今日は非常に興味深い文献を見つけたので、それで記事を書いて行きたいと思います
タイトルの通りなのですが、
「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:(自然主義的行動療法)」というABA自閉症療育の1つ、
「PRT:Pivotal Response Treatment(機軸行動発達支援法)」の文献で非常に面白いなと感じる内容の論文がありましたのでご紹介しましょう。
結果から先に書けば「ロボットを使用した自閉症療育の支援は充分効果的か?」
ということを扱った論文ではなく、まだ「ロボットを使用した自閉症療育の支援はお子様や親御様に受け入れられるのか?」という段階で、現代ではまだロボットによる自閉症介入は不十分、という段階でしょう。
しかしなんとチャレンジングな試みか。
昨今、AIの発展によって仕事を奪われる人が出てくるということを聞くことが多くなってきました。
ABA自閉症療育を専門にしている私ももしかしたら・・・。
このような事情を考慮すれば私から見ればかなりスリリングな論文タイトル・・・。
でも、単純に今世界ではこのような研究がされているのだということ、今どのような未来を目指しているのか?
ということを知ることはとても面白い!
ロボットを使用したABA自閉症療育支援、論文は2020年のかなり最新のものです。
ご紹介する論文はIris van den Berk-Smeekens・Martine van Dongen-Boomsma・Manon W. P. De Korte・Jenny C. Den Boer・Iris J. Oosterling・Nienke C. Peters-Scheffer・Jan K. Buitelaar・Emilia I. Barakova・Tino Lourens・Wouter G. Staal・Jeffrey C. Glennon (2020) 、
「Adherence and acceptability of a robot-assisted Pivotal Response Treatment protocol for children with autism spectrum disorder(私訳:自閉症スペクトラム障がいの子どもに対してのロボットを使用したPRTの手続き、お子様と親御様にロボット介入は受け入れられるかどうか)」
ロボットを用いたPRT自閉症療育研究の手続き
この研究はオランダで実施されロボットを用いたPRT自閉症療育は25人の自閉症児、そしてそのご家族様に対して行われました。
研究発表は2020年ですが、2014年に集められた被験者の研究のようです。
彼らは、
・ DSMーⅣという1つ前の診断基準で自閉症と診断されている
・ 3歳から8歳
・ IQは70以上
・ 少なくとも1語の言葉を話すことができた
・ 親御様も少なくとも1人はオランダ語を話すことができた
という参加者になります。
介入では社会的相互作用の動機付け、自己開始、複数の手がかりなどの子どもたちの極めて重要な行動が訓練され、家庭でPRT技術を使用するためのペアレントトレーニングを含む20回のセッションが行われました。
初回セッションの前に専門家と両親とで治療手続きについて話し合い、子どものターゲット行動について話し合いました。
20回のセッションの内訳は?
14回の親子セッションがあり親子の相互作用中に親のPRT技術がトレーニングされました。
4回のセッションは親向けのセッションであり、子どもの進歩と家庭でのPRT技術の親使用について話合いが行われました。
2回のセッションでは子どもの教師(またはデイケアアテンダント)が学校/デイケアでのPRT技術の使用について話し合い、実践するために参加しました。
セッションは毎週開催され、各PRTセッションの所要時間は45分でしたがクラスまたはデイケアルーム内でのPRT実装のための90分のセッションが1回ありました。
ロボットを用いたPRT自閉症療育研究ーロボットが研究内で使用された方法
ロボットはこの研究内でどのように使用されたのでしょうか?
既に記載したようにPRT各セッションの所要時間は45分でした。
ロボットはこの45分のうち、14回の親子セッションにおいて最初の15分ー20分の間に使用されました。
論文内にロボットの写真等は掲載されていなかったため、イラストは完全にイメージですが、
ロボットを使った介入では子どもたちと発達上適切と思われるおもちゃを使い、ゲームを通して介入を行なって行きます。
ゲームのシナリオは9つ用意されていました。
使用されたおもちゃはパズルやレゴ、またはカードです。
介入としては、PRTですので子ども主導になります。
子どもが教材に興味を持ったところから介入がスタートされ、学習機会が提供されました。
学習機会中は「分散されたタスク(難しい課題と簡単な課題を織り交ぜる)」、「直接的かつ自然な強化子を使用する」、「課題を行おうとする試みを強化する」といったPRTパッケージが使用されています。
このようなPRTパッケージについてはブログ内でもご紹介していますが、例えば「(ABA自閉症療育のエビデンス13)PRTについて(https://en-tomo.com/2020/06/06/that-prt/)」などをご参照いただけると幸いです。
ロボットを用いたPRT自閉症療育研究ー結果は?
この研究では自閉症スペクトラム障がいの子どもに対してのロボットを使用したPRTの手続きが可能かどうか、そして親子に受け入れられるかどうかが主に評定されています。
「親子に受け入れられたかどうか」という点で、何が評定されたかと言えば、
・ お子様に対してはロボットに対しての好感度
・ 親御様に対してロボット介入がニーズに沿っていたか、介入は前向きであったか
ということなどが評定されました。
また「親子に受け入れられたかどうか」以外の指標では、自閉症症状度のスコアでは、中程度の自閉症のお子様と重度の自閉症のお子様の間で有意差が検出されました。
しかし本研究はロボット介入以外にペアレントトレーニングなど並行していろいろなことが行われているため、ロボット介入の効果であるかどうかという点については慎重な姿勢が必要になります
子どもがロボットに対して好感度を持ったかどうか、で言えば就学前のグループのお子様よりも学齢期のお子様の方がロボットに対して好感度が高かったようです。
就学前参加者によるロボットの好感度の評価は57.5%がポジティブ、29.9%がニュートラル(普通)、12.6%がネガティブであり、
学齢期の参加者の評価の90.9%がポジティブで、6.9%がニュートラル、2.3%がネガティブでした。
学齢期のお子様のほとんどにロボット介入はポジティブに受け入れられました。
ロボット介入に対しての親御様の評価は?
親御様の評価もなかなか良好だったようです。
理由は「子どもがロボットを使ったゲームシナリオに熱心で意欲的であることに気づいた」ことや「子どもが自宅や学校でロボットについて話しはじめたことに気づいた」などが紹介されています。
ただし辛口の評価ももらったようで、この研究ではロボットは専門家がボタンを押すことで制御されていました。
「ん?」と思ったかもしれませんね
私も読む前はAIとかで勝手に動くロボットをイメージしていました
そのため、
例えば強化子を提供する際、専門家がボタンをクリックしてからロボットが動き出すためロボットが強化を提供するまでに数秒の遅延があったことなどは低い評価をもらった点です。
Raymond G. Miltenberger (2001) は強化の効力に影響を及ぼす要因について「即時性」、「随伴性」、「確立操作」、「結果事象の特性」を紹介しています。
Raymond G. Miltenberger (2001) が述べているように行動が生じてから即時に強化子が提供されることはABA自閉症療育では大切なポイントでしょう。
しかし事前に特定の動きをプログラミングしていたものについては、対応はできたようです。
さいごに
このブログページでご紹介させていただいた研究はABA自閉症療育のPRT研究とロボット工学を組み合わせた研究です。
なかなか近未来的な研究だと思いませんか?
「自分・子どもの弱みを環境操作でサポートする視点・科学技術、近代化した支援研究も紹介(ABA:応用行動分析コラム8)(https://en-tomo.com/2021/02/03/science-technology/)」
でも科学的な発展を介入に生かすということをテーマに書きましたが、本研究もなかなか近未来的なテーマでした。
個人的にはロボットが人間が制御していた点は少し残念でしたが、現在AIの研究が盛り上がっています。
私の友達にも今旬なAIの技術を勉強している友達がいますが、なかなか面白そうです。
既に「ロボットによる自閉症介入」という発想による研究がこの研究のように発表されています。
近い将来AI機能を持ったロボットによる介入も可能になるかもしれません。
またもう1点。現在、私が住んでいる東京都では「5G通信」が使用できるようになってきています。
5Gでは超高速・安定の電波による通信が可能です。
そのことによって本ブログページでご紹介した、「専門家が操作するロボット」による研究も発展するでしょう。
例えば強化子を提供する際、専門家がボタンをクリックしてからロボットが動き出すためロボットが強化を提供するまでに数秒の遅延は5Gによって解決される可能性があります。
そしてロボット操作による介入が可能ということは、めちゃくちゃ上手な専門家が仮に東京にいて、沖縄の自閉症児に対して自閉症療育を遠隔で行うことができるようになる可能性があるでしょう。
「ロボット」と「ABA自閉症介入」、「ロボット工学」と「心理学」という別の分野が合わさることで大きな発展がある可能性を持つ。
とても魅力的な内容だとは思いませんか?
ちなみにこのブログページでご紹介した論文はオープンアクセスのため、参考文献から論文のタイトルを入れてもらえれば観覧することができます。
もし興味がある人は是非原文も読んでみてください。
【参考文献】
・ Iris van den Berk-Smeekens・Martine van Dongen-Boomsma・Manon W. P. De Korte・Jenny C. Den Boer・Iris J. Oosterling・Nienke C. Peters-Scheffer・Jan K. Buitelaar・Emilia I. Barakova・Tino Lourens・Wouter G. Staal・Jeffrey C. Glennon (2020) Adherence and acceptability of a robot-assisted Pivotal Response Treatment protocol for children with autism spectrum disorder. Scientific Reports. 10, Article number: 8110
・ Raymond G. Miltenberger (2001) Behavior Modification:Principle and Procedures/ 2nd edition 【邦訳 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】