幼児期(年中児・年長児、平均5歳6ヶ月)の運動能力を調査した研究・久保 温子他 (2014) (ABA:応用行動分析コラム52)


Enせんせい

ABA応用行動分析コラム52は「幼児期(年中児・年長児、平均5歳6ヶ月)の運動能力を調査した研究・久保 温子他 (2014)」というタイトルで書いていきます


私は幼児期の自閉症療育の特徴の1つは、幅広い部分を支援をして行く点があると考えています。


例えば不安障がいやうつ病、強迫性障がいなど他の精神疾患の場合は「人前でうまく話せない」、「なかなか外に出ることができない」、「1つの行為を長時間辞めることができない」と言った場合、

ターゲット行動、上で言えば「人前で上手く話せる」、「外に出て活動する」、「その行為を行うのとは別の代替行動を強化する」といった形で、

今、問題となっている「問題行動」について取り扱うことがほとんどでしょう。

※ 「自閉症(自閉症スペクトラム障がい)」は上記と同じように精神疾患の診断分類に含まれる

※ 「自閉症」については『「自閉症とは」について自閉症の診断基準から特徴を考察、自閉症の診断基準とは?(自閉症1) https://en-tomo.com/2021/08/13/what-is-autism-diagnostic-criteria-consideration/ 』もよろしければご覧ください


『「自閉症とは」について自閉症の診断基準から特徴を考察、自閉症の診断基準とは?(自閉症1)』のサムネイル

幼児期のABA自閉症療育の特徴として、幅広い部分をカバーして支援をして行くことですが、自閉症療育の場合は、

「日々の生活の中で生じた問題行動への対応・介入」も行なっていきますが、並行して、


・ 言葉の発達を促す 

・ 社会性の発達を促す

・ 全身運動の発達を促す

・ 手先の運動の発達を促す

・ 情緒的なコントロールの発達を促す


などといったような、

発達が遅れているからこそ「さまざまな領域に対して発達の促進」も並行し行う必要があります。


今回のコラムでご紹介するのは上の中から「全身運動の発達を促す」とき、参考になると思った資料、

久保 温子・村田 伸・平尾 文・小渕 可奈子 (2014)「幼児期における開眼片足立ち測定の妥当性の検討」という論文です。

本論文から幼児期の運動能力について見ていければと思います。


では、見て行きましょう!


久保 温子・村田 伸・平尾 文・小渕 可奈子 (2014)


久保 温子他 (2014)「幼児期における開眼片足立ち測定の妥当性の検討」

本論文の研究目的は論文のタイトルにもあるように「開眼片足立ち」が他の運動能力とどのような相関があるか、を調べる研究でした。

実際に論文の中でその結果が示されています。


「開眼片足立ち」との相関の調べられた他の運動能力は、


・ 25m走

・ 立ち幅跳び

・ ソフトボール投げ

・ 両足跳び越し

・ 体支持時間


でした。


上の5項目に「開眼片足立ち」を加えた合計6項目の運動能力が本研究の中で計測されました。


Enせんせい

幼児期のお子様に対して上の運動機能を測定しているのですが、幼児期のお子様がどれくらいの記録を出すのか気になりませんか?

療育をする際にもこのようなデータは参考にもなるはずです


本論文の結果、上の5項目が「開眼片足立ち」と相関があったかどうか、も本ブログページの最後にご紹介をしますが、

今回本ブログでは研究で示された計測能力全6項目についてどのような結果であったかをご紹介する、

というところに本題を置いて書いていければと思います。



研究参加者

久保 温子他 (2014) の研究参加者は、

幼稚園・保育園に通う健常発達の年中児・年長児173名のお子様でした。

参加したお子様の平均の年齢は5歳6ヶ月くらいが平均(平均月齢66.9ヶ月)で、

参加者の最低年齢が5歳0ヶ月くらい、最高年齢が6歳2ヶ月くらいです(平均月齢66.9 ± 6.8カ月 = 一番若い子が60.1ヶ月で一番年齢の高い子が73.7ヶ月)。


身長は平均110.1cm(110.1cm ± 5.3cm = 一番低い子が104.8cmで一番高い子が115.4cm)、

体重は平均17.2kg(17.2kg ± 2.4kg = 一番軽い子が14.8kgで一番重い子が19.6kg)でした。

男女比や男女別のデータは研究では示されてはいません。



研究で示された各運動能力のデータ

以上のお子様たちが参加し、運動能力の測定を行ったところ測定した6項目は以下のデータです。


(1) 開眼片足立ち

(2) 25m走

(3) 立ち幅跳び

(4) ソフトボール投げ

(5) 両足跳び越し

(6) 体支持時間


(1) 開眼片足立ち

「(1) 開眼片足立ち」ですが測定されたデータは「39.4秒 ± 32.5秒」でした。

これは平均値が「39.4秒」、一番短かったお子様が「6.9秒」、一番長かったお子様が「71.9秒」ということです。


もしあなたが自閉症のお子様の療育を行なっていて「片足立」の練習をしていたとしましょう。

「どれくらいの長さ、片足立ができれば良いか?」というとき、このようなデータは参考になると思います。


データから片足立の練習目標の長さについて目安を考えるのであれば、

だいたい5歳6ヶ月くらいの幼児は平均で40秒くらい片足立ができるみたいなので、長くてもそれくらいを目指せば良いか

と考えることができるでしょう。


このとき5歳6ヶ月くらいでは40秒くらい片足立ができなければいけない、というようにデータを見ないようには注意してください。

この数字は「平均」なので全員ができて当たり前な数字ではない、ということには注意しましょう。

決して「達成できなくてはいけない数値」ではありません。


Enせんせい

同じような目線で以下、紹介されているデータについて見て行っていただければと思います


(2) 25m走

「 (2) 25m走」ですが測定されたデータは「6.7秒 ± 0.8秒」でした。

これは平均値が「6.7秒」、一番早かったお子様が「5.9秒」、一番ゆっくりだったお子様が「7.5秒」ということです。


また25m走からこれからご紹介する測定値には「基準値」というデータが併せて紹介されています。

25m走の基準値は「6.2秒 – 6.9秒」となっており、この基準値は「基準値には5歳後半児(月齢66-71カ月)の平均的な値範囲を示すもの」のようで、

「基準値」は文部科学省の「体力向上の基礎を培うための幼児期における実践活動の在り方に関する調査研究幼児運動能力調査」が元となっていました。

論文中の参考文献に記載がされていた文部科学省のURLを踏むと複数のURLが記載されたページに飛ぶのですが、その中で個人的に興味を持ったページを載せておきます。


「第3章 調査実施要領と調査結 https://www.mext.go.jp/component/a_menu/sports/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/04/07/1304379_1.pdf 」(文部科学省 閲覧日2024.2.2)


のページです。


上のリンクでは各年齢男女別の基準を見るデータ(PDF内に記載がありますが1−5の評定の平均値はほぼ3になるように作成されているようです)の観覧や、

本研究でも行われた測定の方法が記載されており、より本ブログの内容を深く知るときに参考になると思います(文部科学省 閲覧日2024.2.2)


また今回、足の速さの測定は25m走のデータとなっている点には注意してください。


Enせんせい

私自身は足の速さの測定を自身でおこなった記憶は小学生の頃の50mくらいの距離からの記憶で、

今回タイムを見て「幼児、速ッ!」と一瞬思ったのですが、

今回は25mの距離で測定されたタイムでした


(3) 立ち幅跳び

「 (3) 立ち幅跳び」ですが測定されたデータは「92.8cm ± 22.8cm」でした。

これは平均値が「92.8cm」、一番飛べたお子様が「115.6cm」、一番飛べなかったお子様が「70cm」ということです。

また「基準値」は「89cm – 114cm」でした。


(4) ソフトボール投げ

「(4) ソフトボール投げ」ですが測定されたデータは「4.6m ± 2m」でした。

これは平均値が「4.6m」、一番投げれたお子様が「6.6m」、一番投げられなかったお子様が「2.6m」ということです。

また「基準値」は「3.5m – 7m」でした。


(5) 両足跳び越し

「(5) 両足跳び越し」ですが測定されたデータは「5.9秒 ± 1.5秒」でした。

これは平均値が「5.9秒」、一番早かったお子様が「4.4秒」、一番遅かったお子様が「7.4秒」ということです。

また「基準値」は「5秒 – 5.9秒」でした。


「両足飛び越し」という測定項目について、私自身はあまりよく知らなかったため調べました。

文部科学省の資料を参考にご紹介しましょう。

※ 「参考文献」の文部科学省のURLを見ていただけるとイラスト付きで解説有り


「両足飛び越し」では屋内で4m50cmの距離を取り、50cm毎にビニールテープで印を付け、そこに10個の積み木を並べます。

幼児は最初の積み木から20cm離れたところからスタートし、両足を揃えた状態で積み木を連続して飛び越す、という測定項目ということです。


(6) 体支持時間

「(6) 体支持時間」ですが測定されたデータは「25.9秒 ± 22.5秒」でした。

これは平均値が「25.9秒」、一番長かったお子様が「48.4秒」、一番短かったお子様が「3.4秒」ということです。

また「基準値」は「25秒 – 53秒」でした。


「体支持時間」という測定項目についても私はよく知らなかったので文部科学省の資料を参考にご紹介します。


「体支持時間」では机と机の間に幼児を立たせ、「用意」の合図で両方の机の上にそれぞれ右左の手を置き、「始め」の合図で足を床から離し、両腕で体重を支えられる時間を測定する(最長3分間測定する)測定項目とのことです。


以上、久保 温子他 (2014) の研究で示されていたデータとなります。

データは久保 温子他 (2014) の研究で測定されたもの以外に論文中にも載っていた文部科学省の出している「基準値」も掲載しました。

「(1) 開眼片足立ち」について「基準値」はありませんが、それ以外の測定項目には基準値が記載してありますので、「基準値」も参考になるかと思います。


久保 温子他 (2014) の研究では測定された「(1) 開眼片足立ち」がその他の項目と相関があるかを調べ、「(1) 開眼片足立ち」が運動機能を反映する評価かどうかを調べるという研究でした。

ここまではデータをご紹介しましたが、上でも書いたように以下で相関があったかどうかも簡単にご紹介しましょう。



開眼片足立ちとその他の運動機能との相関

久保 温子他 (2014) の研究で調べられた相関の結果、


開眼片足立ち時間は25m走、立ち幅跳び、両足跳び越し、体支持時間との間の相関係数に有意性が認められ、

25m走は非常に弱い相関関係であり、立ち幅跳びと両足跳び越しは弱い相関関係を示し、また体支持時間は中等度の相関関係であり、

ソフトボール投げとは有意な相関は認められなかった


との結果でした。


このような幼児期の運動能力を調べた研究等も今後、私自身も勉強していきたいなと思わせてもらえた論文となりました。


自閉症療育に必要な知識を蓄積


さいごに

Enせんせい

ABA自閉症療育は個人的に「言葉の発達」や「社会性」についての知見が多く魅力的なのですが、

特にABAの専門書では運動面への知見が少し集めにくい分野かと思っており、そのような中で見つけたこの研究、

幼児期の運動能力について私自身も知見を深められたと感じていて読めて良かった1本です


文中にも記載した内容ですが本ブログページで研究をもとにご紹介したデータは「平均値」であることには注意しましょう。

「平均値」なので全員ができて当たり前な数字ではありません。

あくまで目安としてご活用ください。

お子様に試してみて、平均値の数値にいかないことでダメだと思う必要はないでしょう。


もし平均値からかなり離れており、心配な場合は専門家に相談してみても良いかと思います。

例えば本ブログページで示したデータは「X ± Y」と「±」という記号が用いられているのですが、この記号は、

例えば「3 ± 1」の場合、平均値が「3」、そして最大値が「4」、最小値が「2」ということを示す加号「+」と減号「-」とが複合した記号です。


計測してみて相談するかどうかについて「最小値よりも少し低い値だった場合」などが、データを見るときに参考になるかもしれません。

その際、計測方法が間違っているとデータが歪みます。

正しい計測方法も知っておいてください。

※ 「参考文献」の文部科学省のURLに計測方法は書いてありました


また本ブログページでご紹介したデータは男女別のものではありません。

このことも考慮する必要があるように思います。

男女別のデータについて参考文献の文部科学省のURLページには記載がありますので、興味がありましたら是非ご覧ください。


今回、「ABA:応用行動分析コラム」の章で久しぶりに論文を扱ったような気もしますが、楽しかったです!

ではまた、どうぞよろしくお願いします!



【参考文献】

・ 久保 温子・村田 伸・平尾 文・小渕 可奈子 (2014) 幼児期における開眼片足立ち測定の妥当性の検討 The validity of measuring pre-school childrenʼs ability to stand on one leg with eyes open. ヘルスプロモーション理学療法研究. Vol.4,No.2:77-81

・ 文部科学省 (閲覧日2023.10.8) 第3章 調査実施要領と調査結 https://www.mext.go.jp/component/a_menu/sports/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/04/07/1304379_1.pdf