ABA(応用行動分析)では「怒るな」「悲しむな」はナンセンスですよー情動と行動(ABA:応用行動分析コラム6)

今日はABA応用行動分析学コラム第6弾。


タイトルの通り『「怒るな」「悲しむな」はナンセンスですよ』という内容なのですが、あくまで「ABA的には」というところは最初にお伝えしておきます。


タイトルの通りです

内容をみていってもらい、どのように感じるか等ありましたらTwitterからご連絡いただけると幸いです。


さぁ今日は「怒り」や「悲しみ」と言った情動について親御様がお子さんやパートナーに言いがちな、


母「もう、お友達に対してそんなに怒ったらダメでしょ!」

父「毎回毎回、同じことで悲しまないでくれ!」


という注意について考察していきたいと思います。


個人的にここに書く「情動と行動」というテーマは後輩に教える際も必ず入れ込むテーマで、個人的にはとても大切だと感じているものです。

実は今までブログ内でも何度か触れたこともあります。



情動とは?

まず情動とは何でしょう?


Enせんせい

ふだん、あまり考えることがありませんよねぇ


「(ABA自閉症療育の基礎8)レスポンデント条件付けと「情動」(https://en-tomo.com/2020/07/21/response-conditioned-emotional/)」



でも記載しましたが、

山本 良子 (2014) は情動について6つの基本情動を紹介しました。

山本 良子 (2014) によれば、6つの基本情動は生物個体が存在していく上で必要な進化の過程を経て残ってきたものと考えられるものであり「怒り」「喜び」「驚き」「嫌悪」「悲しみ」「恐れ」がそれにあたります。


また磯 博行 (2005) は情動について一過性の急激に起こる強い感情状態や体験を指し、感情の動的側面を重視する。情動の生起は、自律神経の興奮や脳内の伝達物質の変化のような生理的な変化を引き起こすと同時に、それが自己の生存にとってよいか悪いかの評価と対処行動のタイプを判断させるものと述べました。

個人的に磯 博行 (2005) の内容で大切なのは赤字にした一過性のという点です。

情動はあまり長続きしないタイプの感情の状態や体験となります。


このブログページで説明する情動は以上のようなものと捉えてください。



ABAでは情動はどのように条件付けられるか?

例えば、恐怖は人為的に学習させることができる。

今から約100年前、心理学の授業を受けたことがある人なら聞いたことがあるであろう、かの有名な生後11ヶ月のアルバートくんに恐怖条件付けを行った研究です。

「(ABA自閉症療育の基礎7)恐怖条件付けーアルバート坊や・レスポンデント条件付け(https://en-tomo.com/2020/07/20/fear-conditioning-classical-study/)」に詳しく書きましたが、


John B. Watson・Rosalie Rayner (1920) は、



以上のようなことを繰り返し、お子さんにもともと恐怖を生じさせなかった「白ネズミ」という刺激に対して、お子さんの恐怖を誘発させることに実験的に成功しました。

現在ではこのような実験は倫理的な観点から行うことはできませんが、この実験によって人間に対し「恐怖」という情動を学習させることができるということが証明されたのです。


余談ですが、このような実験手続きはパブロフの行った「レスポンデント条件付け」の手続きで有あり、のちにエクスポージャーという支援方法の基本モデルに派生していきます(参考 Timothy A. Sisemore, 2012)


ただ人間の中で生じる「恐怖」や「悲しみ」はこのような「レスポンデント条件付け」の手続きによってのみ学習されるのか?と言われるとそうではなく、

「レスポンデント条件付け」の枠組みによっても学習可能である、という言い方が適切でしょう。

「レスポンデント条件付け」の枠組み以外では、

例えば人は成長に伴い「関係フレーム(Relational Frames)」を学習し、恣意的な文脈制御を受け、直接条件付けられた経験がなくとも「言葉の力」で「恐怖」、「悲しみ」、「喜び」などの情動が誘発されることができるようです(参考 Staven C. Hayes・Kirk D. Srrosahi・Kelly G. Wilson, 2012)

「関係フレーム理論(Relational Frames Theory)」はABA(応用行動分析)の言語行動の比較的新しい理論になります。


今後「言語行動」については章立てしてまとめていきたいと思っていますが、

この項では「情動はレスポンデント条件付けによっても学習可能」ということを覚えておいてください。



おさらい、オペラント条件付け・レスポンデント条件付け

このブログで学んできた行動は2種類でした。

主に現在のところ自閉症児や発達障がいのお子さんに対しては学んできた2種類の行動を扱い療育を行っています。

今後、特に言葉がほとんど遅れなくお話しできるお子さんに対しては関係フレーム理論などの新しい理論を取り入れた療育方法も勉強し、紹介していければと思うのですが、

ここまで学んできた行動は以下の2種類です。


オペラント条件付けで条件付けられる行動を「オペラント行動」

レスポンデント条件付けで条件付けられる行動を「レスポンデント行動」


小野 浩一 (2005) はこれら2種類の行動について、


オペラント行動 = 行動ののちの環境変化によってその生起頻度が変化する行動

レスポンデント行動 = 行動の先立つ環境変化によって誘発される行動


と紹介しています。


個人的にオペラント行動とレスポンデント行動の区分けで大切なことは、


オペラント行動 = 自発できる行動

レスポンデント行動 = 誘発される行動(自分の意思で自発できない)


という点でしょう。


Jon・Baily & Mary・Burch (2006) の推測では前者と後者の割合はおそらく1対20くらいの割合のようです。

Jon・Baily & Mary・Burch (2006) は私たちにとって大切なほとんどがオペラント行動であり、残りの行動がレスポンデント行動になるため、行動分析家はもっぱらオペラント行動に関心を持ちますが、

人の生活に苦痛をもたらしている場合はレスポンデント行動に注意を払うことが大切ですと述べています。


大切です


なぜ「怒るな」「悲しむな」はナンセンスなのか?

上記の内容から、

(ポイント1)
「怒り」「喜び」「驚き」「嫌悪」「悲しみ」「恐れ」は情動である

(ポイント2)
情動はレスポンデント条件付けで学習が可能な、レスポンデント行動である

(ポイント3)
オペラント行動 = 自発できる行動

レスポンデント行動 = 誘発される行動(自分の意思で自発できない)


これらの3点を組み合わせるとどのような答えが導かれるか?

この3点を組み合わせて考えると、

「怒り」「悲しみ」はレスポンデント行動であるため、自分でコントロールできず、勝手に誘発される

このような結論を導くことができます。


つまりタイトルやブログページ冒頭で書いた、


母「もう、お友達に対してそんなに怒ったらダメでしょ!」

父「毎回毎回、同じことで悲しまないでくれ!」


というお子さん(もしくはパートナー)への要望は無理なお願いなのです。


Niklas Törneke (2009)の本から一部、エピソードを抜粋します。

※ ( )の中は注釈で私が書きました


「たとえば、私の息子が別の都市に住んでいて、私が彼と電話をするのが好きだったとしよう。

そのような場合、私はときどき彼に電話をかけるだろう(オペラント行動:自分でコントロールできる行動)

もし、彼に電話で捕まえるのが火曜の夜なら比較的簡単だとわかったら、火曜の夜だと気づいたときには、私は彼に電話をかけるだろう(オペラント行動:自分でコントロールできる行動)

ーーー中略ーーー

私が電話で息子を呼び出したとき彼が出るのを待っている間、いつも同じメロディーが流れているとしよう。

待つ間、このメロディーを聞く状況に私が何回か遭遇した後である日、同じメロディーがラジオから流れてきたとしよう。

そのとき、私は何かの情動反応(息子と会話するときにわき上がってくる)が、意識に上がってくるかもしれない(これは、コントロール不可なのでレスポンデント行動)

これは、どのようにして起こってくるのだろうか。答えはレスポンデント学習によって生じたのである(レスポンデント行動)


以上のエピソードからも「情動」というレスポンデント行動は本人の意思とは関係なく誘発されるものであると伝わると幸いです。


Enせんせい

あなた自身も、環境から誘発される「情動」について「発生させてはいけない」、と指示されても遂行することは叶わないでしょう



その上で私たちはどうするか?

情動がコントロールできないものだとしたら?

私たちはどのように考え、行動を教えていけば良いのでしょうか?

以下のイラストをご覧ください。


「怒り」はオートで生じるので、「怒り」は生じる前提でその後どうするか考えましょう

上のイラストのレスポンデント条件付けのところ、つまり「怒り」の生起はコントロール不可のためこの部分は不可能と受け入れましょう。

(青色の矢印ところです)

代わりにそのレスポンデント行動としての「怒り」を受けて行う行動、ここからはオペラント行動ですので、オペラント行動をコントロールし、適切なスキルを使用するように練習するのです。

(赤色の矢印のところです)


オペラント行動 = 自発できる行動ですので、これは可能です。

そのように考えれば、


母「もう、お友達に対してそんなに怒ったらダメでしょ!」

父「毎回毎回、同じことで悲しまないでくれ!」


という注意を適切に形に直すと、


母「お友達に対してそんなに怒ったときは、またあとでねといって距離が取れれば良いね」

父「悲しい気持ちになったとき、母さんに話を聞いてもらいなさい」


と誘発される行動(情動)を「ダメだ」ではなく、その情動が誘発された下でのオペラント行動に対して指示を出すことが適切です。

このように意識をして療育に取り組んでいくと、少し視野が広がると思います。


また「情動の誘発」はコントロール不可、と書きましたが、「誘発される情動の強度を下げる」ということは可能です。

例えばこれを達成する1つの方法は「エクスポージャー」という手続きによって可能になるでしょう。

「怒ったとき、お友達を叩いてしまう」ということを修正したい場合、「怒りの強度」があまりにも強すぎると適切なオペラント行動を指示しても、怒りの情動の強さからお友達を叩いてしまうということも起こり得ます。

そのような場合は「情動の強度を下げる」という方向で考えていきましょう。

「情動を生起(誘発)させない」ではありません。



さいごに

「怒ってはいけない」、「悲しんではいけない」、「嫌ってはいけない」、「怖がってはいけない」という指示は、実は日常的に使用される指示ではないかなと思います。

ただしこのような指示はこれらが情動でありレスポンデント行動として生起すると考えた場合、達成することはできないでしょう。


大人の場合は「わかりました(いや、怒るなって言っても、イラッとくるだろ)」など、心の中で思い、且つ

怒って取った行動が不味かったのかな?

と暗に理解することもできるかもしれません。


でも、子どもはもっと難しいかもしれません。


【参考文献】

・ 磯 博行 (2005)【中島 義明・繁桝 算男・箱田 裕司 (2005) 新・心理学の基礎知識 Psychology:Basic Facts and Concepts 有斐閣ブックス】

・ Steven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012) Acceptance and Commitment Therapy The Process and Practice of Mindful Change 【邦訳: 武藤 崇・三田村 仰・大月 友 (2014) アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)第2版 星和書店】

・ Jon・Baily & Mary・Burch (2006) How to Think Like a behavior Analyst : Understanding the Science That Can Change Your Life 【邦訳: 澤 幸祐・松見純子 (2016) 行動分析的 ”思考法” 入門ー生活に変化をもたらす科学のススメー 岩崎学術出版社】

・ John B. Watson and Rosalie Rayner (1920) Journal of Experimental Psychology, 3(1), 1-14. Classics in the History of Psychology — Watson & Rayner (1920),  http://pages.ucsd.edu/~sanagnos/watson1920.pdf

・ 小野 浩一(2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館

・ Timothy A. Sisemore  (2012) The Clinician’s Guide to Exposure Therapies for Anxiety Spectrum Disorders:Integrating Techniques and Applications CBT, DBT, and ACT 【邦訳 坂井 誠・首藤 祐介・山本 竜也 (2015) セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック その実践とCBT、DBT、ACTへの統合 創元社】

・ 山本 良子 (2014)基本情動理論から見る情動発達 【遠藤 利彦・石井 佑可子・佐久間 路子 (2014) よくわかる情動発達 ミネルヴァ図書】