(ABA自閉症療育の基礎99)教えた行動を音声の指示に落とし込む方法ー教示性制御下に組み込む

本ブログページ、つい最近の本章の内容はお子様の音声を明瞭に綺麗にして行く方法についてご紹介をしてきました。


Enせんせい

早いものでもう本章も99まで来ました

いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます


気になる方は本章「ABA自閉症療育の基礎」、95ー98までをご覧になっていただければと思うのですがその98、

『(ABA自閉症療育の基礎98)自閉症児に言葉を教える「音量」「スピード」「抑揚」編ーABA自閉症療育プログラム(https://en-tomo.com/2022/06/24/speech-volume-speed-intonation/)』にて、

自閉症児の使用する言葉で「音量」「スピード」「抑揚」をどのように練習していけば良いか?

をテーマについて書きました。


『(ABA自閉症療育の基礎98)自閉症児に言葉を教える「音量」「スピード」「抑揚」編ーABA自閉症療育プログラムのサムネイル』

その中で例えば話すときの速さを教える方法について以下のような方法をご紹介しています。


(1)速く言う(例えば1秒以内に「ダダダ」と言う)ことができるよう、速く言ったモデルに反応するよう練習しシェイピングする

(2)次に遅く言う(例えば3秒かけて「ティーティーティー」と言う)ことができるよう、遅く言ったモデルに反応するよう練習しシェイピングする

(3)練習した『1秒以内の「ダダダ」』と『3秒かける「ティーティーティー」』をランダムで言い分ける練習をする

(4)特定の単語や句を選択(例えば「むむむ」)し、『1秒以内の「むむむ」』と『3秒かける「むむむ」』をランダムで言い分ける練習をする

(5)他のさまざまな単語や句でもできるよう練習する

(6)「早く言う」、「ゆっくり言う」という音声の指示に落とし込む


この方法、(1)ー(5)については上のブログページで解説をしたのですが、


(6)「早く言う」、「ゆっくり言う」という音声の指示に落とし込む


については解説を行なっておりません。


本ブログページでは上のテーマ話すときの速さを教える方法で練習をした「早く言う」、「ゆっくり言う」というスキルを音声の指示に落とし込む方法をご紹介して行こうと思います。


本ブログページでご紹介する方法は、ABA自閉症療育でお子様に教えた行動を音声の刺激性制御下に組み込む方法です。

本ブログページではABA自閉症療育でお子様に教えた行動を音声刺激性制御下に組み込むための例として「速く言う」と「ゆっくり言う」を扱っていますが、音声の刺激性制御下に組み込む方法として他のことにも応用可能な方法となります。

本ブログページで扱うテーマはお母様がお子様に指示を出したとき、指示に反応して従ってもらうことと言えるでしょう。


以下見ていきましょう!


声のスピードを教示性制御下に組み込む方法

O.Ivar Lovaas (2003)はこれからご紹介する手続きについて「教示性制御下に組み込む」という表現で紹介しています。

「教示性制御下に組み込む」という意味が理解できれば良いですが、理解できなくとも手続きとして行うことは可能ですので本ブログページでは手続きに重きを置いて書かせてください。

※ 一応書いておくと「教示性制御下に組み込む」とは専門的には相手からの教示(指示)という刺激性制御下でお子様の声のスピードを調整する行動が強化されコントロールを受けるという意味です


本手続きはO.Ivar Lovaas (2003)を参考にしています。

以下の内容は上でもご紹介したURL『(ABA自閉症療育の基礎98)自閉症児に言葉を教える「音量」「スピード」「抑揚」編ーABA自閉症療育プログラム(https://en-tomo.com/2022/06/24/speech-volume-speed-intonation/)』

でご紹介した、


(1)速く言う(例えば1秒以内に「ダダダ」と言う)ことができるよう、速く言ったモデルに反応するよう練習しシェイピングする

(2)次に遅く言う(例えば3秒かけて「ティーティーティー」と言う)ことができるよう、遅く言ったモデルに反応するよう練習しシェイピングする

(3)練習した『1秒以内の「ダダダ」』と『3秒かける「ティーティーティー」』をランダムで言い分ける練習をする

(4)特定の単語や句を選択(例えば「むむむ」)し、『1秒以内の「むむむ」』と『3秒かける「むむむ」』をランダムで言い分ける練習をする

(5)他のさまざまな単語や句でもできるよう練習する

(6)「早く言う」、「ゆっくり言う」という音声の指示に落とし込む


の(1)ー(5)までを既に習得したお子様向けに書かれている手続きであることもご理解ください。

今回は「(6)「早く言う」、「ゆっくり言う」という音声の指示に落とし込む」の手続について書いています。


Enせんせい

とはいえ本ブログページでご紹介する手続きは他にも応用できるため、知っておくと良いでしょう

例えば「X回中X回できれば次のステップに進みます」などの達成基準は他の課題を行うときも参考となるはずです


ではその続き(6)「早く言う」、「ゆっくり言う」という音声の指示に落とし込む(声のスピードを教示性制御下に組み込む方法)についてご紹介しましょう。

以下、「(6)「早く言う」、「ゆっくり言う」という音声の指示に落とし込む」の方法を7つのステップに分けてご紹介し、声のスピードを教示性制御下に組み込む方法について見ていきます。


各ステップを見て行く!!


ステップ1:「速く言って」のフレーズを速く言う練習をする

ステップ1では「速く言って」というモデルを見せます。

このとき「速く言って」というモデルは実際にスピードも速く言いましょう。

お子様へはその速く言ったスピードも含めてマネをすることを求めます。

※ 声の大きさやスピードは「できた基準(強化基準)」が療育者側の主観になります(測定機器があれば別かもしれませんが)。ここは主観で大丈夫です


お子様が5回中5回、10回中9回正しく反応できればステップ2へ進みます。



ステップ2:「ゆっくり言って」のフレーズを速く言う練習をする

ステップ2では「ゆっくり言って」というモデルを見せます。

このとき「ゆっくり言って」というモデルは実際にスピードも遅く言いましょう。

お子様へはその遅く言ったスピードも含めてマネをすることを求めます。


お子様が5回中5回、10回中9回正しく反応できればステップ3へ進みます。



ステップ3:「速く言って」「ゆっくり言って」のフレーズを混ぜる

ステップ3ではステップ1で練習したこととステップ2で練習したことを混ぜて練習します。

例えば以下の感じです。

課題の提示順はランダムにしましょう。


1:スピードも速く「速く言って」というモデルを見せスピードも含めてお子様はマネをする

2:スピードも遅く「ゆっくり言って」というモデルを見せスピードも含めてお子様はマネをする

3:スピードも速く「速く言って」というモデルを見せスピードも含めてお子様はマネをする

4:スピードも遅く「ゆっくり言って」というモデルを見せスピードも含めてお子様はマネをする

5:スピードも遅く「ゆっくり言って」というモデルを見せスピードも含めてお子様はマネをする

6:スピードも速く「速く言って」というモデルを見せスピードも含めてお子様はマネをする


以上のように課題を組んでいきます。


10回中9回か20回中19回正しく反応できたときステップ4へ進みましょう。


次のステップから難易度が上がります・・・


ステップ4:「速く言って」「ゆっくり言って」のモデルを普通のスピードにして行く

個人的にはここが一番難易度が高いのでは無いかと思うステップ4。

ここまでは「速く言って」というときに見せるモデルは支援者側も実際に速く言いながら提示していました。


同じように「ゆっくり言って」というモデルを見せるとき支援者側も実際に遅く言いながら提示をしてきたのですが、このフェイズでは、


・ 指導者側は普通のスピードで「速く言って」と言ったとき、お子様は「速く言って」と速いスピードで言えるようになることを目指す

・ 指導者側は普通のスピードで「ゆっくり言って」と言ったとき、お子様は「ゆっくり言って」と遅いスピードで言えるようになることを目指す


ことになります。

上のことが成立するとお子様はモデルに反応して「速く言う/遅く言う」と行動しているのではなく、

実際に「速く言う/遅く言う」という言葉の下で自身の行動(声のスピード)をコントロールしていることになるため、ここのステップは時間がかかるかもしれません。

つまりお子様は「速く言う/遅く言う」という言葉の意味を理解した可能性があります。


文章ではなかなか表現しにくいのですが、例えば以下のようにモデルを調整していきましょう。

※ 以下は「速く言って」の設計。遅く言うも同じ手続き


(1) 「速い」の速さのスピードで「速く言って」のモデル

(2) 「速いー1(はやいマイナス1)」の速さのスピードで「速く言って」のモデル

(3) 「速いー2(はやいマイナス2)」の速さのスピードで「速く言って」のモデル

(4) 「速いー3(はやいマイナス3)」の速さのスピードで「速く言って」のモデル

※ 「速い」というスピードにも段階をつけモデルを出し分けるということです


このとき、


例えば「(1)「速い」の速さのスピードで「速く言って」のモデル」とは、日常生活の中でもっと早く行って欲しいときの適切な速さにします


例えば「(4)「速いー3」の速さのスピードで「速く言って」のモデル」は普段通り話すときのスピードにします。つまりこの普段通りのモデルに反応してお子様が早く話すことができたとき、この課題は達成されたことになります


この課題では、

モデルを出す支援者側が普段通りのスピードで「速く言って」と言ったことに対し、お子様は速いスピードで「速く言って」という必要があります。

モデルが普段通りのスピードであるのに関わらず、お子様はモデルとは違って速いスピードで話すことを求められるので難しいですね。


Enせんせい

支援者側も(1)ー(4)を調整しながら、お子様が常に(1)のスピードをキープできるよう強化しながら練習を重ねていきましょう。


お子様が5回中5回、10回中9回正しく反応できればステップ5へ進んでください。



ステップ5:「速く言って」に他の特定の言葉を付ける

ステップ5では例えば「速く言って おはよう」と支援者が言ったとき、お子様に「おはよう」というところだけを速く言うことを求めます。

最初はお子様は「速く言って おはよう」と支援者が言ったとき、「速く言って おはよう」と支援者の言った言葉の全文を模倣してしまうかもしれません。


全文を模倣されないためのコツは、支援者が「速く言って おはよう」と言うとき「速く言って」という部分だけを、

例えばほどんど聞こえない大きさの声で言うことや、聞き取れないほどの速さで言い、その後の「おはよう」を普通に言うようにしましょう。

このとき練習する単語(本項では「おはよう」)は1つに絞り練習します。


お子様が5回中5回、10回中9回正しく反応できればステップ6へ進んでください。



ステップ6:「ゆっくり言って」に他の特定の言葉を付ける

ステップ6では例えば「ゆっくり言って バイバイ」と支援者が言ったとき、お子様に「バイバイ」というところだけをゆっくり言うことを求めます。

手続きはステップ5と同じです。


お子様が5回中5回、10回中9回正しく反応できれば最終のステップ7へ進んでください。


もう少しで全ステップクリアです!


ステップ7:ステップ5とステップ6をランダムで行う

最終のステップ7ではステップ5で行なったこととステップ6で行ったことをランダムで行い課題を組んでいきます。


例えば、


(1) 「速く言って おはよう」

(2) 「速く言って おはよう」

(3) 「ゆっくり言って バイバイ」

(4) 「ゆっくり言って バイバイ」

(5) 「速く言って おはよう」

(6) 「ゆっくり言って バイバイ」


のような感じで課題を組みましょう。


10回中9回か20回中19回正しく反応できたら課題達成です。


Enせんせい

このとき「速く言って おはよう」と言ったときお子様は「おはよう」だけ速く言います

同じように「ゆっくり言って バイバイ」と言ったときお子様は「バイバイ」だけ遅く言います


以上がO.Ivar Lovaas (2003)を参考にした「(6)「早く言う」、「ゆっくり言う」という音声の指示に落とし込む」の手続きです。



番外編:般化を確認する

ここまでご紹介してきたステップ1からステップ7まではO.Ivar Lovaas (2003)を参考に書いてきましたが、少し番外編。

以下はO.Ivar Lovaas (2003)には書かれていなかったのですが、般化についても確認しましょう。


Shira Richman (2001) は般化について直接教えていない様々な場面や状況、人に応じて適切な行動を示すこと。また、教えられた型どおりではない応答を示すことと述べてました。

教えた行動がさまざまな人、場所、スキルに広がって行く般化はABA自閉症療育ではとても重要です。

そのため、ここまでできたら色々試してみてください。


例えば、


・ 「速く言って ちょうちょ」

・ 「速く言って おかあさん」

・ 「速く言って チョコレート」

・ 「ゆっくり言って かぶとむし」

・ 「ゆっくり言って おとうさん」

・ 「ゆっくり言って アイスクリーム」


もしこれらのことができなければ般化を目指してもう少し他のキーワードでも練習をして行く必要があるでしょう。

練習の方法は上で紹介してきたステップ5ー7のステップで別の単語を付けて練習をすれば大丈夫です。


もし以上のようにいろいろな単語で言うように求めたときでも「速く言う/ゆっくり言う」ということが確認できれば、

お子様は「速く言って/ゆっくり言って」という言葉の意味を獲得し、声のスピードを教示性制御下に組み込めたと言って良いでしょう。


以上です。1つの手続きを知っているといろいろなことに応用できて使えます


さいごに

本ブログページでは本章前ページの内容を引き継ぎ、声のスピードを教示性制御下に組み込む方法について解説してきました。

声の大きさ(大小)を教示性制御下に組み込むときも同じ方法で行うことが可能です。


また前ページ、本ページで書いてきた手続きは比較的言葉の遅れの大きいお子様向けの手続きかなと個人的には思います。

例えば言葉の理解が結構あるお子様の場合はモデルを見せてモデル通りに速く言ったとき、

「そう!それが速いってこと。次もその速さで言うのよ」などと、言い、次に支援者側は普通の話の速さでモデルを出しお子様は先のスピードで言うことを求める、などルールによって教えて行くことも可能でしょう。


どう言った教え方があなたのお子様にフィットするのか探りながら、必要であれば前ページ、本ページの手続きも是非試してみられると良いと思います。

さてここまで「ABA自閉症療育の基礎」、95から本ページ(99)までは自閉症のお子様の言葉の明瞭性などの言葉を綺麗に話すことをテーマとして書いてきました。


Enせんせい

次のページでは趣旨を変え別のテーマを取り扱います

実は次のページ番号は100番ということで、初の3桁台に乗る内容は何を書こうか迷っていました


次のページからご紹介していくテーマは「偏食指導(へんしょくしどう)」の手続きです。

次回の本章ブログページからは数ページを使い偏食指導を扱って行きます。



【参考文献】

・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】

・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】