このページではオペラント条件付けの「罰」について紹介をしていきます。
「(ABA自閉症療育の基礎19)オペラント条件付け-強化とは?(https://en-tomo.com/2020/08/13/operant-conditioning-basic-reinforcement/)」
では強化についての解説を行いました。
その後、
「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」
では「強化」と呼ばれるものには「正の強化」と「負の強化」の2種類があることを書きました。
「(ABA自閉症療育の基礎21)正の強化と負の強化で覚えておきたいポイント(https://en-tomo.com/2020/08/16/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement2/)」
では「正の強化」と「負の強化」をABA療育で意識する際のポイントを書きました。
「(ABA自閉症療育の基礎22)オペラント条件付けー強化の効力に影響を及ぼす要因(https://en-tomo.com/2020/08/17/aba-positive-reinforcement-effect-point/)」
では「強化」の影響に及ぼす要因について書き、効果的に強化子をお子さんに提示する際のポイントを書いています。
「(ABA自閉症療育の基礎23)オペラント条件付けー強化スケジュール(https://en-tomo.com/2020/08/18/aba-operant-reinforcement-schedule/)」
では「強化スケジュール」という「強化」を提示するタイミングについて書いてきました。
「強化スケジュール」は後輩からよく難しいと言われるところですが「連続強化スケジュール」と「間欠強化スケジュール」をどのようにABA療育で使い分けるか?という点は知っておくべきでしょう。
「(ABA自閉症療育の基礎24)オペラント条件付けー強化子のタイプ(https://en-tomo.com/2020/08/19/aba-reinforcer-type/)」
では「無条件性強化子」と「条件性強化子」について書き、特に「条件性強化子」の中でも「社会的強化子」が療育では重要であると書きました。
上のページで見てきた「強化」について私は後輩に教える時には
強化とは、
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ぶ
と私は後輩育成をするときに教えています。
ABAでは行動の増加について説明するとき「強化」と説明をするのですが、このページで書いていく「罰(Punishment)」は行動の消失・減少について説明する際に使う言葉です。
「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
で紹介したイラストでいえば、
イラストで「ココ」と記載されている部分です。
「罰」は本(例えば杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット, 1998)によっては「弱化」と呼ばれているものになります。
オペラント条件付けの罰(Punishment)とは?
行動の増加、「強化」について私は後輩に教えるとき、
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ぶ
と私は後輩育成をするときに教えていると書いてきました。
「罰(Punishment)」については上記の文章を少し変形させて、
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が消失・減少した場合、それは罰と呼ぶ
と私は後輩育成をするときに教えています。
ABAにおいて行動の増加を表すキーワードは基本的には「強化」のみですが、行動の消失・現象を表すキーワードは「罰」以外にも存在し「消去(Extinction)」というものあります。
※ 行動の増加を示すキーワードは強化以外に「消去バースト」や「行動対比」などの言葉もありますが、基本的に「強化」と覚えておけば良いでしょう
「消去」についてはのちのページで解説をしていきますが「罰」については、
(罰の)結果が伴った行動を、消失・減少させる結果と覚えておけば良いでしょう。
オペラント条件付け、罰の日常例
オペラント条件付けにおける罰の日常例を見てみましょう。
「
(熱いスープで火傷をしてしまった男の子)
出来立ての湯気の出ているスープが目の前にあるとき(A)
スープに口をつけると(B)
舌を火傷した(痛みが走った)(C)
その後、出来立ての湯気の出ているスープが目の前にあるとき(A)
スープに口をつける行動(B)は消失した
」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「
(スピード違反で罰金を取られた女性)
法定速度60キロの道で(A)
超過したスピードで走ると(B)
スピード違反で罰金を取られた(C)※持っていた現金の減少
その後、法定速度60キロの道で(A)
超過したスピードで走る行動(B)は消失した
」
「負の罰」はわかり難いのですが、
この例では罰金を取られる前にあった現金が減少したというように見ます
「行動の前」にあった刺激(この場合は「お金」)
が「行動の後」に減っていることがポイントです
上の2つの例は
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が消失・減少した場合、それは罰と呼ばれる
という条件から今後同じような状況(A)で行った特定の行動が、同じような状況(A)で消失・減少したとすれば
これらはどちらとも罰の例であると言えます。
このとき、行動を消失・減少させた結果は「罰子(Punisher)」と呼ばれるものです。
ここで例で示したように「強化」が「正の強化」と「負の強化」に分けられたよう、「罰」も「正の罰」と「負の罰」の2つに分けられます。
上に示した例の
「熱いスープで火傷をしてしまった男の子」は「正の罰」の例、
「スピード違反で罰金を取られた女性」は「負の罰」の例です。
「正の罰」と「負の罰」については次のページで詳しく記載していきます。
罰は強化の反対か?
「強化」は行動を増加させる、対して「罰」は行動を消失・減少させると聞くと「罰は強化の反対なんだな」と思うかもしれません。
しかし反対のことであるかと言えばそうではありません。
例えば「罰」には「強化」には無い行動を減らす以外の副次的な効果が伴います。
例えばJames E. Mazur (2006) は罰が与える嫌悪的な結果について、進行中の行動の全般的な減少を引き起こすと述べていますが、このように罰についての副次的な効果が伴うのです。
罰の副次的な効果についてはABA療育でもとても大切なことですので、のちのページで取り扱います。
強化と罰の共通点
James E. Mazur (2006) によれば「罰」も「強化」と同じように、反応の直後に与えられる「罰子」は、反応の頻度を減少させるのに最も効果的なようです。
例えばJames E. Mazur (2006) は子どもの間違った行動を減らそうとする母親の「お父さんが帰ってきたら叱ってもらうから」というような言葉掛けは、行動とその言葉掛けの間に非常に長い遅延があるため、罰としての効果を持ちにくいと述べました。
「即時性」、これは「強化」と「罰」の共通点と言えます。
また小野 浩一 (2005) によれば「罰」にも「強化」と同じように「無条件性罰刺激」や「条件性・社会性嫌悪刺激」といった「罰子」が存在するところも共通点と言えるでしょう。
「無条件性罰刺激」は「強い音」や「寒冷」、「酸性の強い飲料」
、
「条件性・社会性嫌悪刺激」は「拒否」や「叱咤」、「過重な活動負荷」
などがあり、
これらは「強化」でみてきた「無条件性強化子」や「条件性強化子」にあたるものと考えられます。
さいごに
このページでは「罰」についての定義を書きました。
私は「罰(Punishment)」について、
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が消失・減少した場合、それは罰と呼ぶ
と私は後輩育成をするときに教えています。
このページで記載したように「罰」も「強化」と同じように「正の罰」と「負の罰」があるのです。
このページでは「罰」と「強化」の共通点についても紹介しました。
また「罰」には「強化」には無い副次的な効果が伴います。
この「罰」の副次的な効果はABA療育を行っていく中で絶対に意識しておきたい点です。
「罰」の副次的な効果についてはまたのちのページで見ていくとして、次のページでは「正の罰」と「負の罰」についてもう少し詳しく見ていきましょう。
【参考文献】
・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸 訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書