その結果は強化子として機能しているか?(ABA自閉症療育テクニック1)

新章です!

その名は「ABA自閉症療育テクニック」!!


これまでブログ内でABA自閉症療育のエビデンス、ABA自閉症療育の基礎として強化や消去、罰、確立操作などのオペラント条件付けの原理からレスポンデント条件付けなど、他にABAでの行動の見方や自閉症について、そして教材、ABAのコラム、


そういった章を作成してきましたが本性は「ABA自閉症療育テクニック」と題しまして、

実際にABA自閉症療育を行なっている親御様にワンポイントテクニックを書いて行くような章にしていきたいと思います。


第一回目は「その結果は強化子として機能しているか?」という内容です。

ABA自閉症療育では強化子の提供はメインウェポン!お子様の行動を増やすときには必須の知識、技術となってきます。


本章では実際にABA自閉症療育を今行なっている親御様、そして専門家のみなさまが明日から取り入れられるような内容をご紹介していき、お役に立てればと思っている次第です。

ではさっそく行ってみましょう。



簡単なおさらい、そもそも強化子が伴うと行動がどうなるのか?

最初に強化子についておさらいをしておきましょう。

強化子とは行動に伴う結果のことで、もしABA自閉症療育をお母様とお子様で行う場合は基本的には下のイラストのような図式になると考えてください。


緑部分の結果によって直前のオレンジの行動が増えればお母様の返した結果は強化子と呼ばれる

上のイラストのように行動に伴う結果はお母様が出します。


Enせんせい

だれが行動して、だれが結果を返したか、は分析するとき最初は混乱しがちな点です

そのため普段から意識しておくと良いでしょう


そしてこのとき、与えた結果によって、今後その直前のお子様の行動が増加していけばお母様の与えた結果は強化子として機能している可能性が高い、

と、こう考えるわけです。


上の例は基本形ですので、例えば下のイラストのような図式もあり得ます。


緑部分の結果によって直前のオレンジの行動が増えればお母様の返した結果は強化子と呼ばれる

このイラストではお子様の自発的な行動に対してお母様が結果を提示しています。

お母様側から特別なキューはありません。あくまでお子様の自発的な行動に対して結果のみを提示している形です。

これでも成り立ちます。


このときも与えた結果によって、今後その直前のお子様の行動が増加していけばお母様の与えた結果は強化子として機能している可能性が高い、

と捉えて良いのです。


Enせんせい

このようにお母様の結果によりお子様の行動増加すれば、「お母様の与えた結果は強化子として機能している」と考えれば良いのですが、

少し突っ込んで考えてみましょう


(1) 増加とはなんですか?

(2) 増加したかどうかはどうやって判断すれば良いですか?


本ブログページでは上の質問に対しての回答を書いていきます。

本ブログページを通して「明日からやってみよう」という方法も書いていきたいと思いますのでABA自閉症療育を行なっている方は是非行なってみてください。



増加とは何か?ー強化子について

まずは「(1) 増加とはなんですか?」の質問に答えていきましょう。


私は強化の定義として人に(丁寧に)伝えるとき、


特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。

その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ぶ


と伝えるのですが、もう少し丁寧に言う場合は赤太文字の「増加」のところを、


行動頻度、維持時間、強度の増加もしくは反応潜時時間の短縮と伝えます。


頻度の増加とは?・・・例えば強化子が提示されることで同じ時間(例えば5分間の中で比較したとき)回数が増加することを示します


維持時間の増加とは?・・・例えば強化子が提示されることで30秒持続していた行動が1分間持続することを示します


強度の増加とは?・・・例えば強化子が提示されることで囁くような声で「おはよう」と言っていたのが、10m離れたところでもはっきりと聞こえる大きさで「おはよう」ということを示します


反応潜時時間の短縮とは?・・・例えば強化子が提示されることで行動するまでの開始時間が早まる。反応のおこるまでの時間を潜時と言う。

積極的に強化子を取りに来る場合に見られるが、「片付けなさい」と言われてもお片付けをなかなかしないお子様が、お片付けをするとケーキがもらえることを理解したとき、「片付けなさい」と言われてから片付けるまでの時間が早まった場合ケーキは強化子である可能性が高い


行動が増加するとは以上のような「頻度・維持時間・強度・反応潜時時間」のいずれか(もしくはいくつか)が強化子の提示のあと変化すれば、それは行動に伴う結果が強化子として機能している可能性が高いと考えて良い、ということです。



増加したかはどう判断するか?ー強化子について

次に「 (2) 増加したかどうかはどうやって判断すれば良いですか?」の質問に答えていきましょう。


Enせんせい

あなたはABAの論文を目にしたことがあるでしょうか?

特に事例研究と言われる分野では実際に見てみると分かるのですが、縦軸が行動指標、横軸が時間軸で形成されているグラフデータが表記されているものがほとんどです


これは研究の都合上だと思うのですが時間軸は「日にち(もしくはセッション数)」で書かれていることがほとんどでしょう。

実際の都合を言えば研究の多くは大学機関で行われています。

例えば大学期間に週1回クライアント様がいらっしゃったとして1回のセッションは1時間前後でしょう。

その1時間の中の関わりの中でターゲット行動が何回(頻度)出たか、どれくらいの長さ(維持時間)出たか、というグラフデータで表記されることが多いと思います。


例えばこんな感じで日付のデータを載せていたりします

それで研究は成立しているし、また実際にその結果から学べることも多いのでこのことが悪いとは言いませんが、

これは長期的(数週間から数ヶ月)のスパンを要して結果的に強化子であった(この関わりはお子様の行動を変容させた)と判断する方法です。


しかしもしあなたが今ABA自閉症療育を行なっていたとして、

「さっき子どもに対して伴わせた結果は強化子として機能している可能性が高いかどうか」をその瞬間に判断ができる方法があれば便利だとは思いませんか?

一般的な人は(できればした方が良いですよ)、数週間から数ヶ月お子様の行動を観察して記録をして、ということを行わないと思います。


ではどうやって「さっき子どもに対して伴わせた結果は強化子として機能している可能性が高いかどうか」を判断するか、私が使っている簡単なアセスメント方法をいくつかご紹介しましょう。

ポイントは上でご紹介した反応潜時時間です。



お母さんが何かキューを出す → お子様が行動するまでの時間が早まる

もしABA自閉症療育でお母様が何かしらのキューを出しお子様が適切に行動し、行動後お母様からお子様に何かしらの結果を伴わせることでABA自閉症療育を行なっていた場合、

お母様がキューを出して、お子様がキューに反応する「反応潜時時間」に注目してください。


お子様からすれば「行動後お母様からお子様に何かしらの結果を伴わせる」が強化的であった場合できるだけ早くその結果に触れたいはずです。

これは頭を撫でるでも、褒めてもらうでも、抱っこしてもらうでも、ギューっとしてもらうでも、チョコレートをもらうでも、Youtubeを見せてもらうでも何でも良いですが、

「早くもらう方が良いか」or「遅くもらう方が良いか」で言えば、お子様がその強化子を魅力的に思っている場合は絶対に前者です。


お母様のキューがあったのち、早くお子様自身が行動する方が結果的に強化子が早く手に入る確率が高まりますから、

この点に注目するとその日のうち(早ければ課題中の数トライアルで)にお母様自身の提示した結果が強化子として機能しているかどうかざっくりと判断する基準となるでしょう。

「反応潜時時間」の変化に注目するわけです。


「反応潜時時間」が早くなったは一瞬であることも珍しくありません。1秒以下の速度で速くなった、ということもまれではないでしょう。

ですので実際にタイムを測ってというのは現実的ではないため少し感覚的なところに頼ることになると思いますが、体感でも良いので是非意識するようにしてみてください。

あなたの提示している結果が強化子であった場合、お母様がキューを出して、お子様がキューに反応する「反応潜時時間」が感覚的に短くなることを体験できるでしょう。



お母さんが何かキューを出す前にお子様が行動するための姿勢をとる

これも上の場合と同じですね。

お子様が早く強化子を手に入れたいと思ったとき例えばお母様がキューを出す前に姿勢がお母様のキューに反応しやすいように変化して行くなどは良くある変化でしょう。

例えば3枚のカードを並べて「赤どれ?」、など以下のイラストのような課題です。


お子様に3枚の中から選択させる

Enせんせい

このような課題で例えば正解するとチョコレートが貰える、お子様はチョコレートが大好物、するとどうなるか?


お子様はセラピストが「赤どれ?」というキューを出す前にボードを前よりもみるようになったり、すぐ触れるように腕に力が入ったり、などの変化が目に見えるようになるでしょう。


結果的に上で書いたお母様がキューを出して、お子様がキューに反応する「反応潜時時間」が早まることも多いため、上の内容と重複することが多いです。

但し上で書いたお母様がキューを出して、お子様がキューに反応する「反応潜時時間」が短くなるは1秒以下の体感で測定することも多いため、ABA自閉症療育に慣れるまでは曖昧なものであることも否定できないので、

本項で紹介してる何かキューを出す前にお子様が行動するための姿勢をとることも併用して判断材料として観察する方が良いでしょう。



お子様が行動したのち強化子を自発的に積極的に取りに来る

例えばここまで紹介した「お母さんが何かキューを出す → お子様が行動するまでの時間が早まる」や「お母さんが何かキューを出す前にお子様が行動するための姿勢をとる」が観察されなかったとしても、

お子様自身が行動したあと強化子を自発的に積極的に取りに来る場合はあなたが行動のあとに提示している結果は強化子として機能している可能性が高いでしょう。


例えばお子様が行動したのち、すぐお母様からお子様の口にチョコレートを放り込むことを数回行ったのち、一旦お母様からお子様の口にチョコレートを放り込むことを辞めてみます。

以下例を見ていきましょう。


お子様に模倣を教える動作模倣のプログラム

上のイラストは動作模倣というプログラムの例ですが、お子様が適切にお母様の行った行動を模倣することがターゲット行動です。


・ 上手く模倣できた1回目、お母様からチョコレートをお子様の口に放り込む

・ 上手く模倣できた2回目もお母様からチョコレートをお子様の口に放り込む

・ 上手く模倣できた3回目もお母様からチョコレートをお子様の口に放り込む

・ 上手く模倣できた4回目、お母様からチョコレートをお子様の口に放り込まず手に持っておく


4回目、もしお子様が自分からお母様が持っているチョコレートに手を伸ばしてきたとすれば?

これはチョコレートを食べるというお子様の模倣行動に伴うお母様が行なっていた結果(チョコレートを口に放り込む)はお子様にとっての強化子になっていた可能性が高いです。


チョコレートを例に出しましたが、

例えばお子様の行動した結果として頭を撫でていたとき、頭が撫でやすいように自ら姿勢を取るとか、

抱っこやギューっとしていたとき手をお子様自身が広げて抱っこやギューっとされやすい姿勢を取るなども同じ例と考えてください。


例えば本ブログページで書いている内容はABAでいうオペラント条件付けに基づく原理によるものなのですが、専門的にはオペラント条件付けで変化させられる行動はオペラント行動と呼ばれるものとなります。

オペラント行動について佐藤 方哉 (2001) はオペラント行動とは、その行動が生じた直後の環境変化(刺激の出現もしくは消失という結果)に応じて、その後にその行動が生じる頻度が変化する行動であると述べていまが、

まさにあなたの与えた結果によって変化する行動です。



お子様からの自発的な関わりが増える

ABA自閉症療育では基本的に強化子の中でも「正の強化子」を使用します。

正の強化子以外に「負の強化子」というものも存在しますが、これは基本的には「罰」を避ける形で行動をする場合であり、

例えばEdward G. Carr・Glen Dunlap・Robert H. Horner・Robert L. Koegel・Ann P. Turnbull・Wayne Sailor・Jacki L. Anderson・Richard W. Albin・Lynn Kern Koegel・Lise Fox (2002) は、

「Positive Behavior Support: Evolution of an Applied Science(私訳:積極的な行動サポート、応用科学の進化)」という論文を発表していますが、

ABA自閉症療育では行動を変化させる際は基本的には(場合によっては個人的には仕方ないと思いますが)「罰」というものを使用せず行動変化を促す、というのは基本姿勢です。


Edward G. Carr・Glen Dunlap・Robert H. Horner・Robert L. Koegel・Ann P. Turnbull・Wayne Sailor・Jacki L. Anderson・Richard W. Albin・Lynn Kern Koegel・Lise Fox (2002) 

「罰」の古典的な研究では「電気ショック」などを行動の結果として与え直前行動を急速に減らす、というものですが(例えばO. Ivar Lovaas・James Q. Simmons,1969)

現在では倫理的な問題もあり推奨されません。


さすがにご家庭では電気ショックは用意できないとは思いますが例えば「暴力」、「過度な叱咤」、「暴言」などがこれにあたることが多いでしょう。

さて何かを避けるために行動を増やす、例えば「お母さんの眉間にしわが寄ってきてイライラした様子が見られ出すと宿題をやらなければ叩かれるから宿題をする」という動機で行動が増加していた場合(これは負の強化です)、

お子様は基本的には正の強化(褒めてもらえるからという理由で積極的に宿題をする)の場合と比較して自発的なお母様への関わりは少なくなるものです。


このように考えればあなたのお子様が行動したのちに与えている結果が強化子(正の強化子)であった場合はお子様からあなたへの自発的な関わりが増える可能性があるでしょう。

基本的に行動のあとに伴う頭を撫でるで、褒めてもらう、抱っこしてもらう、ギューっとしてもらう、チョコレートをもらう、Youtubeを見せてもらうなどは正の強化子である場合が多いはずです。


例えば、


頭を撫でてもらうとき、抱っこ、ギューっをしてもらうときに「もっと」とお願いしてみたり、

褒めてもらったあと「ふふふ」と笑みを浮かべて目を見つめてきたり、

チョコレートをもらったときに「おいしい」と言ったり、

Youtubeをみているとき電車が通ったら「電車」と言ってあなたの目を見て共感を求めたり、


パターンはさまざまですが自発的な関わりが増える可能性があります。

そのような自発的なあなたへの関わり、接近反応が増加すればあなたがお子様の行動に伴わせている結果は強化子として機能している可能性がある、と考えても良いでしょう。



お子様が笑顔になる

シンプルに嬉しそうに笑顔になっていればお子様の行動のあとにあなたが提示した結果が強化子として機能している可能性が高いでしょう。

これは最も簡単です。

最も簡単ですが、嬉しそうにしているかどうかという判断材料も軽く見てはいけない判断材料になります。


以上です!良かったら明日から意識してみてください


さいごに

新章として「ABA自閉症療育テクニック」、書いてみましたがいかがだったでしょうか?

私自身ABA自閉症療育を行うときに意識している点について書いていきました。


実際にはこのブログページで書いたことに加えて「課題の正答率の変化」なども参考にして複合的に判断していきますが、

できるだけシンプルに明日からでも参考にしてもらえる内容をご紹介しました。


文中でも書きましたがABA、自閉症関連の事例研究では数週間から数ヶ月の時間軸で書かれることが一般的だと思います。

但しあなたは「今」自身がお子様の行動したあとに行っている関わり(提示した結果)が強化子として機能しているかどうか知りたいですよね?

理想は研究者が行っているように数週間から数ヶ月の時間軸で観察する方が無難で正確ですが、

本ブログページでご紹介した内容を少し気にしてみて、お子様に適切に強化子が提供できているかどうか意識してみてください。


研究者が行う時間軸で計測する方が「強化子として機能しているかどうか」判断するのには無難なこと以外にもう1点、研究と現実とのギャップを示します。

研究者が計測するターゲット行動は1つないし、あまり多くないことが普通で、例えば10個を並列でターゲット行動として論文で発表しているというものはほとんど無いと思います。


しかし本格的にABA自閉症療育をお子様に行っている場合は1日の療育の中でターゲット行動が10個あるということは珍しくありません。

だから数週間から数ヶ月の時間軸で観察することは大切なのですが、並列してたくさんのターゲット行動を教えて行く必要があるのであれば、

今その瞬間ライブで自身のお子様に対して提示した結果が強化子として機能している可能性が高いかどうかを知る方法も研究と同じくらい大切で知っておいて損の無い情報かと思います。


是非試していただけると嬉しいです。


Enせんせい

ご紹介してきたように「強化子」を適切に提示できてお子様の行動を増やせることは大袈裟ではなくABA自閉症療育のメインウェポンなので、

ここを意識すれば日々のABA自閉症療育が丁寧になるでしょう

機械的にとりあえず褒めておけば良いかーは基本的には悪手ですよ

「あなたがそれを相手にされて嬉しいかどうか?」という意識を持つようにしましょう


本章ではこのように明日から意識して使えそうなABA自閉症療育のワンポイントテクニックをまたご紹介していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!



【参考文献】

・ Edward G. Carr・Glen Dunlap・Robert H. Horner・Robert L. Koegel・Ann P. Turnbull・Wayne Sailor・Jacki L. Anderson・Richard W. Albin・Lynn Kern Koegel・Lise Foxが「Positive Behavior Support: Evolution of an Applied Science (2002) Positive Behavior Support: Evolution of an Applied Science. Journal of Positive Behavior Interventions Volume 4, Number 1,Winter p4–16, 20

・ O. Ivar Lovaas・James Q. Simmons (1969) MANIPULATION OF SELF-DESTRUCTION IN THREE RETARDED CHILDREN. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS No3, 143-157

・ 佐藤 方哉 (2001) 【浅野 俊夫・山本 淳一・日本行動分析学会 (2001) ことばと行動―言語の基礎から臨床まで ブレーン出版】