ABA応用行動分析コラム36は「料理にハマったここ数年、コロナによる環境変化ー料理が上手になった過程をABAで解説」というタイトルで書いていきます
私のTwitterを見てくれている人は知っているかもしれませんが、私は結構な頻度で料理をします。
大学生の頃から一人暮らしをしていて、昔から料理は適度にはしていたのですが、コロナ禍になってからはほとんど毎日、料理をするようになりました。
これからも同じように料理をし続けて行くかどうかはわかりませんが、現在、料理を楽しくできています。
自分の料理の腕が上がって行くことを実感することも嬉しいです。
さて、コロナ禍にて私自身が慣習的に料理を作るようになった経緯を今回はABAで考え、解説して行くこととしましょう。
私の生活環境を変えたコロナ禍
2019年の年末から始まったコロナ禍ですが、現在、2022年7月の時点でもまだ終了しているとは言えません。
コロナ禍、ちなみに日本で初めて緊急事態宣言が出たのは2020年4月でした。
コロナ禍前の私の食生活は夜、遅くにスーパーのお弁当コーナーやお惣菜コーナーに行って半額になったお弁当やお惣菜を買い、晩御飯に食べる、ということがほとんどでした。
もしくは外食。
しかし日本で初めて緊急事態宣言が出た2020年の4月に状況が変わりました。
夜にスーパーへ行ってもお弁当やお惣菜が売り切れていて残っていないのです。
特に初めての緊急事態宣言のタイミングではそのようなことが続きました。
もちろん夜は飲食店もやっていません(というか、初めての緊急事態宣言下ではほとんどが休業していて1日中やっていなかったっけ?)。
私が持った仮説は飲食店がやっていないのでまずお弁当が売り切れになる、そして続いてお惣菜も売り切れる。
現在2022年7月の時点ではそのようなことはありませんが、当時はそのような時期でした。
少なくとも当時、私の生活圏ではそのようなことが起こりました。
ご飯を食べないということは選べないので、こうなったとき、私の頭に出て来た選択肢は3つでした。
(1)材料を買って自炊する
(2)コンビニ等のスーパー以外の場所でお弁当を買う
(3)レトルト食品を買って簡易的な調理を行い夕食にする
私は「(1)材料を買って自炊する」を選択することにしました。
「(1)材料を買って自炊する」を選択した理由ですが、
もともと料理を適度にしていたので「(1)材料を買って自炊する」ことへの抵抗感がなかったこと、
スーパーで半額のお惣菜を買って生活をしていた頃から「野菜を食べる」ことは意識して生活して来ましたので「(1)材料を買って自炊する」を選択することが一番野菜を摂ることに適していたこと、
の2点が主な理由です。
他の理由として、私はそれまでほとんどTVも見なければネット動画を見ることもありませんでしたが、
家にいるときにYoutubeを見るようになりました
もともと興味があった「魚のさばき方」動画をかなりの時間、観るようになりました。
お風呂にもiPadを持ち込んで「さばいて行くぅ」という台詞と一緒にさばかれて行く魚を観て、
「今度、やってみよう」と思えたこともいろいろな料理(調理?)にチャレンジしようという動機付けを上げてくれた一因です。
私は「日本で初めて緊急事態宣言が出た2020年4月から料理をし始めた!」ということではありません。
今までも料理をしていましたが頻度が爆発的に増えました。
Twitterを始めたのも確かこれくらいの時期でした。
Twitterへの食事の投稿も自分自身では楽しい活動となり、現在も投稿行動は継続しています。
ここまでの経緯をまとめると、
私はもともと大学生の頃一人暮らしを始めた頃から適度に料理をしていた。
ただ料理の頻度は今よりも低く、お弁当やお惣菜を買って夕食にすることが多かった。
そのような生活を続けていると、
日本で初めて緊急事態宣言が出た2020年4月、それまでお弁当やお惣菜を買って夕食とすることが多かった私の食事環境が強制的に終了した(そもそもスーパーに行ける時間には売り切れである日々が続いた)。
そして「自炊」「コンビニ」「レトルト」の3択から私が選択したのが「自炊」だった。
自炊を行う中で「Youtubeでの料理動画を見て自分もやってみたい」と思ったことや「Twitterへの投稿行動」により「自炊」に対しての動機付けが上がる出来事も伴った。
以上のような経緯でした。
料理を作る行動が上手くなっていった
これまでの経緯があり、私は料理を作り始めるようになったのですがだんだんと腕が上がっていったように感じます。
料理が上手くなったと感じるのですが「料理が上手くなる」とは具体的にはどういったテクニックの向上なのでしょうか?
私が思うのは、
(1) 自分の好みの味で作ることができる(作る料理が美味しくなる)
(2) 作る手際が良くなり、作り終えるまでの時間が短くなる
(3) 盛り付けが上手くなり、見た目が良くなる
以上の3点です。
本ブログはABA自閉症療育ブログですので、ここからは私の料理が上手くなっていった理由をABAで解説して行きましょう。
以下のような見方をすることはABA自閉症療育でも役に立つと思います。
料理が上手くなって行ったことをABAで解説する
私自身が自分で向上したと思っている3点、
(1) 自分の好みの味で作ることができる(作る料理が美味しくなる)
(2) 作る手際が良くなり、作り終えるまでの時間が短くなる
(3) 盛り付けが上手くなり、見た目が良くなる
それぞれについてどうして上手くなって行ったのかを解説して行きます。
最初に「(1) 自分の好みの味で作ることができる(作る料理が美味しくなる)」ですが、
ABAでこのスキルが向上した理由を解説するときまず考えなければいけないのは「料理をする行動の強化子は何か?」という点です。
これを考えるとき、便利な質問は「料理をする行動に伴う結果は何?」という問いでしょう。
この問いの答えは?
1つの答えは「料理が完成する」という答えです。
では、完成した料理はどのような行動を引き起こすきっかけとなるでしょうか?
答えは「料理を食べる行動」を引き起こすきっかけ(弁別刺激)となります。
食材や空腹感があり、食材を調理する行動が伴い、結果、料理が完成しました。
結果完成した料理があり、その料理を食べる行動が伴いますが、このとき得られる結果は?
答えは「味が口の中に広がる」「お腹が満たされる」などです。
このように行動した結果が次の行動のきっかけ(弁別刺激)となり、その弁別刺激の下で生じた行動の結果がまた次の行動の弁別刺激になる・・・、という考え方は「行動の連鎖化(チェイニング)」と呼ばれます。
行動の連鎖化についてのわかりやすい解説は、例えば杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)の本、「刺激反応連鎖と反応率随伴性」という章にわかりやすいエピソードと図が載っています。
エピソードには脳性麻痺の「朱美(あけみ)さん」という人物が登場します。
朱美さんが歩くためには、床に座っている状態からまず膝を持ち上げて膝で立ち、
次に足を持ち上げて両足で立ち松葉杖を使って歩くのですが、
彼女の歩く行動について杉山 尚子他(1998)は下の図のように描き表現しました(イラストは改変版)。
このように行動は連鎖して続いて行くということは覚えておきましょう。
料理でもABA自閉症療育でも同じです。
さて、話を戻して、
食材や空腹感があり、食材を調理する行動が伴い、結果、料理が完成しました。
結果完成した料理があり、その料理を食べる行動が伴いますが、このとき得られる結果は?
答えは「味が口の中に広がる」「お腹が満たされる」などですと書きましたが、
料理が上手くなるときポイントとなる重要な結果は「味が口の中に広がる」という結果です。
特定の工程や食材、調味料を使用して調理すると自身の好みの味という結果が伴うことが学習すると、その行動は「味」が強化子となり、増えて行きます。
行動を重ねる中でどんどんとさらに自分自身が好む味に近づけるという行動が強化され、調理行動が洗練されて行くのです。
そしてこのときどのような行動を取ることが適切な調理に必要な行動かも要領を得て行きますので「(2) 作る手際が良くなり、作り終えるまでの時間が短くなる」ことも自然に上手くなるでしょう。
例えば最初は「この野菜、どういう形で切ったらええんかな?」とか悩んでいた時間がなくなって行きます。
何度も何度も強化され行動は洗練されていますから、どのような形で切れば自分が好みの味に近いかということはもはや悩む必要は必要ありません。
結果的に料理完成までの時間は短縮されて行きます。
炒めるときにどのような順番でどのようなタイミングで食材をフライパンに入れるのか悩む時間なども減って行きました。
調理した料理から「味」という結果を得るということは調理に伴う自然な結果でしょう。
このような行動に伴う自然で直接的な結果は行動変容にとって望ましい強化子です。
例えばRobert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2006) はABA自閉症療育、PRTについての著書の中で行動に伴う自然で直接的な結果についての重要さを書いています。
「行動に伴う自然で直接的な結果」というのもABA自閉症療育で意識したいキーワードですので、気になる方は是非、ブログ内検索窓で「行動に伴う自然で直接的な結果」と検索してみてください。
最後に「(3) 盛り付けが上手くなり、見た目が良くなる」については確実にTwitterの投稿行動が大きな影響を持っていると思います。
「美味しそうです」などのポジティブなご意見をいただけることがあると嬉しいので、たまにそのようなコメントがもらえることが私の盛り付け行動を強化して来ました。
しかし「(3) 盛り付けが上手くなり、見た目が良くなる」については他の(1)(2)と比べると上達スピードが遅いと感じています。
具体的には、最初と比べると美味しそうに見えるよう盛り付けられるようになってはいると思うものの、盛り付けの幅はあまり広がっていない(いつも同じ盛り付け)です。
この理由をABAで考えてみましょう。
(1) 自分の好みの味で作ることができる(作る料理が美味しくなる)
(2) 作る手際が良くなり、作り終えるまでの時間が短くなる
と比較すると、
(3) 盛り付けが上手くなり、見た目が良くなる
は強化される頻度が相対的に低いです。
例えば「(1) 自分の好みの味で作ることができる(作る料理が美味しくなる)」と「(2) 作る手際が良くなり、作り終えるまでの時間が短くなる」については、
強化子を得る機会は調理をして料理を作るたびにあるため、強化子を手に入れる機会も多くなります。
私は結構、自分が作った料理を食べることが好きなので調理をして料理を作ったことから強化子を得られる確率が高いです。
これは自分が作った料理を美味しいと思う、ということが多いということになります。
対して「(3) 盛り付けが上手くなり、見た目が良くなる」は基本的には夕食を作るたびにTwitterに投稿をしてはいるものの毎回コメントをいただけるわけではないので、強化される頻度が相対的に低いです。
例えば月に25回料理をするとして、20回はその料理の味が美味しいと思い、その料理を作った調理行動が強化されたとしましょう
25回Twitterに投稿をしたしてもポジティブなコメントがいただける回数は5回程度だとすれば、味と比較して4分の1程度の強化子に触れる機会となります
実は「(1) 自分の好みの味で作ることができる(作る料理が美味しくなる)」と「(2) 作る手際が良くなり、作り終えるまでの時間が短くなる」についての私個人の成長スピードと比較して、
「(3) 盛り付けが上手くなり、見た目が良くなる」は徐々に上手くはなっていると思うものの成長スピードは遅いです。
これはABAで考えたとき、強化子に触れる回数が(1)(2)と比較して(3)は少ないから、と解釈することが可能でしょう。
今回は自身の料理についての考察でしたが、少しABA自閉症療育にも使える考え方だと思いませんか?
例えばご紹介して来たように素早く行動を変えたいと思った場合は、毎回の行動に強化子を伴わせた方が成長が早いです。
このように毎回の行動に強化子を伴わせる方法は連続強化、毎回の行動には強化子を伴わせない方法は間欠強化と呼ばれます(参考 梅津 耕作,1975)。
※ 但しこのように毎回の行動に強化子を伴わせることにもデメリットもあります。デメリットについては下でご紹介する参考ページをご参照ください
このようなことも知っておきましょう。
このように、どの程度の頻度で強化子を提供すると行動はどのように変化するか?
というのは「強化スケジュール」という研究分野です。
「強化スケジュール」について興味を持たれた方は「(ABA自閉症療育の基礎23)オペラント条件付けー強化スケジュール(https://en-tomo.com/2020/08/18/aba-operant-reinforcement-schedule/)」をご覧ください。
さいごに
今回は自身の料理を作る行動について、ABAで考察をしてきました。
書いていて、例えば私自身が料理を作る行動を何度行っても、好みの味という結果が得られなかったとすれば、私の調理行動は強化されなかったかもしれません。
つまり美味しいなと思う料理が(何度チャレンジしても)ほとんど作れなかったという場合であれば、調理行動は消去されていったかもしれません。
私は料理を作っている時間が好きです。
楽しいし、お腹も減っている中で作るのでワクワク期待感を持てます。
このように考えれば自身の人生を豊かにしてくれた料理を作るスキルがある程度、自身の舌を満足させることができるレベルで初期に備わっていたことには感謝するべきかもしれません。
自身で作る料理の「ハズレ」も経験を積むとほとんどなくなって行きます。
これは「ハズレ」を作ってしまった調理工程は強化されないため、そのような行動を取る確率が将来下がって行ったからでしょう。
これはABAでは「分化強化」と呼ばれる現象が生じたからです。
分化強化とは、強化子を得るために必要だった行動は強化され増えるものの、強化子に繋がる恩恵が得られなかった(もしくは逆にまずいなどの結果をもたらした)行動は強化されない(消去)もしくは罰されます。
その結果、強化子を得るための行動が洗練されて行くのです。
このような分化強化も覚えておくとABA自閉症療育で使えます。
生活の中で自分の行動変容が生じたとき、それをABAの理論で説明を構築する。
そのようなこともABAのトレーニングになると思います。
今回料理を作ることについて書いたことで、また自分自身の生活が変化したことをABAで考察してみたいと思いました。
また、どうぞよろしくお願いいたします。
【参考文献】
・ Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2006) Pivotal Response Treatment for Autism:Communication,Social, and Academic Development 【邦訳 氏森 英亞・小笠原 恵 (2009)機軸行動発達支援法 二瓶社】
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書
・ 梅津 耕作 (1975) 自閉児の行動療法 有斐閣双書