自閉症児の食事中態度を調べた研究ーどういった食べ方に問題を抱えている? 定型児との比較(自閉症7)

本ブログページでは自閉症のお子様の持つ食行動にフォーカスした論文を見つけたのでそれをトピックに書いて行きます。

研究では自閉症児の食行動と定型児の食行動が比較されていますが、「何ができて、何ができない」のが当たり前かを知ることはABA自閉症療育では大切なことです。

本件について、自閉症児に対する食事の食べ方の問題を調べた定型児との比較研究から見て行きます。


本ブログページではお子様の食事に対して問題について篠崎 昌子・川崎葉子・猪野 民子・坂井 和子・高橋 摩理・向井 美恵 (2007)の研究をご紹介しましょう。


篠崎 昌子・川崎葉子・猪野 民子・坂井 和子・高橋 摩理・向井 美恵 (2007)


自閉症児の食事に対しての保護者アンケート研究

篠崎 昌子他 (2007) 3歳から6歳の自閉症を持つ保護者123名に対してアンケート調査を行いました。


123名のお子様の年齢は、


・ 3歳0ヶ月〜3歳3ヶ月が27人

・ 4歳0ヶ月〜4歳11ヶ月が53人

・ 5歳0ヶ月〜5歳11ヶ月が29人

・ 6歳0ヶ月〜6歳1ヶ月が14に人

平均4歳8ヶ月、男の子が104人で女の子が19人のお子様たちでした。


発達検査による知能指数の内訳は、


・ IQ70以上が43人(平均4歳11ヶ月)

・ IQ70以下50以上が33人(平均4歳1ヶ月)

・ IQ50以下が47人(平均4歳9ヶ月)


でした。


研究で使用されたアンケートは大きく2つの内容に分かれました。

それは、


・ 食事に向かう子どもの態度の問題

・ 食具の使用や詰め込み食べや口腔内での処理の問題


の分類です。


またこの研究の非常に面白いところとしては定型発達のお子様131人についても同じようにアンケートを行ったところでしょう。

研究には定型発達のお子様(定型児)154人が自閉症のお子様とは別に参加しました。


Enせんせい

このように対照群を設けることで研究に深みが増し、エビデンスの質が上がります

対照群も設けられており、個人的には結果の気になった1本でした


以下この2分類の結果の中で個人的に気になった点についてご紹介、そして感想などを述べて行きたいと思います。


本ブログページは自閉症児の食事についてです


自閉症児食事アンケート・食事に向かう子どもの態度の問題

「食事に向かう子どもの態度について問題がある」と答えたお子様の年齢帯の割合は定型児は3歳代が一番多く、6歳へと年齢が上がるにつれて割合が少なくなって行きました。

対して自閉症児も6歳代が一番割合が少ないのですが、年齢が上がるにつれて割合が下がるかというとそうではなく、

「食事に向かう子どもの態度について問題」は6歳代>3歳代>5歳代>4歳代の順で割合が低かったです。


また統計の結果では4歳代、5歳代、6歳代では定型児と比べて自閉症児は「食事に向かう子どもの態度について問題がある」と答えたお子様の割合が有意に高かったことから、

4歳以降6歳までの自閉症のお子様は定型のお子様と比較すると「食事に向かう子どもの態度について問題がある」と考えている親御様が多かったことになります。


篠崎 昌子他 (2007) の研究で3歳代では自閉症児も定型児も6割近くの親御様が「食事に向かう子どもの態度について問題がある」と述べている結果になったことは個人的に面白いと思いました。


「食事に向かう子どもの態度について問題がある」というアンケート内容は、


・ いつもと違う場所だと食べない

・ いつもと違う人がいると食べない

・ 食器(皿、コップ、フォークなど)が違うと食べない

・ 自宅では食べるが、通園では食べない、あるいはその逆

・ 決まった時間に食べられない

・ じっと座っていられない、立ち歩く、気が散る


でした。


Enせんせい

私のもとにも3歳代でやってくるお子様がいるのですが、言葉にそこまで遅れが見られず、その場では適切に遊ぶことが観察されるものの、

困っていることを聞いていくと「食事中の注意散漫」や「園では食事をしない」ことを心配される親御様がいらっしゃいます

今回この研究の3歳台では定型のお子様の親御様も6割くらいは「食事に向かう子どもの態度について問題がある」というデータを知れたことは個人的にもありがたかったです



自閉症児食事アンケート・食具の使用や詰め込み食べや口腔内での処理の問題

「食具の使用や詰め込み食べや口腔内での処理について問題がある」と答えた割合については、

統計の結果3歳代、4歳代、5歳代、6歳代全ての年代で定型児と比べて自閉症児は有意に問題があるということもわかりました。


「食具の使用や詰め込み食べや口腔内での処理について問題がある」というアンケート内容は、


・ スプーンやフォークがうまく使えない

・ 口にいっぱい詰め込んでしまう

・ よく噛まないで飲み込む、時々詰まりそうになる

・ いつまでも口にためて、なかなか飲み込まない

・ 水分ばかり摂り、固形食をあまり食べない

・ 一度呑み込んだものを口に戻してくちゃくちゃさせていることがある

・ げっぷが多い


でした。


全体の年齢帯を見ると定型児も自閉症児も3歳から6歳にかけて順に問題がある割合が減少しているかと言えばそうではなく全年齢帯で上がったり下がったりしています。

※ 研究に参加したお子様の年齢帯が上がると全体的に問題が減少していった、というわけではありませんでした


3歳代から6歳代の間で、定型のお子様では大体3割から4割程度が問題ありの割合であり、自閉症のお子様の場合は大体7割から8割が問題ありの割合です。

意外に定型児のお子様でも3人に1人は「問題あり」と親御様が見ていることがわかります。


Enせんせい

統計的に自閉症児の方が有意に問題がある割合は高いですが、

幼少期は「食具の使用や詰め込み食べや口腔内での処理について問題がある」ということはそんなに特別なことではないのかも知れません


ここまでは大項目から「問題ありの割合」を見てきました。

「食事に向かう子どもの態度について問題がある」、「食具の使用や詰め込み食べや口腔内での処理について問題がある」という大項目でざっくりと分けた割合を見てきましたが、

篠崎 昌子他 (2007) の研究ではさらに細かくアンケート内容1つ1つの分析もなされています。

全貌が気になる人は原文にあたってもらうとして、以下個人的に気になった部分をご紹介して行きましょう。


定型と呼ばれるお子様も自閉症のお子様も問題を抱えていました


自閉症児食事アンケート・個人的に気になった項目別の結果

ここまで「食事に向かう子どもの態度について問題がある」、「食具の使用や詰め込み食べや口腔内での処理について問題がある」という大項目について「問題あり」の割合について述べてきました。

定型児よりも自閉症児の方が統計的に有意に「問題あり」とされた結果だったのですが、定型児には問題が全くないわけではない、という認識を持つほどの結果でもなかったように思います。


本項では上で紹介した「食事に向かう子どもの態度について問題がある」、「食具の使用や詰め込み食べや口腔内での処理について問題がある」のアンケート項目について個人的に気になった項目についてご紹介して行きましょう。



食事に向かう子どもの態度について問題がある

「食事に向かう子どもの態度について問題がある」という項目は上でも紹介しましたが、


・ いつもと違う場所だと食べない

・ いつもと違う人がいると食べない

・ 食器(皿、コップ、フォークなど)が違うと食べない

・ 自宅では食べるが、通園では食べない、あるいはその逆

・ 決まった時間に食べられない

・ じっと座っていられない、立ち歩く、気が散る


というアンケート項目で構成されていました。


このアンケートの中で特に多くの自閉症児を持つ親御様が問題視していた項目が「じっと座っていられない、立ち歩く、気が散る」でした。

おおよそ全年齢帯(3歳代から6歳代)で半数の親御様が問題視しています。

しかし篠崎 昌子他 (2007) の研究から、

この「じっと座っていられない、立ち歩く、気が散る」という項目は実は同じように定型児と呼ばれるお子様のグループでも一番多く問題視されており、そういった意味では幼児期に良くある問題と考えても良いかも知れません。


アンケート結果を見ると「自宅のみ」「定時にだめ」「違う場所」というのは幼い年齢では定型児でも見られる現象のものの、6歳になった頃には自閉症児にしか見られない現象となっていました。

私個人としてはこの点が非常に興味深いと思います。

自閉症のお子様は「変化を嫌う」傾向があるのですが、例えばRobert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) は自閉症のお子様へ「偏食指導」を行い、食べられる物の拡充を狙う研究を行いました。

その中でRobert L. Koegel他 (2012) は自閉症の特徴は柔軟性を欠くことであると述べており、まさにこの点が個人的にも一般的に言われている自閉症児の「こだわり」と呼ばれるものにも繋がっているように感じているところです。


Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) 

自閉症児は変化をあまり好まないのかも知れません。

「自宅のみ」「定時にだめ」「違う場所」という項目の中で「自宅のみ」「違う場所」というところで問題が起こっている点については「変化を嫌う」という特性が出ているためではないかと思っています。


しかしそう考えると「定時にだめ」という項目の説明がつきませんね。

上のロジックで言えば「定時に食べないとダメ(般化を嫌うため)」となるからです。


ここは難しいところかも知れませんが、

自閉症のお子様と言っても十人十色で、そうかと言えば「注意散漫」や「切り替えが苦手」、「過集中」などが問題となるお子様もいらっしゃって、

「定時にだめ」というのは「そのときに行っている遊びに集中し過ぎてしまう」、「遊びから別の活動(この場合は食事)への切り替えができない」などの問題が出ているケースだったのかも知れません。

事実として篠崎 昌子他 (2007) の研究からわかったこと定型と呼ばれるお子様は「自宅のみ」「定時にだめ」「違う場所」という問題が6歳の時点で消失したものの、自閉症のお子様には残っていることが多いことはとても興味深い結果です。


興味深い!


食具の使用や詰め込み食べや口腔内での処理について問題がある

「食具の使用や詰め込み食べや口腔内での処理について問題がある」という項目は上でも紹介しましたが、


・ スプーンやフォークがうまく使えない

・ 口にいっぱい詰め込んでしまう

・ よく噛まないで飲み込む、時々詰まりそうになる

・ いつまでも口にためて、なかなか飲み込まない

・ 水分ばかり摂り、固形食をあまり食べない

・ 一度呑み込んだものを口に戻してくちゃくちゃさせていることがある

・ げっぷが多い


というアンケート項目で構成されていました。


篠崎 昌子他 (2007) の研究では5歳の段階で「スプーンやフォークがうまく使えない」という定型児はいなくなりました。

対して自閉症児にはまだスプーンやフォークがうまく使えないお子様は残っていました。


5歳代から6歳代になったデータも見てみると「スプーンやフォークがうまく使えない」というお子様だけでなく、

「いつまでも口にためて、なかなか飲み込まない」、「水分ばかり摂り、固形食をあまり食べない」、「一度呑み込んだものを口に戻してくちゃくちゃさせていることがある」という項目で定型児はいなくなったもののまだ自閉症児には存在するという結果となっています。

とは言っても「スプーンやフォークがうまく使えない」というお子様が2割ほどいるものの、そのほかの項目は15パーセント以下であり特に自閉症児にも多いという印象は受けませんでした。


どちらかと言えば定型児のお子様にも少し残ってはいるものの自閉症児では特に多く(4割ほど)残っていた現象として「口にいっぱい詰め込んでしまう」と「よく噛まないで飲み込む、時々詰まりそうになる」の項目が気になります。

これは「もしかすると」という仮説の域を出ないのですが、自閉症のお子様は滑舌が不明瞭なことも多々あります。

これは重めのお子様に特に見られるかなと思うこと(但しあまり重くないお子様でも滑舌の良くないお子様はいる)ですが、そのようなお子様は口内外の発達が遅れているのではないかなと思うこともしばしばです。


口内外の筋肉の例

「(ABA自閉症療育の基礎95)自閉症児の言葉・発声を促すプログラム「音声模倣」、綺麗な発音はどう教える?構音の仕方(https://en-tomo.com/2021/11/05/vocal-imitation-procedure/)」

で「口内・口周りの筋肉」の知識もご紹介したのですが例えば模倣のできるお子様に「舌を出す」模倣を求めても上手くできないことも珍しくありません。


例えばあなたは「舌を前に出す」ということができるでしょう?

これは定型児でも可能です。

でも自閉症のお子様の中には1秒もモデルを見て舌を前に出すことが難しいお子様がいます。

そのようなことを考えるともしかすると、仮説ではありますが「口内・口周りの筋肉」が未発達なために自閉症児に「口にいっぱい詰め込んでしまう」、「よく噛まないで飲み込む、時々詰まりそうになる」ということが起こっている?

そのような可能性も否定できないのではないかと思うところです。


舌の筋肉をトレーニングするコツ「https://en-tomo.com/2021/11/05/vocal-imitation-procedure/」に内容記載


さいごに

本研究の原文も是非読んでいただきたいのですが、その理由としては本研究では定型のお子様のデータが記載されています。

個人的にABA自閉症療育を行っている中で感じていることの1つは「何かができない」ということを親御様が目の当たりにしたとき、それを「自閉症だから」と原因付け解釈することが実は多いのではないかということです。

本ブログでご紹介したように、実は定型と言われているお子様でもできていないことがあることに気がつくでしょう。


例えば食行動の問題として「自宅のみ」「定時にだめ」「違う場所」が問題とされたとき、統計的に差がないほどに3歳代、4歳代では定型児と自閉症児は同じくらい親御様は問題と感じていました。

年齢が上がってくるにつれて差は出てくるのですが低年齢ではそこまで差が多くないことも実は多い、ということは知っておいて欲しいです。

そうなるとこれで年齢の問題で「自閉症だから」という理由ではないかもしれません。


このようなデータが真実だとすれば「今何を力を入れて頑張ればいいのか?」という視点が変わってくるでしょう?


「ヤル気」を持って課題に取り組んで欲しいけれども、そもそもその年齢のお子様には難しすぎる課題設定になってしまうかもしれない

「うちの子は自閉症?(もしくは発達障がい?)」と親御様が思うとき、きっと本ブログページで紹介したような食事以外の要因も大きく関連しているでしょう。

心配になっていろいろなお子様の行動に派生して行った結果心配になっているのだろうと個人的には理解しています。


Enせんせい

しかし、

でも「じゃあどこで子どもは何歳で何ができるようになるのか、という情報を手に入れればいいの?」

という声も聞こえてきそうです。


また家族単位で「今、何に困っているか?」という視点も大切な視点でしょう。

この視点はお子様の年齢に依存しないかもしれません。


例えば「家以外では食事を食べいない」となった場合に家族で旅行に行くことへ制限がかかる可能性があります。

しかし年に1度も旅行に行く習慣のないご家族様にとって旅行への制限は、旅行好きなご家族様と比較して問題と思わない可能性もあるでしょう。

だから家族によって問題と感じることは違うと思います。

私自身はABA自閉症療育でのお子様の成長は前提としていますが、同じようにABA自閉症療育を通してご家族様の生活の質が向上することも大切だと考えている立場です。


このように考えると、

「周りの同じくらいの年齢の子どもは何ができて、何ができないでいるのだろうか」、「今家族の中で不便に感じていることは何か?」という問題も考慮して療育を行って行くことが大切だと思います。


ABA自閉症療育では平均的に何歳くらいでお子様が何ができるか、そして家族が何をお子様に求めているかという2つの要因が関わってくることが普通です。

「平均的に何歳くらいでお子様が何ができるか」はデータを集めることも、そんな簡単ではないように思います。


私自身としてはそのようなデータをまたブログの中でご紹介していければと思っています。

本ブログページでは自閉症のお子様が持つ「食行動」の問題について書いてきました。


また今後「偏食」などの食行動についてのデータも示していければと思います。

本ブログページがみなさまのお役に立てば幸いです。



【参考文献】

・ Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) Using Individualized Reinforcers and Hierarchical Exposure to Increase Food Flexibility in Children with Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders. 42(8): 1574–1581

・ 篠崎 昌子・川崎葉子・猪野 民子・坂井 和子・高橋 摩理・向井 美恵 (2007) 自閉症スペクトラム児の幼児期における摂食・嚥下の問題 第1報 食べ方に関する問題 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 11(1) p42-51