人:48パーセント)、食事の際に介助が必要(28人:22パーセント)

・ お箸を使う(60人:50パーセント)、スプーンフォーク(54人:45パーセント)、手づかみ(6人:5パーセント)


というお子様たちです。


彼らは食事に対して「非常に偏っている(29人)」、「偏っている(28人)」、「少し偏っている(49人)」と評価されており、全て合わせると全体の約8割を占めました。


以下、研究の結果を見ていきましょう


自閉症のお子様が好んだ食べ物と好まなかった食べ物

立山 清美他 (2013) 食材・食品別 83 項目について食嗜好を調べました。

研究ではいろいろな調査結果が出ていますが、いくつかピックアップしてご紹介します。


・ 自閉症のお子様が好んで食べていた食べ物

・ 自閉症のお子様が工夫すれば食べられたもの

・ 自閉症のお子様が工夫しても食べないもの

・ 自閉症のお子様が未経験のもの


上のもののトップ10が紹介されていますので、ご紹介しましょう。

以下それぞれのトップ10です。


「自閉症のお子様が好んで食べていた食べ物」では、

上位から「フライドポテト」、「麺類」、「揚げ物」、「スナック菓子」、「ジュース」、「ハンバーグ」、「カレーライス」、「混ぜご飯」、「スパゲティ」、「ケーキ」があげられていました。

立山 清美他 (2013) は糖質の高い食べ物が上位に来ているとコメントしています。


「自閉症のお子様が工夫すれば食べられたもの」では、

上位から「メロン」、「レモン」、「生野菜」、「キャベツ」、「なす」、「骨付きの魚」、「玉ねぎ」、「ピーマン」、「根菜」、「梅干」があげられていました。

立山 清美他 (2013) は調理時に工夫すれば食感や匂いが変わりやすいもの(玉ねぎ、ピーマン、根菜など)は工夫すれば食べられたものにあがりやすいとコメントしています。


「自閉症のお子様が工夫しても食べないもの」では、

上位から「メロン」、「キャベツ」、「なす」、「グリンピース」、「スイカ」、「レモン」、「イカ・たこ」、「トマト」、「梅干し」、「酢の物」があげられていました。

立山 清美他 (2013) は調理しても食感が変わりにくいものが工夫しても食べらない傾向にあるとコメントしています。


「自閉症のお子様が未経験のもの」では、

「焼き魚」、「えび・かに」、「イカ・たこ」、「レモン」、「酢の物」、「らっきょう」、「梅干し」、「ドレッシング」、「わさび」、「からし」

立山 清美他 (2013) は未経験のものには魚介類、給食には出ない刺激物が多くあげられたとコメントしています。


他に自閉症のお子様の嫌いな食べ物も紹介されていました。

立山 清美他 (2013) の研究で紹介された自閉症のお子様の嫌いな食べ物の上位は、

「野菜・葉野菜・青菜」、「魚」、「トマト」、「パン」、「生野菜」、「肉」、「ピーマン」、「梅干し」、「ごはん」

でした。


Enせんせい

私個人として思うことは、さまざまな食品がデータであげられており、

自閉症のお子様と言っても趣向性はなかなか一括りにできないなということです


糖質が高く私たちがあまり食べすぎてはいけないだろうと考えている食べ物は自閉症のお子様も好んで食べることが研究からわかりましたが、

もし食べるものがとても偏っていて、糖質の高いものしか食べない、となると健康を考慮したとき、良いことであるとは思えません。


どうすれば良いか悩ましいですね・・・

本ブログ後半で立山 清美他 (2013) の研究で示された親御様が行った偏食改善の努力を書いていますが、生活の中でできれば少しづつ取り入れ、お子様の偏食について幅を広げていく方が良いと思います。


自閉症のお子様が偏食があることについて偏食指導の研究を行ったRobert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) は考察の中で自閉症の顕著な特徴である、ある種の硬直性と柔軟性の欠如に関して、この分野(偏食)でのさらなる研究は非常に生産的である可能性があると述べていますが、

Robert L. Koegel他(2012) が述べている内容から考えるに「こだわりの強さ」、「変化への柔軟性の無さ」、「予測通りに行かないときの耐性」などを鍛えるとき、お子様の偏食に立ち向かうことはそれらの部分に当てた介入と言えるかもしれません。


例えば私が出会ってきた人たちの中でやはりいろいろな物を食べるようになったときに、お子様がイレギュラーに強くなったと感じたと伝えてくれた親御様もいました。

普段の食卓での座る椅子の位置を変えるだけで抵抗感を示すお子様もいらっしゃいます。

これは「いつもと違う」に反応しているのだと思うのですが、そのような「いつもと違う、でも、それでも行う」ということも私は大切だと思うのです。

それを偏食指導を通して体験してもらうこともABA自閉症療育の中の大切なエッセンスだと思います。


また工夫をすれば食べられる食べ物に「レモン」「梅干し」が入っていたことは意外でした。

私自身が親御様へ偏食のアドバイスをするときは「すっぱい」食べ物は刺激が強いため、少し難易度が高いと考えているのですが、工夫すればいけるのかもしれません。


例えば私は高所恐怖症というか、高いところが怖く、特にジェットコースターなどの絶叫マシーンが嫌いです。

でも、人生生きていると「絶叫マシーン」に乗らなければいけない瞬間もやってくることがありました。

「私は絶対にできない」と思っていたことができたとき(この場合は絶叫マシーンに乗れたとき)、意外にも「自分が絶対にできない(多分、正しくはできないと思っていたのだと思うが)」ものも、大丈夫な物だと思えたことは私の人生の幅を広げてくれたように感じました。

同じようにお子様が感じるかどうかはわかりませんが、可能性はあるように思っています。

私と同じように「嫌だけどチャレンジしてみよう」「少し嫌だけどチャレンジしても良いか」「チャレンジするのは最悪だけど、まぁなるようになるか」という気持ちが少し芽生える可能性があるかもしれません。


凝り固まった考えを砕いていく作業なのかもしれません・・・

ここまででご紹介した内容が今後、ABA自閉症療育においてお子様への偏食指導を行うとき参考になれば幸いです。

立山 清美他 (2013)の研究から示された回答は多様な物となっていたため、自身のお子様に合う食べ物を探すということは必要になるのだろうなと改めて思いましたが、お子様の偏食を弱めて食べられるものの幅を広げていくことは、健康面はもちろん家族全体のQOLを考えると必要なことだと考えています。


以下立山 清美他 (2013)で紹介されていた研究に参加した人たちがこれまで偏食に対してどういった対策をしてきたのかについて見ていきましょう。



親御様たちはお子様の偏食に対してどう対策をしてきたか?

立山 清美他 (2013)で紹介されている研究に参加した親御様が実践された偏食への対応を以下にご紹介します。

「効果あり」と70パーセント以上が回答したものを以下に記載しました。

※ うしろに(◯)がついているものは80パーセント以上「効果あり」と回答したもの


・ 調理方法を変え柔らかくする(◯)

・ 水分と固形物を分ける

・ 小さな一口サイズに統一する(◯)

・ 嫌いな食感を変える(◯)

・ 擦って混ぜ繊維質をなくす

・ 調理方法を変え味を変える(◯)

・ スープにしてにおいを減らす

・ 料理をひとつづつ食べさせる(◯)

・ 味が混ざらないようにする(◯)

・ 好きな食感に変える(◯)

・ 嫌いなものを好きな味に変える

・ 味をしみ込ませ煮込む

・ レンジで温めすぐに食べる

・ 好きな音を組み合わせる

・ スプーンに少量取って提示する

・ 量が見えるおわんに入れる

・ 少しずつ食べる量を増やす

・ 一緒に調理して経過を示す

・ 「終わり、次」を明確にする(◯)

・ 好きなものにわからないように混ぜる

・ 少しずつ量を増やし気づかせない

・ パニックを起こしても焦らない

・ 本人の好きな人がいつも介助する(◯)

・ ほめる、頑張りを認める(◯)

・ 介助者が強制、固執しない(◯)

・ 家族が楽しく食べるのを見せる

・ 楽しく食べることを意識する(◯)

・ 決まったメーカーにする(◯)

・ いつもと同じ食器を選ばせる(◯)

・ 同じものを同じ場所で食べる(◯)

・ 好きな料理で外食をする(◯)

・ さまざまな場所で食べる経験を積む(◯)


いろいろな方法がありますね。


いろいろな工夫、努力を親御様はされているのだなと感じました

立山 清美他 (2013)は考察で「ほめる・頑張りを認める」「家族が楽しく食べ ているのを本人に見せる」といった定型発達の子どもに対しても行う一般的な対応は、自閉症のお子様においても実践率、効果あり率ともに高かったと述べました。

ここはABA自閉症療育でも実践して行くべき点です。

「できて当たり前」ではなく、できたことを尊重するよう関わることが大切でしょう。


立山 清美他 (2013)はまた「食べないものも一応食卓に出す」、「まずは口の中 に入れる」などファーストチャレンジを支援する対応も実践率が高かったと述べ、

「強制・固執しない」対応、「決まったメーカーに する」などこだわりを利用する対応「一口サイズ」 など咀嚼・嚥下を容易にする対応、「料理を一つ ずつ食べさせる」「食感を変える」など感覚面への対応があったと述べています。

そして、これらのことから自閉症のお子様においても「ほめて」「楽しく」と基本的な対応は変わらないものの、自閉症児の苦手とするファーストチャレンジを支援すること、時には特性であるこだわりを活用し、そして子どもの口腔機能や感覚ニー ズに沿った支援が重要であると考えられると述べました。


ABA自閉症療育で偏食指導を行う際も上のような多様な対策からご自身のお子様にヒットする対策を探して行くことが大切です。

「さいごに」でご紹介していますがABA自閉症療育ではどのように自閉症のお子様に対して偏食指導を行ったことがあるか、という関連ページもご紹介しています。



さいごに

本ブログを何ページか読んでくださっている人は知っていらっしゃると思いますが、本ブログはABA自閉症療育を主なテーマとしたブログです。

今回、ABAの論文ではないものの、自閉症の偏食について論文を検索し、本ブログページでご紹介した研究を見つけました。


探して見つけたもので他に高橋 智 (2013) が発達障害の診断・判定を有する本人135人、東京学芸大学の学部・専攻科・大学院に在学する学生 119人を対象とした研究がありました。

研究では以上の人を対象に137のデータが得られました。


高橋 智 (2013) 「自分で選んだ食べ物は、おいしく味わい、楽しむことができる」と感じている人が多いことがわかり、家庭や学校などでも周囲と同じメニューを強要するのではなく、自分で選ぶ機会を設け、食べる楽しさを感じることができるような経験を積むことが必要であると述べています。


他にも高橋 智 (2013)「自ら愛情を持って育てた食物は、食べられるようになった 」と感じている人も多くいることがわかり、食物を育てたり、栄養素の勉強をしたりすることを通して、まずは食物を理解することで食べ 物への恐怖感や不安感を軽減すること、そして次第に食物への興味を引き出していくような配慮が重要であると考えるとも述べました。


Enせんせい

高橋 智 (2013) が紹介してくれている戦略も偏食指導で行き詰まったときの対策として使えそうです


文中、お子様の偏食を弱めて食べられるものの幅を広げていくことは、健康面はもちろん家族全体のQOLを考えると必要なことだと考えていますと書きました。

偏食が強く食べられるものや場所が限られているとお子様の健康もですが、例えば家族で旅行に行くことも制限されてしまうことがあるでしょう。


本ブログ内では「(ABA自閉症療育の基礎100)自閉症児に対しての偏食指導ーABA自閉症療育手続き(https://en-tomo.com/2022/09/09/guidance-on-resistance-to-food/)」などで自閉症のお子様の偏食を改善するための手続きをご紹介しています。


「(ABA自閉症療育の基礎100)自閉症児に対しての偏食指導ーABA自閉症療育手続」きのサムネイル

本ブログ、そして本ブログページがお子様の偏食で悩んでいる親御様の参考になれば幸いです。



【参考文献】

・ 高橋 智 (2013) 発達障害を有する子どもの「食」の困難に関する実証的研究 ―発達障害の本人・当事者のニーズ調査から― 【平成 25 年度広域科学教科教育学研究経費研究成果報告書】 https://www2.u-gakugei.ac.jp/~graduate/rengou/kyouin/news/data_kouiki_h25/06.pdf

・ 立山 清美・宮嶋 愛弓・清水 寿代 (2013)自閉症児の食嗜好の実態と偏食への対応に関する調査研究 浦上財団研究報告書 Vol.20 https://www.urakamizaidan.or.jp/research/jisseki/2010/vol20urakamif-16tateyama.pdf

・ Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) Using Individualized Reinforcers and Hierarchical Exposure to Increase Food Flexibility in Children with Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders. 42(8): 1574–1581