ABA自閉症療育の方法の1つに「DTT:discrete trial teaching(離散型試行訓練)」という療育方法があるのですが、
DTTはABA自閉症療育のメジャーな方法の1つと言えるでしょう
山本 淳一・松崎 敦子 (2016) を参考にすればDTTとは一元的なカリキュラムの下で明確な指示の提示があり、お子さんが行動をした後に強力な強化子(お子さんにとって価値を持つ結果)を伴わせる方法です。
また日本行動分析学会 (2019) はDTTについて、
(1)弁別刺激を与え
(2)正反応をプロンプトし条件的に強化するまでを1試行とし
(3)1拍おいてすぐに次の弁別刺激を出し2試行目を教える
を次々に繰り返す循環的方法と述べています。
DTTでは複数の選択肢を並べ、正しいものを選択させる課題を行うことがあります。
それは例えばイラストのようにカードを3枚ならべ「赤、どーれだ?」と聞いて正しいカード(この場合は赤)を選択させる方法です。
このように選択させる課題を山本 淳一他 (2016) や日本行動分析学会 (2019)が述べているよう、
正しく選択できたときに強化子を提示し正しく選択する行動を強め、それを繰り返す中で適切な行動を増やすことを目的とした課題がDTTの中にはあります。
DTTはここまで紹介した「選択させる課題」以外の課題もありますが、ここまで紹介した「選択させる課題」は「受容課題(じゅようかだい)」と呼ばれるものです。
受容課題の中には例えばカードを使わないパターンもあって、
・ 「頭をさわって」と伝え複数ある身体パーツから頭を選択して触る
・ お母さんがお父さんに座布団を渡すところを見せて「渡された方を指差して」と言って渡された方を選択し指差す
・ リビングのドアを一緒にくぐったタイミングで「コップ持ってきてちょうだい」と言って部屋にあるアイテムの中からコップを選択して渡す
なども受容課題と言えるでしょう。
このような受容課題では「できた」や「わかっている」と判断するための基準が大切です
例えば10回やって6回、正しく選択できたとき半分以上正解しているから「できた」や「わかっている」と判断して良いでしょうか?
例えば10回やって10回、正しく選択できなければそれは「できてない」や「わかっていない」と判断するのでしょうか?
これまで書いてきたページを引き合いに出しDTTで「できた」や「わかっている」と判断するための基準の考え方のおさらいを最初して行きましょう。
その後、本ブログページタイトルにある「3分の1偶然で正答する課題より2分の1偶然に正答する課題は結果をシビアに見る」について書いて行きます。
DTTで「できた」や「わかっている」と判断するための基準の考え方
以前、
「言葉を話さない人がモノを知っていることをどう証明する?(ABA自閉症療育での行動の見方16)(https://en-tomo.com/2022/03/18/proof-of-knowing/)」
というページを書きました。
本ブログページは上のURLページと関連するページです。
ABA自閉症療育でDTTを行うとき、上のブログページでご紹介した内容は是非知っておいて欲しい考え方になります
上URLのブログページでは例として、
3枚のトランプを裏面にして3回連続で同じトランプを引き当てられる確率を引き合いに出し、
3分の1を3回連続で引き当てるとなると確率は「3分の1の三乗」で「21分の1」で「約5パーセント」となり、だいたい100回挑戦すれば5回くらいは確率的に引き当てられる確率となる
つまり、
もし言葉が扱えない人が3回連続でりんごのカードを選択できたとすれば、それはどのような結論になるかと言えば、
その人が偶然りんごのカードを選択できた確率は約5パーセントである
つまり、りんごを知っている確率が高いと結論づけられる
というようなことを書きました。
このような考え方は、例えば自閉症のお子様が受容課題で言葉を覚えて行くときに「できた」や「わかっている」、「できてない」や「わかっていない」と判断するときに役立つでしょう。
またこの5パーセントという数字を採択したことは私なりの意味があります。
例えば山田 剛史・村井 潤一郎 (2004) は統計学の世界で有意水準という言葉があるのですが、これはさまざまな研究で共通の基準となる確率なのであり、5パーセントまたは1パーセントに設定されることが多いと述べました。
確率5パーセントはさまざまな研究で共通の基準となる確率のため、3枚のトランプを裏面にして3回連続で当てる確率(約5パーセント)のエピソードを書いています。
※ 「3分の1の三乗」で「21分の1」、小数点第二位まで示せば4.76パーセント
ここまでの内容から考えても「カードを3枚並べて3連続で取れたとき、それはできている、わかっている」と考えられそうです
しかしABA自閉症療育ではもっとシビアに考えます。
例えばO.Ivar Lovaas (2003)のマニュアルではマストライアル(大量試行)からランダムローテーションにレベルアップさせていく方法でお子さんの弁別学習を促進する方法が紹介されていますが、かなり細かく手続き化されていることが特徴的です。
O.Ivar Lovaas (2003)のマニュアルではDTTの方法がかなり細かく記載されています。
以下、例えば私が行っているランダムローテーションを見て行きましょう
ランダムローテーションは受容課題でターゲット課題を覚えるときの設定として、最高難易度の課題です。
このランダムローテーションをクリアしてこそ「できた」や「わかっている」と判断することができます。
ランダムローテーションでは同じカードを連続でカードを選択させるのではありません。
例えば「りんご」「ばなな」「ぶどう」の3枚のカードを使った場合では、
1トライアル目:りんご
2トライアル目:ぶどう
3トライアル目:ばなな
4トライアル目:ぶどう
5トライアル目:ばなな
6トライアル目:ぶどう
7トライアル目:りんご
8トライアル目:ばなな
9トライアル目:りんご
と言ったように3枚のカードを使ってそれぞれ3回ずつランダムに選択させるようにします。
このようにランダムに選択を求めた3回のうち3回、正しく選択できた場合「3回連続で当てる確率(約5パーセント)」を適用し「できた」や「わかっている」と判断するようにするのです。
加えて私は日を空けて2日連続でランダムローテーションを80パーセント以上の確率でクリア(例えば10回やったとすれば8回は正しく選択できる)できたとき「できた」や「わかっている」と判断するようにしています。
例えば上の「りんご」「ばなな」「ぶどう」の3枚のカードを使ったトライアルの例は9回でしたので、9回であれば間違いは1度だけ許される、という具合です。
※ 9回中2回間違ってしまったとすれば正答率は約78パーセントとなり80パーセントに届きません
ここまでで過去に書いたページも引き合いに出し、受容課題について、
・ 正しく選択できる確率について、偶然当たった確率5パーセント以下をクリアする確率の基準が大切である
・ 日を空けてランダムローテーションを2日連続で80パーセント以上の確率でクリアして「できた」や「わかっている」と判断する
ことをおさらいしてきました。
ここからは本ブログページタイトルにある「3分の1偶然で正答する課題より2分の1偶然に正答する課題の結果をシビアに見る」について、
上オレンジテーマの内「正しく選択できる確率について、偶然当たった確率5パーセント以下をクリアする確率の基準が大切である」ということについて見て行きましょう。
3分の1偶然で正答する課題より2分の1偶然に正答する課題の結果をシビアに見る
例えば選択肢を容易に3つ用意できる課題の場合は良いでしょう。
上で例として書いた「りんご」「ばなな」「ぶどう」というような「くだもの」の名前を覚えて行く場合などは選択肢を3つ以上でも用意することができるためここまで書いてきた内容で充分なように思います。
しかし選択肢を容易に3つ用意できない課題の場合はどうでしょう?
例えば「大きい/小さい」などを教えて行く場合です。
他にも「ある/ない」、「長い/短い」、「多い/少ない」、「太い/細い」、「明るい/暗い」、「綺麗/汚い」なども当てはまります。
このような言葉を教えて行くときは選択肢を3つ用意することが難しくなってしまうでしょう。
例えば「大きい/小さい」を教える場合、
・ 大きいボールと小さいボールを取り分ける(選択させる)中で教える
・ 大きい積み木と小さい積み木を取り分ける(選択させる)中で教える
・ カードに書かれた大きな丸と小さい丸を取り分ける(選択させる)中で教える
といったようにいろいろな教材を用いて教えて行き「大きい/小さい」が持つ共通の意味が理解できることを促して行きます。
本ブログのテーマに戻ればこの場合、課題を行っているとき選択肢は2つ(「大きい」と「小さい」)となってしまうことに注目してください
2択の課題を3回、正しいものを選択できる確率はどのような確率でしょうか?
答えは「2分の1の三乗」で「8分の1」で「約13パーセント」です。
つまり2択の課題を3回、正しいものを選択できる確率とは目を瞑って適当に選んだとしても8回に一回は当たってしまう確率と言えます。
そのため例えば3択の課題を3回、正しいものを選択できる確率と比べて、
2択の課題を3回、正しいものを選択できた場合は「本当にわかっているか?」ということに対してシビアに見る必要があるのです。
どのようにシビアに見れば良いか?
例えば2択の課題を4回、正しいものを選択できた場合の確率はどうでしょう?
「2分の1の四乗」で「16分の1」、「約6パーセント」となり4回選択を正当してもまだ5パーセントの基準には届きません
では2択の課題を5回、正しいものを選択できた場合の確率はどうでしょう?
「2分の1の五乗」で「32分の1」、「約3パーセント」となり5回選択を正当した場合は5パーセントの基準には届きます
例えばO.Ivar Lovaas (2003) は比較的簡単な弁別課題においては5回中5回の正答、10回中9回のプロンプト(※ プロンプトはヒントと読み替えてください)無しでの正当を習得の基準と考えていると述べました。
私はABA療育を行うとき2日以上連続で出現するランダムローテーションでの「正答率80パーセント以上」を基準としていると書いてきましたが、
2択の課題について「できた」や「わかっている」、「できてない」や「わかっていない」と判断するときについては、
O.Ivar Lovaas (2003) と同様に5回中5回の正答、10回中9回の正当を習得の基準と考えています。
ここまでご紹介をした「大きい/小さい」などを教えて行く場合は判定基準を変える、
ということをABA自閉症療育を行う中で是非、取り入れてみてください
選択肢が2つのパターンで少し別のパターンもご紹介しましょう。
例えば以下イラストを見てください。
上のイラストを使った課題の中で問題が4パターンあるものの、答え方は2パターンしかない課題があります。
イラストでは男の子が「たろうくん」、女性が「おかあさん」ですが、
実際にお子様に扱う教材では例えばアニメキャラや恐竜、好きな写真などお子様が興味のあるもので教材を作成し行うことが多いです。
またこの課題は言葉を覚え始めのお子様への適用は難しいと感じています。
例えば名詞や動詞、ものの用途やカテゴリーなどをある程度は覚えていることはもちろん、5W1Hなどについても少し理解が出てきてから私は取り入れることが多いプログラムです。
上のようなイラストを使用した課題は問題が4パターンあるものの、答え方は2パターンしかない、それはどういった課題でしょうか?
問題
(1)「お母さんが?」と言い続く言葉を答えてもらう
(2)「お母さんに?」と言い続く言葉を答えてもらう
(3)「たろうくんが?」と言い続く言葉を答えてもらう
(4)「たろうくんに?」と言い続く言葉を答えてもらう
と出す問題は4つあるのですが、答えは、
<1>「おはようと言った」
<2>「おはようと言われた」
の2つしかありません。
お子様に『「おはようと言った」か「おはようと言われた」、続く言葉がどっちか教えてね』と伝えておけば(もしくはひらがなで書いて置いておき、正しい方を選択する)、
お子様に対して行う選択問題となります。
この場合、問題は4問ありますが選択する答えは2択しかありません。
そのため「できた」や「わかっている」、「できてない」や「わかっていない」と判断するときは5回中5回の正答、10回中9回の正当を習得の基準を使用し判断しましょう。
ちなみにこの課題の変形もご紹介します
問題が4問、答え方も4パターンにする場合は、
(1)「お母さんが?」と言い続く言葉を答えてもらうという問題に対して
→ <1>「たろうくんにおはようと言った」と答えてもらう
(2)「お母さんに?」と言い続く言葉を答えてもらうという問題に対して
→ <2>「たろうくんがおはようと言われた」と答えてもらう
(3)「たろうくんが?」と言い続く言葉を答えてもらうという問題に対して
→ <3>「お母さんにおはようと言われた」と答えてもらう
(4)「たろうくんに?」と言い続く言葉を答えてもらうという問題に対して
→ <4>「お母さんがおはようと言った」と答えてもらう
と、「<X>が<Y>に<言った/言われた>」の<Y>の部分を含ませて答えさせるパターンで課題を行うことも可能でしょう。
このようにすれば問題が4パターンあり、答え方も4パターンある課題となります。
この場合は答え方が4パターンあるため5回中5回の正答、10回中9回の正当を習得の基準よりも甘めに見ても大丈夫でしょう。
私がお子様へ「能動態/受動態」を教えるとき、いろいろな形で課題を行うことで「能動態/受動態」を覚えて行もらうのですが、
本ブログページで紹介した課題は私が行っているプログラムの1つです
本ブログページでは、
・ 正しく選択できる確率について、偶然当たった確率5パーセント以下をクリアする確率の基準が大切である
・ 日を空けてランダムローテーションを2日連続で80パーセント以上の確率でクリアして「できた」や「わかっている」と判断する
ことをおさらいし、その後、
選択肢・答え方が2パターンしかなかった場合は「できた」や「わかっている」、「できてない」や「わかっていない」と判断するときは5回中5回の正答、10回中9回の正当を習得の基準を使用し判断する、
ということについてご紹介しました。
さいごに
お子様に何かを教えていて、お子様が教えていることについて「できた」や「わかっている」、「できてない」や「わかっていない」と判断するためには何かの基準が必要です。
本ブログページではDTTについて複数の選択肢から選んでもらう「受容課題」について取り扱い、「できた」や「わかっている」、「できてない」や「わかっていない」と判断するための行動の見方について書いてきました。
「3分の1偶然で正答する課題より2分の1偶然に正答する課題は結果をシビアに見る」というタイトルにあるよう、選択肢が3つあるときと2つのときでは少し考え方が違うのですが、
シビアに見るべき理由として、私は5パーセントというさまざまな研究で共通の基準となる確率を持ち出して考えています。
DTTの他パターンとして「表出課題(ひょうしゅつかだい)」というものもあります。
「表出課題」は選択させるわけではなく例えば下イラストのように「これなんだ?」などと聞き、質問に対応して答える課題です。
音声で答える以外にも字や絵で書いて答えるパターンの表出課題もあります。
プリントに「あなたのなまえをかきなさい__________________________」と書いてあり、書かせる。
↑例えば上のような課題も表出課題の中の1つと言えるでしょう。
お子様に何かを知って欲しいとき、覚えて欲しいとき、その方法の1つとして本ブログページでご紹介をしたDTTがあります
DTTはABA自閉症療育の中でメジャーな療育方法の1つです。
DTTを用いた療育のエビデンスについて「(ABA自閉症療育のエビデンス5)EIBI(早期集中行動介入)のメタ分析(https://en-tomo.com/2020/03/30/eibi-metaanalysis/)」でご紹介をしましたが、
正しく行うことでABAの垣根を超え、2023年4月現在で自閉症に対する療育では世界の中で一番、療育効果に対してエビデンスを上げている手法だと考えています。
ABA自閉症療育はDTTを主にした手法だけではありませんが、他の方法をメインとした場合でも少なからずDTTを使用することやデータの見方が必要になる機会があるはずです。
そのようなとき、本ブログページでご紹介をした行動の見方が参考になれば幸いです。
【参考文献】
・ 日本行動分析学会 (2019) 行動分析学辞典 丸善出版
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ 山田 剛史・村井 潤一郎 (2004) よくわかる心理統計 ミネルヴァ図書
・ 山本 淳一・松崎 敦子 (2016) 第2章 発達障害の支援の基本 早期発達支援プログラム 【編集 下山 晴彦・村瀬 嘉代子・森岡 正芳 (2016) 必携 発達障害支援ハンドブック