このページまでは主に「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」の1つであるPRTについて書いてきた。
(参考)
「NBI(自然主義的行動療法)とDTTの対比(ABA自閉症療育のエビデンス10)(https://en-tomo.com/2020/06/04/dtt-nbi/)」
「PRTのエビデンス(ABA自閉症療育のエビデンス11)(https://en-tomo.com/2020/06/05/prt-evidence/)」
「DTT VS PRT(ABA自閉症療育のエビデンス12)(https://en-tomo.com/2020/06/05/dtt-vs-prt/)」
「PRTについて(ABA自閉症療育のエビデンス13)(https://en-tomo.com/2020/06/06/that-prt/)」
「PRISM(ABA自閉症療育のエビデンス14)(Pivotal Response Intervention for Social Motivation(https://en-tomo.com/2020/06/07/prismpivotal-response-intervention-for-social-motivation/)」
NBIの一つESDMとは?
このページでは他のNBIである「ESDM:Early Start DENVER Model(アーリースタートデンバーモデル)」について紹介する。
※NBIは「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」のこと
William R. Jenson・Elaine Clark・John Davis・Julia Hood (2016) によれば多くの早期介入の目標は、脳の発達の軌跡を変えることによって自閉症の症状を軽減することである。乳幼児期や幼児期のまだ脳の可塑性が高いレベルを利用することが大切となる。
※ちなみに私は脳の可塑性などの存在を信じてはいるが療育において脳の可塑性を利用してなんとかしようという立場ではない。もちろん、早い時期に始めることは大切なことであるとは思うがそれは「脳が変わった」ではなく、その子の「行動が変わった」と言う点で評価していきたい
またWilliam R. Jenson他 (2016) は 「多くの早期介入の目標は、脳の発達の軌跡を変えることによって自閉症の症状を軽減することである。乳幼児期や幼児期の、まだ脳の可塑性が高いレベルを利用することが大切」と述べているが、その点については疑問も残る
ESDMはそのような介入の1つでSally Rogersによって開発された。
自閉症幼児の基礎の脳の構造と機能を変更することにより、自閉症の中核症状を治療することを目的としている。
例えば、自閉症の子どもは社会的な人との関わりなどに対して興味が低いため介入なしでは健常発達の子どもと同じような脳の神経経路を構築するための活動に従事する機会が少ない。
ESDMは脳の発達を変えるために自閉症幼児と社会的に交流し、特定のスキルを実践する機会を提供することも目的とする幼児期(具体的には小学校就学前)に特化した方法である。
ESDMは「デンバーモデル」というもともとあったモデルを拡張し、開発された。
「デンバーモデル」とは24~60ヶ月の自閉症児への介入である。
またESDMはABAの1つの形式であるPivotal Response Training(PRT)に特に基づく少なくとも週に15時間の介入を推奨している方法となる。
比較的若い年齢(24~60ヶ月)のお子さんを対象とした介入方法である。
ESDMはSally Rogersによって開発されたことを述べたが、ESDMの研究やマニュアルでSally Rogersの他にもう一人良く名前が出てくるGeraldine Dawsonという人物がいる。
Geraldine Dawson (2008) は過去の動物実験からの知見を参考に、環境からの刺激(例えばお子さんへの関わり)を通し脳は変化すると述べた。
Geraldine Dawson (2008) によればESDMは例えお子さんが12ヶ月の若い年齢であっても療育ニーズに応えられる。
ESDMは家族や支援者と子どもとのやりとりの文脈の中で行われるため幼児の自然環境、通常は家庭で行われると述べた。
「(ABA自閉症療育のエビデンス7)EIBIに必要な要素と診断の課題点(https://en-tomo.com/2020/04/05/eibi-essence/)」
では自閉症早期診断の経緯に触れたが、現代ニーズに合っている方法と言える。
早期療育と言ってもあまりに年齢が若すぎるとどういう支援方法を取ればよいのかということはまだあまり研究されていない。
ESDMがこの年齢帯に適応できるとすれば、それは強みになるだろう。
ESDMの良いところとEIBIとPRTの弱点
私は今ESDMにかなり興味を持っている。
興味を持った理由はWilliam R. Jenson他(2016) の論文中、1点かなり魅力的なことが書いてあったことが大きい。
この魅力は私が常々療育に対し持っていた問題点を解決してくれる可能性がある。
LovaasのEIBIもKoegelのPRTも日本語の本が出版されている。
LovaasのEIBIのマニュアル(2003)は具体的に「子どもに何を教えるか」が結構しっかりと書いてあると思う。しかし読んでいて、例えばIQの高めのお子さんや年齢が低い(例えば1歳半や2歳になったばかり)のお子さんの場合は内容が沿わない可能性が考えられた。
PRTについてはマニュアルや本を読んでも具体的に「子どもに何を教えるか」があまり見受けられない。
「(ABA自閉症療育のエビデンス13)PRTについて(https://en-tomo.com/2020/06/06/that-prt/)」
でPRTもEIBIも健常発達に近くことを目標と述べていることを書いた。
健常のお子さんが辿る発達段階にそって教える課題を選定しEIBIではDTTを使用し、PRTではモチベーション操作を重視し課題を教えていく。
健常のお子さんが辿る発達段階にそって教える課題を選定するという内容はスッと「確かに」と頭に入って来たかもしれないが、問題は
「健常のお子さんが辿る発達段階にそって教える課題を選定する」と言われても、普通それは難しすぎる
ということである。
これはページタイトルに書いたEIBIとPRTの1つの弱点であると思う。
何を教えるかについて「健常発達に沿って教える」と言われても普通、「健常のお子さんがどう発達するのか」を知らない人の方が多いだろう。
つまり「次に何を教えればいいのか?」が明確にならない。
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もちろん答えられる人もいるだろうが、例えば以下のような質問
「おむつは何歳で取れますか?」、「ママっていつごろから呼ぶのですか?」、「大きいとか小さいの理解は何歳でできますか?」、「5W1Hの質問は何歳くらいで答えられますか?」、「敬語は何歳から使うべきですか?」、「うちの子はたまに嘘をつきます。これは自閉症だからですか?」などこれらの質問に全て答えられる人は少ないだろう。
には通常答えられないだろう。
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健常児の発達段階について知れば知るほど「家によって違う」や「子ども(個人差)によって変わる」などの、子どもによってのギャップがあることに気がつくはずである。
例えば保育士さんや幼稚園教諭の人ならば幼児期の発達段階の目安を知っているだろうが、通常ほとんどの親はそのような専門性を持ち合わせていない。
私は療育を10年以上やってきたので何歳くらいでこれができるかな?とか、ある程度自分なりの目処は持っているが、普通そんなことは知らないと思う。
おそらく生活をしてきて子どもが生まれるまで、健常な発達段階など気にも留めなかったはずである。
EIBIやPRTは「何を教えたら良いか」という問いに対して、「健常発達」を目的とするという。
しかし、そもそも親側が健常発達の発達段階の情報を知らないということが、ABA自閉症家庭療育の敷居を上げている要因の1つだと思う。
しかし以下に書いていくがESDMはこの問題を解決する可能性がある。
ESDMのアセスメント
William R. Jenson他(2016) によればまずESDMでは介入の最初のステップとして子どものさまざまな領域の発達レベルを評価することから始まる。評価はレベル1~4に振り分けられ、その後も12週間ごとに再評価される。
ESDMではレベルに合わせて「何を教えるか」が決まっているだけでなく子どもによって「どこから教えるか」も明示され、子どもに合わせた課題が設定される。
このように「何を教えるか比較的はっきりしている」ことはESDMの良点だと思う。
また進捗が良くない場合のマニュアル化もされており例えばそのような場合は、段階的に強化子の強度を変更することや、視覚的サポートの追加など支援していく際の導入順序まである。
療育でつまづいたときの対処法もマニュアル化されている。
以上のようなことを魅力に感じ個人的にはESDMに可能性を感じている。
しかし果たしてESDMには強いエビデンスがあるのだろうか?
次のページではESDMのエビデンスをみて行こう。
【参考文献】
・ GERALDINE DAWSON (2008) Early behavioral intervention, brain plasticity, and the prevention of autism spectrum disorder. Development and Psychopathology 20 (2008), 775–803
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ William R. Jenson・Elaine Clark・John Davis・Julia Hood (2016) The Early Start Denver Model. University of Utah Department of Educational Psychology School Psychology Program