ABA自閉症療育では絵カードを使用して療育を行うことが多いです。
例えばWindowsでもMacでも良いのでワープロソフトを開いて4つの四角に区切りイラストを挿し入れ印刷します。
↑↑上のような感じでイラストを印刷してハサミで切ってラミネートし、教材として使用するのです。
※ 上のイラストは「https://en-tomo.com/2021/12/24/teaching-materials-animal/」からダウンロード印刷できます
カードで行う課題を大きく分ければ3つに分けることができるでしょう。
それは、
・ マッチング課題
・ 受容課題
・ 表出課題
の3つです。
今日はこの中のマッチング課題というものに注目して解説を行っていきます
一言にマッチング課題と言ってもいろいろな種類があるものです
また特定のマッチング課題はABA自閉症療育でかなり初期の段階で導入が検討される課題となります。
そのようなマッチング課題も以下でご紹介していきますので、もしあなたがABA自閉症療育を今から始めようと言った場合は是非やってみてください。
マッチング課題とは何か?
最初にマッチング課題とは何か?ということを書いていきましょう。
マッチング課題では例えばお子様の前に「ぞう」「きりん」「ねこ」のカードを3枚並べておきます。
そして「同じ して」や「一緒 して」などと言いお子様に「ぞう」のカードを渡し、お子様が「ぞう」のカードの上に「ぞう」を重ねられれば正答という課題です。
一般的には絵カードを使用してマッチング課題を行うよりも3Dのアイテムを使用してマッチング課題を行う方が難易度が低いと言われています。
そのためもし絵カードでのマッチング課題が難しい場合は3Dのフィギュアなどを使用してマッチング課題を行えば良いでしょう。
絵カードの場合もフィギュアの場合も「同じにできた」ということが分かりやすいよう例えば「100均で買えるような底が浅めの箱」や「紙皿」などに選択肢を乗せてお子様の前に提示することが良いと思います。
上のイラストのような感じですね。
ABA自閉症療育全般に言えるコツですが、「お子様がどのようなアクションを起こしたときに正答となるか?」ということをお子様側が理解しやすいことは当然ですが、療育者側も把握しやすいようにしておきましょう。
このような「AとA」という「同じもの同士を重ねる課題」を武藤 崇・坂本 真紀 (2011) は「同一見本合わせ課題」と呼んでおり、見本に合わせる選択肢が同じものである課題と述べました。
「同一見本合わせ課題」含めマッチング課題とは「視覚刺激」と「視覚刺激」をマッチングさせる課題です。
「視覚刺激」と「視覚刺激」をマッチングさせる課題以外の課題はどういったものがあるでしょう?
例えば以下のイラストを見てください。
上では「赤 どれ?」という言葉に伴ってお子様が「赤」を選択しています。
これは「視覚刺激」と「視覚刺激」のマッチング課題ではなく、「音声刺激」と「視覚刺激」のマッチング課題です。
「受容課題(じゅようかだい)」と呼ばれるこの「音声刺激」と「視覚刺激」のマッチング課題は基本的にはここでご紹介している「視覚刺激」と「視覚刺激」のマッチング課題と比較して難しいと思います。
このような「音声刺激」と「視覚刺激」のマッチング課題はマッチングという言葉を使わず「受容課題」と呼ばれることが多く、
そして「視覚刺激」と「視覚刺激」を合わせる課題をマッチング課題と呼ぶことが多いです。
基本的には受容課題の方がマッチング課題よりも難しいため、順番としてはお子様の前に「ぞう」「きりん」「ねこ」のカードを3枚並べ、
「同じ して」や「一緒 して」などと言いお子様に「ぞう」のカードを渡し、お子様が「ぞう」のカードの上に「ぞう」を重ねられれば正答という課題ができるようになってから、
「ぞう どれ?」という受容課題と呼ばれる「音声刺激」と「視覚刺激」のマッチング課題を導入して行くことになるでしょう。
以上ですが本ブログページでご紹介した「マッチング課題」と呼ばれる課題は基本的には「視覚刺激」と「視覚刺激」を合わせる課題です。
このような課題がマッチング課題と呼ばれる、ということを覚えておいてもらって次にいろいろなマッチング課題について見ていきましょう。
さまざまなマッチング課題
上では同じ刺激同士を同じにするマッチング課題を見てきました
他にマッチング課題と呼ばれる課題にタイプはないでしょうか?
例えば「かたち」「いろ」などで同じ属性同士をマッチングすることもできます。
「かたち」の場合は例えば「おにぎりのフィギュア(三角)」、「スーパーボール(丸)」、「バスのおもちゃ(四角)」をお子様の前に置いておき「積み木(四角)」を渡す。
同じ「四角」という属性を持った「バスのおもちゃ(四角)」と「積み木(四角)」をマッチングできればOKとすることや、
「いろ」の場合は「りんごのフィギュア(あか)」、「ばななのフィギュア(きいろ)」、「ぶどうのフィギュア(むらさき)」をお子様の前に置いておき「赤いカード(あか)」を渡す。
同じ「あか」という属性を持った「りんごのフィギュア(あか)」と「赤いカード(あか)」をマッチングできればOKとするなども可能でしょう。
男の子のカード5枚、女の子のカード5枚ほど用意しておき、男女にマッチングして行くよう教えることで男女の区分けを教えることもできますし、
大人のカード、子どものカードをマッチングして行くことで大人と子どもの区分けを教えることもできます。
数では「◯」、「◯◯」、「◯◯◯」とプロット数の違うカードをお子様の前に置いておき「3」のカードを渡す。
その後「◯◯◯」と「3」をマッチングさせることで個数と数字のラベルの理解を促して行くことも可能になります。
カタカナを教えるために「た」「ろ」「う」など習得済みのひらがなをお子様の前に並べ、「ウ」とカタカナを渡して「う」と「ウ」をマッチングさせることでカタカナの獲得を目指すことも可能でしょう。
文字の理解だと他にもひらがなとものの名前をつなげたい時は例えば「きりん」、「くるま」、「すいか」のイラストが描かれたカードをお子様の前に置いておいてひらがなで「きりん」と書いた文字カードを渡し、
「きりん」のイラストと「きりん」と書かれた文字カードをマッチングさせるという課題も考えられます。
お子様にそのアイテムがそのひらがなで表現されるということを教えることができるでしょう。
このようにマッチング課題からも様々な学習を促して行くことが可能です。
またここまでで紹介していないメジャーなマッチング課題として覚えておいて欲しい課題は「カテゴリー分け」と言われるマッチング課題でしょう。
「カテゴリー分け」課題では、
「ぞう(どうぶつ)」、「バス(のりもの)」、「りんご(くだもの)」をお子様の前に置いておき「電車(のりもの)」を渡して「バス(のりもの)」と「電車(のりもの)」をマッチングして行く課題はメジャーです。
この課題はその後、受容課題へと発展させ「ぞう(どうぶつ)」、「バス(のりもの)」、「りんご(くだもの)」をお子様の前に置き「のりもの どれ」と音声視覚と視覚刺激のつながりも促進していってください。
同一カテゴリーの幅が広がって行くことで「人物」、「場所」、「時間(夜や朝のカードを使う)」などのカテゴリー分けへも発展させて行くことも可能で5W1Hを教えるなどのときにも使用できます。
同一見本合わせ課題以外のマッチングが難しいお子様の場合
上でさまざまなマッチング課題の種類をご紹介していきました。
マッチング課題の中でも特に「同一見本合わせ課題」はABA自閉症療育の初期段階で導入する課題です。
お子様によってはマッチング課題を飛ばして受容課題から入るお子様もいらっしゃいますが、マッチング課題でつまずきがあるお子様もいらっしゃいますが、
もしあなたのお子様が同一見本合わせ課題以外のマッチング課題でつまずいているとき、どういった課題設計を行なっていけば良いか書いていきましょう。
ここに書かれている方法だけが正解だ、とは思いませんが是非一度試してみてください
基本線は最初、全く同じ3Dのアイテム同士をマッチングさせる練習をしましょう。
3択で良いので10回ほど3つのアイテムをランダムにマッチングさせても8回9回は少なくとも安定して正解することを目指します。
10個程のアイテムを代わる代わる3択のアイテムの中に入れ、どのパターンでも8回9回は安定して正解するようになったとしましょう。
3Dのアイテムを使った同一見本合わせ課題のマッチング課題は概ねできるだろう、と判断できたとします。
ここまで来れば例えば上で紹介した「かたち」や「いろ」のマッチングに入っても良いと思いますが、それが難しい場合はスモールステップで課題レベルを刻むことが大切です。
以下2つの方法を示します。
例えば3Dで同一の「洗濯バサミ」「クレヨン」「スプーン」でマッチング可能になったとしましょう。
次のレベルとして、
(1)できるようになった3Dのアイテムの写真を撮って、3Dのアイテムと写真をマッチングさせる課題を行う
(2)3Dの「洗濯バサミ」「クレヨン」「スプーン」を用い、少し形の違う同一のもの(例えば他社製の似ている洗濯バサミなど)でマッチングさせる課題を行う
以上のような課題を行ってみてください。
またこれはマッチング課題でも受容課題でも同じですがここまで3択でお子様の前にアイテムを置いて並べる設定で話を進めてきましたが、
新しいアイテム導入の際はお子様の前に並べるアイテムは1つで構いません。
これだったらほとんどエラーは起きないはずです
何度か正解をしたのち2択にし、そして最後は3択にすれば良いでしょう
例えば「洗濯バサミ」を導入する際は、
1択:洗濯バサミ(正解)
1択:洗濯バサミ(正解)
1択:洗濯バサミ(正解)
(↓ここから2択、選択肢に入れるアイテムは既にマスター済みのもの)
2択:洗濯バサミ(正解)
2択:洗濯バサミ(正解)
2択:洗濯バサミ(正解)
(↓ここから3択、選択肢に入れるアイテムは既にマスター済みのもの)
3択:洗濯バサミ(正解)
3択:洗濯バサミ(正解)
3択:洗濯バサミ(正解)
3択:ここからランダム(洗濯バサミ以外もお子様に渡してマッチングさせる)
というようにトライアルを構成し、例えば上のスムースに行ったトライアルだと10トライアルでランダムまで行っています。
「(正解)」となっていますが「不正解」だった場合はトライアル数を増やして調整していけば良いです。
また実際にはエラーレスラーニングですので「不正解」にするというよりは不正解になりそうなときはプロンプトを使用してヒント付き正解にし強化するようにします。
さいごに
本ブログページではマッチング課題について書いてきました。
マッチング課題の中でも特に「同一見本合わせ課題(見本に合わせる選択肢が同じもの)」はABA自閉症療育初期に導入が検討される課題です。
既に言葉が出ていてものの名前などがいくつか言えたり、簡単な会話が成立するお子様の場合は「同一見本合わせ課題」は行わないことも多いですが、
ABA自閉症療育を初めて行うお子様で学習姿勢も整えていきたい、と言った場合など導入しても良いと思います。
マッチング課題と一言でいっても本ブログページで書いてきたようにさまざまな種類があり、本ブログページでご紹介していないものももっともっとあるでしょう。
本ブログページから「視覚刺激」と「視覚刺激」をマッチングさせることで教えられるさまざまな課題があるということが伝わればよいな、ということと、
あまり言葉が出ていないお子様をお持ちの親御様がいらっしゃったとして、ABA自閉症療育を行ってみたいけれども何をやったら良いか分からない、と言った人の参考になれば幸いです。
最初から本格的にカード教材を作成するためにラミネーターなど購入する必要はないでしょう。
最初は3Dの家にあるおもちゃや生活用品などで始められます。
また「椅子に座って机でやった方が良いの?」は良く聞かれる質問ですが、別に床でやっても良いでしょう。
お子様により、と言ったところですが、大切なのはアイテムをしっかりと見れているかどうかです。
椅子に座って机の上でやる方が姿勢が安定するため、もし可能であればその方がやりやすいかな、とは思います。
本ブログページが皆様の参考になれば幸いです。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
【参考文献】
・ 武藤 崇・坂本 真紀 (2011) 学校を「より楽しく」するための行動分析ー「見本合わせ」から考える特別支援教育ー ミネルヴァ書房