「不適切な行動」「適切な行動」とはABA自閉症療育においてどういう意味か?(ABA:応用行動分析コラム25)


Enせんせい

ABA:応用行動分析25は『「不適切な行動」「適切な行動」とはABA自閉症療育においてどういう意味か?』というタイトルで書いていきます


ABA自閉症療育は究極的に言えばお子様の「不適切な行動を減らし、適切な行動を増やして行く」ことを目的とする、といっても過言ではありません。


例えばABA、日本語で言えば「応用行動分析」ですがABAは行動療法の1つであると捉えることが可能です(参考 山上 敏子, 2007)

ABAも行動療法も心理学の一分野ですが、例えば小野 昌彦・奥田 健次・柘植 雅義 (2007) は行動療法について、

心理学の研究成果位を活用し、基本的に対象となる人たちの①不適切な行動をなくし、②適切な行動の習得を促進する、という2点を試みるため援助計画を考案し、実施する手法であるといえる

と述べています。

行動療法に含まれるABAについて私も小野 昌彦他 (2007) の意見に賛成です。


しかしここで1つ考えてみて欲しいことがあります。

あなたのお子様の支援計画に以下のような文章が書かれていました。

あなたのお子様の名前は便宜上「太郎くん」としましょう。


太郎くん

太郎くんの支援計画に書かれていた文章は以下のものです。


6ヶ月間の支援目標として、太郎くんの不適切な行動を減らし、適切な行動の増加を目指します


上のものはあくまで「目標」であり「どういった支援をするか」ということについては書かれていません。

実際には支援計画についても触れているはずなので上の「目標」だけ取り上げるのもどうかと思いますが、一旦、このブログページでは上の目標だけに注目して考えていきましょう。


小野 昌彦他 (2007) の述べている内容から鑑みても、上の文章(目標)は間違っているとは思いません。


Enせんせい

あなたも上のように書かれている支援目標を見ると、その書かれている言葉の綺麗さから何かとても素敵な目標のように思うでしょう?


あなた

不適切な行動が減って、適切な行動が増えるのでしょう?とても良いじゃない


例えばあなたは上のように「不適切な行動が減って、適切な行動が増えるのはとても良い」思うかもしれません。

私自身も上のような目標については正しいと思うし、素晴らしい目標だと思います。


さて、ここで一旦、少し上の目標について以下の質問に答えられるか考えてみましょう。

あなたは以下の質問に答えることができますか?


・ 適切な行動とは何ですか?

・ 不適切な行動とは何ですか?


もしあなたがこの質問に答えられない場合、あなたがこれから目標としている支援目標はとても不明確なものになるでしょう。


あまり考えたことがないかもしれませんがある程度具体的に定義しておくことが大切です

支援目標が不明確ということは、実際には何を目指せば良いのかよくわからない中で支援を行なうことになりかねません。

それは正解がわからないまま何となく目標が定まっている状態なのです。

目指す先の目標が曖昧な中での支援では、具体的に何を教えれば良いのかがはっきりしないのだとすれば、このことを解決することはお子様への療育効果に対して重要な影響を与えるでしょう。

「適切とは何か?」、「不適切とは何か?」がはっきりしていないと介入目標、支援計画が曖昧になってしまいます。


本ブログページで「適切な行動とは何か?」、「不適切な行動とは何か?」について考えていきましょう。



ソーシャルスキルから考える行動の適切と不適切

「ソーシャルスキル(Social Skill)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

ソーシャルスキルは日本語で「社会的スキル」と呼ばれるもので、社会的スキルを練習することを「社会的スキルトレーニング(Social Skill Training:SST)」と呼びます。


Enせんせい

「あぁ、SSTね!なんか聞いたことある」と思った人も多いかもしれません

本ブログでも過去に紹介したことがあります


例えば「(ABA自閉症療育の基礎72)SST(Social Skill Training:社会的スキル訓練)の具体的な手続きモデル提示・練習とフィードバック・日常場面への般化推奨(https://en-tomo.com/2021/01/10/social-skill-training-point2/)」

「SST」というのは療育の支援方略の中である程度市民権も持っているであろうメジャーな支援方法です。

「適切な行動とは何か?」、「不適切な行動とは何か?」について考えるとき、私はSSTで扱うソーシャルスキルというものの考え方がとても役に立つと思います。


ABAではSSTは行うことが多く例えば、

Brian Reichow・Fred R. Volkmar (2010) 2001年から2008年のソーシャルスキルの研究をまとめた研究を行ったのですが、研究ではABAが最も社会的スキルを教える手法として一般的な方法と述べられました。


果たしてソーシャルスキルとはいったい何を意味した言葉なのでしょうか?

例えば小林 正幸・宮前 義和 (2007) は人はさまざまな人間関係の中で生きており、人間関係を軽々とこなし、良好な関係を結び、人間関係の何の問題も感じないときにはどの人間関係に関する具体的なコツや技術を使いこなしているといえる。

このような「良好な人間関係をつくり、保つための知識と具体的な技術やコツ」を「ソーシャルスキル」と呼ぶ

「ソーシャル」は「社会的な」「人付き合い」「人間関係上の」「対人的な」を意味する。

と述べています。


また同じようにSSTについて佐藤 正二・佐藤 容子 (2006)SSTは良好な人間関係を発展させたり、あるいは対人関係のつまずきを改善させたりすることによって、子どもたちの心理的健康や社会的適応の促進・改善をめざした心理社会的な指導・治療技法であると述べました。


小林 正幸他 (2007)佐藤 正二他 (2006) を参考にすればソーシャルスキルとは対人関係を上手くやって行くための知識・技術・コツと言えそうです。


上の方で紹介しましたがABAが行動療法に含まれる1つの支援方法であり、その行動療法の目標が、

基本的に対象となる人たちの①不適切な行動をなくし、②適切な行動の習得を促進する、という2点を試みるため援助計画を考案し、実施する手法(小野 昌彦他, 2007)であるとすれば、

SSTの観点から「不適切な行動」、「適切な行動」を捉えることで少しあなたの中で「不適切な行動」、「適切な行動」の定義が少しはっきりすると思います。



ソーシャルスキルからみた「不適切な行動」、「適切な行動」の定義

Enせんせい

ABAは「不適切な行動を減らし、適切な行動を増やす」ことを目標とした支援であるとするならば、

「不適切な行動」や「適切な行動」とは一体どういうものか?をある程度具体的な定義として持っていることは大切です


私はABAで扱う「不適切な行動」「適切な行動」についてソーシャルスキルの観点から、


・ 周囲から受け入れられない行動 = 不適切な行動

・ 周囲から受け入れられる行動 = 適切な行動


と捉えて支援しています。


このとき「周囲から受け入れられる行動 = 適切な行動」はその行動自体が周囲の人にとって強化的であればベストです。

行動自体が周囲の人にとって強化的というのは、例えば「応援する」などのスキルは応援された他者にとって魅力的(強化的)な行動でしょう。

対してお子様がお友達に対して関わりを持ちたくて、例えば競技中に接触してしまうなどがあった場合、このような接触は競技の邪魔となり周囲から受け入れられにくい(不適切な行動)です。

しかし代替行動として関わりを持つ「応援」のような行動はお友達にとってもお子様本人を好きになる理由となり、お子様に対して今後関わりが増える可能性を高めます。

このようにお子様の行う行動自体が周囲にとっても魅力的な行動は「適切な行動」の中でも積極的に狙っていきたいベストな行動と言えるでしょう。

しかし「周囲から受け入れられる行動 = 適切な行動」はその行動自体が周囲の人にとって強化的であれば上で書いたようにベストですが、「応援」程周囲から受け入れられることが必須かと言えばそうではありません。

これはそのような行動ばかりではない、ということろが本当のところです。


例えば自己刺激(感覚強化)行動で指しゃぶり・爪噛をするお子様がいたとしましょう。

特に例えばコロナ禍の状況だと特に唾液がそこらへんの壁などについてしまいそうな、このような行動は受け入れられにくいと思います。


「どうしたもんかなー」と頭を抱えますね

そのようなお子様に対しての「適切な行動」として例えば、

「はがため」のような「噛んでも良いアイテムを渡す」などが、「指しゃぶり・爪噛」と比較して周囲が受け入れられた場合、そのお子様にとっては「適切な行動」と言えるでしょう。

まだ「指しゃぶり・爪噛」と比べて「はがため」の方がマシという状況であれば周囲は受け入れることが多いと思います。


このときの大切な視点として、例えば「はがため」もお子様や状況によっては周囲は受け入れられない(不適切な行動)であるということです。

『「指しゃぶり・爪噛」と比較して』というところがポイントで例えばコロナ禍の中で最初から「はがため」を噛んでいた場合は「はがため」は受け入れられないかもしれません。


しかし上で書いてきたようにお子様や状況によっては「適切な行動」と言えます。

「適切な行動」というものをより正確に記述するとすれば「現状よりも周囲から受け入れられる行動は、ターゲット行動として適切な行動である」という記述が正しいでしょう。


Enせんせい

ここのところは少しややこしいですね


以上のように適切な行動と言っても、


・ 「応援」のようにほとんどのお子様・状況で受け入れられる適切な行動


もあれば、


・ 例えば「指しゃぶり・爪噛」よりもまだ「はがためを噛むほうが周囲は受け入れられる」という適切な行動


も存在します。


ここまでのソーシャルスキルから考える「適切な行動」についてまとめると、

前提として適切な行動というのは周囲から受け入れられる行動である。

そして周囲から受け入れられる行動というのも、多くの状況で周囲から受け入れられるものもあれば、現状よりも周囲から受け入れられやすいといったものまで幅広く存在する。

と考えることができると思います。


対して「不適切な行動」とはこの考え方と反対の意味を持つ行動です。

ここまでソーシャルスキルから考える「不適切な行動」、「適切な行動」について考えてきました。

次の項ではソーシャルスキルとは別の観点から「不適切な行動」、「適切な行動」について考えていきましょう。



ソーシャルスキルではない「不適切な行動」、「適切な行動」の定義

ここまで適切な行動について「周囲から受け入れられるか否か」という点から書いてきました。

ここからは「周囲から受け入れられないものの、本人の中で大切な行動」についても書いていきます。


例えば環境側から色々な情報が頭に入ってきたとき自閉症の方の中には少し独特な行動を好む人もいるのです。


Enせんせい

例えば私の知り合いの自閉症の人は「頭の中がいっぱいになったときは、静かな場所で目を閉じて上を向いて過ごす」ことを好むという人がいました


もし授業中に情報量が増し、目を閉じて上を向いて過ごすとどういう風に周りからは映るでしょうか?

これが例えば祈りの時間であれば奇妙ではないかもしれませんが、授業中に突然上を向いて目を閉じるという行動は少し奇妙な動きに映るかもしれません。


もし奇妙な行動に映り、周囲がその行動を受け入れられなかった場合ここまで書いてきた行動の定義で言えばこれは「不適切な行動」ということになるでしょう。


周りからどのように見られているか、というところで「不適切」となるのが難しいところですね

このような周りから見て少し奇妙に映るものの、本人にとって大切である(意味のある)行動を調べた研究は、

例えばIris Manor-Binyaminia・Michal Schreiber-Divonb (2019) がイスラエルで行った研究があります。

Iris Manor-Binyaminia他 (2019)高機能自閉症の方16人(年齢35〜55歳)に対してインタビューを行い、自分自身の反復行動(※ 儀式行動も含む)をどのように認識し、本人が意味を説明するかについて調べました。


インタビューに答えた自閉症の方の中には手を振るなどの行動(一般的に常同行動と呼ばれる行動)は自身にとって外部との情報を遮断し、自分自身を楽にする意味を持ってる人がいました。

周りから見れば奇妙だけれども本人にとって意味のある行動について、一概に周囲から受け入れられないために「不適切な行動である」と捉えるのは私は少し違うように思います。

ではこのようなタイプの行動をどのように見分け、またどのように扱って行くのが良いのでしょうか?



行動の機能(目的)が外的な環境変化である

例えば欲しいおもちゃを友達が使っていてそのおもちゃを得る目的でお友達を叩くお子様がいたとしましょう。

実際には上に文章で書いた「欲しいおもちゃを友達が使っていてそのおもちゃを得る目的」でその行動(叩く)を行ったかどうかは、お子様の脳内を覗き見れるわけではありませんので前後の文脈から想像するしかありません。


観察を続けると、お子様が好み(誰も使っていなければ好んでそのおもちゃを自発的に遊ぶ)のおもちゃを他児が使っている場面で、叩き、おもちゃを得た瞬間から「叩く行動」が消失する、

ということが繰り返して観察されればおそらくお子様は「欲しいおもちゃを友達が使っていてそのおもちゃを得る目的でお友達を叩く」という意味(機能)を持って行動している可能性が高いだろう、と推測できます。

この場合はお子様本人も「おもちゃを手に入れる」ことが目的の行動なので、「叩く」のではなく「貸して」と行動を置き換えて行くように支援することは正しい支援方略でしょう。


他にもお父様が大好きなお子様(以下、太郎くん)がいて、お父様が仕事から帰ってきます。その家庭では最近弟も生まれ、父親が帰宅してすぐに母親から父親に弟の1日の様子を話すということが習慣ずいていました。

父親と母親は弟の情報共有については家庭の重要事項と考えていましたので、できれば2人で会話がしたいと思っていましたが、決まって太郎くんは話に割って入ってきては自分の大好きな恐竜の話や電車の話を両親の話を遮る形で入れ込んできます。

このようなことが繰り返して観察されれば、おそらくお子様は「お父様の注目を得たい」という目的で話に入ってきていることが予測できるでしょう。

これは「注意引き」という機能を持った行動です。

※ 対立仮説としては「弟の話をして欲しくない」、「母親と父親が話したあとに怒られることが多かったため、2人で話をして欲しくない」といった「逃避・回避」の機能を持っていることもあります。

仮に「注意引き」であった場合は、お子様も注意が引ければ良いため、無理に話に入り込むのではなく「ねぇねぇ」など、適切に注目を得るための話しかけに置き換えて行くように支援することは正しい支援方略でしょう。


また上の2つの例では、


・ 貸してと言っても貸してくれないことがある(叩くほうが手に入る確率が高い)

・ ねぇねぇと言っても注目してくれないことがある(割り込んで邪魔をした方が相手にしてもらえる確率が高い)


ということはありますので、ここのところをどう適切な行動に置き換えて行くかという介入プランは必要です。


「貸して欲しい」と思ったとき、「貸して」というより「叩いて取る」方が手に入る確率は高い

介入プランについては別のテーマでまた長くなってしまうので一旦置いておくとして、

上記のような特定の外的な環境変化を求めた機能を持った行動については周囲に受け入れられる形での行動変容を目指して支援方略を組み、支援していってあげるのが良いのかなと思います。



行動の機能(目的)が内的な環境変化である

上の項で書いたような外的な環境変化を目的とした行動の場合は本人の行動が周囲から受け入れられる形での適切な行動に置き換えていくことが重要でしょう。

但し身体の内的な変化を促す行動、例えばリラックスする、落ち着くなどの効果を自身で感じている行動(空想なども含め)については個人的には対応は慎重にしたいと思います。


例えば先ほど例に出した「頭の中がいっぱいになったときは、静かな場所で目を閉じて上を向いて過ごす行動」は本人にとって「頭の中を整理する」、「精神状態を落ち着ける」という機能を持っていたとします。

このような身体の内的な変化を伴う行動は外的な環境変化を求めた機能を持った行動と違って扱いが難しいです。

本人がその行動を好んでいた場合は特にそうでしょう。


身体の外的な環境変化を生む行動と、身体の内的な環境変化を生む行動の何が違って、何が難しいのかと言えば、

身体の外的な環境変化を生む行動は他の同じ結果を得ることのできる手段が豊富だが、

身体の内的な環境変化を生む行動は他の同じ結果を得ることのできる手段が見つからないことが多い

という点です。


本人が身体の内的な環境変化を生む行動によって、身体の中に自分にとって大切な感覚を生み出している行動は、その結果と同じ結果を生み出す代替手段の行動の提案が非常に難しいと思います。


Enせんせい

例えば私は小学生のころお風呂に入ると頭の中で漫画を空想して作っていました

これは家族にも言っていなかった自分一人の遊びです


家族に知らせる必要もないと思っていたため言っていなかったですが仮に当時家族に知られ、家族から「やめろ」と言われたとしましょう。

私自身は空想することで強化子を得られていたためその空想行動を行なっていたのですが、家族は私にやめろということはできても、「同じ結果(空想と同じ強化子)を得られるから明日からは風呂で空想ではなくXをしろ」と提案することはきっとできなかったと思います。

このように同じ結果を得るための行動を提案、そして教えることが難しいのです。


本人の身体で生じる内的な環境変化を生む行動が以上のように代替案を提案することが非常に困難であり、且つ周りから見て奇妙であるとなった場合、私から提案できる介入方略は3つあります。


・ 周囲の理解を得て行なっても良いという了承を得る

・ 限定された場所でのみ行なって良いとルールで説明する

・ 行動を行っていない時間を強化する/行動から得られる強化子を減らす

・ あまり気にせず一旦置いておく


以上の4つです。



周囲の理解を得て行なっても良いという了承を得る

「周囲の理解を得て行なっても良いという了承を得る」というのは先生やクラスメイトに説明をして、例えばお子様が行動を行なったとき「太郎くんは落ち着くためにたまに上を見て目を閉じて上を向くんだよ」と周囲が理解していれば、特に奇妙な行動であると思われないかもしれません。

時代は変化していて、例えば私が住んでいる東京都では外国の方のお子様がクラスにかなり在籍しているなと驚くことがあります。

私が子どもの頃は学年にいても一人とか二人とか、そういうレベルだったと思いますが今はかなり多くなったなという印象を持っているのですがどうでしょう?


多様性のある社会になってきまいた。例えばスポーツ選手にしてもハーフの人などが増えてきたと思いませんか?

例えば文化の多様性などが学校の中でも認められるようになっていくと、自閉症児の行う少し奇妙に映るかもしれない身体の内的な環境変化を生む行動も多様性の中で認められていくような気がします。

例えば私が子どもの頃は給食について担任の先生によっては「好き嫌いはいけない。食べるまで昼休み遊んではいけない」などとおっしゃる先生もいらっしゃいましたが、近年はアレルギーへの配慮などもあり、昔ほどはうるさく言われなくなってきているのではないでしょうか?

これもお子様の多様性を認めてきている時代背景の1つだと思います。


Enせんせい

このようなお子様の多様性を認める時代背景の中で、身体の内的な環境変化を生む行動も認められていくことを期待することも1つの方法でしょう


しかし環境変化(クラス替えや進学)の度に説明をする必要があることや、お友達の性格やお子様が行なっている行動模様によってはからかいの対象になってしまうリスクがあることは悩みどころです。



限定された場所でのみ行なって良いとルールで説明する

では「限定された場所でのみ行なって良いとルールで説明する」という方法はどういったものでしょうか。

このことを達成するためには本人が行動をセルフコントロールできる必要があり、特に言葉の遅れがあって5W1Hや因果関係の理解が難しいお子様の場合は教えるのは困難だと思います。

「限定された場所でのみ行なって良いとする」というのは例えば家で自分の部屋では行なって良いとする、などルールを作って守ることを促す方法です。


奇妙な行動でも自分自身にとっては意味のある大切な行動の場合、それを「行なってはいけない」というように扱うのではなく、「人に見られないところではやって良いよ」とすることも一つの落とし所になるでしょう。

これは性教育にも通じるところがありますね。


ただ言葉の遅れがあるお子様へ教えるのは困難だと言ったのは、お子様自身は意味があって行なっている行動に対して、

ルールで「それは友達から見たら、ちょっと変って思われるかもしれないから、お友達と仲良くやっていくためにも、一人のときにこっそりしようよ」などと促す場合、そのルールへの理解力や実行能力が必要だからです。


例えば、

・ やったときとやっていないときの状況を想像して比較し、納得する

・ ルールを覚えておく

・ 覚えたルール守るモチベーションが持てる(周囲との関係性も大切だと理解する)

・ 衝動的にルールを破りたくなったときの代替案なども話し合える


などが可能であることが必要になってきます。


介入はお子様がその行動を行っている状態に対して行うので、最初はお子様も「なんで辞めなあかんの?」というところからスタートすることになることが多いです。

そのためお子様のモチベーションを上げる面接の技術も必要になってきます。そして場合によっては直接的でない言い回しで納得を得る必要もあるでしょう。


例えば「(ABA自閉症療育の基礎70)言葉の遅れの少ないお子さんへの適正行動増・問題行動減の療育支援ホームワーク(面接・SST・行動契約)(https://en-tomo.com/2021/01/03/hf-homework-setting/)」

などで記載したお子様のモチベーションに巻き込んだ形での面接、ホームワーク・行動契約などが効果的です。


(ABA自閉症療育の基礎70)言葉の遅れの少ないお子さんへの適正行動増・問題行動減の療育支援ホームワーク(面接・SST・行動契約)のサムネイル


行動を行っていない時間を強化する/行動から得られる強化子を減らす

言葉の遅れのあるお子様で上の項で書いたルールの適応が難しい場合は「行動を行っていない時間を強化する/行動から得られる強化子を減らす」という方法があります。

例えば爪噛み行動が本人が身体の内的な環境変化を生む行動であった場合、爪を噛むことで身体にフィードバックされる感覚が強化子なわけですから、指にテーピングをぐるぐるに巻いて身体に入ってくる感覚の質や量を変えれば魅力が減り、爪噛みが減る可能性があるでしょう。


そうすると相対的に爪噛みを行わない時間が増えます。

やっていないときお子様は何か別の行動を行っていますので、その行動を強化しましょう。

相対的に別の行動が増えることで本人が身体の内的な環境変化を生む行動を減らすことを狙っていく方法です。


Enせんせい

但し理論上この方法は可能だったとしても実践するのは私の経験上かなり難しいように思います


例えば爪噛み防止のテーピングなどは結局お子様は噛みちぎったりして、外れてしまうことばかりでした。

そうなると結局お子様につきっきりでテープングを取らないよう監視する必要があります。

また必要に応じて「罰」を伴わせることで対応することになってしまうのですが、「罰」の使用によってお子様の攻撃行動が誘発されることで心が折れてしまうこともあり、やはりなかなか難しいです。

このような場合はその行動が生じないような環境設定を行い、生じたときには気を逸らさせてこれ以上強化されないようにする、などが一般的な回答のように思いますが、これもつきっきりで監視する必要があり、なかなか対応が難しいというところが正直なところでしょう。



あまり気にせず一旦置いておく

最後にお子様がそのような行動をしても一旦、置いておいてあまり気にしない、というのも1つの対処法です。

必要に応じて「周囲の理解を得て行なっても良いという了承を得る」を行いながら、言葉の理解が進んできた段階でルールを入れて「限定された場所でのみ行なって良いとする」という方向を長期目線で計画していくことも良いと思います。

※ 但し歯軋りで歯がすり減って行くことや抜毛で毛がなくなってしまうなどの自傷行為の場合は別だと感でしょう


もし言葉の遅れのあるお子様でも、どうしても無くしたいと言った場合は方法はないのでしょうか?

全くないというわけではなく、例えば以下(1)→(4)のステップで、


(1)例えば行っていない時間が30秒あったら強化子がもらえることを練習する(例えば手をお膝に置くなど別の行動を強化することで行わない時間を作る)

(2)(1)が意識付いて強化子がもらえる因果関係の理解が促進されたのち、

(3)行わない時間を徐々に伸ばしていく

(4)強化子が遅れてやってきても行動が維持するよう練習する

例えば、園や学校では特別な強化子を与えることが難しい場合が多いので、できていれば連絡帳に先生から◯を書いてもらい、◯があればお母様から強化子がGETできるなどの般化設計をする


など特化したトレーニングを組むことも可能です。


しかし支援者側にも高い知識や技術が必要になってくることに加えかなり時間がかかる(少なくとも数ヶ月は要する)と思いますので、あまり固執せずに一旦置いておくということも良いように個人的には思います。



さいごに

本ブログページではABA自閉症療育で「不適切な行動」「適切な行動」をどう捉えるかについて書いてきました。

本ブログページでは最初に「ソーシャルスキル」という観点から、

周囲から受け入れられるスキルを「適切な行動」、周囲から受け入れられない行動を「不適切な行動」と考えることを述べています。

この観点はとても大切だと思っていて、お子様に何かを教えようと思ったとき、その教えようとしている行動が周囲から受け入れられるかどうかということを意識して教えるようにしましょう。


特に「応援する」など、他者にとってお子様が使用したスキルが強化的に働く形で受け入れられるスキルはかなり良いです。

全てがそのようなベストな結果に結びつくスキルばかりではないので、ベストな結果が得られない場合はベターな結果として現在よりも周りから受け入れられるスキルを教える、

という観点も持っておきましょう。


その後『ソーシャルスキルではない「不適切な行動」、「適切な行動」の定義』についても考察してきました。これはソーシャルスキルという観点とは別の視点から「不適切な行動」、「適切な行動」を書いたものでした。

内容は「行動の機能(目的)が外的な環境変化である」のか「行動の機能(目的)が内的な環境変化である」のかを見定める必要があること、

「周囲から受け入れられないものの、本人の中で大切な行動(内的な環境変化を求めたもの)」についてはどのように対処するかについても書きました。


対応については、

・ 周囲の理解を得て行なっても良いという了承を得る

・ 限定された場所でのみ行なって良いとルールで説明する

・ 行動を行っていない時間を強化する/行動から得られる強化子を減らす

・ あまり気にせず一旦置いておく


4つを紹介しました。


さて、長く書いてきましたが「不適切な行動」「適切な行動」について具体的に定義できることは私は大切だと思っています。

冒頭書いたように「不適切な行動とは何か?適切な行動とは何か?」という質問に答えられないと、あなたがお子様に教えようとしている支援目標はとても不明確なものになる可能性があるでしょう。


「私たちの支援では不適切な行動を減らして、適切な行動を増やしますよ!お任せください」と専門家に言われたとき、なんとなく耳障りが良いためそのまま「お願いします!」というのではなく、

「適切な行動って具体的に何ですか?」と聞くくらいの姿勢で、あなたのお子様の療育を行っていくのが良いと私は思います。



【参考文献】

・ Brian Reichow・Fred R. Volkmar (2010) Social Skills Interventions for Individuals with Autism: Evaluation for Evidence-Based Practices within a Best Evidence Synthesis Framework. Journal of Autism and Developmental Disorders. No40 p149-166

・ Iris Manor-Binyaminia・Michal Schreiber-Divonb (2019) Repetitive behaviors: Listening to the voice of people with high-functioning autism spectrum disorder. Research in Autism Spectrum Disorders 64 p 23–30

・ 【編著】小林 正幸・宮前 義和 (2007) 子どもの大人スキルサポートガイド 感情表現を豊かにするSST 金剛出版

・ 【編著】小野 昌彦・奥田 健次・柘植 雅義 (2007) 発達障害・不登校の事例に学ぶ 行動療法を生かした支援の実際 藤原印刷株式会社

・ 佐藤 正二・佐藤 容子 (2006) 学校におけるSST実践ガイド 子どもの大人スキル指導 金剛出版

・ 山上 敏子 (2007) 方法としての行動療法 金剛出版