「(ABA自閉症療育の基礎19)オペラント条件付け-強化とは?(https://en-tomo.com/2020/08/13/operant-conditioning-basic-reinforcement/)」
では強化についての解説を行いました。
その後、
「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」
では「強化」と呼ばれるものには「正の強化」と「負の強化」の2種類があることを解説しました。
「(ABA自閉症療育の基礎21)正の強化と負の強化で覚えておきたいポイント(https://en-tomo.com/2020/08/16/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement2/)」
ではさらに、ABA療育における「正の強化」と「負の強化」について知っておくべきポイントを書きました。
上のページで見てきた「強化」について私は後輩に教える時には
強化とは、
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ぶ
と私は後輩育成をするときに教えていると書きました。
このページでは「強化」の効力に影響を及ぼす要因について見ていきます。
強化の効力に影響を及ぼす要因
Raymond G. Miltenberger (2001) は強化の効力に影響を及ぼす要因について「即時性」、「随伴性」、「確立操作」、「結果事象の特性」を紹介しました。
また上記の要因の他に島宗 理 (2019) は「十分な量や強度」についても紹介しています。
以下、上のキーワードたちについて見ていきましょう。
強化の即時性
Raymond G. Miltenberger (2001) は行動が生起してからそれに結果事象が後続するまでの時間間隔は重要な要因の1つであると述べています。
反応と結果事象の間に遅延が生じると、その遅延が長いほど強化子としての効力は弱くなります。
Sidney W.Bijou・Donald M.Baer (1961) もオペラントが結果を生じる際の即時性は、結果それ自体と同程度に重要であると述べ、
諸研究の明らかにしたところでは行動が即座に強化されるほど、いっそう効果的に行動の強さがその強化によって変化すると述べています。
このことをABA療育で考えるとき、お子さんの行動を強化(強めたい)と思った場合は、お子さんが行動をしたのちいかに早く強化子を提示できるか?ということです。
具体的にどれくらいの早さが求められるか?
行動してから強化子が提示されるまでの時間について杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)は少なくとも「60秒以内」と述べています。
これは動物実験から行動が生じてから60秒以内に結果の提示がないと行動が強化できないことがわかっているからだそうです。
他にも例えばO.Ivar Lovaas (2003) はReynoldの1968年の実験を参考に、お子さんが行動をしてから強化するまでの時間について、行動から強化までが1秒の場合と0.5秒の場合と比較すると、行動を強める効果が25%にまで落ちてしまうと述べています。
またO.Ivar Lovaas (2003) は、行動から強化までの時間が0.5秒より長くなると子どもは別のことを始めてしまい、その別のことが意図せずに強化されてしまうとも述べました。
行動が強化されるためには、行動後にできるだけ即時に強化子を提示する必要があります
随伴性
Raymond G. Miltenberger (2001) は強化的な結果事象が一貫して後続することによって行動は繰り返されるようになる。別の言い方をすれば、強化子が行動に随伴する(ある行動が起きたときだけ強化子が随伴する)場合に、その行動は強められると述べました。
「随伴(ずいはん)」とは「伴って、起きる」という意味です。
例えば「行動に強化子が随伴する(後続する)」と言われた場合は「行動に伴って、強化子(結果)が起きる」と考えてください。
一貫して行動に強化子が随伴すると言っても「毎回随伴するのか?」、「2回に1回随伴するのか?」、「10秒ごとに随伴するのか?」、「平均で4回に1回随伴するのか?」、
また以上のように強化子がどのようなペースで随伴したとき、行動がどう増えるのか?
このような疑問は「強化スケジュール(Reinforcement Schedule)」という研究分野があります。
Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) によれば「強化スケジュール」とは強化子を提示するタイミングのパターンのことです。
「強化スケジュール」については次のページで紹介をしていきます
確立操作
Raymond G. Miltenberger (2001) はいくつかの事象はある時点で、他の時点よりも強化力の大きい結果事象となると述べています。
「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
で紹介したイラスト
確立操作は「ココ」と記載されたところの内容です。
確立操作は「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」のフレーム内に記載されています。
イラスト内で「C:(Consequence):結果」のフレームではなく「A(Antecedent)」のフレームに入っていることに少し?となられるかもしれません。
確立操作について
「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
のページ内で
『「EO(確立操作)」とは五感で感じる刺激というよりは身体の中で内的に生じる、その後の行動に影響を与える反応です』と説明しました。
例えば、行動のあとに食事という強化子があるとき、私たちは調理という行動を生起させる可能性があります。
しかし、調理という行動の前の状況が「満腹」であった場合、調理という行動のあとに食事という結果が伴うとしても、行動が生起しにくいです。
Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008) は確立操作は通常「動機付け」と言われているものに影響を与える要因であると述べました。
「確立操作」についてはまたのちのページで詳しく書いていきますが、「満腹感」や「空腹感」などの行動の前にある身体の内側にある状況がその後の行動に影響を与えます。
言い換えれば確立操作には瞬間的に「強化子の価値」を変える作用があるのです。
「確立操作」は強化子の価値を変える作用があり、ABA療育で困ったときに使える手段です。「確立操作」についてはのちのページで解説ページを作っていきます
結果事象の特性
Raymond G. Miltenberger (2001) はある結果事象が強化子となるかどうかは、人によって異なる。したがって、ある結果事象が特定の人にとって強化子となるかどうかを幹分けることが重要であると述べました。
Raymond G. Miltenberger (2001) はチョコレートは多くの子どもにとって強化子となるが、チョコレートアレルギーの子どもにとっては強化子ではないと述べています。
同じ結果であっても人によって強化子として機能する場合と機能しない場合があることは覚えておきましょう。
これはお子さんを「褒める」際にも注意する必要があります。
例えば4歳くらいの小さいお子さんに対して、目線を合わせて「すごいね、えらいえらい」と言って頭を撫でてあげる。
これくらいのお子さんにとってこのような行為は強化子として機能する可能性が高いですが、中学校3年性のお子さんに同じようにしても強化子として機能せず、かえって嫌がられるかもしれません。
適切な行動を増やしたいとき、行動の後に伴う結果が強化子として機能するかどうかはABA療育にとって生命線です。
例えば支援を行うときに「その人にとって何が強化子なのか?」をアセスメントする研究を行っている論文もあります
(参考 WAYNE FisHm・CAmLEEN C. PIAZZA・LNNN G. BowMAN・Louis P. HAGOPIAN・JAMEs C. OWENS・IRENE SLEVIN, 1992)
WAYNE FisHm (1992) の研究では重度の精神遅滞を持つ人たちに対し、強化子を特定するための有効なアプローチを特定するために強化子の選択場面を作り、より個人にとって強力な強化子を特定していきました
十分な量や強度
島宗 理 (2019) は夕食の後に子どもが食器洗いを手伝う行動を強化する手続きにチョコレートを使うにしても、家族四人ぶんの食器を全て洗い終わった後にチョコ一片しかもらえないなら、お手伝いは増えないだろうと述べています。
島宗 理 (2019) によれば好子/嫌子の量の効果は行動の自発に要する負荷と交互作用を持ちます。
※ 「好子」は「強化子」のことです。「嫌子」は「罰子」のことなのですが、「罰子」はのちの「罰」のページで出てきます
例えばあなたが何か仕事をして、結果として平均時給をもらうことができれば仕事という行動は維持していく可能性がありますが、結果として与えられる時給が平均時給の十分の一であった場合、仕事を辞める理由になるでしょう。
行動を維持していくためには結果として伴う強化子の量が十分でなければいけませんし、十分な量とは行動した負荷に対して適切でないといけません。
「強度」についても同じです。
例えば褒められるときに小さい声と小さい顔面の筋肉量の動きで「すごいね」と言われるよりも、大きな声で大きな顔面の筋肉量の動きで「すごいね」と言われた方が「強度」が強いといえます。
お子さんによっては上記の小さな強度での「すごいね」では、その褒めは強化子になり得ない可能性があるでしょう
さいごに
このページでは「強化」の効力に影響を及ぼす要因について見てきました。
このページで紹介したものは、
・ 即時性
・ 随伴性
・ 確立操作
・ 結果事象の特性
・ 十分な量や強度
でした。
次のページでは「強化スケジュール」というものについて紹介をしていきます。
「強化スケジュール」は専門書を見ても難しくよく分からないと、後輩たちからよく言われる内容のところです。
このブログではあまり難しい内容は扱わず、療育で覚えておいて欲しい点に重点を置いて書いていきます。
【参考文献】
・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC,日本評論社】
・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社
・ Raymond G. Miltenberger (2001) Behavior Modification:Principle and Procedures/ 2nd edition 【邦訳 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ Sidney W.Bijou・Donald M.Baer (1961) CHILD DEVELOPMENT Ⅰ 【邦訳: 山口 薫・東 正(1972) 子どもの発達におけるオペラント行動 ,日本文化科学社】
・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社
・ WAYNE FisHm・CAmLEEN C. PIAZZA・LNNN G. BowMAN・Louis P. HAGOPIAN・JAMEs C. OWENS・IRENE SLEVIN (1992) A COMPARISON OF TWO APPROACHES FOR IDENTIFYING REINFORCERS FOR PERSONS WITH SEVERE AND PROFOUND DISABILITIES. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. 259 491-498 NUMBER. 2