「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」
では強化には「正の強化」と「負の強化」という2つのタイプがあることを紹介しました。
このページではABAでは行動が増えた場合、それは「強化」と呼ばれること、
行動が増えたとき、
その行動の前後の環境変化に注目し、行動の前になかったものが行動ののちに出現し、行動が増えた場合を「正の強化」
行動の前にあったものが行動ののちに消失(もしくは低減)し、行動が増えた場合を「負の強化」
と紹介しました。
その後「(ABA自閉症療育の基礎21)オペラント条件付けー正の強化と負の強化で覚えておきたいポイント(https://en-tomo.com/2020/08/16/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement2/)」
では「正の強化」と「負の強化」についてABA療育を行う上で覚えておいた方が良いポイントについて解説をしました。
この2つのページから「強化」というのは「正」と「負」の2タイプが存在することがわかります。
このページでは「正」と「負」といったタイプ以外の「強化」の区分けの解説ページです。
「強化」の中でも特に「結果の部分」、「強化子」の種類についての解説ページとなります。
無条件性強化子(1次性強化子)
Raymond .G .Miltenberger (2001) は、
たとえば食物、水、性的刺激は自然な正の強化子であるが、それらは個体の保持と種の保存にとって必要なものである。
痛みの刺激や非常に強い刺激(寒さ、熱さ、その他の不快刺激や嫌悪刺激)からの逃避は、それらの刺激からの逃避や回避が生存に有利に働くことによって、自然な負の強化子となる。
これらの自然な強化子は、「無条件正強化子(Unconditioned Reinforcer)」と呼ばれる
と述べました。
このような私たちが生きていくために必要な行動のあとの結果は、私たちの行動を引き起こす自然な強化子です。
実森 正子・中島 定彦 (2000) は、このような生得的に正や負の強化子の機能を持つ刺激を「無条件正強化子」または「一次性強化子(いちじせいきょうかし)」と言うと述べています。
条件性強化子(二次性強化子)
Raymond .G .Miltenberger (2001) はもう一つの強化子のタイプとして「条件性強化子(Conditioned Reinforcer)」を紹介しています。
Raymond .G .Miltenberger (2001) は「条件性強化子」について最初は中立であった刺激が、無条件性強化子やすでに確立している条件性強化子と対提示されることによって、強化機能を持つようになった強化子であると説明しました。
「条件性強化子」は「二次性強化子」とも呼ばれます。
「条件性強化子」はABA療育にとって非常に重要です。
療育で「条件性強化子」の例として良く出されるものとして「褒め言葉」、「笑顔」、「人からの承認」など、人との関わりがあげられます。
ABA療育では例えば、課題が上手くできたのちの強化子として「チョコレート」や「クッキー」などの食べ物を使用することがあるのですが、これらは「無条件性強化子」です。
O.Ivar Lovaas (2003) は「よくできたね!」などの言葉を、食べ物のような一次性強化子(無条件性強化子)といっしょに繰り返し与えるようにすると、二次性強化子つまり学習された強化子(条件性強化子)として使えるようになると述べました。
例えばお子さんに「あいさつをする」という行動を教えたいとき、お子さんがあいさつを行ったのちに強化子として「チョコレート」を与え続けたとします。
しかし、実際にお友達にあいさつをしても「チョコレート」を手に入れられることはありません。
お子さんのあいさつが「チョコレートを得る」ための行動であるとすれば、教えたその行動はお友達の前で使われなかったり(般化しない)、教えた行動を使用しなくなる(維持しない)ことが予測されます。
そのためお子さんに教えた「あいさつ」を「般化(Generalization)」させたり「維持(Maintenance)」されたりするためには、
お子さんがお友達にあいさつをした結果返ってくる「笑顔」や「友達からの応答(関わり)」というものが強化機能を持っており、その結果によって強化される必要があります。
「般化」や「維持」の問題はABA療育では重要です。
「般化」や「維持」の重要性を伝えた研究として例えばO. Ivar Lovaas・Robert Koegel・James Q. Simmons・Judith Stevens Long (1973) があります。
O. Ivar Lovaas他 (1973) の研究では20人の自閉症児に対してABA療育(行動療法)を行ったのですが、療育後、行動療法の訓練を受けた両親のもとで暮らしたお子さんと施設で暮らしたお子さんでは療育効果の「般化」や「維持」で大きな差が出ました。
ターゲットスキルを教えることができたとしても、それが必要である場面で使用されないとすると実用的な指導とは言えません。
O.Ivar Lovaas (2003) は「よくできたね!」などの言葉を、食べ物のような一次性強化子(無条件性強化子)といっしょに繰り返し与えるようにすると、二次性強化子つまり学習された強化子(条件性強化子)として使えるようになると述べたのですが、
このような無条件強化子(食べ物)と褒め言葉を対提示させ、褒め言葉などの人との関わりに強化的な価値を持たせる努力は大切です。
「強化子」については様々な考え方がありますが、近年ではできるだけ自然な強化子によって療育を行っていこうという考え方もあります(参考 例えばRobert L.Koegel・Lynn kern Koegel, 2012)。
社会的強化子
上で「条件性強化子」として紹介してきた「褒め言葉」などの人との関わりですが、
坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) はヒトの場合には条件性強化子の中でも笑顔、頷き、承認や賞賛の言葉などが条件性強化子の機能を有しているといわれ、これらをとくに「社会的強化子(Social Reinforcer)」と呼ぶ場合があると述べました。
このような「条件性強化子」をABAでは「社会的強化子」と呼ぶことがあります。
ABA療育ではお子さんがいかに人との関わりを「社会的強化子」として価値を持てるか?
を考えながら療育を行っていくことがキーワードです。
私たちは社会的なコミュニティに属して生活をしていますので、そこで承認されることや受容されること、「ありがとう」という感謝の言葉やなぐさめてくれた経験などに価値が持てないと、コミュニティの中で生活をしていく上で難しくなってしまいます。
たくさん褒めて、たくさん身体的強化(くすぐりや抱っこなど)を行って、しっかりと笑顔で強化するなどが大切と言われる所以はここにあるのです。
自閉症児が対人関係へ関与する動機づけをターゲットとして向上させることが、発達能力を獲得する主な要因であり、早期療育介入の努力すべき点であると述べている研究者もいます(Ty W. Vernon・Anahita N. Holden・Amy C. Barrett・Jessica Bradshaw・Jordan A. Ko・Elizabeth S. McGarry・Erin J. Horowitz・Daina M. Tagavi・Tamsin C. German, 2019)。
「条件性強化子」の中でも特に「人との関わり」(社会的強化子)が価値があると思えるよう、お子さんと療育生活を送る際には関わるようにしてみてください。
般性強化子
「条件性強化子」について「社会的強化子」というタイプのものを紹介しました。
「条件性強化子」は「社会的強化子」の他に「般性強化子(Generalized Reinforcer)」というタイプがあります。
「般性強化子」とは良く例で言われるものは「お金」です。
様々な強化子と対提示されたものは「般性強化子」としての価値を持ちます。
「お金」は様々な強化子と交換することが可能です。
「バックアップ強化子」とも言われます。
これらの強化子は「飽和(Satiation)」しにくいことが特徴です。
「飽和」についてはのちの「確立操作」のページで解説をしていきます。
ABAでは「般性強化子」を支援に使う方法として有名なものは「トークン・エコノミー法(Token System/Economy)」という方法です。
トークン・エコノミー法についてもまた別で解説できればと思います。
条件性強化子とレスポンデント条件付け
最後に、条件性強化子とレスポンデント条件付けの関係についても記載しておきます。
Raymond .G .Miltenberger (2001) は「条件性強化子」について、最初は中立であった刺激が、無条件性強化子やすでに確立している条件性強化子と対提示されることによって、強化機能を持つようになった強化子であると説明したのですが、
刺激と刺激の対提示によって、刺激の価値が変わる
ピンとくる人がいるかもしれませんが、これは
「(ABA自閉症療育の基礎5)レスポンデント条件付けの原理1(https://en-tomo.com/2020/07/18/responsive-conditioning-base1/)」
や
「(ABA自閉症療育の基礎6)レスポンデント条件付けの原理2(https://en-tomo.com/2020/07/19/responsive-conditioning-base2/)」
で見てきた「レスポンデント条件付け」の条件付け手順に似ています。
レスポンデント条件付けは、無条件に反射(ヨダレなど)や情動(悲しみや怒り)を誘発する刺激に少し先行して、ベルの音や匂いやアイテムを対提示するともともと反射や情動を引き起こさなかったベルの音や匂いやアイテムが、反射や情動を引き起こすようになるという条件付け学習でした。
レスポンデント条件付けには「評価条件付け(Evaluative Conditioning)」という研究が存在します。
「評価条件付け」上のレスポンデント条件付けのURLの解説にもある「二次条件付け」の研究分野ですが、例えばポジティブな形容詞と対提示された顔写真について人間は「好き」と判断しやすいようです(参考 James E. Mazur, 2006)。
実森 正子・中島 定彦 (2000) は「評価条件付け」に日常例としてTVCMをあげています。
あまり美的とは言えないお笑いタレントがCMに起用されることの理由として、
面白いと思ったお笑いタレントに好感を持っている人は、CMで紹介される商品へも好感を持たせることが可能になるからであると述べました。
坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) によれば条件性強化子がなぜ強化子としての価値を持つようになったのかについて、レスポンデント条件付けの過程を通して獲得されたと考えられてきたようです。
しかし続けて坂上 貴之他 (2018) は条件性強化子の概念についてなぜそれが強化子としての価値を持つようになったのかについて、条件レスポンデント刺激の成立理由と同じ議論が最近も盛んに行われていると述べており、
条件性強化子が強化子としての価値を持つのかについてレスポンデント条件付けがどのように関わっているのかはまだ結論が出ていないものと思われます。
この条件性強化子とレスポンデント条件付けの関係は個人的にとても興味を持っている内容です。
もし、最先端の研究結果などを知っている人がいたらぜひ連絡いただけると嬉しいです。
さいごに
このページでは強化子のタイプとして「無条件正強化子」と「条件性強化子」を解説してきました。
「条件性強化子」は「社会的強化子」と「般性強化子」に分けられました。
特に「社会的強化子」は自閉症療育において重要な役割を担っていますので、ABA療育を行う際には意識していきたいポイントです。
「強化子」についての議論は熱く、このページで紹介したものの他に「反応遮断化理論(Response Deprivation)」などの理論もありますが、「反応遮断化理論」については「確立操作」のところで説明をします。
ここまで行動を増加させる「強化」について解説をしてきました。
次のページからは行動を減らす「罰」というものについて解説を行っていきます。
【参考文献】
・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ O. Ivar Lovaas・Robert Koegel・James Q. Simmons・Judith Stevens Long (1973) SOME GENERALIZATION AND FOLLOW-UP MEASURES ON AUTISTIC CHILDREN IN BEHAVIOR THERAPY1. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. 63, 131-166 NUMBER 1
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2012) Pivotal Response Treatment for Autism Spectrum Disorders 【邦訳 小野 真・佐久間 徹・酒井 亮吉 (2016) 発達障がい児のための新しいABA療育 PRT Pivotal Response Treatmentの理論と実践 二瓶社】
・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ
・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社
・ Ty W. Vernon・Anahita N. Holden・Amy C. Barrett・Jessica Bradshaw・Jordan A. Ko・Elizabeth S. McGarry・Erin J. Horowitz・Daina M. Tagavi・Tamsin C. German (2019)A Pilot Randomized Clinical Trial of an Enhanced Pivotal Response Treatment Approach for Young Children with Autism- The PRISM Model. Journal of autism and developmental disorders, 49(6)