ABA:応用行動分析17は「ABAを用いたアスペルガー・ADHDの小学生不登校児支援、学校へ行こう」というタイトルで書いていきましょう
今日参考にする研究は奥田 健次 (2005) 「不登校を示した高機能広汎性発達障害児へ の登校支援のための 行動コ ンサルテーショ ンの効果 ートークン・エコノミー法と強化基準変更法を使っ た登校支援プログラムー」という論文です。
※ 「あれ?アスペルガー・ADHDじゃないやん?」と思った人もそのまま読み進めてもらってOK。「高機能広汎性発達がい害」というのは今で言うIQの高い自閉症スペクトラム障と思ってもらって大丈夫
私はこの論文を見たのは学生時代だったのですが私自身が特に不登校や引きこもりという臨床領域に興味を持っていたこともあってかなり気に入って何度も読んだことのある論文です。
今日はこの研究を参考に不登校について考えていきましょう。
最初、研究を見ていく前に不登校についての情報を少しご紹介します。
不登校の定義、数などの簡単な解説
文部科学省の「不登校の現状に関する認識」というパンフレットによれば、文部科学省の不登校調査では、
「不登校児童生徒」とは「何からの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」
と定義されるようです。
「不登校が増えてきている!」などとデータをもとに議論する際は上記の定義のお子様が増えてきている、ということを覚えておきましょう。
また文部科学省が2020年に出した通知文では調査の結果、小・中学校の在籍児童生徒数が減少しているにもかかわらず、不登校児童生徒数は7年連続で増加し、55.6%の不登校児童生徒が90日以上欠席していることが示されました。
このように不登校状態となるお子様は年々増加しているようです。
不登校になりやすい時期は?
2018年の文部科学省の「平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」から抜粋したデータを以下に示しましょう。
データを見れば、小学校6年生から中学校1年生になるタイミングで不登校が倍増することがわかります。
このタイミングは不登校に陥るリスクが高い時期なので注意が必要ですね。
宮下 照子・免田 賢 (2007) は不登校の種類を6つのタイプに分類しました。
(1) 学校に行くことに恐怖を感じており、母子分離不安や学校に行こうとすると身体症状が生じ登校できないことが原因となるパターン
(2) 学校でのいじめや暴力行為が原因となるパターン
(3) 学校に行くことを怠りずる休みをしていることが原因のパターン
(4) 学習面でのつまづきや人間関係のトラブルが原因のパターン
(5) 子どもへの虐待や育児放棄が原因のパターン
(6) 「登校しない生き方」を本人、家族が選択したことが原因のパターン
宮下 照子他 (2007) は以上のように不登校を以上6つのタイプに分け、
不登校全般への対応について、こうすればよいという一般的対応はないであろうしすべて一定のやり方で行おうとすることは危険であると述べています。
この意見には私も賛成です
一言で「不登校」と言っても、不登校に陥った原因や不登校状態が維持している要員は一人一人違うため個別の支援方法が必要
以上、不登校についての簡易解説でした。
以下、本ブログページ冒頭でご紹介した奥田 健次 (2005) から、不登校児童に対してABAを用いて登校支援を行った研究を見ていきましょう。
上で書いているように全ての不登校の児童・生徒様に当てはまるというわけではないですが「こういった支援方法もあるのか?」と参考になれば幸いです!
アスペルガー、ADHDのお子さんへのABAを用いた不登校支援
奥田 健次 (2005) の研究には2名のお子様が参加しました。
1人は8歳7ヶ月、小学校3年生のアスペルガー障がいの診断を受けたIQ100の女の子
そしてもう1人は7歳7ヶ月、小学校2年生のADHDの診断を受けたIQ83の男の子
2人とも通常学級に在籍していました。
※ 2名とも高機能自閉症(ADHDのお子様はそうとも診断された、アスペルガー障がいは高機能自閉症とグルーピングしても良い、但しアスペルガー障がいは今は診断から無くなってしまった 参考 Ferhat Yaylaci・Suha Miral, 2017)
この研究では「トークン・エコノミー法」という支援方法によって介入が行われました。
トークンについては「(ABA自閉症療育の基礎73)オペラント条件付けーABA自閉症療育トークンを使用した支援、強化子コントロールテクニック(https://en-tomo.com/2021/01/18/token-reinforcer/)」で解説をしています。
また上のページ内で奥田 健次 (2005) の研究に既に触れていますが、本ブログページではもう少し詳しく解説をしていくこととします。
研究でターゲット行動とされた行動はお子様自身の登校行動に関するものでしたが、研究では「出席」「遅刻」「早退」の回数といった測度は採用しませんでした。
登校行動をもう少し細かく分析し、支援を行っていきます。
研究内で「出席」「遅刻」「早退」の回数といった単純な測度を採用しなかったことはポイントでしょう。
奥田 健次 (2005) はお子様自身の登校行動について、
週ごとに、
(1)登校
(2)1時間目
(3)2時間目
(4)3時間目
(5)4時間目
(6)5時間目
(7)下校
の7つの要素に分けクリアできたところにシールを貼っていき(このシールがトークンとなります)、学校参加率を求めました。
また学校参加率は「達成数/規定コマ数×100」で算出される数値と定義しています。
以下のイラストのようなものですね。
以下のイラストは奥田 健次 (2005)を参考に作成しました。
私もよく以下イラストのようなものをホームワークにして使います
以下のイラストのようなものにお子様の取り組むモチベーションが上がるよう好きなキャラクターのイラストを盛り込んだりして工夫していきましょう
私はモチベーション操作に「面接(お子様との会話)」を設定することが多いですが得意なモチベーションを上げる手続きは専門家の先生によって違ってくると思います
学校参加率を視覚的にわかりやすいよう上のような表を作成し学校に参加できたときにはそれぞれのお子様にとって魅力的なシールを貼ることができました。
女の子のお子様は例えば星やお花、男の子は例えば電車や昆虫のシールを貼るのですが、このシールは本人の好きなものが採択されています。
このようにお子様の好きなものを介入アイテムに盛り込んで、介入に参加するモチベーションを上げるテクニックは定番ですね。
奥田 健次 (2005) の研究では「強化基準変更法」という少し珍しい研究デザインが使用されているのですが、私もこの研究デザインを使用してABA療育支援を行うことが多い便利なデザインです。
この研究デザインはDavid H. Barlow・Michel Hersen (1984)が著書の中で「チェンジング・コンディション・デザイン」と呼んでいるものと同じものでしょう。
「チェンジング・コンディション・デザイン」とは、
特定の達成基準に到達するまで支援が行われ、特定の達成基準に安定して達するまで支援が続けられる。
その後、達成基準をさらに厳しくしてまた基準に達成するまで支援が続けられるという研究デザインです。
「研究デザイン」というとお堅く聞こえてしまったかもしれませんが、
支援するときそういうように達成基準を決めて達成基準を達成していくことを繰り返して支援するという方法をとると効果的(エビデンスがあると言える)だよ、
と思ってください
※個体間エビデンスですが・・・というマニアックなこともいちおう付け加えておきます
個人的には特に「強化基準変更法」(チェンジング・コンディション・デザイン)は「登校行動を増やす」や「ゲームの時間を減らす」、「勉強時間を増やす」、「お買い物中どこかに行ってしまう行動を減らす」などに使用でき、使用するときのポイントは
本人が頑張ればできることの増減に向いている支援方法だと思っています。
私は言葉に遅れのない自閉症のお子様とホームワークを組むときはほとんど全てと言っていいほどこのデザインを採用して支援を行っていますが、使えるととても便利です。
またエクスポージャーと組み合わせて使うことで「本人が頑張ってもできないこと」も頑張ればできるよう徐々にシェイピングしていくことができますが、この使い方はちょっと上級者向けなので、
エクスポージャーの併用となれば、親御様が行う場合、専門家にアドバイスをもらいながらやる方が無難でしょう。
話を戻して奥田 健次 (2005) の研究では介入フェイズが2つに分かれています。
女の子は第一フェイズでは学校参加率80パーセントが求められ、第二フェイズでは85パーセントが求められました
男の子は第一フェイズでは学校参加率35パーセントが求められ、第二フェイズでは85パーセントが求められました
それぞれのフェイズの学校参加率が達成できたとき、女の子・男の子ともに大きな強化子(レンタルビデオや週末のお出かけ)が設定され介入が行われます。
結果として女の子・男の子ともに、介入前はだいたい半分くらいしか学校に参加できていなかった状況から、最終的には100パーセント学校に参加することが叶いました。
論文には両名のお子様のお母様からの喜びの声が記載されています。
考察で奥田 健次 (2005) は、
・ お子様の学校に行けないことに対して抱える状況を個別にアセスメントした
→ 例えば女の子の場合はスケジュール不明に対して不安があったことから、介入中、授業場面の簡単なシュミレートも行っている。また男の子の場合はお母様への注意引きの機能を有している可能性を分析している。このような事前アセスメントと事前介入も重要となる
・ 女の子・男の子の母親は両名とも子どもを学校に行かせたいという強い動機付けがあった
と述べておりこれらの前提条件が整わない場合、例えば、
対象児童の学校において明確ないじめなどの問題がある場合や、保護者からの協力が困難な場合は他の介入が検討されるべきであると述べました。
ここはこのブログページ冒頭で
宮下 照子他 (2007) を参考に不登校全般への対応についてこうすればよいという一般的対応はないであろうしすべて一定のやり方で行おうとすることは危険であると述べた内容と一致しますね
以上、奥田 健次 (2005) の研究です。
さいごに
奥田 健次 (2005) をまとめていて改めて「あぁ俺のやってるホームワーク設定ってこの論文に影響受けていたんやな」と感じます。
10年とちょっと前まだ若かった、
「やってやるでー」という気持ちで夢を持って心理学の登竜門の前に立った自分が影響を受けた論文。
こういった論文を専門家の人は持っていると思いますが、私自身は大切にしたいです。
冒頭書いたように学生時代私はこの論文を何度も読んでいたのでかなり影響は受けているのは自覚していたのですが・・・、
ブログページを書くにあたってまた論文を読んで、私は奥田 健次 (2005) の手続きに今は新しくギミックを加えることができていて、
このギミックに例えば「エクスポージャー」、「動機付け操作」、「SST」などを組み込んで自分の色にして今も私は臨床支援をやっているんだなと思いました。
少し昔を思い出しながら、そういった気持ちで書いていけたブログページ。
大学院時代「一丁前になりたい」と思い一所懸命、全ての時間を投資し勉強していた自分を思い出し懐かしくなりました(笑)
そして、今も変わらず前に進んでいる!
特に本ブログページで出てきた「強化基準変更法」(チェンジング・コンディション・デザイン)の考え方はシングルケーススタディの1つなのですが、ホームワークを親御様と設計するときにとても役立つデザインです。
ABA自閉症療育で言えば特に言葉に遅れのない自閉症児に対して有用だと思います。
ABA、応用行動分析の専門家だけでなく心理臨床の専門家は自分の得意なテクニックをみなそれぞれ持っていると思いますが、
私にとっての1つの得意分野がブログページでご紹介した方法の改良版と支援で使用したデザインです。
これからも大切にして腕を磨いていきたいと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
【参考文献】
・ David H. Barlow・Michel Hersen (1984) SINGLE CASE EXPERIMENTAL DESIGNS; Strategies for Studying Behavior Change 2/ed 【邦訳: 高木 俊一郎・佐久間 徹 (1988) 一事例の実験デザインーケーススタディの基本と応用ー 二瓶社 (改訂 2008)】
・ Ferhat Yaylaci・Suha Miral (2017) A Comparison of DSM-IV-TR and DSM-5 Diagnostic Classifications in the Clinical Diagnosis of Autistic Spectrum Disorder. Journal of Autism and Developmental Disorders. 47, 101-109
・ 宮下 照子・免田 賢 (2007) 新行動療法入門 ナカニシヤ出版
・ 文部科学省 「不登校の現状に関する認識」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/futoukou/03070701/002.pdf
・ 文部科学省 (2018) 平成 30 年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について https://www.mext.go.jp/content/1410392.pdf
・ 文部科学省 (2020) 「令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題
に関する調査結果及びこれを踏まえた対応の充実について(通知)」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422178_00001.htm
・ 奥田 健次 (2005) 不登校を示した高機能広汎性発達障害児へ の登校支援のための 行動コ ンサルテーショ ンの効果 ートークン・エコノミー法と強化基準変更法を使っ た登校支援プログラムー 行動分析学研究 第20巻 第1号 p2-12