このページはイラストで言えば、
「ココ」と書かれているところの内容です。
「(ABA自閉症療育の基礎46)オペラント条件付けー確立操作と弁別刺激の違い(https://en-tomo.com/2020/10/13/establish-operation-discrimination-stimulus-difference/)」
では、「確立操作」について
「確立操作」・・・身体の内にある刺激(反応)で、その瞬間に行動を行うかどうかの大きな要因となる
と紹介をしました。
URL内では同じ
「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」
にある弁別刺激については、
「弁別刺激」・・・身体の外にある刺激で、行動を引き起こすきっかけになる
と紹介しています。
Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) は確立操作について、強化子の効力を高めたり、弱めたりするような先行状況の操作と述べています。
Paul A. Albert他 (1999) やここまでのブログページで見てきたように確立操作は強化子の効力を高めたり、弱めたりすることができます。
強化子の強化力(影響力)を変える操作が確立操作
ですので、
結果の魅力が変わる何かの活動や刺激については「確立操作である」と思ってもらって構いません
「(ABA自閉症療育の基礎47)オペラント条件付けー「無条件性確立操作」と「条件性確立操作」(https://en-tomo.com/2020/10/16/establishing-operation-type1/)」
では「確立操作」が「無条件性確立操作」と「条件性確立操作」に分けられることを記載しました。
「無条件性強化子」に対しての確立操作が「無条件正確立操作」
「条件性強化子」に対しての確立操作が「条件正確立操作」
です。
※「無条件性強化子」や「条件性強化子」については、
「(ABA自閉症療育の基礎24)オペラント条件付けー強化子のタイプ(https://en-tomo.com/2020/08/19/aba-reinforcer-type/)」を参照
確立操作は例えばこのページで紹介する「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」などの状態から、
他にも様々な「薬物摂取状態」「睡眠不足」「身体の痛み」などの状態や反応も含みます。
イラストのように「確立操作」という大枠があって、その中に「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」などが含まれる、というイメージを持っておきましょう。
Mark L. Sundberg (1993) はABAの介入計画に確立操作を組み込むことによって、望ましい行動変化が起こると述べています。
このブログページから確立操作について学び、ABA自閉症療育を行う際のヒントになれば幸いです。
このブログページでは確立操作における代表的な「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」を解説し、どのような手続きを行っていけば良いか学びます。
確立操作ー遮断化
Raymond .G .Miltenberger (2001)は、「遮断(Deprivation)」は確立操作の1つであり、ほとんどの「無条件性強化子」と「条件性強化子」の効力を高め、
例えば食べ物や水という強化子の効力は、それをある期間摂取したり経験していない場合に高くなる
と述べています。
Raymond .G .Miltenberger (2001)が述べているように、
「遮断化」にて「確立操作」を生じさせたい場合、強化子に一定期間触れさせないという手続きによって可能となります。
例えば、「課題ができたらお菓子が食べられる」という設定でお勉強を行う際、お子さんが「満腹状態であるか、空腹状態であるか?」は課題を遂行する行動に影響を与えるでしょう。
もちろん課題を遂行して欲しい場合には「空腹感」の状態を作っておく(遮断化)ほうが有利です。
「遮断化」は上記のような食べ物や水といった、生まれもって強化子としての効力を発揮する無条件正強化子のみに使える手続きではありません。
例えばJonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008) は入院している高齢者がナース・コールを押すエピソードを本の中で紹介しています。
Jonas Ramnerö他 (2008) を参考にすればこのエピソードの高齢者が「孤独感」を感じている状態、つまり他者とのかかわりが不足している状態はナース・コールを押す要因に関連します。
Jonas Ramnerö他 (2008) より「人との関わりに一定期間触れさせない」という状態を作り出すとこの状態が「遮断化」手続きになり、人との関わりを生起させる確立操作として機能する可能性があるのです。
人との関わりは条件正強化子ですので、条件正強化子に対しても一定期間触れさせないということで無条件正強化子と同じく「遮断化」が生じる可能性があります。
上記のような人との関わりをABAの療育手続きとして用いることは難度が高そうですが、
例えば「注意引き(Attention Getting)」などの問題行動が起こるときは上記のような「遮断化」がお子さんの中で生じ、引き起こった可能性を考えなければなりません。
条件正強化子の遮断化の例としては他に、好きな「ゲーム」や「Youtube」を一定期間遮断するという手続きも考えられるでしょう。
今までは自由にできていた好きな「ゲーム」や「Youtube」を1日の中で課題を行うときだけ行うことを許可する、
という手続きは課題行動を強めるため条件正強化子の遮断化の例です。
このような手続きも必要であればABA自閉症療育に取り入れていくことも検討します。
他に小野 浩一 (2005)を参考にすれば、
・ 紙はあるが筆記用具がない
・ 部屋に入りたいが鍵がない
といったような状況も条件正強化子の遮断化の例のようです。
これらは、ここまで見てきた強化子に一定期間触れさせないという手続きとは異なって見えるかもしれませんが、
上記の例もこれまで見てきたように、
紙に書いて残った文字という強化子に触れるための「書く」という行動が行えないため、一定期間強化子に触れられなくなる
部屋に入るという強化子に触れるための「鍵を開ける」という行動が行えないため、一定期間強化子に触れられなくなる
といういった意味では遮断化の例と言えるでしょう。
確立操作ー飽和化
強化子に一定期間触れさせないという手続きによって遮断化を行うことができるのですが、
対して飽和化(Satiation)はたくさんの強化子に触れさせるという手続きによって行うことで確立操作を生じさせることができます。
日本行動分析学会 (2015) は「遮断」は強化力を高め、「飽和」は強化力を弱めるように働くと述べました。
「飽和化」は「遮断化」とは違って、反対に行動を抑制することができます。
杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)は飽和化について、
・ かなりの量の好子(※ 強化子のこと)を摂取してしまうこと
・ その好子による新しい行動の獲得や既に獲得した行動の維持が一時的に妨げられること
と定義しました。
例えばABA自閉症療育で「課題ができたらお菓子が食べられる」という設定でお勉強を行う際、
お子さんが「満腹状態」で課題を行なってしまうと、遂行する行動に影響を与え、満足する成果が得られないかもしれません。
課題ができたら「ゲーム」や「Youtube」をやっても良いという設定でお勉強を行う場合も、
普段から「ゲーム」や「Youtube」が自由にできる生活を送っている中だと、
課題前から既に「ゲーム」や「Youtube」から満足を充分に得ており、課題がうまくできたときの強化子として「ゲーム」や「Youtube」が機能しない可能性もあるでしょう。
他に小野 浩一 (2005)を参考にすれば、
・ 同じ作業を続ける
ことも「飽和化」を生じさせます。
そのためずーっと同じ課題を続けることもお子さんの課題行動を飽和化させてしまうかもしれません。
課題が飽和化してしまうと、課題に取り組む強化力が下がりお子さんの課題パフォーマンスが低下してしまいます。
確立操作ー嫌悪化
確立操作の主に著書などで紹介されるものはここまで紹介をしてきた「遮断化」と「飽和化」です。
ブログ内ではもう1つ「嫌悪化」という確立操作も紹介しておきます。
小野 浩一 (2005)は確立操作の嫌悪化について、
無条件性確立操作の嫌悪化の例
・ 騒音
・ 室温が低い(高い)
・ 身体の痛み
・ 悪臭
条件性確立操作の嫌悪化の例
・ 無視される
・ 自分を悪くいう人がいる
・ 前に怖い経験をしたものがある
・ 急激なインフレ
という例をあげています。
上記のような刺激は「嫌悪化」を生じさせ、嫌悪を取り除くための「負の強化行動」を促進します。
嫌悪化は「逃避・回避行動」の強化力を高める確立操作です。
※ 負の強化については
「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」
や
「(ABA自閉症療育の基礎21)オペラント条件付けー正の強化と負の強化で覚えておきたいポイント(https://en-tomo.com/2020/08/16/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement2/)」
を参照
例えば、隣の部屋から聞こえてくる少し耳障りな騒音くらいでは壁をドン!と叩かなかったとしても、
パートナーとの会話が阻害されるほどの騒音となれば、壁をドン!と叩くかもしれません。
嫌悪化とは、生態にとっての「嫌悪状態」を作り出す確立操作です。
また例えば、
薬を飲んだときに感じる苦味は五感から感じられますので弁別刺激としての機能を持ちますが、
「苦いもの = 危険」ということを以前に経験していたり、そのようなルールを信じていた場合などは確立操作「嫌悪化」が生じ、「吐き出す」などの行動が起こりやすくなるかもしれません。
その後、お子さんがこの薬を回避(この薬を飲むことから逃げる)などがみられた場合、この現象は「負の強化」と「正の罰」の相互作用が働いているということになります。
※ 「罰」と「負の強化」の作用については
「(ABA自閉症療育の基礎30)オペラント条件付け-「負の強化」と「正の罰」の相互作用(https://en-tomo.com/2020/08/24/negative-reinforcement-punishment-interaction/)」を参照
さいごに
このページでは確立操作における「遮断化」、「飽和化」、「嫌悪化」について見てきました。
ここまで紹介してきた「遮断化」では「空腹状態」を作り出す例も見てきましたが、
「空腹状態も整体にとっての嫌悪状態じゃないの?」と思ったかもしれません。
その通りで、小野 浩一 (2005)によれば遮断化と飽和化の多くは嫌悪化と重複しています。
そのため明確に「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」について分けて分析する必要もないと思いますが、
これら3つについて知っているだけでもABA自閉症療育で確立操作を用いようとするとき、アイディアのヒントになるでしょう。
「遮断化」、「飽和化」、「嫌悪化」を含む確立操作という状態や手続きは強化子や罰子の効力を変化させ、行動を起こさせる要因となります。
ABA自閉症療育で適切な行動を引き起こしたいとき、また、不適切な行動を引き起こしたくないときに、このブログページで学んだ確立操作を導入することを検討して欲しいです。
少し先のページでこの確立操作を用いたABA自閉症療育の、少し具体的な方法について書いていきます。
強化子としての影響を決定する確立操作ですが、この議論で外せないキーワード「プレマックの原理」と「反応遮断化理論」というものが存在します。
これらは「強化子とはいったいなんなの?」という疑問から生まれてきた研究の流れと言えるでしょう。
「プレマックの原理」と「反応遮断化理論」について解説するためにもう一度、強化子というテーマに戻り、強化子について研究されてきた内容についてみていく必要がありますが、
一旦その前に「確立操作」と「レスポンデント条件付け」に絡みについて見ていくこととします。
次のページではこのページまでで学んできたオペラント条件付けとレスポンデント条件付けを包括して問題分析することでできることが記載できれば嬉しいです。
【参考文献】
・ 日本行動分析学会 責任編集:山本 淳一・武藤 崇・鎌倉 やよい (2015) ケースで学ぶ行動分析学による問題解決 金剛出版
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC 日本評論社】
・ Mark L. Sundberg (1993) The Application of Establishing operations. The Behavior Analyst. 16,211-214
・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書