「トップダウン思考」で介入計画を作る、必要なターゲット行動を具体化する(ABA自閉症療育テクニック6)

私の考えではABA自閉症療育で支援して行く内容は大別すれば、


(1) まだできないことをできるように教える

(2) もうスキルとしてはできることを、他の人や場所でも使用できるよう促す


のどちらかについてお子様へ支援して行くという認識です。


このように考えることは非常にシンプルでやりやすいと思います。


(1) まだできないことをできるように教える


の場合は基本的には「プロンプト」と「強化法」をしっかりと行い、その後「プロンプトのフェイディング」のあとに少し遅れて「強化子のリダクション」も行えばバッチリです。

「プロンプト」と「強化法」を行い、その後「プロンプトのフェイディング」のあとに少し遅れて「強化子のリダクション」をする方法については、

「(ABA自閉症療育の基礎42)オペラント条件付けー強化法とプロンプト(https://en-tomo.com/2020/09/27/reinforcement-prompt/)」

そして、

「(ABA自閉症療育の基礎43)オペラント条件付けー強化子のリダクションとプロンプトフェイディング(https://en-tomo.com/2020/10/04/reduction-fading/)」

をご参照ください。


「(ABA自閉症療育の基礎42)オペラント条件付けー強化法とプロンプト」のサムネイル

「モデルを見せる」、「教材に工夫を加える」というアイディアはこの場合は「プロンプト」に含んで考えればわかりやすいでしょう。

いずれにせよ個人的にはまだできないことを教える場合は9割以上(もしかすると全部?)この「プロンプト」と「強化法」、その後「プロンプトのフェイディング」と「強化子のリダクション」方略でなんとかなると思います。

とても強力(地道ですが)な方略です。


(2) もうスキルとしてはできることを、他の人や場所でも使用できるよう促す


場合はもうできることなのでお子様の「モチベーションを上げる操作」や「弊害となっているものを取り除く(例えば不安、過去の失敗体験など)工夫」が重要になるでしょう。

こちらの方が実は少しテクニカルな部分が多いのではないかと思っています。


Enせんせい

例えば面接のテクニックとかです


今回のブログページではどちらかと言えば「(1) まだできないことをできるように教える」とき、どういったことを念頭に置いて教えていけば良いのか?

のポイントを解説していきましょう。


例えばお子様はまだ年齢も若く未習得なスキルは大人と比較して少ないです。

そのためどのお子様であったとしても基本的には、


(1) まだできないことをできるように教える

(2) もうスキルとしてはできることを、他の人や場所でも使用できるよう促す


両方のを含んだ療育計画を立てていかなければいけない状況がやってきます。

※ 例えば発達の遅れが重めのお子様でABA自閉症療育初期の場合は今の時点で(1)しか該当しないこともあるでしょうが、そのようなお子様もいずれ(2)のフェイズがやってくるでしょう


今回は「(1) まだできないことをできるように教える」の際、特に個人的に気を付けておいてほしいなと思うことを書いていきましょう。

初めてブログに訪れてくださった方のために最初、簡単に用語解説だけ行っておきます。


Enせんせい

「プロンプト」と「強化法」をしっかりと行い、その後「プロンプトのフェイディング」のあとに少し遅れて「強化子のリダクション」も行えばバッチリと上で書いたので、

この用語について最初に簡単に解説をさせて下さい


「プロンプト」・・・プロンプトとは好ましい行動をより起こしやすくさせる刺激(James E. Mazur,2006)です。

簡単に言えば「ヒントを出す」ということで、例えばお子様へ1人で自立してできない課題を求めたときに身体誘導や視覚刺激(写真や文字)、お手本(モデル)を見せるなどで行動を促すことをプロンプトと言います。


「強化法」・・・お子様の行動の直後に与える結果であり、お子様の行動を増やす刺激(褒める、抱っこ、場合によってはチョコレートやYoutubeなど)を提示する方法。

お子様の行動を増やしたいとき核となる部分です。


「プロンプトフェイディング」・・・プロンプトはヒントだとすれば、自立した課題達成のためには徐々にプロンプトがなくともターゲットとした行動が生起して行く必要があります。

Raymond .G .Miltenberger (2001)は発達障がいのある人や幼い子どもたちの場合は身体プロンプトのような強力で侵襲度の大きいプロンプトが適していると述べていますが、

最初はそれで良いですが、徐々にヒントの量を少なくして行って自立した課題達成を目指させることがプロンプトフェイディングです。

※ 「侵襲度が大きい」とは強めのプロンプトを用いるということで、プロンプトフェイディングは徐々に侵襲度の低いプロンプトに移行させて行くことで自立した課題達成を目指します


別件、重要なこととして「プロンプト依存」という言葉も覚えておきましょう。

O.Ivar Lovaas (2003) はプロンプト依存を避けるために、指導者は全てのプロンプトを段階的に撤去しなければならないと述べていますが、

あまり長く同じレベルでプロンプトを用いすぎるとお子様がプロンプトを待つことを学んでしまい「プロンプト依存」という状態になってしまう可能性があります。

そのためプロンプトはずっと出し続けるのではなく適切なタイミングを狙ってフェイディングし「プロンプト依存」のリスクも避けねばいけません。


「強化子のリダクション」・・・新しい行動を形成した後、その行動を維持するのに強化子の量を減らしたり、頻度や確率を減らしていく手続きをリダクションと呼び、臨床・実践ではよく行われている技法です(島宗 理,2019)

行動を増やすため、最初はプロンプト付きでもお子様がターゲット行動を行ったとき大きく強化子を伴わせます。

例えば「おはよう」とお子様が言えた(プロンプト付きでも)とき、めちゃくちゃに褒めて抱っこをする。


但しこのようにするのですが、このような結果が伴うことは非日常的ですね?

あなた以外の大人(園の先生だけでなくおばあちゃんとかも?)はそこまでの強化子(結果)の提示をしないことが普通でしょう。


このようなことを続け「強化子が伴わないと行動をしない(強化子依存)」が生じると、これはこれで「般化しない」という問題が生じます。

そのため強化子についてもプロンプトフェイディングと同じで普通の量に徐々に調整して行く必要があります。


ちなみに「般化しない」と書きましたが「般化」についてはShira Richman (2001) の、

般化とは直接教えていない様々な場面や状況、人に応じて適切な行動を示すこと。また、教えられた型どおりではない応答を示すことという解説がシンプルでわかりやすいです。


Shira Richman (2001) 

本ブログページでは「般化」はキーワードとなりますので、上の定義を覚えておいて下さい。

では本題に入っていきましょう。



スキルを教えるとき「トップダウン思考」で具体的に介入計画を作る

Enせんせい

私はスキルを教える前にどこで誰にいつ、どうやって使用して欲しいのかイメージすることが大切だと思います

その上で「トップダウン」で考えて教えることです


トップダウンで教えるというのはある程度の目標を作り、その目標にたどり着くための計画をしていく考え方になると思いますが、

まずはターゲット行動(目標)がどういうようにできるようになって欲しいか、イメージした上で介入法略を組んで行くことをお勧めします。


少し具体的に書いて行きましょう。

例えば「無発語」の自閉症の男の子がいたとします。

親御様へ「お子様に今、一番どうなって欲しいですか?(何を望んでいるか?)」と聞いたところ「言葉でコミュニケーションが取れるようになって欲しい」という主訴がありました。


「言葉でコミュニケーションが取れるようになって欲しい」という主訴は目標としてはあって良いと思うのですが、

「トップダウンで介入計画を作る」ためには少し目標を具体的にした方がやりやすいです。

以上のような主訴があった、そのときどうするか?

以下会話形式でブログを進めて行きます。


話し合って相談をしながら決めて行きましょう

私:今、言葉でコミュニケーションが取れるようになる、ということを目指したいんですね。どういった場面で特に、今そう思うことが多いですか?

親:いろいろな場面、全ての場面でそう思います

私:なるほど、では、生活をしていてそう思う頻度の多い場面はありますか?例えば「これが欲しい」とか「お母様と関わるときにママと呼んで欲しい」とか、どうでしょう?

親:うーん、そうですね。何が欲しいのかなんとなくはわかるのですが、できれば欲しいものがあったときは言葉で伝えて欲しいです

私:そうですよね。わかりました。他の場面でもありそうですか?

親:いや、今は特に思いつきません

私:わかりました。では、まずは言葉でお子様が欲しいものを要求できる、というところから始めて行くのはいかがですか?

親:はい、お願いします


以上のような会話があったとします。


「言葉でコミュニケーションが取れるようになって欲しい」という主訴よりも、「お子様が欲しいものがあったときに言葉で要求できる」という主訴の方が具体的です。

具体的なので「言葉でコミュニケーションが取れるようになって欲しい」という主訴よりも「お子様が欲しいものがあったときに言葉で要求できる」という主訴の方がトップダウンで介入計画がスムースに立てられると思います。


今、主訴は「お子様が欲しいものがあったときに言葉で要求できる」と具体的になりましたが、「トップダウン」で介入計画を立てるためにはもう少し具体的にした方がやりやすいので、

以下また会話形式で話を進めて行きましょう。


私:では、「お子様が欲しいものがあったとき、言葉で要求できる」ことをまずは目指しましょう。毎日の生活の中で特に最初「これを要求できればいいな」と思うものはありますか?

親:うーん、迷います

私:そうですよね。練習するのなら、「お子様の要求が高い、好きなもの」とか「毎日の生活の中で頻度があるもの」、「親御様がコントロールが取れるもの」の方がやりやすいのですが、いかがですか?

「親御様がコントロールが取れるもの」とは例えば、お菓子でも良いですが、それは常にお子様が手に入れられるわけではなくて普段は棚にしまってあって、お母様始動でお子様に与えられるもの、という意味です

親:Youtubeを見せて欲しいことが多いので、それだったら毎日あると思います

私:わかりました。まずは「お母様の前(誰)」で言えるように練習する、ということにしますか?

親:はい。それで大丈夫です。私が普段一緒にいますから

私:わかりました。では目標としては「お母様の前(誰)」で「Youtubeがみたいとき(いつ)」に言葉で要求できる、というところですかね

親:はい

私:練習はどこでやりますか?リビング?か、外出先でもYoutubeがみたいときは練習をして行く、という感じでイメージしますか?

親:一旦は「家の中(どこ)」だけでやってみようと思います

私:わかりました。「家の中(どこ)」で「お子様がYoutubeがみたいとき(いつ)」、「お母様の前(誰)」でなんと言ってくれたらいいな、と思いますか?

親:「Youtubeみたい」とか、ですかね

私:わかりました。ではまずは「みたい」と言えるよう練習する、にしますか?

親:はい。それで大丈夫です

私:わかりました。では目標としては「家の中(どこ)」で「お母様の前(誰)」、「Youtubeがみたいとき(いつ)」に「みたい(どのように)」と言葉で要求できるよう介入計画を作って行きましょう

親:はい


最初親御様の主訴は「言葉でコミュニケーションが取れるようになって欲しい」という主訴でした。

それを少し具体的にして「お子様が欲しいものがあったときに言葉で要求できる」という主訴となりました。


そして最後は、

『「家の中(どこ)」で「お母様の前(誰)」、「Youtubeがみたいとき(いつ)」に「みたい(どのように)」と言葉で要求できる』

という主訴へとより具体的なものとなりました。


Enせんせい

介入方法として「何を使うか」、「目標にたどり着くための短期目標をどこに設定するか」というところはお子様も含めご家族様に合わせてチューニングしていきますが、

ここまで来れば介入計画をトップダウンで考えて行くには十分かと思います


例えば宮下 照子・免田 賢 (2007) は行動観察のポイントとして、


(1) 何を観察するのかあらかじめ決めておく

(2) 観察する状況や時間を決めておく

(3) 行動を5W1Hで言い表せるように観察する


ことを述べましたが介入計画を作るときも上の(1)から(3)は参考になるでしょう。


またやって行く中で不具合も出てくる、例えば「家の中でやる」となっているものの洗濯物を取り込んでいるときは難しい、など事情も出てくると思うのでそれが出てくれば介入計画に織り込んで行ってチューニングしていけば良いです。


Enせんせい

そのように事前に立てた介入計画を、介入進行しながら再調整して行く考え方をケースフォーミュレーションと言います


※ケースフォーミュレーションの定義はいろいろあるかと思いますが私はそのように考えています


「(ABA自閉症療育の基礎68)療育の問題行動解決とは?ケースフォーミュレーション、アセスメント方法から介入まで(https://en-tomo.com/2020/12/23/aba-case-formulation/)」のサムネイル


さいごに

「ABAをやってみたい、でも何をすれば良いの?」と思ったとき、本ブログで書いてきたようにお子様に教えたいターゲット行動(目標行動)を具体的にするということから始めてみてください。

最初は「うん、具体的になった!これで行こう」と思って始めてみてもやってみると「もっと具体的にしていないと難しかった」ということも多いと思います。

例えば私自身もそうでしたし、介入計画が立てられるよう目標を具体的にすることは実はそんなに簡単なテクニックではありません。

「介入計画を立てるときお子様に教えるターゲット行動を具体的にする」そして「ターゲット行動が決まったらトップダウンで教える」という順序です。


介入計画を立てるときお子様に教えるターゲット行動を具体的にするときの1つのコツは今回、対話形式でブログを進めてきましたが、

「ターゲット行動を5W1Hで表現する」ということは1つの方法でしょう。


またそこにご家族様が持っているリソースも織り込まなければいけません。

今回、対話で出てきたお母様は「家にいるとき介入ができる」ということでしたが「小さい弟がいる」などの場合状況が変わってくるかもしれません。

例えばそうなったとき「晩御飯のあと19時なら夫も帰ってきているから、19時から20時までの間で介入をします」というような話になる可能性もあるでしょう。

実際にターゲット行動を設定し介入計画を立てる段取りを組むとき、そのような利用可能で現実的に介入遂行できるご家族様のリソースを考慮することは必須だと思います。


本ブログページでは前半、始めてご訪問いただいた方のために「プロンプト」、「強化法」、「プロンプトのフェイディング」、「強化子のリダクション」についても簡単にご紹介しました。

もっと詳しくは他のブログページに書いてありますから、必要であればキーワードを検索窓に入れ(そのとき「 」は外してください)、いろいろ見てくださると私自身もとても嬉しいです。


本ブログページは介入法を紹介したというより、それ以前の介入法を選定する前の考え方について書いてきました。

本ブログページが皆様の日々のABA自閉症療育ライフのご参考になれば幸いです。



【参考文献】

・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】

・ 宮下 照子・免田 賢 (2007) 新行動療法入門 ナカニシヤ出版

・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社

・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】