ABA自閉症療育ではお子様にさまざまな課題を行ってもらうのですが、お子様が行う課題は、
・ 既にできるようになっている課題
と
・ 今練習している挑戦中の課題
に分けて考えることができると思います。
「既にできる簡単な課題」と「今挑戦している難しい課題」についての取り組み方について、
例えばブログ内では今まで「PRT:Pivotal Response Treatment(機軸行動発達支援法)」というABA自閉症療育の方法からご紹介したことがありました。
William R. Jenson・Elaine Clark・John Davis・Julia Hood (2016) によればPRTはライフスタイルと呼ばれることもある療育方法で、特に療育の専門家が実施する必要はありません。
PRTには『基準に達するまで「教えている課題」に加えて「既にできる課題」も織り交ぜる』という要素があることを過去の記事でご紹介しました(Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel,2012)。
PRTを参考にすれば、お子様に課題設計をする際、
1 :難しい課題
2 :かんたんな課題
3 :かんたんな課題
4 :難しい課題
5 :かんたんな課題
6 :かんたんな課題
7 :かんたんな課題
8 :難しい課題
9 :かんたんな課題
10:難しい課題
のように難しい課題に挑戦する際、比較的かんたんな課題を多めに織り込んで課題構成をすることでお子様は楽しみながら積極的に療育に参加することができます。
これはこれで知っておくとお子様にABA自閉症療育を行う際、課題に挑戦することに行き詰まった際、使えるテクニックかと思いますので、知っておいて欲しいのですが、
今日はもう一つ別のテクニック「行動モメンタム」を意識したテクニックをご紹介しましょう。
行動モメンタムとは?簡単に解説
重い物体が運動を開始すると、その物体はモメンタム(Momentum:質量と速度の積で表す物体の運動量)を獲得し、停止することに困難を伴うようになる(James E. Mazur,2006)。
何のこっちゃ?と思うかもしれませんが、重さのある物体が速度を得ると止まるのはちょっと難しいねということです
例えば鉄球を転がしたとき、勢いが付くので止めるのはちょっと難しくなります
このような物理学の慣性の法則に似ているものをオペラント条件付けの理論として扱っているのが「行動モメンタム」の研究分野だと思います。
さて、いきなり小難しい話から入りましたが、ではこれをどうやってABA自閉症療育で使えるテクニックとして扱っていけば良いでしょうか?
日本行動分析学会 (2019)、「行動分析学辞典」という本の中に「行動モメンタム:応用」というページがあります。
その中で扱われている内容などからABA自閉症療育で活かせるポイントをご紹介しましょう
日本行動分析学会 (2019)ではMaceという研究者が1988年に行った研究が紹介されています。
日本行動分析学会 (2019)によればMaceは課題を「高確率課題:高い確率で遂行できる課題」と「低確率課題:低確率でしか遂行できない課題」に分類しました。
研究は重度の知的障がいのある方に対して行われたようなのですが、
「高確率課題」を何度か遂行して強化した直後に「低確率課題」が1回だけ試行されました。
結果、「低確率課題」の遂行率が上がったことがわかったと言うことです。
先ほどのRobert L.Koegel他(2012) を参考にした課題設計は、
1 :難しい課題
2 :かんたんな課題
3 :かんたんな課題
4 :難しい課題
5 :かんたんな課題
6 :かんたんな課題
7 :かんたんな課題
8 :難しい課題
9 :かんたんな課題
10:難しい課題
というものでした。
行動モメンタムを意識した課題設計では例えば、
1 :かんたんな課題
2 :かんたんな課題
3 :かんたんな課題
4 :かんたんな課題
5 :難しい課題
このように設計することとなるでしょう。
島宗 理 (2019) は行動モメンタムの研究は現在も進行中だとしつつ、
小学校の授業開始時に、教科書や筆箱、下敷きなどを机の上に出して準備しなさいという教師の指示に従うことが難しい児童に、彼らにも従える簡単な指示をして(「手はひざの上」など)、指示に従った行動を強化してから難しい指示をすると指示に従いやすくなる
という応用行動分析学(ABA)の研究も行われていると述べています。
「行動モメンタム」、少し使えそうだなと思いませんか?
「行動モメンタム」を意識した療育を行う際のポイントと具体例を以下ご紹介していきます。
行動モメンタムを意識したABA自閉症療育のポイントと具体例
まずポイントですが「行動モメンタムを利用したABA自閉症療育」は、
「簡単な課題」を何度か行わせたのち「難しい課題」を行わせるということではありません。
上の文書では言葉足らずです。
正しく言えば、
『「簡単な課題」を何度か行わせ、その度に強化し、勢いをつけて「難しい課題」を行わせる』
という表現が正しいでしょう。
つまりただ「簡単な課題」を行わせるのではなくて、簡単な課題達成時には毎回強化する必要があることは忘れないでください。
その上で2つ具体例を出していきます。
具体例1:お風呂に入ってと言ってもなかなか切り替えができない太郎くん
夜、お母さんが「お風呂入りなさい」と言ってもその時間はプラレールで遊んでいる太郎くん。
お母さんが「お風呂入りなさい」と言っても黙っていることが多く、またもっと強く指示すると抵抗も示します。
この場合、
1:「難しい課題」ー「お風呂に入りなさい」という指示に従う
上のように「1試行目」から「難しい課題」を行っている、という認識をしましょう。
行動モメンタムを意識して指示をだすとすれば?
例えば以下のような感じです。
1:「かんたんな課題」ー「太郎くん、プラレール楽しい?(応答課題)」
→太郎くんは「うん」と応答し、お母様は強化する(頭を撫でたり、抱っこしたりしてもOK)
2:「かんたんな課題」ー(太郎くんに近づいていって)「ママの方見て」
→太郎くんはお母さんの方を見る、お母様は強化する
3:「かんたんな課題」ー「ママのマネして」(プラレールを1車両おもちゃ箱に片付ける)
→太郎くんも1車両片付ける、お母様は強化する
4:「困難な課題」ー「一緒にお風呂行こうか」(手を繋いでお風呂に誘う)
→太郎くんは「うん」とうなずいてお母さんの誘導に身を預ける、お母様は強化する
次は別の例を見てみましょう。
具体例2:運筆プリントをやるように促してもなかなか行わない太郎くん
お母さんが太郎くんを椅子に座らせ机の上に運筆プリントを置いて「これをやりなさい」と言ってもなかなか動き出さない太郎くん。
お母さんが「やりなさい」と言っても黙っていることが多く、またもっと強く指示すると抵抗も示します。
この場合、
1:「難しい課題」ー「これ(運筆プリント)をやりなさい」という指示に従う
上のように「1試行目」から「難しい課題」を行っている、という認識をしましょう。
行動モメンタムを意識して指示をだすとすれば?
例えば以下のような感じです。
1:「かんたんな課題」ー「太郎くん、手はおひざ」
→太郎くんは手をひざに置き、お母様は強化する(頭を撫でたり、抱っこしたりしてもOK)
2:「かんたんな課題」ー「太郎くん、えんぴつさわって」
→太郎くんはえんぴつをさわる、お母様は強化する
3:「かんたんな課題」ー「ここ1個だけ書いてごらん」(運筆課題の一部だけやるように促す)
→太郎くんは一部だけやる、お母様は強化する
4:「困難な課題」ー「ここ(プリント課題の全部の範囲を示し)までやってみて」(手を繋いでお風呂に誘う)
→太郎くんは「うん」とうなずいてプリント課題を行う、お母様は強化する
以上のような感じです。
簡単な課題を行うことでたくさんの強化機会を作り、勢いを付けてから困難な課題に取り組ませる、行動モメンタムを意識したABA自閉症療育のテクニック、
もしお子様が抵抗感の強い課題に挑戦して欲しいと思ったとき、取り入れてみてはいかがでしょうか?
さいごに
いかがだったでしょうか?
本章「ABA自閉症療育テクニック」では今日、明日からでも使えそうなABA自閉症療育のテクニックをご紹介していますが今回は行動モメンタム。
ABA自閉症療育ではターゲットとした行動を強化して行くことで、適切な行動を増やして行くことを狙います。
ただ適切な行動(ターゲット行動)は出現しなければ強化することができません。
私たちはターゲット行動を出現させるための手段として主に「プロンプト」を使います。
ただ「プロンプト」以外の方法として、本ブログページでご紹介してきた、
Robert L.Koegel他(2012) を参考にした難しい課題と簡単な課題を織り交ぜる課題設計や、
行動モメンタムを取り入れた課題設計も使用してみても良いと思います。
2つともお子様を「乗せたい」ときに使えるテクニックでしょう。
【参考文献】
・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】
・ 日本行動分析学会 (2019) 行動分析学辞典 丸善出版
・ Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2012) Pivotal Response Treatment for Autism Spectrum Disorders 【邦訳 小野 真・佐久間 徹・酒井 亮吉 (2016) 発達障がい児のための新しいABA療育 PRT Pivotal Response Treatmentの理論と実践 二瓶社】
・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社
・ William R. Jenson・Elaine Clark・John Davis・Julia Hood (2016) Comparisons of Pivotal Response Treatment (PRT) and Discrete Trial Training (DTT). University of Utah Department of Educational Psychology School Psychology Program