自閉症児に遊びを教える、ビデオモニタリング支援介入(ABA:応用行動分析コラム16)

Enせんせい

ビデオモニタリングという支援方法を知っているでしょうか?


現在既に「ビデオ」という言葉自体が死語になりつつありますが、まぁ簡単に言えばお子様自身を動画に録画して、その録画映像を元に自己モニタリングさせスキルを向上させることを狙う介入支援です。

私自身はあまりやったことはありませんがこの研究を見れば一定の効果はありそうでした。

「一定の」と記載した理由は読み進めていっていただければわかると思います。


色々な介入方法を知っているということは療育家、ABAの専門家、そしてABAを家庭で実践する親御様にとって有意義なことです。

そのため今回のコラムではこのビデオモニタリングを用いて自閉症児に「遊びスキル」を教えようと試みた研究をご紹介します。


SharonY. Lee・Ya-yuLo・YafenLo (2017) の研究で、

タイトルは「Teaching Functional Play Skills to a Young Child with Autism Spectrum Disorder through Video Self-Modeling(私訳:若い自閉症児に対してビデオモニタリングを通して機能的な遊びスキルを教える)」


SharonY. Lee・Ya-yuLo・YafenLo (2017)


ビデオモニタリングを通して遊びを教えた研究

研究に参加したのはDSM-Ⅳ-TRによって自閉症と診断された5歳のアジア系アメリカ人の男のことでした。

※ DSMとは診断に使うマニュアルのことです

論文中では仮名で「ライアン」と名付けられているので、本ブログでもライアンと呼ぶこととします。

今回の研究参加者はライアン1人です。

※今回の研究に参加したのはこの1名のお子様です。1名のみの参加ということは、結果の一般可能性の面から考えれば科学性は低いと言えるでしょう


ライアンは単純な言葉やPECSによるコマンド、及び北京語と英語での彼への要求をいくつか理解していました。

しかし2語分の音声指示に従うことが少し難しいかも、といった少年です。


ライアンは2歳の頃から自宅で週17時間の集中的なABA専門的サービスを受けていました。

全体的にライアンは年齢相応の機能的な遊びスキルは持ち合わせておらず、ライアンがおもちゃで遊ぶときは感覚刺激を求める遊びが大半でした。



ビデオモニタリング研究・介入セッティング

介入はライアン家の居間で行われました。


Enせんせい

家庭の居間で行っていることはポイントです

ABA家庭療育、ご家庭でも実践していただける療育内容かと思います


居間にカメラが置かれたのですが、突然の環境変化によるライアンの反応を最小限にするため、研究では研究開始の2週間前から慣らすために部屋にカメラを設置しています。

研究ではおもちゃで適切に遊べた行動がパーセンテージで示され、介入効果を示す指標とされました。


介入で使用されたおもちゃは、

・ 農場のおもちゃセット

・ 医師の診療所セット

・ レスキューセット


3つでした。


これらのおもちゃはライアンが興味を持つであろうということに基づいて選択されています。



ビデオモニタリング研究・介入方法

ライアンに介入を行なった支援者は女性で、ABAを元にした支援を行い自閉症の幼児や成人に対して4年間のキャリアがありました。

支援者は3つそれぞれのおもちゃセットをテーブルの上に持ち出し、機能的な方法でおもちゃで遊ぶように指示し、そのときのライアンを録画しました。


各おもちゃセット3つを別々の日に、一度に1つずつビデオテープに録画しました(1日に1つのおもちゃセットを使用した)。

それぞれのおもちゃの適切な遊び方のアクションについて、支援者はライアンに模倣を促すために適切な遊びのアクションを見せながら「こうしなさい」と言いプロンプトしました。

支援者はそれからフェイドアウトし、ライアン1人に行動を実行させました。

このときライアンが遊びのアクションに対して強化は与えませんでした。

ビデオの映像は無関係な音声などが編集がされ、ビデオの中でライアンが各おもちゃで遊んでいる映像は45秒から50秒となりました。


介入手続きでは、

「これはライアン主演のライアンの映画ですよ。ライアンが(農場、医師、レスキューのいずれかの)おもちゃで遊ぶのを見てみましょう」という言葉と歓声、拍手を支援者が送りビデオが上映されました。


ビデオを観るよう促されます

ビデオはライアンがおもちゃで機能的に遊んでいる映像から始まりビデオが終わったのち写真、そして関連するおもちゃセットが示されました。

ビデオクリップはライアンが遊んでいる映像を含んで2分ほどになったようです。

その後、支援者はライアンに「ライアン、いいね!」と述べ、歓声と拍手を再び送りました。

その後、ライアンがもう一度ビデオを見ると言うようプロンプトが示されました。

介入ではビデオは2回繰り返すように設定されています。



ビデオモニタリング研究・介入結果

ベースライン中、ライアンの適切な遊びは「農場のおもちゃ0%」、「医師のおもちゃ0%」、「レスキューのおもちゃ8.4%」というものでした。

ベースラインは「介入前の状況」ですが、ライアンはベースライン中ほとんど機能的に遊ぶことはできていませんでした。

しかしビデオセルフモニタリングがはじまると、ライアンが機能的に遊ぶことが増えて行きました。


具体的には、

・ 農場のおもちゃでは平均割合は51.1%(日によって違うが範囲17-83%の間)

・ 医師のおもちゃでは平均割合は58.8%(日によって違うが範囲20-80%の間)

・ 救助玩具については平均割合は73.8%(日によって違うが範囲29-100%の間)


これはかなり優秀な結果であると言えるでしょう。


ほぼ0であったベースライン期間と比較し、セルフビデオモニタリングの期間では適切な遊び時間が増加しています。

またその後のメンテナンスセッション中も農場のおもちゃ、医師のおもちゃ、レスキューのおもちゃそれぞれの平均パフォーマンスは83%、80%、および93%とパフォーマンスが維持しました。

※メンテナンスセッションとは介入が終了しても介入効果が維持しているかどうかを測るセッションです


この研究では3つのおもちゃに対して「教えられていない機能的な遊び」も学習したのではないか?という点も評価されています。


Enせんせい

教えた行動以外の行動が獲得できるか

いわゆる「般化」を狙いました


ライアンの行動が「般化(Generalization)」することを評価したのですが、結果的には行動般化についてはわずかに増加しただけ(ほとんど般化しなかった)でした。

今回の研究では教えた行動の獲得は可能であったが、その他に般化しなかった、この点は注意をしたいですね。


論文の本文に書かれている情報からライアンは自閉症状態で言えば重めであるお子さんであることが推測できます。

SharonY. Lee他 (2017)の研究はライアンへ教えたスキルの使用が促進されることは示されましたが、教えていないスキルにまで般化することについてまでは十分示された論文ではありませんでした。

但しこれは「ビデオモニタリングの介入が弱い」ということを示す結果であったというわけではないということは、個人的な感想として追記しておきます。



さいごに

このブログページではビデオモニタリングという療育手法についてご紹介してきました。

例えばビデオモニタリングについては「社会的スキル(主に遊びスキル)」に対してその効果について検討した系統的レビューの論文が刊行されています(Jennifer N. Lee, 2015)


Jennifer N. Lee (2015)

Jennifer N. Lee (2015) は精査ののち5件のビデオモニタリングの研究結果をレビューしたところ、決定的な介入効果は得られなかったと結論づけました(個人的な意見としては正直5件は少ない)

しかしJennifer N. Lee (2015) も述べていますが「ビデオモニタリング」という研究領域自体が、対象にされた論文数もまだ少なく、まだ結論が出ていないと述べています。


ここからは私の感想、意見ですが、ビデオモニタリング始め、特に遊びなどを含めた社会的スキルにおいては何の介入をするにせよお子様が「できるようになりたい(少なくとも、できるようになってもいい、興味がある)」という動機付け、モチベーションが乗っているかどうか、ということは非常に重要です。


Enせんせい

この興味を持たせるためのギミックは?


ビデオを撮られ、見せられ、「これが正しい」と言われてももしかすると(少なくとも私が研究に参加した対象児ならば)、言われていなかったことまでわざわざ「やってやろう」という気持ちにならないような気がします。

SharonY. Lee他 (2017)の研究ではライアンの教材はライアンの趣向性を考慮し、ライアンが興味を持ちそうなものが選ばれていましたし、全くこのことが考慮されていなかったか?と言えばそんなことはないでしょう。

むしろこれは王道で現実的に言えば、この辺のところ、「お子様の興味がありそうなもの」ということで介入条件を決定することも良くあることです。


では「お子様の興味がありそうなもの」という他にどのような介入努力が可能でしょうか?

もし仮にあなたのお子様がSharonY. Lee他 (2017)に参加したお子様より、もっと会話ができて意思疎通が可能ならば、お子様とビデオモニタリングで介入するスキルを話し合って選定し、お子様も納得した上で、そのスキルを練習する方法として「ビデオモニタリング」を使用する。

このことが大切かなと思います。

お子様が「おぉ、確かにそのスキル重要かも!よし練習してみよう」というモチベーションが高まった状態でビデオモニタリング介入を実施する。


ではどうやって?

例えばブログ内でお子様とお話をしあってスキルを選定し、モチベーションを持って介入に進む内容は「(ABA自閉症療育の基礎70)言葉の遅れの少ないお子さんへの適正行動増・問題行動減の療育支援ホームワーク(面接・SST・行動契約)(https://en-tomo.com/2021/01/03/hf-homework-setting/)」などでご紹介しました。

上のリンクは「SST」について書いたページですがモチベーションを上げるための面接手法はビデオモニタリングでも使用できるはずです。


(ABA自閉症療育の基礎70)言葉の遅れの少ないお子さんへの適正行動増・問題行動減の療育支援ホームワーク(面接・SST・行動契約)のサムネイル

Enせんせい

本人のモチベーションが乗っている中で介入できることはとても大切ですので、是非狙ってみてください


このブログページではビデオモニタリングの論文をご紹介しました。

今はスマホ・タブレットがあれば可能な介入方法です。

身近にあるデバイスで実施可能な介入法なので気軽に導入できるような気がします。

興味を持った方は行ってみてはいかがでしょうか?

またご意見等、Twitterなどでお聞かせいただけると幸いです。



【参考文献】

・ Jennifer N. Lee (2015)The Effectiveness of Point-of-View Video Modeling as a Social Skills Intervention for Children with Autism Spectrum Disorders. Review Journal of Autism and Developmental Disorders. 2:414–428

・ SharonY. Lee・Ya-yuLo・YafenLo (2017) Teaching Functional Play Skills to a Young Child with Autism Spectrum Disorder through Video Self-Modeling. Journal of Autism and Developmental Disorders. Aug 47(8):2295-2306