自閉症者の不安障がいとうつ病、生涯有病率のエビデンスー成人自閉症者のデータから(ABA自閉症療育のエビデンス27)

本ブログページでは自閉症者の不安障がいやうつ病に関するエビデンスをご紹介して行きます。

自閉症者はそうでない人たちと比較して不安障がいやうつ病を抱えることが多いのか、または少ないのか、今日はそのようなことをテーマにして書いていきましょう。


Enせんせい

多いのか、少ないのか?みなさまはどう思いますか?


例えば私は自閉症の療育活動をしていると親御様から、

「この子は何も考えていないから、不安などは感じていない(わかっていない)」などとおっしゃる親御様もいらっしゃいますし、

「この子はしゃべらないけれども、ものすごく不安が強くて新しい場面が苦手だ」とおっしゃる親御様もいらっしゃいます。


Enせんせい

ちなみに前者の「この子は何も考えていないから、不安などは感じていない(わかっていない)」

ということはどんなお子様であってもないですよ


もちろん自閉症の人たちも十人十色ですから不安や抑うつに対して強い人、そうでない人ということは存在します。

そのため自閉症者はそうでない人たちと比較して不安障がいやうつ病を抱えることが多いのか、または少ないのか、ということに対する、

真の答えは「人による」ということになってしまうのですが、今日は自閉症者について調べられたメタ分析の研究をご紹介しましょう。


自閉症の診断を持つ人たちとそうでない人たちと比較したとき、どういった研究結果があるのかを知っておくことで自閉症を持つ人についての、不安・抑うつの傾向を知ることができます。

本ブログページではMatthew J Hollocks・Jian Wei Lerh・Iliana Magiati・Richard Meiser-Stedman・Traolach S Brugha (2018) の研究から自閉症者の不安障がいやうつ病についての知識を深めていきましょう。


Matthew J Hollocks・Jian Wei Lerh・Iliana Magiati・Richard Meiser-Stedman・Traolach S Brugha (2018)


成人自閉症者の不安障がいとうつ病

Matthew J Hollocks他 (2018) は自閉症の成人を対象にした研究を集め、不安障がいとうつ病の割合についてメタ分析研究を行いました。

Matthew J Hollocks他 (2018) メタ分析研究には35の研究が含まれました。

35の研究は27件が不安障がいを計測したもので29の研究はうつ病を計測したものでした。そして21の研究が両方を計測しています。

不安障がいを計測された被験者の平均年齢は「30.9歳±6.2歳」うつ病を計測された被験者の平均年齢は「31.1歳±6.8歳」でした。



成人自閉症者の不安障がいの生涯有病率

Matthew J Hollocks他 (2018) の研究結果について、不安の結果から見ていきましょう。

自閉症者の不安障がいの生涯有病率(一生のうちに一度はかかる割合)は42パーセントという結果でした。


この数字が高いのか低いのかを考えるために、自閉症ではない人たちを対象とした統計から出ている不安障がいの生涯有病率を見てみましょう。

一体どの程度の生涯有病率になるのでしょうか?


厚生労働省のデータを参考にします。

厚生労働省によれば日本では何らかの不安障がいにかかる生涯有病率は2002年から2006年までの調査では9.2パーセントだったようです。

この数字だけを比較すれば自閉症者はそうでない人たちと比べて約4倍、一生のうちに不安障がいにかかるリスクが高いと言えるでしょう。


ただし厚生労働省のページにも記載されていますが、不安障がいは日本よりもアメリカの方が生涯有病率の高い精神疾患です。

例えば参考の厚労省のページには日本の生涯有病率が9.2パーセントであったことに対し、アメリカでの不安障がいの生涯有病率は14.6パーセントとなります。

Matthew J Hollocks他 (2018) の研究も海外で行われた研究ですのでこの研究が示す42パーセントの不安障がいの生涯有病率が日本人の自閉症者にも当てはまるのかどうか、という点は注意が必要です。


またこの10年スマートフォンやインターネットの普及により私たちの生活様式も大きく様変わりしました。

そのため2006年の時代と現代では生活様式が違うためもしかすると現代では不安障がいに対しての日本での生涯有病率データも変わっているかもしれない、という点も注意しましょう。


不安障がいは「全般性不安障がい」や「強迫性障がい」、「全般生不安障がい」や「パニック障がい」、「PTSD」などが存在します。

※2013年に診断基準が変わり、例えば強迫性障がいは不安障がいの仲間からは外れてしまいました。ただしそれ以前は不安障害に分類されるものでしたので、上のように記載しています


Matthew J Hollocks他 (2018) の研究ではこれらも細かく分類して紹介されていましたので、自閉症者がそれぞれの疾患に対してどれくらいの生涯有病率を持っていたのかについても以下見ていきましょう。


社会不安障がい・・・・・・・・20パーセントの生涯有病率

強迫性障がい・・・・・・・・・22パーセントの生涯有病率

全般性不安障がい・・・・・・・26パーセントの生涯有病率

パニック障がい/広場恐怖・・・18パーセントの生涯有病率

PTSD・・・・・・・・・・・・5パーセントの生涯有病率

特定の恐怖症・・・・・・・・・21パーセントの生涯有病率

分離不安・・・・・・・・・・・21パーセントの生涯有病率


ちなみに先程の厚生労働省のページに載っていた統計結果から、上の精神疾患の中で記載のあった結果も紹介します。

自閉症者を対象としていない日本の調査では上の不安障がいにあたるそれぞれの疾患の生涯有病率は以下です(2002年から2006年までの調査)。


全般性不安障がい・・・・・・・1.8パーセントの生涯有病率

特定の恐怖症・・・・・・・・・3.4パーセントの生涯有病率

パニック障がい/広場恐怖・・・0.8パーセントの生涯有病率


以上がMatthew J Hollocks他 (2018) の研究で示された自閉症者の不安障がいについてのデータとなります。

この件についての私なりの考察は「さいごに」の項で書いて行くとして、次はうつ病について見ていきましょう。


ちなみに本ブログページでは成人自閉症者の不安障がいとうつ病を扱っていますが、幼児期であっても不安障がいとうつ病の診断はつかないまでも、不安や抑うつが問題となって機能不全を起こしているケースもあります


成人自閉症者のうつ病の生涯有病率

Matthew J Hollocks他 (2018) の研究ではうつ病の結果は、自閉症者のうつ病の生涯有病率(一生のうちに一度はかかる割合)は37パーセントという結果でした。

不安障がいのときと同じように、この数字が高いのか低いのかを考えるために、自閉症ではない人たちを対象とした統計から出ているうつ病の生涯有病率を見てみましょう。


厚生労働省のページを参考にします。

日本で行われた調査では日本のうつ病の生涯有病率については川上の研究を引用して紹介されています。

※ うつ病については研究によって生涯有病率の数値にばらつきがあるようです

引用されて紹介されている数値では、日本でのうつ病の生涯有病率は3パーセントから7パーセントでした。

但しうつ病は増加傾向であり2005年には92.4万人だったのが、2008年には104.1万人と著しく増加していることには注意しましょう。


また不安障がいと同じく、うつ病も日本よりも海外の方が生涯有病率が高いようです。

不安障害のときと同じですが注意したいこととしてMatthew J Hollocks他 (2018) の研究は海外のものなので、日本の自閉症者にあてはまるかどうかということ、そしてこの10年で私たちの生活様式が大きく変わっていることから、

上記のデータが確実に正しいと判断するべきではないと思いますが、とても参考になるデータかと思います。


本ブログページでご紹介したデータから、

自閉症者はそうでない人と比較して不安障がいやうつ病について、1生のうちに罹患するリスクが高い傾向がある、ということが読み解けます。

42パーセント(不安障がいの生涯有病率)や37パーセント(うつ病の生涯有病率)という数字が大切、というよりは、自閉症者はそうでない人と比べて、そのような疾患に罹患するリスクが高いということを覚えておけば良いでしょう。



さいごに

本ブログページではMatthew J Hollocks他 (2018) の研究を見ることで自閉症者の不安障がいやうつ病についての理解を深めてきました。


「不安障がい」、「うつ病」というキーワードからものすごく恐ろしいものをイメージされ、すごく恐ろしいデータに見えたかもしれません。

そして本ブログページで不安障がいにカテゴライズした「強迫性障がい」や「パニック障がい」や「PTSD」などは、名前も強烈で有名、そのためとても怖いイメージがあるかもしれません。


ただ「私の思う精神疾患とは何か?どういう状態か?(ABA:応用行動分析コラム13)
https://en-tomo.com/2021/04/02/mental-disorders/)」でも書きましたが、

私は不安障がいやうつ病についてはなんとかなると思っている派です。


私の思う精神疾患とは何か?どういう状態か?(ABA:応用行動分析コラム13)のサムネイル

Enせんせい

上のブログページで記載したように私自身は精神疾患はなんとかなると思っている人間なので、精神疾患をあまり過剰に怖がらなくても良いと思います


私はやったことはありませんが今、例えば遺伝子検査で自分のアレルギーを知ることができたり、ニュースで見た程度の知識なので自信を持って言える程ではありませんが「乳がんのリスクが高い」とか、自身の身体疾患へのリスクがわかるようになってきているでしょう?

例えば何かしらの身体疾患のリスクが高いことがわかったとき、例えば糖尿病(私は糖尿病家系なので多分高リスク群に入る)、

毎日の生活の中に少し運動を取り入れるとか、食べ過ぎに注意するとか、そういった「知ること」でリスクを下げる対処を取ることができます。


不安障がいやうつ病も同じで、事前にそのような傾向が高いことがわかっていれば対策を立てることもできるでしょう。

例えば自閉症児に対してのコメントではありませんが、Christopher Peterson・Steven Maier・Martin Seligman (1993) 8歳以前は子どもたちは、自分たちの成功と失敗を正確に判断できない傾向があると述べています。

このようなことを参考にすれば、お子様が何かにチャレンジし、それが特に8歳未満、または8歳前後の場合は仮に親御様からみて明らかに失敗であったとしても「◯◯はできたじゃん、すごいね」「すごく頑張っていたの、私は見ていたよ!えらいね」といったような声かけをすることは重要だと思うのですが、

自閉症児の場合にはさらに重要なので丁寧に声かけをするよう心がける、などといった考え方が可能です。


他にも例えば「幼いうち、新しい対人関係場面に出会うときにはロールプレイをしてあまり失敗をしないように保険をうってあげる」とか「抑制がかかるほどは怒りすぎない」など、

実は毎日の生活の中で気をつけてできることはたくさんあります。


本ブログページではMatthew J Hollocks他 (2018) の研究を見ることで自閉症者の不安障がいやうつ病についての理解を深めてきました。

また自閉症のエビデンスについても「ABA自閉症療育のエビデンス」の章でまとめていきたいと思います。


Enせんせい

ABA関係なくなっているやん、ということはちょっと触れないで(笑)


また今後どこかで「ABA自閉症療育のエビデンス」以外に「自閉症のエビデンス」の章も作成し、

今回のような精神疾患との絡みや、自閉症の罹患率・男女比などもまとめていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。



【参考文献】

・ Christopher Peterson・Steven Maier・Martin Seligman (1993) Learned Helplessness:A Theory for the Age of Personal Control 【邦訳 津田 彰 (2000) 学習性無力感 パーソナル・コントロールの時代をひらく理論 二瓶社】

・ 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html

・ 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_depressive.html

・ Matthew J Hollocks・Jian Wei Lerh・Iliana Magiati・Richard Meiser-Stedman・Traolach S Brugha (2018)Anxiety and depression in adults with autism spectrum disorder: a systematic review and meta-analysis. Published online by Cambridge University Press:  04 September