オペラント条件付けにおける罰とは、
「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
で紹介したイラストでいえば、
イラストで「ココ」と記載されている部分です。
「罰」は本(例えば杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット, 1998)によっては「弱化」と呼ばれているものになります。
「(ABA自閉症療育の基礎25)オペラント条件付け-罰(https://en-tomo.com/2020/08/20/operant-conditioning-basic-punishment/)」
では罰についての解説を行いました。
ページ内では、
「罰(Punishment)」について
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が消失・減少した場合、それは罰と呼ぶ
と私は後輩育成をするときに教えているとを書きました。
行動が増える「強化」に「正の強化」と「負の強化」があったように、
(参考)
「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」
「(ABA自閉症療育の基礎21)オペラント条件付けー正の強化と負の強化で覚えておきたいポイント(https://en-tomo.com/2020/08/16/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement2/)」
「罰」にも「正の罰」と「負の罰」があります。
このページでは「正の罰」と「負の罰」について解説を行っていきましょう。
「正の罰」と「負の罰」
先のほどのページでは2つのオペラント条件付けにおける「罰」の日常例を紹介しました。
もう一度見てみましょう。
正の罰
「
(熱いスープで火傷をしてしまった男の子)
出来立ての湯気の出ているスープが目の前にあるとき(A)
スープに口をつけると(B)
舌を火傷した(痛みが走った)(C)
その後、出来立ての湯気の出ているスープが目の前にあるとき(A)
スープに口をつける行動(B)は消失した
」
この例は「正の罰」の例になります。
「正の強化」と「負の強化」を解説する際、「提示型=正」、「除去型=負」と解説しました。
「提示型」と「除去型」は行動の前後の環境変化を示すタイプを表しています。
坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) は
環境に何かを付け加えることによる環境の変化を「提示型」
環境から何かを取り去ることによる環境の変化を「除去型」
と呼んでいます。
「罰」においても同じで「正の罰」は「提示型の罰」のことです。
イラストの男の子の例では、
というように「A(Antecedent)」の部分では存在しなかった
「下の痛み(C:(Consequence):結果)」という結果が、
「スープを口につける(B(Behavior):行動)」ののちに出現します。
このように「行動」する前になかった環境が、行動の後に出現するという結果を受け、その後行動が消失・減少した場合「正の罰」と呼ばれます。
「食べ物で遊んでいると、お母さんが激怒したので、食べ物で遊ぶ行動が消失した」
「横を向いて走っていると、ころんで頭から血が出たので、横を向いて走ることが減った」
「病院で走っていると、静かにしなさいと叩かれたので、病院で走らなくなった」
などは「正の罰」の例です。
負の罰
「
(スピード違反で罰金を取られた女性)法定速度60キロの道で(A)
超過したスピードで走ると(B)
スピード違反で罰金を取られた(C)※持っていた現金の減少
その後、法定速度60キロの道で(A)
超過したスピードで走る行動(B)は消失した
」
例のように「A(Antecedent)」の部分に存在した「手持ちの現金」が、
「超過したスピードで走る(B(Behavior):行動)」ののちに「消失(C:(Consequence):結果)」します。
このように「行動」する前にあった環境が、行動の後に消失(もしくは低減)するという結果を受け、その後行動が消失・減少した場合「負の罰」と呼ばれるのです。
「正の罰」は日常例がたくさん思いつくのですが、
「負の罰」については基本的な2種類の日常例が存在します。
1つは例で出した「罰金」のように持っていたお金などが特定の行動の結果として消失・低減することによって、特定の行動が消失・低減するパターンです。
これは療育に使用する際には「レスポンスコスト(Response Cost)」と呼ばれる療育手法になります。
もう1つのパターンは療育で使用した場合は「タイムアウト(Time Out)」と呼ばれるパターンです。
「タイムアウト」の日常例としては、
「サッカー選手が試合中、相手の足を蹴ってしまいゲームから退場した。その後、この選手は試合中に相手の足を蹴ることが減った」
これは本来、試合に出場できる権利が、相手の足を蹴ったことで結果、権利が剥奪されたことによる行動減少です。
本来自分が持っていた「試合の出場時間」が、相手の足を蹴るという行動の結果、剥奪されます。
そのため、この結果が「罰」として作用し、今後試合中に相手の足を蹴らなくなる。
これが「タイムアウト」の例です。
「タイムアウト」や「レスポンスコスト」の療育手法についてはまたのちのページで詳しくみていければと思いますが、
「タイムアウト」を使用する際に注意したいことも書いておきましょう。
例えば授業中にうるさくしたことで先生から「廊下に立っていなさい」と言われたとします。
この場合、
本来、授業に参加できる権利が、うるさくしたことで結果、権利が剥奪される
ということになり、非常に例で出したサッカーのペナルティと状況が似ています。
お子さんが「授業に参加したい」という動機づけがある場合は「タイムアウト」として、「負の罰」として機能し、今後授業中静かにすることが期待できるのですが、
「難しかったりして授業が嫌で騒いでいた場合」には「タイムアウト」として機能せず、今後、授業中に静かにすることは期待できないでしょう。
また「クラスメイトからの注目によって騒いでいた場合」も、もしかすると退室時の仲間からの笑いなどが強化子になった場合、この場合も、後、授業中に静かにすることは期待できません。
まとめ
このページでは「正の罰」と「負の罰」の日常例についてみてきました。
このページでは「罰(Punishment)」について
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が消失・減少した場合、それは罰と呼ぶ
こと紹介しました。
「提示型=正の罰」
、
「除去型=負の罰」
と紹介しています。
行動が消失・減少したとき、その行動の前後の環境変化に注目し、
行動の前になかったものが行動ののちに出現し、行動が消失・減少した場合を「正の罰」
行動の前にあったものが行動ののちに消失(もしくは低減)し、行動が消失・低減した場合を「負の罰」
と呼ぶと、このページから覚えておいてください。
さいごに
小野 浩一 (2005) は行動分析学の伝統的な用法では刺激に価値的要素を持ち込まないために正、負という無機能な記号や強化子・罰子のような専門用語を用いるのであるが、初学者にはなかなかなじみにくく、実際、これまで様々な混乱を招いてきたと述べました。
確かになにか小難しく思えたかもしれません。
「強化」は結果によって行動が増えること、
「罰」は結果によって行動が消失・低減すること、
「正=提示型」とは、行動の前「A」になかったものが、行動後、結果「C」として出現すること
「負=除去型」とは、行動の前「A」にあったものが、行動後、結果「C」消失・減少すること
この4つのパターンの組み合わせです。
ここまでのページで
「正の強化」
「負の強化」
「正の罰」
「負の罰」
という4つのパターン(随伴性)が出てきました。
次のページではこの4つのパターンについて理解しやすくまとめ、紹介していきます。
【参考文献】
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 ,産業図書