(ABA自閉症療育の基礎11)エクスポージャーのポイント1:エクスポージャーでの馴化プロセス

このページではエクスポージャーを行う際のポイントについて書いて行きます。

「(ABA自閉症療育の基礎9)エクスポージャー(曝露療法)(https://en-tomo.com/2020/07/23/exposure-therapy1/)」で

飯倉 康郎 (2005) を参考にし「エクスポージャー」は不適応的な不安反応を引き起こす刺激に持続的に直面することにより、その不安反応を軽減させる支援方法です。

条件づけられた不安反応はそれを引き起こす刺激に持続的に直面させると次第に減少していきます。

引き起こす刺激に持続的に直面させると次第に減少していく現象は「馴化(じゅんか):Habituation」と呼ばれる現象です。

加えて

私も飯倉と同じように考えていて、

エクスポージャーとは「恐怖」や「嫌悪感」や「不安」などが本人の受け入れられるレベルに下がるよう、それらを引き起こす刺激に曝露(さらされる)ことを計画的に行っていく支援方法だと思っています。

と記載しました。


このページではエクスポージャーを行う際のポイントについて記載して行きます。



エクスポージャーでの馴化プロセス

以下の飯倉 康郎 (2005) を参考に作ったイラストを見てください。


飯倉 康郎 (2005) を参考に作ったエクスポージャーをする時に意識したい馴化のプロセス

上のイラストは

・「縦軸は不安や恐怖や嫌悪感などの程度(理論値)」

・「横軸は経過時間」

になります。

上のイラストは「馴化」のプロセスに従い、不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激に直面された場合、「黒い点線」のところで不安や恐怖や嫌悪感などはピークを迎えそこから徐々に程度が下がっていくことを表しています

このイラストでは不安や恐怖や嫌悪感などに対して行う、計3日間のエクスポージャー場面を切り取り表現しました。

この3日間の不安や恐怖や嫌悪感などの程度の変化からどのようなことが見えてくるか解説して行きます。


(ポイント1)不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に当たり続けると程度は下がっていく

赤で記載した1日目緑で記載した2日目青で記載した3日目、全ての日で不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に当たり続けると、時間経過に伴って不安や恐怖や嫌悪感の程度が下がっていくことがわかります。

不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に当たり続けることを手続きとして支援していく方法がエクスポージャーです。

不安や恐怖や嫌悪感などは、不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に直面した「黒い点線」のところでピークを迎えますが、そこから徐々に程度が下がっていきます。

もちろん「黒い点線」のところでピークを迎えた際、エクスポージャーを実施されている側は「嫌だな」と感じるでしょう。

そのために「馴化」によってその後、不安や恐怖や嫌悪感などの程度が下がっていくということを知っていることが大切です。


(ポイント2)ポイントAよりも不安や恐怖や嫌悪感などが下がった(ポイントB)までエクスポージャーを続ける

(ポイント1)でも書いたように赤で記載した1日目緑で記載した2日目青で記載した3日目、全ての日で不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に当たり続けると時間経過に伴って不安や恐怖や嫌悪感などの程度は下がっていきます。

大切なポイントはエクスポージャーを実施する日はポイントAの実施前よりも不安が下がったタイミングまで不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に当たり続ける必要があることです。

例えばエクスポージャーを実行する日は理想を言えば、イラストで言えばポイントBまで当たり続ける必要があります。

「充分に不安が下がる」ところまで実施できればベストと言えるでしょう。


(ポイント3)☆線、ポイントAポイントBからのヒント

赤で記載した1日目ポイントBまで不安や恐怖や嫌悪感などの程度を下げたとしましょう。

まずは赤で記載した1日目ポイントBに目をやって、その後緑で記載した2日目ポイントAに注目してください。

緑で記載した3日目のポイントA赤で記載した1日目ポイントBよりも不安や恐怖や嫌悪感などの程度が高いところから始まります。

これは横に引かれている赤色の☆線を目で追ってもらえれば分かりやすいでしょう。

同じように青で記載した3日目ポイントA緑で記載した2日目ポイントBよりも不安や恐怖や嫌悪感などの程度が高いところから始まります。

これは横に引かれている緑色の☆線を目で追ってもらえれば分かりやすいでしょう。

このことから分かる大切なことは「1日目の最後よりも2日目の最初は高い程度から始まる」、「2日目の最後よりも3日目の最初は高い程度から始まる」ということです。

「馴化」とはこのような過程を経て起こっていくのですが、このことを知らないと支援する側もされる側も「昨日あんなに上手くできたのに、今日は調子が悪いのかな?」などと勘違いしてしまいます。

支援が上手く行っていたとしても基本的には「前回の最後よりも、今回の最初は不安や恐怖や嫌悪感などの程度が高いところから始まる」ことは知っておきましょう。



太郎くんの事例を参考に

Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008) は「恐怖」を対象としたエクスポージャーについていくつか条件を整える必要があると述べています。


Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)の本です。
後輩に不安などの介入を勉強する時にお勧めする1冊!良い本ですよ!

Jonas Ramnerö他 (2008) は「恐怖」を対象としたエクスポージャーについての条件として以下のポイントを述べていますが、

「(ABA自閉症療育の基礎10)エクスポージャー(曝露療法):言葉の理解が少しある幼児療育編(https://en-tomo.com/2020/07/24/exposure-therapy2/)」

で記載した「不安」を対象とした、5W1Hや因果関係(〜だから)といった簡単な言葉の理解がある太郎くんに対して行ったエクスポージャーを例にJonas Ramnerö他 (2008)の内容も含めて考えてみましょう。

※ 「(ABA自閉症療育の基礎10)エクスポージャー(曝露療法):言葉の理解が少しある幼児療育編」をみてもらってから以下を読んでもらった方が内容が分かり易いと思います


(ポイント1)その状況にとどまる十分な時間が必要

Jonas Ramnerö他 (2008)恐怖は徐々に弱まるまで、決してその場をさってはいけませんと記載しています。

人との関わりに対して「不安」を持つ太郎くんに行ってもらったターゲットは「幼稚園の先生にあいさつをする」ということでした。

あいさつは数秒で終わってしまいますが、仮にあいさつをしたのちに先生と会話を続ける(あいさつ以上に長い時間先生と関わり続ける時間を持つ)と太郎くんの中で不安の程度が下がって行きます。

そのため太郎くんの人と関わることの「不安」を対象に介入していく場合、あいさつをしたのちに先生と会話を続けるなどでその状況にとどまる十分な時間を作っていくことは介入方針の1つになるでしょう。


(ポイント2)エクスポージャーの手続きが短期間に何度も繰り返される必要がある

Jonas Ramnerö他 (2008)はアリスという女性の事例の中で、アリスの場合は1週間に数日実施する必要があると記載しています。

アリスの事例だけでなく、太郎くんの事例でも「幼稚園の先生にあいさつをする」ということを行う場合、できれば毎日、可能であれば週に2回ー4回は実施したいところです。

このページで上に描いた飯倉 康郎 (2005) を参考に作ったイラストから大切なことは「1日目の最後よりも2日目の最初は高い不安から始まる」、「2日目の最後よりも3日目の最初は高い不安から始まる」ということをポイントの1つとしてあげています。

1日経つだけでも不安のレベルは回復してしまいますので、できるだけ日を開けずにトライして行きたいです。


(ポイント3)問題の関連する様々な状況に、十分(多く)さらされることが重要

Jonas Ramnerö他 (2008)はこの理由として「恐怖」が学習されるときには、様々な文脈にいとも簡単に般化していくのに、(逆に)消去しようとするときには、他の文脈が必ずしも般化しないと記載しています。

不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に触れた時、その刺激や場面と「似たもの」に対しても不安や恐怖や嫌悪感などが誘発される学習は早く進むものです。

しかし残念なことにエクスポージャーなどの支援を行い、不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に対して「大丈夫!」という学習を支援する場合はその刺激や場面と「似たもの」に対しても「大丈夫」とはなかなかなりません。

そのためエクスポージャー支援を行い、不安や恐怖や嫌悪感などを誘発する刺激や場面に対して「大丈夫!」という学習を支援する場合は様々な状況でエクスポージャーを実施していく必要があります。

太郎くんの場合は人と関わることに不安を持っているのですが、その不安に介入していくために「幼稚園の先生とあいさつをする」ことに取り組んでいました。

しかし今後「幼稚園の先生」との「あいさつや会話」がクリアできた場合、「幼稚園のお友達」や「交番のおまわりさん」、「コンビニの店員さん」や「グループで話し合う時に発言する」など、様々な状況で行動していくことを支援していく必要が出てくでしょう。

いろいろな人や場所で人との関わりのレパートリーを増やしていくことが望まれます。



おわりに

このページではエクスポージャーを行う時のポイントについて触れてきました。

次のページもエクスポージャーについてのポイント解説となります。



【参考文献】

・ 飯倉 康郎 (2005) 強迫性障害の行動療法 金剛出版

・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC ,日本評論社】