このページはイラストで言えば、
「ココ」と書かれているところの内容です。
今回のページでは「A」と「C」両方が関わってきます。
ここまでの直近のページでは「弁別刺激」についての知識として「弁別」、そして「般化」について学んで来ました。
前のページ、
「(ABA自閉症療育の基礎41)オペラント条件付けー般化勾配(https://en-tomo.com/2020/09/20/generalization-gradient/)」
のページでは「般化勾配」について解説し、そのページ内で
例えば喃語の出ている無発語と呼ばれるお子さんへ言葉の支援をしている際、私の前で欲しいおもちゃを要求するとき、「あー」と言って言葉を使ったコミュニケーションを用いておもちゃを要求できるようになった
という例を紹介しました。
上のような支援を行う際、私は「強化法」と「プロンプト」、「プロンプトフェイディング」という3つの技法の組み合わせを使用することが多いです。
このページでは最初に「強化法」というものを紹介して、その後「プロンプト」について解説を行っていきます。
この章はABA自閉症療育の基礎(まとめはhttps://en-tomo.com/aba-basic/)
の章ですので、もっと詳しい方法は別の章で見ていくとして、このページでは簡単に「強化法」と「プロンプト」について知っていきましょう。
ABA自閉症療育における「強化法」
この章ではこのページまでに「強化」についていろいろなページで紹介をしてきました。
「強化」については、
「(ABA自閉症療育の基礎19)オペラント条件付け-強化とは?(https://en-tomo.com/2020/08/13/operant-conditioning-basic-reinforcement/)」
のページで
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。その後、
特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ぶ
と紹介しました。
気になる方は是非URLを踏んで欲しいのですが簡単に、
特定の状況で行動したのち結果が伴い、その後、同じ状況で同じような行動が増えた場合
を強化と考えてください。
ABAにおける強化とは「行動の増加」を示すワードです。
また「強化」には「正の強化」と「負の強化」があるのですが、
「(ABA自閉症療育の基礎21)オペラント条件付けー正の強化と負の強化で覚えておきたいポイント(https://en-tomo.com/2020/08/16/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement2/)」
でも記載したように、
ABA療育で新しくお子さんに行動を教えようと思った際は「正の強化」を使用して教えていくことが推奨されます。
詳しくはURLを見てもらえれば幸いです
Shira Richman (2001) は正の強化子について行動のすぐ後に提示することによって、その行動が起こりやすくなるものと説明しました。
「正の強化子」を用いた強化を「正の強化」と呼びます。
ABA療育ではお子さんが何か適切な行動ができたとき、その行動に対して褒める等のお子さんが嬉しいであろう結果を提示することにより、お子さんの適切な行動を増やそうとするのですが、
「適切に行動できたときに、褒める」、これはABA療育の1つの「強化法」の手続きで、これがABAでよく伝えられる「正の強化」の例です。
「適切に行動できたときに、褒める」と言われると「当たり前やろ」と感じるかもしれませんが、
ただABAでは行動が増えなければ、強化とは呼びません。そのため褒めたのちに実際に行動が増加したかどうか確認する作業を行う必要があります。
あなたの提示した結果がその後の行動増加をもたらしたとき、初めてその結果を提示した手続きが「強化法」と呼ばれるのです。
そのためもし行動が適切に増えなかった場合、あなたはお子さんの行動のあとに提示している結果がお子さんにとって強化子になっていない可能性を疑う必要があります。
※ 行動が適切に増えない理由は、他にも教えている行動が、今のお子さんにとって難しすぎる、などの原因もあります
よくABAの解説などで「褒めることで強化を行いましょう」と言われることが多いですが、
多くのお子さんにとって「褒める=強化」として機能しますが、正しく言えば「褒める=強化」ではないということは知っておきましょう
褒めたとしても行動増加が伴わなければ「強化法」とは言えません
冒頭紹介した、
例えば喃語の出ている無発語と呼ばれるお子さんへ言葉の支援をする場合、
私の前で欲しいおもちゃを要求するとき、お子さんが「あー」と言って言葉を使ったコミュニケーションを用いておもちゃを要求できた際には、
・ 「すごいね」などの褒めの言葉と一緒に、欲しいであろうおもちゃを渡す
・ 身体を揺すり楽しくさせたのちに、欲しいであろうおもちゃを渡す
などの、お子さんにとって嬉しいであろう結果を提示したとしましょう。
結果、お子さんが(A)欲しいおもちゃがあるときに、(B)「あー」と言う言葉を使用したコミュニケーションが増えるという現象が見られれば、
私が上のオレンジ色の結果を意図的に提示する手続きは「強化法」と言えます。
「強化法」については私は、
特定の行動に、特定の結果を伴わせることで特定の行動を増加させる方法
と後輩に伝えています。
「褒める」だけでなく、「お菓子」や「Youtube」、「TVゲーム」を行動の結果に伴わせ、実際に行動が増加した場合も「強化法」です。
お子さんの「あー」という行動に、私が行った上記のイラストで書いた結果を伴わせ、その後お子さんの「あー」という行動は増加しました。
「増加したから」、これは「強化法」と言えるのです。
「行動が増えたから強化法」、
「もしも行動が増えなかったら強化法ではない」
という論法は、「失敗のないズルい方法」
のように聞こえたかもしれません
でもこれは、別の章で紹介する「シングルケーススタディ」を学ぶことで考え方が変わると思います
「強化法」については、このページからABA療育で使用する場合には
お子さんの適切な行動に、特定の結果を伴わせ、お子さんの適切な行動を増加させる方法
と覚えておいてください。
ABA自閉症療育における「プロンプト」
Raymond .G .Miltenberger (2001)は著書の中で野球のコーチが生徒にバッティングを指導する場面を用いて「プロンプト」を解説しています。
Raymond .G .Miltenberger (2001)を参考にすれば「プロンプト」とは「弁別刺激」と共に提示される刺激であって、「弁別刺激」とは別の機能を持っています。
※ 個人的にはあまり分けて考えなくても良いようにも思っています
例えば上のイラストではコーチがお子さんの身体を誘導してプロンプトし、ピッチャーが投げたボールを打つ行動が指導されています。
本来、野球のバッティングの場面ではコーチの身体誘導というプロンプトがない場面が自然です。
本来、自然な野球のバッティング行動における「弁別刺激」はピッチャーが投げた球が近くに来ることでしょう。
このような本来、自然に行動を引き起こすであろう刺激を「弁別刺激」
そのような自然な「弁別刺激」に反応できないとき、反応できるよう付加する刺激が「プロンプト」
以上のように覚えてもらえると良いと思います。
またABA療育実践編の章で書いていきたいですがプロンプトにはたくさんの種類があります。
O.Ivar Lovaas (2003) はプロンプトについて指導者が補助として行うあらゆる行動であると述べ、指導者として熟練すれば、何百というプロンプトの方法をみつけ出すことができる。
こうして、子どもをいつでも成功させられるようになり、必ず褒めたりご褒美を与えたりできるようになると述べました。
加えてO.Ivar Lovaas (2003) は「プロンプト」は、「弁別刺激」を出すのと同時に、または出してから1秒以内に行うべきである、とも述べています。
少しテクニックが必要そうです。
プロンプトはいくつか大枠の種類があるのですが日本行動分析学会 (2015) はその1つ「刺激内プロンプト」の重要性を書きました。
ABA療育でお子さんに使用する「刺激内プロンプト」は一般的に教材の中にプロンプトが内在されます。
例えばお子さんのひらがなプリントなどでは幼いお子さん用のプリントにはグレーの字で薄く、その上をなぞればひらがなが書けるよう工夫がされていますが、これは「刺激内プロンプト」の例です。
且つ、次のページで紹介する「プロンプトフェイディング」のステップが教材に含まれていると尚更良いでしょう。
例えば、マスが縦に5つ並んでいてるひらがなの「あ」を練習するプリントをイメージしてみてください。
一番上のマスから徐々に4つめのマスまで「なぞるためのグレーの線」が徐々に薄くなる形で入っていて、
一番下のマスは空欄です。
お子さんが一番上のマスから書いていくと、下のマスへ行くにつれ徐々にプロンプトが弱くなっていっていく工夫がされている例になります。
日本行動分析学会 (2015) は上記のような「刺激内プロンプト」をできる限り活用するべきだと述べ、
応用行動分析(※ ABAのこと)に基づいた療育の成果を出すために、子どもへのプロンプトのタイミングや強化の素早さなど、テクニック的な部分が重視されることはある。
しかしそれは本質的な目的とは別で、専門家の役割として重要なものは
(1)子どもの発達を見極め、今何をするべきかを決定すること
(2)保護者が子どもにその課題を教えられる指導手続きや教材を応用行動分析の考え方に基づいて設定すること
これらのことができると指導のテクニックにはさほど習熟していない保護者でも十分に療育の成果が上げられる、と述べました。
James E. Mazur (2006) はプロンプトとは好ましい行動をより起こしやすくさせる刺激であると述べていますが、ABA療育でお子さんに適切な行動を教えようと思った場合は、
ここまで紹介をしてきた「弁別刺激」に付加する形で使用する「プロンプト」を上手く使って教えていく必要があります。
ここまで「プロンプト」について紹介をしてきましたが、
「プロンプト」を日常的な言葉に言い換えるとすれば、適切な行動を引き起こすための「ヒント」と言い換えることができるでしょう。
さいごに
このページでは「強化法」と「プロンプト」について紹介しました。
「強化法」とは、
提示した結果がその後の行動増加をもたらしたとき、その結果を提示する手続きが「強化法」と呼ばれるもので、
私は、
特定の行動に、特定の結果を伴わせることで特定の行動を増加させる方法
と後輩に教えています。
「プロンプト」とは、
本来、自然に行動を引き起こすであろう「弁別刺激」があり、
そのような自然な「弁別刺激」に反応できないときに、反応できるよう付加する刺激が「プロンプト」
です。
「プロンプト」は「プロンプトフェイディング」ということを意識して使用していく必要がありますし、
また強化法についても強化子の量を調整したり、強化の頻度を調整する「リダクション」という手続きが必要になります。
次のページでは「プロンプトフェイディング」と「強化子のリダクション」について書いていきましょう。
【参考文献】
・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】
・ 日本行動分析学会 責任編集:山本 淳一・武藤 崇・鎌倉 やよい (2015) ケースで学ぶ行動分析学による問題解決 金剛出版
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】