このページではレスポンデント条件づけが「恐怖」の条件づけに成功をしたことを示す古典的な研究の解説をしていきます。
古典的な恐怖条件付けの研究
レスポンデント条件付けが可能なものは
「(ABA自閉症療育の基礎5)レスポンデント条件付けの原理1(https://en-tomo.com/2020/07/18/responsive-conditioning-base1/)」
や
「(ABA自閉症療育の基礎6)レスポンデント条件付けの原理2(https://en-tomo.com/2020/07/19/responsive-conditioning-base2/)」
で書いたように「唾液」等のようなものだけを条件づけだけではありません。
John B. Watson・Rosalie Rayner (1920) は実験で生後11ヶ月のアルバートという子どもに対し「恐怖」を条件付ける実験を行ないました。
レスポンデント条件付けでは以下の実験内容で示されるように、人間に情動も条件付けることが可能です。
実験対象としてアルバートが選ばれた原因の1つとしてJohn B. Watson他 (1920) に「アルバートは全体的に冷静で安定していた」と記載があり、アルバートは比較的穏やかで落ち着いたお子さんでした。
この実験ではアルバートは実験前に白ネズミを見てもアルバートが何も変化を起こさないことを確認した後、後日11月3日アルバートに対して白ネズミ(中性刺激)を見せ、その後ハンマーで大きい音(US)を鳴らすことから始まります。
その日はアルバートは泣きませんでした。
日が進み11月10日。
今度は白ネズミ(中性刺激)を見せ、その後ハンマーで大きい音(US)を鳴らすことを7回繰り返しました。
すると8回目に白ネズミを見ただけでとうとうアルバートは泣き出してしまいました。
それから5日後の11月15日にアルバートが遊んでいる途中に白ネズミを見せます。
この時アルバートは身体を背けたり、転倒し、四つんばいになって立ち上がり、できるだけ早く逃げるようになっていました。
その後は白ネズミに似たウサギなどに対しても異変のある反応が出現したようです。
もともと「恐怖」を引き起こさなかった「中性刺激」が「US」との対提示を繰り返すことで「CS」の機能を持つようになり、「CS:白ネズミ」が「CR:恐怖」を引き起こすようになったと結論付けられました。
宮下照子・免田 賢 (2007) は上記の実験について「明確な対象がある不安、つまり恐怖(fear)は古典的条件づけ(レスポンデント条件付けのこと)によって成立することを実験的に証明したのはワトソンとレイナーである」と述べました。
宮下照子他 (2007)によればこのページで紹介したJohn B. Watson他 (1920)の研究が世界で初めて「恐怖」をレスポンデント条件付けによって証明した研究と言えます。
ちょうど今から100年前の実験です。
※ 記載している現在は2020年です
現在は倫理的にこのような実験は許されないでしょう。
レスポンデント条件付けは何においても可能か?
John B. Watson and Rosalie Rayner (1920)の実験では白ネズミと強い音で行いましたが例えば「白ネズミ」ではなく「えんぴつ」と「強い音」で対提示を行った場合などはどうでしょうか?
今田 寛・宮田 洋・賀集 寛 (1986) を参考にすれば、世の中には不快刺激と何度対提示しても恐怖の対象になり得ない刺激もあるそうです。
しかしレスポンデント条件づけによって「まさにあらゆる刺激が、USと繰り返し対提示されることによってCSとなりうる」とRaymond G. Miltenberger (2001)は述べており、幅広いものが「恐怖」と条件づけられてしまう可能性があることがうかがえます。
ここのところは研究者によって意見が分かれるところなのかもしれません。
アルバート実験のポイント
(ポイント1)恐怖反応は示される形が違うことに注意しよう
すると8回目に白ネズミを見ただけでとうとうアルバートは泣き出してしまいました。
”11月15日にアルバートが遊んでいる途中に白ネズミを見せます。
この時、アルバートは身体を背けたり、転倒し、四つんばいになって立ち上がり、できるだけ早く逃げるようになっていました”
と順に記載があります。
アルバートが「恐怖」を示す反応は「泣き」だけではありませんでした。その対象からできるだけ早く逃げようとする行動も出現しています。
恐怖反応によって引き起こされる反応は「泣き」のように分かりやすいものだけではありません。
あなたのお子さんが今までなんとも無かったものに対し、「筋緊張」などの反応が出ている時にはもしかすると何かしらのレスポンデント条件付けの作用が働いていることを示すヒントとなるかもしれません。
(ポイント2)恐怖反応が白ネズミ以外にも出現したことに注目しよう
”その後は白ネズミに似たウサギなどに対しても異変のある反応が出現したようです”
と記載があります。
この研究はアルバートが「白ネズミ」に対して「恐怖」が条件付けられたという研究でした。
注目すべきことは「恐怖条件付け」を行っていない「ウサギ」に対しても恐怖が出現するようになったというところです。
このような現象は「般化(generalization)」と呼ばれる現象となります。
小野 浩一(2005)は「生体は、条件付けで使用されたCSに対してだけでなく、その刺激に類似した他の刺激に対しても同様の条件反応(CR)を示す」と述べました。
この現象について、このブログ内では「レスポンデント般化」と呼ぶことにしましょう。
アルバートの例で言えばレスポンデント条件付けにより、もともと「中性刺激」であった「白ネズミ」が、「ハンマーの大きい音(US)」と繰り返し対提示されることで「CS」の機能を持つようになります(レスポンデント強化によるレスポンデント条件付けの成立)。
この時「白ネズミ(CS)」に似た刺激「ウサギ」に対しても「恐怖」が誘発されるようになるのです。
あなたのお子さんに何かレスポンデント条件付けの作用が働いた時、その刺激に似たことに対しても反応が出現するかもしれません。
例えば小学校の運動会で失敗をしてしまい恥ずかしい思いをしたとします
すると観客が入っている類似状況である学芸会は「恥ずかしさ」を誘発し「緊張」するようになってしまった
など、私たちの日常の中でも「レスポンデント般化」は見られるものです
最後に
実はレスポンデント条件づけによって条件づけられるものは「恐怖」だけではありません。
恐怖を含むさまざまな情動が条件づけられます。
次のページではそのことについて書いていきましょう。
【参考文献】
・ 今田 寛・宮田 洋・賀集 寛 (1986)心理学の基礎 三訂版 培風館
・ John B. Watson and Rosalie Rayner (1920) Journal of Experimental Psychology, 3(1), 1-14. Classics in the History of Psychology — Watson & Rayner (1920), http://pages.ucsd.edu/~sanagnos/watson1920.pdf
・ 宮下 照子・免田 賢 (2007) 新行動療法入門 ナカニシヤ出版
・ 小野 浩一(2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ Raymond G. Miltenberger (2001) Behavior Modification:Principle and Procedures/ 2nd edition 【邦訳 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】